Brave Battle Online〜病弱で虚弱な私でも、仮想空間では最強を目指せるようです〜

洲雷 無月

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3.スポーツ大会

17.敗北

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 えっと、この状況。どうしよう……

 とりあえず、今の状況を確認する。

 木下さんと有坂さんが用事があるということでログアウトしてしまい、辺りに人の気配が無い校舎裏エリアに謎の熊と二人きりである。

「あ、あの……」

 とりあえず、目の前の熊に声をかけてみる。見た目が師匠と同じなので、ちょっと緊張する。

「こうしてゲーム内で会うのは初めてだな。アタシの事は『クマ子』とでも呼んでくれ」

 目の前の熊がそう語りかけてくる。その声はややハスキーな女性の声。やはり師匠ではない。

「ゲーム内で、ということはリアルではお会いしたことがある方ですか?」

 先程の言葉で引っかかった部分があったので聞いてみる。

「リアルではすれ違った程度だな。こちらが一方的に認識してるのみだ。
 それよりも、設定を元に戻してもらえてよかったな。これからは安易に設定画面を他人に委ねぬ事だ」

 答えと共に、忠告が返ってきた。

 うっ、やっぱり木下さんに変な設定にされちゃってたんだ。何となくは気付いていたけど、直接忠告されてやっと悟る。

「あの、なんか助けてもらったみたいで、ありがとうございます」

 とりあえず、お礼を言う。
 もしかしたら、木下さんが「ちょっとした悪戯」と言っていたのですぐに設定は戻してくれたかもしれないけど……

「……まあいい。設定を戻したのは、アタシの為でもあるからな」

 ジッとこちらを見つめた後、クマ子さんは溜息をついてから言葉を告げる。

 自分クマ子さんの為でもある?

 意味が分からなく首を傾げていると、ピコンというシステム音と共にメッセージが表示された。

『クマ子 さんより、バトルの申請がありました。
 挑戦を受けますか?
       Yes / No』

 それはバトル申請であった。

「アンタとは対等の条件で闘いたかったからな。もしアタシに恩を感じてるならバトルを受けてくるないか?
 アンタの強さを見極めさせてくれ」

 真っ直ぐにこちらを見つめクマ子さんが告げる。
 先程までの通常の会話する様な感じではなく、戦闘前のピリリとした空気がクマ子さんを包む。

 この人、強い。

 その雰囲気で相手の強さを肌が感じ取る。
 強者からの真摯な闘いの申し入れならば、どんな状況であろうが受けるべきだ、という師匠の言葉を思い出す。

「分かりました。申し出を受けます」

 私も戦闘に向けての心のスイッチを入れながら答え、『承認』ボタンを押した。


『バトルが成立しました。フィールドを移動します』

 バトル承認をした事により、システムメッセージが表示される。

 視界が明転して、景色が変わる。

 目の前には草原が広がる。そこに、対戦相手であるクマ子さんの姿。
 そこは最後に師匠と闘ったバトルフィールドと同じであり、熊の姿が師匠と重なる。師匠と違うのは腰に日本刀を装備しているところ。

 1vs1 Battle! Ready

 3… 2…

 カウントダウンが始まる。

 クマ子さんは腰溜めに構える、私も拳を構える。

 1… Fight!!

 闘いが始まる。

 パリッ!

 小さなスパークを残してクマ子が搔き消える。

 早いっ

「スキル【超過駆動オーバードライブ】!!」

 慌ててスキルを発動させる。

 ガキィィィン!

 一瞬で間合いに入ったクマ子の抜刀術を、鉄甲で防御する。間一髪だ。

「ふん。さすがにこの程度ならば防がれるか……」

 冷静なクマ子さんの声。それは女性の声であって、師匠の声ではない。

「ならば、これならどうだ」

 複数の斬撃が閃光となって襲いかかってくる。

 ギン、ギン、ギギギィィィン!!!

 それを必死に鉄甲で防ぐ。

「くぅっ……」

 全てが紙一重だ。私の得意とする『流水の捌き』も速すぎる斬撃には効果が薄い。

 この人、私より――速い!

 なんとかギリギリで相手の攻撃を防御出来ているが、速すぎてこちらが攻撃する隙が無い。

 今まで自分より速い相手と闘ったことがなかった。これって相当に相性が悪い相手だ、と直感する。

 ドッ!

 足に鈍痛が走る。

「なっ」

 下段蹴り?!

 目の前にFirst Hit!!の文字が踊る。

「くっ」

 体勢が崩れる。

 そこに容赦なく斬撃が襲う。

 私はそれを後ろに転がるように避ける。

 ザクリ……

 しかし、切先が私の背を切り裂き、体力が削られる。

「おい、アンタの実力は、そんなもんなのか?」

 クマ子さんが刀を鞘に仕舞い、再度居合の構えを取って呟く。

 挑発されているのは分かっているけど、反論できない。このままでは攻撃すら出来ずに負けてしまう。

 ならばっ

 距離をとって、起き上がりざまに私は行動する。

 ドン!!

 蹴り込んだ地面が爆発したように爆ぜる。

 剛の歩法『烈脚』だ。

 反撃できないなら仕掛けるまでだ。私の出せる最大の速度で間合いを詰める。

「甘い!」

 クマ子が居合にて刀を振り抜く。それは私が刀の間合いに入るのと同時。完璧なタイミングでのカウンター。私の体は真横一文字に切り裂かれた――ように、相手は思った筈だ。

 間合いに入る直前に無音で駆ける静の歩法『幻歩』に切り替えて相手の背後に回り込む。

「むっ」

 クマ子さんが手応えがないことに気づいたようだ。

「奥義『水穿すいせん』!」

 出し惜しみせず、奥義を叩き込む。が、硬いものに防がれる手応え。
 クマ子は咄嗟に左腕の鉄甲にて防御したのだ。

 バキリ……

 防御したクマ子の鉄甲に亀裂が走る。

「なにっ」

 驚愕の声。
 職業ジョブが拳闘士でないため【武具不壊】の恩恵が無いのだが、防具は相当に高い耐久性を持っている。それを一撃(厳密には同箇所連続攻撃だが)で、破壊されたのだ。クマ子さんの声に動揺の色が混じる。

 ここで畳みかける!

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 拳の連打を叩き込む。が、その全てを刀で防がれる。

 速度で相手の防御を抜けない。

 だが今度は逆に相手が防戦一方になり、反撃できない状態に陥っている。

「チィッ!」

 痺れを切らせた下段蹴りを放つ。だが、それは先ほど見ている。
 跳びあがりその蹴りを躱すと共に、身体を捻り回し蹴りを放つ。

 ドッ!!

 よし。クリーンヒット!

 胸元に蹴りが入り、相手を吹き飛ばす。
 カウンターと判定されたため、大きなダメージが入ったが、距離が出来てしまったため攻撃の手が止まってしまう。

「ふぅ……」

 私とクマ子は同時に息を吐き出す。

 体力は互いに8割。ほぼ互角だ。

「なかなか、やるな。だが、今までの攻防でアンタの実力は把握した」

 クマ子はゆっくりと刀を鞘に戻す。

「では、アタシもスキルを解禁するとしよう。

 断言する。ここからアンタは何も出来ずに敗北する」

 そう言葉を続けて、重心を落とす。

 敗北ーー

 その言葉は勝利の味を知ってしまった私からすると、もう味わいたくないにがい言葉だ。

「負けません!」

 グッと拳に力を込める。

「スキル発動【空間転移テレポート】」

 その言葉とともにクマ子が消える。

 ズシュッ!!

 背中に鋭い痛みが走る。

「なっ!」

 背後からの斬撃。まったく動きが見えなかった。いや違う。スキルと言っていた。瞬間移動するスキルがあるのだ。反応できずにまともに攻撃を食らってしまった。

「くっ!」

 裏拳を放ち反撃するが、バックステップで躱される。
 距離を取られた――そう思った瞬間

 ズシュッ!

 またしても斬撃が脇を抉る。

 な、なにが起きたの?

 切られた部位を押さえて相手を見ると、発動したスキル【二段跳躍】の文字が踊っていた。

 二段跳躍? 背後に跳んだ後に、空中でもう一度前に跳んだっていうことなの?

 思考が追いつかない。

 その間にまたしても刀の一撃を受けてしまう。

「くっ」

 苦し紛れに蹴りを放つが空を切る。そして、カウンターで斬撃が襲う。

 必死に距離を取り攻撃を避けるが、畳み掛けるようにクマ子が【空間転移】を発動する。

 後ろっ!

 咄嗟に背後からの攻撃に反応し、攻撃を受け止める。

「スキル発動【雷音発破フラッシュバン】!」

 ズドン!!

 閃光と轟音。視界と聴力が奪われる。

 うあっ、ヤバい!

 五感を2つ奪われ、なす術が無くなる。必死に破壊不能である鉄甲で防御を固める。

 しかし、相手もそれが分かっていてそこを狙ってくることはない。

 ドスッ!

 腹部に激痛が走る。

 ガードの隙を縫って、腹部に刺突の一撃。体力が大幅に減少したのが分かる。だが――

致命の一撃クリティカルヒットじゃないのなら!」

 ぐっと腹筋を締め上げ、拳を構える。

「なっ」

 驚いた声をあげたのを聴こえない耳の代わりに、刀伝いに腹が感じとる。腹筋で刀が固定され、相手は攻撃不能。

 ぐっと足を踏み込み拳を振り抜く。視界は戻ってないけど、この距離ならば当たる筈だ。

「真陰熊流格闘術、奥義『崩穿華ほうせんか』!」

「スキル発動――」

 拳を繰り出すと同時にクマ子の声。

   ズガガガン!!!

 手応えあり。インパクトの瞬間に気を爆発させる。

 クリーンヒット!

「やった、か?!」

 瞼を開く。ぼんやりと見えた視界には、粉々に砕けたが映った。

「え、これは――」

 混乱する私の言葉に応える声は後ろから聞こえた。

「さすがだ。私に奥の手のスキル【空蟬うつせみ】を使わせるとは」

 振り返った私が見たのは、拳を構える熊の姿。この構えはまさか

「トドメです。スキル発動――」

 私が最後に見たのは真陰熊流格闘術奥義の『崩穿華』であった。

「えっ」

 頭の中は混乱してるが、身に沁みついた格闘の経験からか反射的に防御態勢をとる。

 でも心の冷静な部分は理解していた。この技は防御不能なのだ。

 ドン!

 衝撃が突き抜ける。

 その一撃のダメージは破壊不能の鉄甲を貫通し、私の体力を0にしたのだった。


――こうして私は闘いに敗北した。
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