Brave Battle Online〜病弱で虚弱な私でも、仮想空間では最強を目指せるようです〜

洲雷 無月

文字の大きさ
3 / 22
1.プロローグ

3.見守る者達

しおりを挟む
「本当に良かったのか?」

 黒尽くめ男、黒栖くろす 蔵人くろうどは包帯の男に言う。


「ああ……
 遅かれ早かれ、彼女は世界に注目されることになる。
 俺は師匠として、少しでも彼女の力になりたかった。それだけだ」

「あの人形は多分、あの少女の運命を変えることになるはずだ。
 だが、それを引き換えにお前の生存が世に知られる事となるかもしれんぞ?」

 蔵人は眉を潜めて呟く。


「構わない。
 この身体を治したら、いずれ奴らとは決着をつける予定だ」

 力の籠もった言葉。


 全身包帯の男は、かつて最強無敗の格闘王と呼ばれていた。

 岩隈いわくま 京士郎きょうしろう

 総合格闘技でアジア人初の世界チャンピオンに上り詰め、そこから無敗の伝説を作り上げた人類最強の格闘家。だがその男は2年前に事故に巻き込まれ死亡した――と、世間には伝えられている。

 しかし、助からない状態と判断された京士郎は、伝説の外科医と呼ばれた男・黒栖 蔵人の執刀により命を取り留めた。

 だが、命を取り留めたといっても、全身は悉く損傷しており、この病院でリハビリと回復手術を繰り返しているのだ。


 黒栖くろす 蔵人くろうど

 正体を隠すため、黒服に身を固めた男。病院内であっても不吉の象徴である黒服の着用が許された男である。

 天才的な外科手腕を持ち、どんな難病や怪我もこの男の手にかかれば助けられない命はない、とまで言われている。

 執刀を望む者は星の数ほどおり、一度のオペを行うだけで巨額の金が動く。
 故に蔵人の所在は国家機密とされている。

「私もいろんな組織から監視されているからね。
 これ以上の露出は危険だ。戻りますよ」

 蔵人は車椅子を翻すと、病院の奥へ歩を進める。




「それにしても、京士郎。あの娘はお前がそこまで認めるほどの人物なのか?」

 車椅子を押しながら、蔵人が疑問を投げかける。

「ああ……
 ああ見えて、あいつは俺が知る格闘家の中で最強と言っても良い……
 まぁ、ゲームの中での話だけどな」

 包帯の男はニヤリと口元を唇を歪める。

「たかがゲーム、と笑い飛ばすような時代は過去のことか……」

「俺らの世代だとそういう輩は多いがな。

 俺も実際に仮想現実世界へダイブして体験するまでは、ただの遊具だと思っていた」

「そうだな。
 仮想現実はただの遊びに止まらず、ビジネスや産業、そして医療にも利用されるようになった。
 今や現実に大きな影響を与える、半現実と言っても過言ではない。

 病院内だけの閉鎖された世界だけの存在だったあの少女の存在を、本物の世界が気付いた時、どれだけの衝撃が走るか、想像がつかないな」

 蔵人は黒いマスクの下でくつくつと嗤う。


「それに、あの両親も私の興味を引くには十分な存在だった」

「ほぉ、貴様の琴線に触れる何かがあったのか?」

 蔵人の言葉に京士郎が問い返す。


「私はあの少女に執刀するにあたり、あの両親を調べ上げた。

 生い立ち、人と成り、そして資産についてもだ。

 あの両親は驚くほど真っ白。善良なる市民を絵に描いたような人物だった。

 だから、執刀するに事にした。
 まぁ、一つ条件を付けましたがね。

 裏のルートを使ってあの家族の資産を調べ上げ、ギリギリを提示したんだ」

「テメェ、俺の頼みなのに、金を取ったのか?」

 京士郎が車椅子を押す蔵人を睨め上げる。

 そう、真雪が手術を受けられたのはただの偶然ではなかったのだ。

 仮想現実の世界で京士郎が真雪の才能を見いだし、親友でもある蔵人に依頼したのだ。
 真雪は覚えていないようであるが、術後のリハビリの前に仮想世界で京士郎と出会っているのである。

「えぇ…… 私は自分の技術の安売りはしない主義なんでね」

 しれっと蔵人が答え、言葉を続ける。


「それで、あの家族、どうしたと思います?
 なんと、私が提示した額を翌月に即金で払ったんですよ。
 私の調査は完璧なので、金額についてはかなり無理をしたようですね。
 一流企業に勤めていた両親は揃って早期退職しその退職金と、住んでいた家、家財、土地全てを売って資金を作ったようです。
 そこまでして掻き集めた全財産を、まるごと差し出したんです。
 信じられますか? 私が悪徳詐欺師だったら今頃あの家族は破滅してたんですよ」

「だがお前は詐欺師ではない、だろ?」

 珍しく饒舌に話す蔵人とは対照的に、不機嫌な口調で京士郎が横槍を入れる。

「まぁ、そうですね。
 それだけの覚悟を感じとりましたから、私としても本気でオペに臨みましたよ。
 まぁ、私が執刀すれば失敗はあり得ないのですがね」

 そんな尊大な蔵人の発言に京士郎はやれやれと肩をすくめながら問う。

「お前がそれだけ喋るってことは、それだけでないんだろ?」

「ふ…… さすが、京士郎。
 私が助けた患者の家族が全財産を失って破滅する姿を見殺しにする訳にはいかないですからね。私の執刀が無駄になってしまう。
 なので、術後もあの家族に監視を付けて、もし露頭に迷うようなら陰から助けるように命じてたのですが……」

 そこで蔵人はパンと手を叩いて、はははと笑う。

「徒労に終わりましたよ。
 あの家族、私が思っている以上にやり手だったんですよ。
 家を失った二人は母方の実家に世話になるようになったのですが、そこはど田舎で、老後に趣味でやっているような小さなパン屋でした。
 年金と合わせれば何とか食べていける程度の稼ぎしかないところに、二人、いえ娘の入院費も入れれば三人分家族が増えれば立ち行かなくなるのが道理なのですが……
 母親は、所有しているIT系資格と知識を利用してインターネット販売を始め、父親は一流商社の営業だった手腕で販路を拡大。
 この一年で田舎のパン屋の売り上げは推定五倍、今やバイトを雇っても供給が追いつかないほどの人気店だ。
 私の出る幕はなかった」

 そう言って、また笑い声をあげる。


「だか、お前のことだ。全財産を失ったが自力で立て直せたから『何もしなかった』って事もないだろう?」

 挑発的な言葉。必要がなかったからと、金を懐に仕舞うような男であったら一発ぶん殴ってやる、と鋭い視線を蔵人に向ける。

「怖い目をするな。
 あぁ、あの家族は私の助けがなくても自力でやっていける。ならばという事で――」

 そして蔵人は金の使い道を語る。

「はっ! 蔵人、お前にしては随分と面白い事するじゃねぇか!」

 京士郎が獰猛に笑う。

「さしあたって、京士郎。貴方にも手伝ってもらいたいことがあるのですが」

「ああ、構わないぜ。師匠として、あいつの力になれるなら協力は惜しまねえ」

「そうですか、ならば――」

 こうして蔵人はさらなる計画を口にするのであった。


「これで舞台は整うでしょう。

 さてさて京士郎が認めたあの少女が、どんな活躍をするか、共に楽しみにしていくとしましょう!」

 くくく、と蔵人が笑うと、その笑い声に京士郎の笑みが重なる。

「「くははは、はーっははははは!!」」

 二人の天才は笑い声を上げながら、病院の奥へ消えていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処理中です...