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一章:無転生冒険者、初めての仲間を得る

7 無転生は休ませてくれないようで

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「ーーーーという訳で一部屋何とかならないか?」

 俺たちはあの安宿ホテル・ラビリンスに来ていた。

 一応、聞き込みにも来たので、家出少女の件の報告も兼ねていた。
 家出した理由は〈自分も転生冒険者と冒険したいから〉という事だったらしい。
 しかも、家からお金を持ち出して、あの二人のために使ってしまったとか。
 
 さらにあの二人、ムサシとマサノリはミファを切り捨てた冒険者だった。
 ミファにとっては、切り捨てられて良かったと思う。

「なるほどね。この嬢ちゃん、ミファに部屋を貸して欲しいと」

 このオヤジはこの安宿だけでなく、いくつか物件を所有する不動産オーナーでもある。
 俺の住んでる部屋もこのオヤジが大家だってりするのだ。
 ミファの住む場所も何とかしてくれると思ったのだが。

「お、お願いします……」

「一緒に住めば良いじゃないか。正直、俺はジンの事が心配だったからな。ずっと一人で冒険者やっててよ。友達も、恋人も、仲間すらいないってのはさすがになあ」

 肱を突き、手に顎を乗せ、意味深に笑うオヤジ。
 もしかして、俺とミファをそういう風に見てるのか?
 やれやれだ。

「はいはい」

 こういう時はこうして軽く流すのが一番だ。
 俺が適当に返事したせいか、今度はミファに話し掛ける。

「嬢ちゃんが仲間になってくれて、オジサンも一安心だよ」

 涙なんて流してもないのに、泣いた振りなんてする宿のオヤジ。
 ミファは何だかうるうるしてるようだ。

「ジ、ジンさん、私の事気づかってくれてるんだと、お、思います。優しい人ですから」

「確かに、なんだかんだ悪い事はできんタイプだな」

「ですよね」

 ふふっとミファが笑う。
 さらさらの黒髪が優しく揺れた。

「うーん、ジン、お前も引っ越すか?」

「何だよ、急に」

「四人用の部屋が空いててな。せっかくチーム組んだんだから、別々に住むのも不便だろ」

「同じアパートとかで部屋だけ別なら良いけど」

「遠征で野宿とか今後あるかもだろ。お互いに遠慮していつも別々にって訳にはいかないんだから。少しでも慣れるために同じ部屋を使いな」

「まあ、ミファが良いなら」

 ちらりとミファを見る。

「わ、私は全然、へ、平気、ですから」

「ジン、これで決まりだな」

 ふう。
 仕方ない。
 ミファが良いなら断る理由もない。

「ただし、家賃は負けてくれよ」

「ああ。金がないのは十分知ってるからな」
 
 という事で引っ越しをしたのだが……。

ーーーーーーーー

「ところで、私の歌の効果って何か分かりましたか?」

「正直、よく分からない」

 俺たちは少ない荷物を整理していた時、ミファから話掛けてきた。

「そうですか……」

「でも、仲間になってくれて良かったと思ってるよ。転生者のミファが仲間になったから、今までより良い仕事をもらえるからね」

 今までFランクで無転生の俺だと受けられない仕事ばかりだったので、かなり有難い。
 討伐関係の仕事もチームを組めた事で受けられるようになるし。

「そういえば、あの二人とは知り合いだってんだな」

「ムサシさんとマサノリさんですか」

「ああ」

「二人共、戦士系だったので、補助系の職業の仲間を探してたんです。それで私に声が掛かったんです。歌でモンスターを眠らせたりできたら助かるだろうって」

 確かに、敵を眠らせて安全に攻撃できれば楽だろう。直接攻撃しかできないのなら尚更。

「でも、私のはただ歌ってるだけだったので……」

「そうか、それですぐに追放されたと」

「はい……」

「大丈夫だ。Fランクの俺は、仕事を受けるためにもミファと別れるわけにはいかないからな」

「あ、足手まといにならないように頑張りますね」

「きっとミファの歌にも何らかの効果があるはず。数値に出ないだけで意味はあるはずだから」

「あ、ありがとうございます」

「そろそろ飯でも食べに行こうか」

 俺たちが外に出ると街が騒がしい。
 どうしたんだと思っていると、警備兵が慌てて走ってくる。

「どうしたんだ?」

「あんた、ギルドの冒険者かい?」

「ああ」

「ドラゴンだ。ドラゴンが出た。俺は今からギルドに報告に行くんだ。あんたら戦えるなら、西の方でドラゴン討伐部隊の軍がいるから合流してくれ」

 やっと仲間ができて一息つこうって時にドラゴンとは。
 Fランク冒険者でも休めない時は休めないらしい……。

********

一章:無転生冒険者、初めての仲間を得る

これにて閉幕。

次はドラゴンが相手。
ジンとミファはどうするのか!?

まて次回!
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