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3.スポーツ大会
16.クマ子襲来
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敗北を告げるシステムメッセージと共に、視界が敗者モードに変更される。
敗者モードとは、景色が淡い青色に包まれ、バトルに影響できない『観戦者』と同じ状態だ。
そのモードになる事で既に退場していたミレイを認知できるようになる。
「な、なんなのよ、あの子。設定変えたら一方的にボコれるって聞いたのに!」
先に敗北し、敗者モードとなっていたミレイを見つけると、不満の声が口をついて出る。
「うっさいわね! 私だってあの子があんな化け物だったなんて思ってなかったわよ。現実じゃ病弱のモヤシっ子なのに、ゲーム内だととんでもない強さの化け物だなんて夢にも思うわけないじゃない!」
私の言葉に、ミレイは逆ギレしたかの様な強い言葉が返ってくる。
そんなやりとりをしている間に、風景の色が元に戻っていく。バトルが終了し、敗者モードが解かれた様だ。
「あっ、ミレイちゃんふーみんちゃん」
バトル中扱いだったSnowからは見えなかった私達を、バトルが終わった事で認知し見つけたSnowが嬉しそうに駆け寄ってくる。その屈託のない笑顔にゾクリと背中に寒いものが走る。
な、なんなの、この娘。私達がしようとした事に気付いてない訳がないのに……
「ごめんね、悪役をやってもらっちゃって。正義の味方役が出来て、とっても楽しかったよ」
私達の目の前まで駆け寄ってきたSnowか嬉しそうな表情でそう告げる。
はっ? もしかしてこの子、さっきのバトルは正義と悪に別れたロールプレイだと思ってる?
「た、楽しんでくれたなら、良かったわ」
何とか言葉を返す。勘違いしているならそのまま私達の悪事は無かった事にしてゲームを終わらせよう。ミレイに目配せして同意を取ろうとしたが、ミレイはSnowにおびえている様で合図に気づかない。とりあえずゲームを終わらせるように話題を持っていこうとしたのだが、私が言葉を発する前にSnowがとんでもない事を言い始める。
「次は私が悪役をやるね。二人みたいに上手く演じられないかもしれないけど、頑張ってやってみるよ。で、どっちが正義の味方役をやる?」
にっこりと笑いながら私とミレイを交互に見やる。
やっぱり私達のやった事、気付いてるんだ。今度は悪役として私達に復讐される。設定で痛みのフィードバックが最大になってる今、この子に悪役として甚振られたらーー
全身に悪寒が襲い、恐怖に「ひぃ」と声が漏れてしまう。
「ふ、ふざけんな! バトルは終わりよ。終了!」
ミレイが逆ギレして叫ぶと、慌てながら手を動かしてバトルフィールドから脱出する。
「えっ、ミレイちゃん。私、何かミレイちゃんを怒らす事を言っちゃったかな……?」
Snowが困った様な表情でこちらを見る。
「ひっ、ひぃぃっ!」
ヤバい。置いてかれた。このままSnowが『再試合』を実行したら、この化け物と私が1対1で闘わなくちゃいけなくなる。そんなの無理だ。
「た、助けて」
私は震える指で必死にメニューを操作して、必死にバトルアウトした。
★
バトルから離脱し、公共スペースに転送された私は安堵感からその場にへたり込んでしまった。
それにしてもミレイの奴、私を置いて逃げるなんて許せない。あとでめっちゃ文句言ってやる。
そう思いながらも、何とか立ち上がる。
それよりも、早くこの場を離れないと、Snowが戻ってきてしまう。
「あー、もう今日は無理だわ。ログアウトしちゃおう」
メニューウィンドウを開いて、ログアウトしようとしたその時だったーー
「おっと、ログアウトはさせねぇぜ」
ぶっきら棒な女性の声? 振り返ると一匹のクマがそこに立っていた。
「なっーー うぐっ」
驚いて後退りしようとした私の胸ぐらを、素早く伸びてきたクマの腕に掴まれ捻りあげられる。
さらに凄まじい力で持ち上げられ、足が床から離れ抵抗できなくなる。
「離、せ……」
すぐ横からミレイの呻き声にも似た声が聞こえる。横目で視線を向けると、ミレイも私と同じ様に吊り上げられていた。両手で一人ずつ胸ぐらを掴んで吊り上げられている状態のようだ。ゲーム内のため窒息することはあり得ないが、それでも首を圧迫されているというフィードバックで、苦しいという感覚に陥る。
何なんだ、このクマは…… バトル外での乱暴行為は禁止されているので、通報すればアカウント停止もあり得るはずなのに躊躇がない。
今の状況がわからず混乱していると、ヒュンという独特の転送音が聞こえる。
「う~ん、何か二人に悪いことしちゃったのかな…… 二人に理由を聞いて謝らないと」
そんな独り言の声が耳に入る。転送されてきたのはSnowの様だ。
「って、ミレイちゃん! ふーみんちゃん!」
こちらに気付いたのか、Snowの驚いた声が聞こえる。その声を聞いて目の前のクマは「やっと来たか。ふんっ!」と私達二人を投げ飛ばした。
「ぐわっ、くそっ、テメー」
地面に転がったミレイは、起き上がると自分を投げ飛ばしたクマを睨みつける。
「バトル外での暴力行為。通報しますからね!」
私も首をさすりながら言い放つ。しかし目の前に立つクマは私達を見下ろした態度は変わらない。
「えっ、クマ? もしかして師匠ですか?」
Snowが訳わからない事を言っている。クマが師匠?
「Snowと会うのは初めてだな。すまんが人、いや熊違いだ。アタシの名は『クマ子』、アンタの知る熊とは別者かな」
クマの表情がニヤリと歪む。
「アタシも手出しするつもりはなかったのだが、先程のバトルを観戦て状況が変わった。アンタらはやり過ぎたんだよ。
魔術士のオマエ。さっき通報するとか何とか言ってたが、もしそうするならば先程の試合を録画った動画を公表するが、それでも構わないよな?」
キッと睨みつけられて血の気が引く。自分が行った事を冷静に思い返すと、とんでもない事をしていたことに気付く。
「はっ! だから何よ。アカウント停止されたら録画情報も消えるだろう。私らはゲーム制約内で遊んだだけだ」
ミレイはまだ自分らのしてしまった事のヤバさに気付いていない様で、喧嘩腰でクマ子に言い返す。
瞬間、クマ子が目にも止まらぬ速度で動く。
「はっ! はっ! はぁっ!」
気合の声と共にクマ子の拳がミレイの顔面、喉、鳩尾へと繰り出され寸止めされた。
「まだ状況が分かってねぇようだな。なら、オマエが判る様に教えてやるよ」
クマ子はまったく反応できなかったミレイの耳元に顔を近づけて小声で囁く。
「今の動きはスキルの補助なしでのものだ。なので理論上では現実でも再現可能だ。で、アンタは1年E組のスポーツ大会、ブレバト代表だろ?
たかがゲームだからって調子に乗ってると、現実で痛い目を見るぜ」
近くにいたので何とか聞き取る事が出来た。ミレイにはゲーム内で行った事の悪さよりも、現実で痛い目を見るかもしれないという直接的な危機感の方が伝わりやすい。
クマ子の言葉の意味を理解したミレイは「ひぃぃっ」と短く悲鳴を上げた。
「分かったら、さっさとSnowの設定を戻せ」
フンと鼻を鳴らすと、ミレイはガクガクと膝を震わせながらSnowに近づく。
「Snow。ご、ごめんなさい。ちょっとした悪戯で貴女の設定を変えてしまったから、もう一度、設定画面を見せて貰っていいかな?」
ミレイは唇を震わせながら言うと、Snowは現状を全く理解していないかの様に「ほぇ? うん、ちょっと待ってね」と気の抜けた様な返事をして設定画面を開示した。
「はぁ。やれやれ、今回痛い目を見たのにそんなに簡単に他人に設定画面を見せるなんて、後で色々と常識を教え込む必要があるな……」
クマ子は肩を竦めて、そう独り言ちる。
「戻したわ。これでいいでしょ?」
設定を戻したミレイは視線をクマ子に向けて確認する。
「フン。態度が気に食わないが、まぁいいだろう。Snowも気にした様子が無いみたいだからな」
その言葉を聞くと、ミレイはすぐさま自分のメニュー画面を表示させる。
「私、この後に予定があるから落ちるわ」
そしてそう言葉を残すとログアウト処理をしてこの場から姿を消すのであった。
あ、逃げた。って、また私を置いてきぼり。
「うっ……」
クマ子と目が合う。ゲーム内なのにダラダラと汗が流れる様な感覚。
「あの、Snowちゃん。今日はごめんなさい。私も、用事があるから」
何とか言葉を吐き出す。ここで謝らなくちゃ、クマ子になにをされるか分からない。
「えっ、そうなんだね。今日はありがとう。また明日ね」
私の言葉をどう捉えたか分からないが、Snowは残念そうな表情を見せた後、笑顔を作って手を振った。
私は「またね」とだけ言葉を残して、ゲームをログアウトするのであった。
敗者モードとは、景色が淡い青色に包まれ、バトルに影響できない『観戦者』と同じ状態だ。
そのモードになる事で既に退場していたミレイを認知できるようになる。
「な、なんなのよ、あの子。設定変えたら一方的にボコれるって聞いたのに!」
先に敗北し、敗者モードとなっていたミレイを見つけると、不満の声が口をついて出る。
「うっさいわね! 私だってあの子があんな化け物だったなんて思ってなかったわよ。現実じゃ病弱のモヤシっ子なのに、ゲーム内だととんでもない強さの化け物だなんて夢にも思うわけないじゃない!」
私の言葉に、ミレイは逆ギレしたかの様な強い言葉が返ってくる。
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「あっ、ミレイちゃんふーみんちゃん」
バトル中扱いだったSnowからは見えなかった私達を、バトルが終わった事で認知し見つけたSnowが嬉しそうに駆け寄ってくる。その屈託のない笑顔にゾクリと背中に寒いものが走る。
な、なんなの、この娘。私達がしようとした事に気付いてない訳がないのに……
「ごめんね、悪役をやってもらっちゃって。正義の味方役が出来て、とっても楽しかったよ」
私達の目の前まで駆け寄ってきたSnowか嬉しそうな表情でそう告げる。
はっ? もしかしてこの子、さっきのバトルは正義と悪に別れたロールプレイだと思ってる?
「た、楽しんでくれたなら、良かったわ」
何とか言葉を返す。勘違いしているならそのまま私達の悪事は無かった事にしてゲームを終わらせよう。ミレイに目配せして同意を取ろうとしたが、ミレイはSnowにおびえている様で合図に気づかない。とりあえずゲームを終わらせるように話題を持っていこうとしたのだが、私が言葉を発する前にSnowがとんでもない事を言い始める。
「次は私が悪役をやるね。二人みたいに上手く演じられないかもしれないけど、頑張ってやってみるよ。で、どっちが正義の味方役をやる?」
にっこりと笑いながら私とミレイを交互に見やる。
やっぱり私達のやった事、気付いてるんだ。今度は悪役として私達に復讐される。設定で痛みのフィードバックが最大になってる今、この子に悪役として甚振られたらーー
全身に悪寒が襲い、恐怖に「ひぃ」と声が漏れてしまう。
「ふ、ふざけんな! バトルは終わりよ。終了!」
ミレイが逆ギレして叫ぶと、慌てながら手を動かしてバトルフィールドから脱出する。
「えっ、ミレイちゃん。私、何かミレイちゃんを怒らす事を言っちゃったかな……?」
Snowが困った様な表情でこちらを見る。
「ひっ、ひぃぃっ!」
ヤバい。置いてかれた。このままSnowが『再試合』を実行したら、この化け物と私が1対1で闘わなくちゃいけなくなる。そんなの無理だ。
「た、助けて」
私は震える指で必死にメニューを操作して、必死にバトルアウトした。
★
バトルから離脱し、公共スペースに転送された私は安堵感からその場にへたり込んでしまった。
それにしてもミレイの奴、私を置いて逃げるなんて許せない。あとでめっちゃ文句言ってやる。
そう思いながらも、何とか立ち上がる。
それよりも、早くこの場を離れないと、Snowが戻ってきてしまう。
「あー、もう今日は無理だわ。ログアウトしちゃおう」
メニューウィンドウを開いて、ログアウトしようとしたその時だったーー
「おっと、ログアウトはさせねぇぜ」
ぶっきら棒な女性の声? 振り返ると一匹のクマがそこに立っていた。
「なっーー うぐっ」
驚いて後退りしようとした私の胸ぐらを、素早く伸びてきたクマの腕に掴まれ捻りあげられる。
さらに凄まじい力で持ち上げられ、足が床から離れ抵抗できなくなる。
「離、せ……」
すぐ横からミレイの呻き声にも似た声が聞こえる。横目で視線を向けると、ミレイも私と同じ様に吊り上げられていた。両手で一人ずつ胸ぐらを掴んで吊り上げられている状態のようだ。ゲーム内のため窒息することはあり得ないが、それでも首を圧迫されているというフィードバックで、苦しいという感覚に陥る。
何なんだ、このクマは…… バトル外での乱暴行為は禁止されているので、通報すればアカウント停止もあり得るはずなのに躊躇がない。
今の状況がわからず混乱していると、ヒュンという独特の転送音が聞こえる。
「う~ん、何か二人に悪いことしちゃったのかな…… 二人に理由を聞いて謝らないと」
そんな独り言の声が耳に入る。転送されてきたのはSnowの様だ。
「って、ミレイちゃん! ふーみんちゃん!」
こちらに気付いたのか、Snowの驚いた声が聞こえる。その声を聞いて目の前のクマは「やっと来たか。ふんっ!」と私達二人を投げ飛ばした。
「ぐわっ、くそっ、テメー」
地面に転がったミレイは、起き上がると自分を投げ飛ばしたクマを睨みつける。
「バトル外での暴力行為。通報しますからね!」
私も首をさすりながら言い放つ。しかし目の前に立つクマは私達を見下ろした態度は変わらない。
「えっ、クマ? もしかして師匠ですか?」
Snowが訳わからない事を言っている。クマが師匠?
「Snowと会うのは初めてだな。すまんが人、いや熊違いだ。アタシの名は『クマ子』、アンタの知る熊とは別者かな」
クマの表情がニヤリと歪む。
「アタシも手出しするつもりはなかったのだが、先程のバトルを観戦て状況が変わった。アンタらはやり過ぎたんだよ。
魔術士のオマエ。さっき通報するとか何とか言ってたが、もしそうするならば先程の試合を録画った動画を公表するが、それでも構わないよな?」
キッと睨みつけられて血の気が引く。自分が行った事を冷静に思い返すと、とんでもない事をしていたことに気付く。
「はっ! だから何よ。アカウント停止されたら録画情報も消えるだろう。私らはゲーム制約内で遊んだだけだ」
ミレイはまだ自分らのしてしまった事のヤバさに気付いていない様で、喧嘩腰でクマ子に言い返す。
瞬間、クマ子が目にも止まらぬ速度で動く。
「はっ! はっ! はぁっ!」
気合の声と共にクマ子の拳がミレイの顔面、喉、鳩尾へと繰り出され寸止めされた。
「まだ状況が分かってねぇようだな。なら、オマエが判る様に教えてやるよ」
クマ子はまったく反応できなかったミレイの耳元に顔を近づけて小声で囁く。
「今の動きはスキルの補助なしでのものだ。なので理論上では現実でも再現可能だ。で、アンタは1年E組のスポーツ大会、ブレバト代表だろ?
たかがゲームだからって調子に乗ってると、現実で痛い目を見るぜ」
近くにいたので何とか聞き取る事が出来た。ミレイにはゲーム内で行った事の悪さよりも、現実で痛い目を見るかもしれないという直接的な危機感の方が伝わりやすい。
クマ子の言葉の意味を理解したミレイは「ひぃぃっ」と短く悲鳴を上げた。
「分かったら、さっさとSnowの設定を戻せ」
フンと鼻を鳴らすと、ミレイはガクガクと膝を震わせながらSnowに近づく。
「Snow。ご、ごめんなさい。ちょっとした悪戯で貴女の設定を変えてしまったから、もう一度、設定画面を見せて貰っていいかな?」
ミレイは唇を震わせながら言うと、Snowは現状を全く理解していないかの様に「ほぇ? うん、ちょっと待ってね」と気の抜けた様な返事をして設定画面を開示した。
「はぁ。やれやれ、今回痛い目を見たのにそんなに簡単に他人に設定画面を見せるなんて、後で色々と常識を教え込む必要があるな……」
クマ子は肩を竦めて、そう独り言ちる。
「戻したわ。これでいいでしょ?」
設定を戻したミレイは視線をクマ子に向けて確認する。
「フン。態度が気に食わないが、まぁいいだろう。Snowも気にした様子が無いみたいだからな」
その言葉を聞くと、ミレイはすぐさま自分のメニュー画面を表示させる。
「私、この後に予定があるから落ちるわ」
そしてそう言葉を残すとログアウト処理をしてこの場から姿を消すのであった。
あ、逃げた。って、また私を置いてきぼり。
「うっ……」
クマ子と目が合う。ゲーム内なのにダラダラと汗が流れる様な感覚。
「あの、Snowちゃん。今日はごめんなさい。私も、用事があるから」
何とか言葉を吐き出す。ここで謝らなくちゃ、クマ子になにをされるか分からない。
「えっ、そうなんだね。今日はありがとう。また明日ね」
私の言葉をどう捉えたか分からないが、Snowは残念そうな表情を見せた後、笑顔を作って手を振った。
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