前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

作戦決行の時

ついに、作戦を実行する日がやって来た。

「全兵!配置につけ!魔法陣部隊、魔法陣を発動しろ!」

カレルヴォ兄上第三皇子の号令と共に、遥か遠くに見える魔窟に向けて結界魔法陣が展開された。あまりに遠すぎると思ってしまうが、結界なしで魔窟に近づくのは、ここまでが限界である。

「前線、前方注意!魔力の流れの変化によって、モンスターが雪崩出て来るのを覚悟しろ!」

結界魔法陣ギリギリに帝国軍兵が配列し、剣を構えた。その傍ではサムエル歌こそ至高が堂々とした佇まいで歌っている。周りの兵士たちは怪訝な表情をしつつも、俺やカレルヴォ兄上が黙認しているため、何も言えないでいる。

サムエルはふと歌を止めると、少し考える素振りを見せたあと、こちらに振り返った。

「殿下あ、魔窟周辺の魔力の流れに主立った乱れはないようです~」

「ありがとうございます、サムエル。ですがやはりモンスターは厄介ですから、警戒は続けるべきでしょうね」

「そうだな。サムエル、引き続き魔力の調査を頼む」

「かしこまりましたあ」

サムエルはいい笑顔で頷くと、また魔窟の方へ向き直り、歌を再開させた。歌に微量の魔力を含ませ、周囲の魔力の流れに乱れがないか確認してくれているのだ。俺たちの会話を聞いて周りの兵士たちは、原理はわからないがサムエルは何かしらの調査を行っているのだと察し、怪訝な表情を和らげた。流石カレルヴォ兄上の部下たち。順応力が高い。

俺が感心していると、じっと魔窟の方を見ていた兵士の一人が声を上げた。

「……!前方!モンスターを発見!恐らく狼が凶暴化したものかと!」

「群れを成してないか確認しろ!」

「恐らく単体です!」

「なら先手をとれ!」

「はっ!」

モンスターの報告をした兵士はどこからか取り出した結界魔法陣を発動させると、周囲の2、3人を引き連れてモンスターの方へ向かった。モンスターを素早く囲い、魔法で弱らせた後、剣でとどめを刺す。見事な連携プレイに、俺は思わず感嘆の声を出しながら拍手した。近くにいたカレルヴォ兄上はそんな俺を見て呆れたように笑う。

「……今から生死を分ける大仕事があるってのに、呑気なもんだな」

「緊張しても、何も生み出しませんから」

「まあそうだけどよ」

カレルヴォ兄上は「仕方ねぇなあ」と呟きながら頭を掻き、軍の指揮に意識を戻した。その瞳には心配の色が見えた気がした。やっぱり腹違いとはいえ、弟が危険を冒すとなると心配になるようだ。……本当に、良い兄をもったよ、俺も。

でも、もう引き返すことなんて出来ないから。

「……では、ロヴィーサ嬢。アウクスティの居場所を見つけてくれますか?」

「わかりました」

俺が隣にいたロヴィーサ嬢見習い盲目シスターの方に視線をやると、ロヴィーサ嬢は小さく頷き、眉間に皺を寄せて両手を胸の前で握り締め、何やら集中する素振りを見せた。周囲の人々はそれを固唾を飲んで見守る。

「____見えました。北東の方向、丁度丘の頂上付近に、アウクスティ殿下はおられます」

「ロヴィーサ嬢、地図上で場所を示すことは出来ますか?」

「わかりました」

俺がそう問うとロヴィーサ嬢はダーヴィド学者騎士から差し出された地図に顔を向け、受け取ったペンで地図上に小さな丸を描いた。俺はその地図を横から覗き込んだ後、北東の方へ視線を向ける。

「……結構な距離がありますね。アウクスティの元に辿り着く前に体力が切れてしまわないか不安です」

「なら俺がエルネスティ様を抱きかかえてお連れしましょう。俺は体力に自信がありますし、剣なら片手で振れるのでモンスターから身を守ることも可能です」

俺が眉を顰めていると、俺の隣に控えていたヴァイナモがそう提案してきた。俺はその言葉にピシッと固まってしまう。ヴァイナモに抱っこされたままアウクスティの元に向かう……?それ何の羞恥プレイ……!?

いや、でもさっき言った通り俺じゃ体力ないし、足も遅いからな……。結界魔法陣があるとしても魔窟みたいな魔力の溜まり場には長居すべきじゃないから、ヴァイナモにパッと連れてってもらった方が良いよな……。ヴァイナモなら俺を抱えたまま片手で剣を振るってモンスター倒せそうだし……。抱っこなのか……?やはり抱っこなのか……??

俺は百面相し悩みに悩んだ後、憚るような視線を逸らしながら小さく頷いた。

「ならその……よろしくお願いします……」

「はい。エルネスティ様は俺が責任を持ってお守り致します」

ヴァイナモはそう頷きながら剣を抜くと、柄を両手で握りしめて剣を地面に突き刺し、片膝をついて額を柄に置いた。騎士が誓いをたてる際の最上級の敬礼だ。いきなりの行動で一瞬焦ったが、ヴァイナモなりの意思表示だろうと解釈し、俺は頷いた。

「よろしくお願いします、ヴァイナモ」

そんな会話をしていると、軍に指示を出していたカレルヴォ兄上が再びこちらに視線を向けてきた。

「そろそろ動けるか?目視出来る限りではあるが、この辺り一帯のモンスターは撃退したぞ」

「いけます。ありがとうございます」

「礼を言われるようなモンじゃねぇよ。……必ず、生きて戻って来い」

「……わかってますよ」

カレルヴォ兄上の獅子のような軍人の眼差しに、俺は気を新たに引き締めた。どうなるかわからないこの任務、必ず完遂してみせる。

俺がしっかりと封印魔法陣を手に持ったことを確認すると、ヴァイナモは「失礼します」と一言断りを入れて俺に腕を回してきた。そして俺を左腕に座らせるように抱き上げると、右手で剣を抜く。

「大丈夫ですか?剣が振りにくいとかありませんか?」

「大丈夫です。ですが危険なので、エルネスティ様も俺にしっかり捕まっておいてくださいね」

「わかりました」

俺はヴァイナモの言葉に従い、ヴァイナモの首元に腕を回してギュッと抱きつく。恥ずかしいなんて言ってられない。今は生死のかかった重大な任務の真っ最中なんだから。

「ではカレルヴォ兄上、いってきます」

「……ああ、健闘を祈る」

俺が再度カレルヴォ兄上の方を見ると、兄上は一切「兄」の表情をしていなかった。今の俺と兄上の関係は兄弟ではなく、勅命を受けて国民のために動く同士である。ほんの少しだけ、対等になれた気がして嬉しいのは自分だけの秘密だ。

俺たちの会話が終わったことを確認したヴァイナモは、結界魔法陣に魔力を流し込んで魔法陣を発動させた。俺は結界に綻びがないか確認し、ヴァイナモに向かって軽く頷く。それを見たヴァイナモはその場にいる皆に軽く一礼をし、目的地へ向かって一直線に走り出した。

ヴァイナモの肩越しに皆の顔を確認すると、毅然としつつもやはりどこか心配するような目でこちらを見ていた。俺は彼らに少しでも安心してもらえるよう、軽く微笑んで小さく手を振った。皆、豆鉄砲を食らったような表情を見せたのが面白くて、ふっと笑いが零れる。

……彼らのためにも、絶対に成功して戻ってくるんだ。

俺はギュッと拳を握りしめ、視線を目的地へと向けた。
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