シグマの日常

Glace on!!!

文字の大きさ
30 / 38

miSunderstAndical thiNKing2

しおりを挟む
 肉じゃがを口に入れ、次いで白飯を頬張る。その、体が喜びを感じる行為を無心で繰り返しながら、脇に避けておいた思考を正面に持ってきた。

 部長と七緒水月。俺は部長の面しか知らなかった。でも、ほとんどの人が知っているのは三日月の方だった。なら俺が見た部長は……、昨日、第二会議室で話した部長は……、なんなのか。翻って、DIDでないと仮定した場合、性格が変わったのではなく、変えた、と考えられる。故意にしろ、やむなくにしろ。

 そもそも、いつから部長がああいう人物だと思い込んでいたのだろう。部長に出会ったのは、三階の廊下で殴られた時だ。でも、その時は顔を見ることもできず、気絶させられた。完全に対面したのは第二会議室で、だ。そこで会った部長は眼鏡をかけていて、ふざけたことは言わなかったものの、俺の知っている部長と先程とは変わらなかった。そこから言えることは、部長は俺を騙すために髪型を変え、眼鏡を掛け、性格も変えたということだ。課業中は七緒の容姿・性格で、俺といる時だけ別人装っていたということ。なぜそんなことをしたのか。七緒だと知られたくなかったからか? なら、どうして七緒だと知られたくなかったのだろう。

「禎生、あんた部活決まったの?」

 唐突に、カウンターキッチンの内側から声を掛けられた。そのせいで少し驚いてしまい、図らずも咀嚼の甘い肉じゃがと白飯を嚥下してしまった。掛けられた言葉は数秒待ちぼうけとなり、茶を飲んで喉を潤す間宙ぶらりんとなった。

「一応」
 と言うと、ストレートパーマをかけたロングの髪を揺らしながら顔を上げ、視線をこちらに向ける。

「へえ、何部?」

 シャツにジーパンというラフな出で立ちにエプロンをかけた我が母だが、夕方までパートだったので見事に化けている。その、遠目に見ると美人に見えなくもない、という顔で、どこの部に入ったかと訊いてきた。

「談話部」
 答えてから肉じゃがと白飯のコラボを再開する。

「談話部? なんか楽そうな名前ね。お菓子食べながらだべったりしそう。こたつに入って」

 シンクの中でカチャカチャ言わせながらそんなことを言う。ほんのり苦い人参を味わいながらほんのり苦い嫌悪感を覚えて思った。この親にしてこの子ありか、と。……他人事じゃねえ。

「大体そんなイメージ」
 と、嚥下してから言った。こたつには入ってないが。

「カワイイ子いる?」

 急ににやけ笑いを作って訊いてくる。何がそんなに楽しいのかわからないが、ったくこれだからこの母親は、と思わざるをえない。

 牛肉を噛みしめながらなんとなく答えた。
「かわいいっちゃかわいいけど、美人って言ったほうが合ってるかも。……てか俺とその子の二人しか部員いないし。……てか今日わかったけど部活なかったし」
 すると、描いた眉を寄せ、

「部活がない? どういうことよそれ。ない部活に入ってたってこと?」

 食器乾燥機の中に食器を立てかけながら疑問符を連続で浮かべる。

「そういうこと」
 自分でも改めて確認した。存在しない部に入っていたことを。存在しない部に入っていたって言葉も今、考えると矛盾しているわけだが。

「あんた気をつけなさいよー。今は学生で、騙されても大した騒ぎにはならないかもしれないけど、大人になって騙されたらタダじゃすまないことも多いんだからー」

 食器を洗い流すのをやめて、腰に手を当てて忠告してくる。ああ、出た。お得意のお小言が。箸の上げ下ろしにも一々苦言を呈されるのは、ちょっとうんざりする。折に触れて注意される身にもなってほしいとは思うが、自分が将来、子供を持った時、同じように思われることを考えると、親って大変だな、くらいの感想は出てくるものだ。

「へいへい。甘い言葉に騙されないよう、よーく気をつけますよ」
 と面倒臭さを前面に出して言うと、

「はいは一回」

 真顔。

「はい」

 最後の牛肉を口に入れ、白飯の残りをかきこんだ。噛み熟して、嚥下し、ほうじ茶で喉を潤すと、
「ごちそうさま」
 手を合わせて挨拶。そして椅子から立ち上がると、

「今日部活だったの?」

 食器洗いを済ませて手を拭きながら訊いてきた。

「そう」
 高校に入って初めての部活動だったわけだが、それは部活動だと思い込んでいただけで、ただの放課後遊びだったのだろうか。俺は部活動だと思い込んでいたが、部長はどう考えていたのだろう。と思考の淵へ落ちかけていると、

「楽しかった?」

 どこか期待するように、そんなことを。

「うーん……」と、唸りながら頭を捻り、「まあ、楽しかったかな……うん」と、色々思い出しながら答えた。

 すると、にぱっと花を咲かせ、

「そっか。じゃあ良かったじゃない。部がなかったのは残念だったけどね」

 ポジティブシンキングを、手に無理やり握らせる。

 言葉に詰まり、されど間を置いて「うん」、と答え、握らされたそれをポケットに入れてすっと背を向けた。
「風呂入ってくるわ」

 溜飲を下げる。

 白旗である。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...