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四章:王都攻防戦

52 マルチナの真の実力

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「何だこいつ……」

 空に浮かぶスカイドラゴンには無数の傷が付いていた。

「俺はドラゴンライダーだぞ。冒険者職の中でもエリート。超上級職なんだぞ。転生者とは言え、魔物を手懐けて召還するだけの能力しかない小娘が俺と対等に戦えるはずは……」

 マルチナの方を見ると、レッドが主を守るように側に付いていた。

 相手のスカイドラゴンと大きく違うのは、レッドの体にはほとんど傷がない事。

 なるほど、相手が焦ってるわけだ。自分のドラゴンだけが傷付いているのだから。しかも、相手のマルチナのドラゴンが劣等種のレッサードラゴン。平常心は保てないか。

「魔物との付き合い方も知らないくせに……」

 マルチナの表情からは怒りの感情が滲み出ていた。

「おい! お前ら! 離れろよ!」

「リーダー!? まさかアレっすか!?」

「おうよ!」

 アレ?

 何かヤバい技でも出すのか?

 スカイドラゴンの咆哮、急降下。
 軽々とレッドを持ち上げると今度は上昇する。

 空中でポイッとレッドを離す。

 レッサードラゴンに飛行能力はない。

「レッド!」

 数十メートルから落とされたら、いくら頑丈なドラゴンの体でも無傷とはいかないだろう。

「な!?」

 俺は相手の次の行動を見て叫んでしまう。

「ドラゴンから飛び降りただと!?」

 ヤツは乗っていたスカイドラゴンから飛んだ。
 そしてレッドの上から襲い掛かる。

 空中で踠くレッドは敵の動きに気付いていない。

「うおおおおお!」

 ヤツは叫び声を上げ剣の切先をレッドに向ける。

 地面に叩きつけられる衝撃。

 そこにヤツの全体重+鎧の重量×落下によるスピードの一撃が刺さる。

 その貫通力は想像を越える。

 貫通力だけではない。その衝撃で地面が抉れてしまっていた。
 さらに小石や砂が細かい弾丸の如く周囲に撒き散らされる。

 強力な一撃は頑丈なドラゴンの鱗も皮膚も易々と貫く。剣は深々とレッドの首に突き刺さっていた。

「きゃあ!」

 マルチナの悲鳴。

 慌ててレッドに駆け寄る。

「手こずらせやがって……」

 レッドを見下ろすリーダーの男。

 自分にも相当な反動ダメージがあるのだろう。よろよろと立ち上がり、肩で息をしている。

「これで決着だな。小娘。あんた一人じゃ戦えないだろ。俺に切られる前に降参しな」

「…………」

 レッドの側でうずくまるマルチナは何も反応しなかった。

「降参しないなら可哀想だが切り捨てるぞ」

「…………」

「聞いてるのか!?」

 苛立った声で男は怒鳴り散らす。

「……あ?」

「こいつはもうダメだ。さっさと見捨てて降参しろ」

「何つった、テメエ?」

 マルチナの表情が消えていた。

「小娘一人で何が出きる?」

 男は切先をマルチナの喉元に突き付ける。

「死にたいか」

「死にたい? それは私のセリフだわ」

 マルチナが自分に向けられてた刃を握る。手からは血が滴る。
 彼女の血はレッドの体に落ちる。レッドの傷口をなぞり地面に流れた。

「何のまねだ?」

「テイムした魔物は私にとって家族。傷付け、侮辱した者がただで済むとは思わないで」

「くくく。魔物を扱えるだけの女に何ができる?」

「『譲渡契約』私の特殊能力」

 剣を掴むマルチナの右腕がドラゴンの鱗のような物に覆われていく。

「何だそれは……?」

「レッドの力の一部を私に移しただけ。ドラゴンの頑丈な鱗。そして、レッサードラゴンはアンタのスカイドラゴンと違って熱ブレスを扱える……」

「な……」

「燃え尽きろ」

 剣は熔け、鎧が赤く焼け、リーダーのドラゴンライダーは立ったまま全身を焼かれた。

 周りいたギャラリーたちが一斉に我先と逃げ出す。

「…………マルチナ」

 俺とミファは離れた場所からマルチナを見守る事しかできなかった。
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