前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

2人の空気感

「それから度々2人で話すようになりまして、その中でアンティア様の伯父様が病で倒れられてから剣術が我流になってしまい困ってると言っていたので。今回殿下にお願いしたのです」

マティルダ嬢から事情を聞いた後、俺はアンティア嬢の方を向いた。剣の打ち合いが終わったのか、2人で何やら話し込んでいた。ここからだと聞こえないけど、何か真剣な話をしてるっぽいな。

「……ヴァイナモも上手く教えられているようですね。良かった。結構口下手なので心配してたのです」

「確かに宮殿で殿下にお会いする時に何度か同席していましたが、静かな方でしたね。失礼ながら時々いることを忘れてしまいます。ですからアンティア様から彼のことを聞いて本当に驚きました」

「ヴァイナモ自身がその噂に無頓着なので、私も忘れていました。そう言えばその界隈の方々には有名だったな、と」

俺はヴァイナモのへにゃりとした笑顔を思い出しながらそう言った。俺の中では年相応(?)に笑っているのがヴァイナモだから。大陸最恐の魔法剣士近衛騎士団団長の一番弟子なんて仰々しい肩書きを背負ってるイメージなんてない。

てか団長さん近衛騎士団団長が最恐と言われるまで強いってイメージすらないし。俺の中じゃ部下思いの良い上司だもんなあ……。本気で剣を振るってる姿、見たことないし。今度お願いしようかな。最近忙しいみたいで中々会えてないけど。

「……そう言えば今日はイキシアはいないのですか?」

「イキシアですか?ヤルノ達を迎えに行ってるはずなので、もうすぐ来ると思いますよ」

辺りをキョロキョロ見回すマティルダ嬢に俺はキョトンとしながらも答える。まあ確かにいつもは魔法陣実験をしてる時に来るから、『ここに来る』=『イキシア達がいる』って思ってもおかしくないか。マティルダ嬢からイキシアの名前が出るのは意外だけど。イキシアの態度好意があからさますぎて敬遠してると思ってた。

そんな風に思っていると、イキシアがヤルノやエンケリ教の面々大天使マジパネェ集団を連れてやって来た。イキシアはマティルダ嬢の姿を目視すると、ぱあっと表情を明るくさせてマティルダ嬢に駆け寄った。マティルダ嬢も満更でもない様子でイキシアに手を振る。

イキシアはマティルダ嬢の前で立ち止まり、パラパラとスケッチブックを捲って既に書いてある文字を見せた。

[おはよう、マティルダさん]

「おはよう、イキシア。どう?書くの上達した?」

イキシアは嬉しそうに頷く。そしてスケッチブックをペラペラ捲り、言葉の羅列で埋め尽くされたページを見せる。マティルダ嬢は「おお!凄い!」とパチパチ小さく拍手をした後、背伸びをしてイキシアの頭を撫でた。イキシアは嫌がるどころか自分から頭を差し出す体勢をとっている。

……いや、お前らいつの間にそんなに仲良くなってんだよ。良いことだけどさ!でもなんか……年齢的なギャップが……。だってマティルダ嬢、俺と同い年だよ?今年14歳だよ?いくらイキシアが若いとは言え、確実にイキシアが年上だよ?恥じらいはないのか??

マティルダ嬢の手がイキシアの頭から離れると、次にイキシアはガバッとこちらに顔を向けて期待に満ちた表情を俺に見せた。そして頭をこちらに差し出す形をとる。……えっ?俺も撫でないといけない感じ?きっつ……ゲフンゲフン、ちょっと絵面的にアレじゃね?

「……殿下、お願いします」

マティルダ嬢が苦笑いで俺に頼んだ。面倒と言うよりは、仕方ないなあ、と言った親しげな雰囲気である。少なくともマティルダ嬢はこの状況に違和感はないようだ。いや違和感は持とうよ……。

俺がなかなか頭を撫でないでいると、イキシアが上目遣いでこちらを見てきた。うっ……そんな捨てられた子犬みたいな顔をするな……!撫でてやる、撫でてやるから……!

俺は観念してイキシアの頭を撫でた。イキシアは幸せそうに目を細める。ほんと、なんでこんなに俺に懐いてくれてるのやら。憎まれてもおかしくないと思うんだけどなあ。

「よかったね、イキシア」

マティルダ嬢はまるで弟に向けるような暖かな視線をイキシアに送る。イキシアはまるで姉に今日一日の良い出来事を教えたかのように満足気に頷いた。……てかイキシアよ。それで良いのか。マティルダ嬢のことが好きなんだろ。まあ本人がそれで良いなら俺は何も言わないけど。

「……なんかすみません。おはようございます、エルネスティ様」

マティルダ嬢とイキシアが2人だけの空気を作り出して疎外感を覚えていると、ヤルノがグットタイミングで話しかけてくれた。まじありがとう……。

「おはようございます、ヤルノ。随分と2人は仲良くなったのですね」

「はい。私も意外で。イキシアなんて自分から今の境遇について彼女に話したくらいですよ」

「……えっ?本当ですか?」

ヤルノ曰くそこそこ2人が親しくなった頃、筆談で話そうとして苦戦したので事情を知ってるヤルノが説明をお願いされたらしい。「良いのか?」とイキシアに何度も聞いたけど確固たる意思で頷くため、気が進まないながらもマティルダ嬢に話したらしい。ヤルノは説明をした後、2人きりで話した方が良いと思ったらしくその場から去ったそうだが、その次の日から今のような仲になったらしい。

「……まあ仲が良い分には構いませんが、恋愛事情が絡んで来ないか心配ですね。今は姉弟のような関係ですが、イキシアのマティルダ嬢に抱く感情は……」

「私もそれが心配です。何せイキシアは結婚出来ないので」

「……この世界にも事実婚があれば良かったのですが」

「事実婚、とは何ですか?」

ヤルノがキョトンとしたので、俺はハッとなった。やっべ口に出てた?少なくともこの国には事実婚って概念無かったよな。事実婚がある国を遠くに作って誤魔化すか。

俺がその結論に至り口を開こうとしたその時、ガンッと言う凄まじい音が訓練場に響き渡った。ビクッとしながらも音の出処に目をやると、アンティア嬢が鬼の形相でヴァイナモに剣を振りかざしていた。ヴァイナモは涼しい表情を崩さずそれを剣で受け止めている。

静まり返ったその場にハッとなったアンティア嬢は剣を握る手を緩めた。カランカランと地面に落ちた剣をアンティア嬢は呆然と見つめる。ヴァイナモはその剣を拾い上げると、柄をアンティア嬢に差し出した。

「……どんな理由であろうと、誰にだって剣を握る資格はある。手放す必要はない。それにアンティアの剣の腕と情熱は本物だ。自分が本当に目指しているものを探すのは、今からでも遅くはない」

ヴァイナモの諭すような言葉にアンティア嬢はボロボロと泣き出した。そして丁重にその剣を受け取って深々と一礼した後、走ってその場を去ってしまった。

その場がシンと静まり返る中、ヴァイナモが気まずそうに俺の元へやって来た。

「アンティア嬢は一体どうしたのですか?」

「……少し俺と似ていたので、助言しました。俺の場合は上手く行ったので良かったのですが、アンティア嬢もそうだとは限らないので」

ヴァイナモはアンティア嬢が去って行った方向を見ながら、少しもの憂いげに答えた。……ヴァイナモってそんな表情出来たんだ。同じって、なんだろ。似ているなんて思わないんだけど。

……ちょっとモヤモヤする、かな。




* * * * * * * * *




○お知らせ○
諸事情により来週の更新はお休みさせていただきます。すみません。
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