前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

シスター見習いが苦手とする人

ヴァイナモとの甘い一時を過ごした翌日、早朝から俺たち作戦実行部隊名称は仮はヘルレヴィ旧男爵領に向けて出発した。と言っても、ヘルレヴィ旧男爵領に行く前に、一度隣接するヴァルヴィオ子爵領に寄るんだけどね。現在仮でヘルレヴィ旧男爵領を管理しているヴァルヴィオ子爵の元へ行き、ヘルレヴィ旧男爵領にて作戦を実行する許可を貰う必要があるから。まあ皇帝命令でそのことを許可するように通達されているだろうけど、形式的にね。それに現地の様子とかも、実際に行く前にヴァルヴィオ子爵から聞いておきたいし。

道中は一日中馬車と騎馬を走らせ、夜は野宿する。それを二三日続けると、ヘルレヴィ旧男爵領の隣のヴァルヴィオ子爵領まで辿り着くことが出来る。ヴァルヴィオ子爵領は帝都からそこまで離れてないため、短期間での到着が可能なのだ。

一日目はまだ体力が有り余っていたから移動や野宿も苦ではなかったけど、二日目にもなると、引きこもりの俺にとっては過酷なものに変わってきた。何せ体力がない。俺は封印魔法陣を使うため、体力温存として馬車に乗せられているけど、まあ揺れる揺れる。急いで馬を走らせてるから仕方ないとはいえ、乗り心地は最悪だ。そして野宿も、硬い地面に寝袋で寝るから、熟睡なんて出来ない。俺は皇族だからもっと待遇を良くすることは出来たんだけど、余計な荷物を持って行くのは避けたかったし、何より他の作戦に参加してくれてる皆に申し訳ない。ある意味彼らは俺の作戦に巻き込まれた人達だ。ならせめて彼らと出来るだけ同じ待遇にしてもらうのが、誠意なのだと思う。

それに、俺以上にこういった過酷な環境に慣れていない人がいるんだ。俺が根を上げてたら立つ瀬がない。

「ロヴィーサ嬢、大丈夫ですか?結構過酷な道のりとなっていますが……」

「ええ。私は馬車の中ではほとんど寝ていますし。私は起きている間ずっと魔法を使っている反動で、寝ている間はほとんど深い眠りにつけるので、あまり負担を感じずに済んでます」

二日目の夜、焚き火の傍で暖をとっていたロヴィーサ嬢盲目シスター令嬢に俺は声をかけた。実は俺が父上皇帝と直接交渉して、彼女にこの作戦に同行してもらっているのだ。

彼女は後天性魔法属性である真実透視魔法が使える。その力でアウクスティが魔窟のどの辺にいるかを遠くから探してもらうのだ。魔窟と呼ばれる場所はかなり広範囲に及んでいる。アウクスティが何処にいるのか見当もつけずに無闇矢鱈と魔窟に突っ込んでは、アウクスティをすぐに見つけられないかもしれない。そうしている間にも俺が魔窟の魔力の影響を受けてしまい、封印魔法陣を展開出来なくなってしまう可能性があるのだ。それならロヴィーサ嬢にあらかじめアウクスティの居場所を探ってもらい、俺が真っ直ぐそこに向かった方が成功率が上がる。ロヴィーサ嬢をそんな危険な場所に連れて行くのは気が引けたから、本人が嫌がれば無理に同行してもらうつもりは無かったんだけどね。

でもその話を聞いたロヴィーサ嬢は、即座に了承してくれた。

「やっと殿下に恩を返すことが出来ます」

彼女はそう言って微笑んだ。そう言えば教会の孤児院で再会した時、彼女からの恩返しを保留にしたことを思い出した。宗教上の決まりとは言え、このままロヴィーサ嬢が忘れてくれたら……なんて思っていたけど、全然覚えていた。むしろ片時も忘れたことがなかったそうな。なんだそれ。自分だけがその約束を軽く見てたってことだし、ちょっと申し訳ない。

そんなこんなで作戦部隊に同行するようになったロヴィーサ嬢は、もちろん軍兵顔負けの長時間の乗馬など出来ないため、俺と同じ馬車に乗って移動しており、その時間のほとんどを座席に寝転んで眠っている。ロヴィーサ嬢は最長でも連続6時間しか起きていられないからね。できる限り寝てもらって、体力を温存してもらう必要がある。

そしてロヴィーサ嬢の隣にはイキシア声の出ない大型犬が辺りを警戒するように立っている。この作戦において、イキシアには専らロヴィーサ嬢の護衛を任せてある。真実透視魔法のお陰で、ロヴィーサ嬢はイキシアが文字を書かなくても伝えたいことを理解出来る。だから意外とこの組み合わせが何かと都合が良いのだ。

イキシアは俺の手伝いがしたくてついて来たんだろうから、ちょっと不満に思うかも、と心配したが、そこは割り切れているようで、難色を示すことなく頷いてくれた。でも念には念を押して、イキシアにはこの作戦の間はロヴィーサ嬢がイキシアの主みたいなものだ、俺かロヴィーサ嬢を選ばなければならない時は迷わずロヴィーサ嬢を選ぶように、と何度も言い聞かした。これには流石にイキシアも眉を顰めたけど、渋々首を縦に振ってくれた。

だってこれまで荒事とは無縁であった、平穏な場所で神への奉仕をしている少女を、俺のわがままで危険な場所まで引っ張り出してきてしまっているんだ。何が何でも、無事に帰さなければならない。

そんな風に考えていると、視界の端から誰かがこちらに向かっているのが見えた。

「殿下、ロヴィーサ嬢。お食事をお持ちしました」

「ああ、ユルヤナ、ありがとうございます」

「ヴァイナモ様とイキシア様のお食事もすぐに持ってきますね」

ユルヤナ首席入学は俺とロヴィーサ嬢に野菜のたっぷり入ったスープのお椀を手渡すと、ニコッと笑って一礼し、また去っていった。ユルヤナはヴァルヴィオ子爵領までの最短ルートを案内するためにヴァルヴィオ子爵領まで同行することになっている。ちなみにヴァルヴィオ子爵領についたらヴァルヴィオ子爵お父上の手伝いをする予定なのだとか。軍兵顔負けに先頭で馬を走らせるユルヤナには、出来ないことなんてあるのだろうか。文武両道な上に細やかな気配りも出来るとか、完璧スギィ!

「……あの、先程の方は……」

「ああ、そう言えばロヴィーサ嬢は初対面でしたっけ。彼はヴァルヴィオ子爵家の長男である、ユルヤナ・シピ・ヴァルヴィオですよ。私の学友です」

「……ユルヤナ、様」

「もう一度来るでしょうから、その時に挨拶でもしますか?」

「……いえ、すみません。ちょっと私が苦手とする方のようなので、出来れば関わりたくはありませんね……」

ロヴィーサ嬢は申し訳なさそうに首を横に振った。俺はロヴィーサ嬢の予想外の返答に目を丸くした。真実が見える彼女に、ユルヤナがどう映ったのだろうか。

「……まあ関わることはほとんどないでしょうし、構いませんけど……理由を聞いても?」

「……あの方は神を信じていません。無関心と言いますか……恨んでいると言っても過言ではないでしょう。私はシスター見習いなので、そのような方とは関わらない方がお互いのためになると思います」

「……ユルヤナが……?」

俺は訝しげに首を傾げた。確かにユルヤナが信仰に関して何か言っていた覚えはないが、だからと言って恨んでいる様子もなかった。おくびにも出さず、密かに心に秘めているのだろうか。

そう言えばユルヤナは文武両道で何でも出来るスペックがあり、顔もそこそこ整っているのに、そこまで目立った印象を受けない。精々、入学式で新入生代表挨拶をしていた、ぐらいの印象だろう。もっと表立って評価されてもおかしくないのに、不自然なぐらいにユルヤナは目立たない。今思うとそれはなんだか歪な感じがする。

ユルヤナの底知れなさに、俺はぶるりと背筋を凍らせた。
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