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第4話 ほろ苦いはじまり
第4話 ほろ苦いはじまり
しおりを挟む数日間、船に揺られた、ある日の朝、テディは、旅人に呼びかけられ、目を覚ましました。
旅人に、言われるがまま、船の先に行ってみると、海の向こうに薄っすらと島が見え始めました。
“あれが、ぼくが今日から住む、島なのか…”
テディは、これからはじまる新しい生活に、不安と期待で、自分でも胸が高鳴っているのが分かりました。
旅人の話によると、以前、この島に訪れた時には、キャミーとベリーというテディベアの旅くま(旅をしているくまだから、旅人は旅くまと呼びました。)がいて、の島の住人は、この旅くまキャミーとベリーを快く受け入れていたというのです。
テディは、この話を聞いて、この島で、おもちゃを売って、そのお金で、マカロンベアたちに飲ませるミルクとテディの大好きなパンやはちみつ、それにココアを買おうと決めたのです。
そして旅人は、もう一つつ重要なことをテディに教えてくれました。
テディが持って来たおもちゃを全て売ったとしても、これからずっとテディとマカロンベアたちが、食べていけるほどの食料を買うことができるほどのお金は手に入らないということ。
これからも、ずっと、食べ物を食べていくためには、テディは、その島で仕事を見つけて、お金を稼ぎ続けなければいけないというのです。
なんということでしょう。これまで、おじいさんに身の回りの世話をしてもらって、着飾った服で、毎日ショウウィンドウに立ち、ポーズを決めていれば、皆から「可愛い!」「素敵!」と言われてきたテディにとって、仕事を見つけて自分でお金を稼がなければいけないということが、どれほど大変なことなのか、テディには想像もつかないくらいに、大変なことなのでした。
いよいよ、船は島に到着し、テディは、新たな一歩を踏み出しました。
潮風はテディの背を押すでもなく、向かい風を吹かせるわけでもなく、ただただ、なびいていました。
「ぼくが、おじいさんの代わりにマカロンベアたちのお世話をするんだ。」
"この“おじいさんの代わりに”という部分が、なんだか大人になった気がして、テディは、得意気に鼻をならしました。
テディは、おじいさんの代わりに、マカロンベアたちのお世話をすることが、どれほど大変なのか分からいほどにまだまだ幼いテディベアなのです。
島に着くと旅人は、「この島に会いに行かなきゃならない人がいるんだ。
しばらくは、この島にいるから何かあったら、この笛を吹きな。」
そう言って、使い古した小さな笛をテディに手渡しました。
そして、旅人はそのまま島にある小さな森へと入っていきました。
テディは、旅人を見送ると、「ようし!」
そう言って、小さなポッケに笛をしまい込むと、働き口を探しはじめました。
テディがはじめに訪れたのは、パン屋さん。パン屋さんといえば、優しいくまのおじさんとおばさんが毎日焼き立てほかほかのおいしいパンを焼いているもの。
だって、おじいさんが、いつもテディが寝る前に読み聞かせてくれる絵本に出てくるパン屋さんのくまのおじさんとおばさんは、とっても優しいから。
テディは「あの優しいパン屋さんのくまおじさん、くまおばさんと一緒に働いて、毎日おいしいパンを食べるんだ! 僕の顔にそっくりのパンなんか焼いたら、きっと大人気になるぞ!
ついでに、はちみつたっぷりのココアもつくってもらおう!」そう、ワクワクしながらパン屋さんの扉を開けました。
けれど中から出て来たのは、強面の体格のいい人間のおじさんでした。
「あれ? ここパン屋さんですよね?」「そうだ。テディベアが何のようだい。」
体格のいいおじさんは、不愛想にテディに返事をしました。
「いえ。簡単な話です。ぼく、今日からここで働きますので、よろしくお願いします。
さっそくですが、そちらのショウウィンドウに飾ってあるパンをどけてもらえますか? 今日からぼくが、あそこに立つことになりました。」
「一体、何を言っているんだ、こいつは! パンを買わないなら出て行ってくれ!」
そう言って、テディのえり首をつまむと、ひょいと外に放り投げました。
“おかしいな? 何だかぼくが思っていたのと違う…”
テディは、首をかしげましたが、すぐに気を取り直して、次はソーセージ屋さん、次はケーキ屋さんと、テディの好物が置いてあるお店を次々と回りましたが、どこも同じようなもの。
みんなテディのことを「必要ない。」と、邪魔くさそうに追い払うのでした。
最後にテディが、たどり着いたのは、ほこりの積もった窓ガラスがよく目立つ、喫茶店でした。
「気が進まないけど…」
テディは、そうぶつくさ言いながら、喫茶店の中へ入っていきました。
喫茶店の中に入ると中には何人かのお客さんがいました。
そして、テディの身体中を、いや~な臭いが包み込みました。
-苦い香り-
テディは、フンフンと鼻から匂いを追い出すように鼻を鳴らしました。
“どこかで、嗅いだことのある匂い…”
テディは、鼻をくしゅくしゅと擦りながら、匂いの記憶をたどりました。
「どこかで嗅いだことのあるような… 」テディが思い出しそうになったその時、喫茶店の奥から、疲れた顔をしたおじさんが出てきました。
そして、おじさんの片手にはトレーと、その上にはマグカップ。
苦い匂いは、マグカップから漂って来ていました。
テディは、マグカップを見て思い出しました。
それは、テディが、ひら仮名を覚え始めた頃よりずっと幼かった頃、おじいさんのおやすみのキスの後も、眠れなくて、ベッドの中から抜け出して、まだ灯りが灯っている、おじいさんのおもちゃ工房に、もぐりこんだ時のことでした。
おもちゃづくりに夢中になっている、おじいさんの横にマグカップが置いてありました。
テディがココアでも入っているのではないかと思い、マグカップの中をのぞいてみると、そこにはココアではなく、ココアよりもっと茶色い、テディと同じようなこげ茶色をした水が入っていました。
テディは、おじさんに気付かれないように、そっと指先をそのこげ茶色の水につけ、 それを“ペロリ”と舌先で舐めました。
するとテディの口いっぱいに、焦げ臭い臭いが広がりました。
「ああああ…」
テディは、可愛らしいテディベアには、到底ふさわしくない、悲鳴ともとれるような、うなり声をあげました。
(後ほど、テディは、この焦げ臭い味を〝苦い〟と表現できることを教わりました。)
当然、おもちゃづくりに夢中になっていた、おじいさんも、その声でテディが、いることに気付きました。
しかめっ面をしてマグカップを持つテディを見て、おじいさんは、テディがした、粗相を悟りました。
おじいさんに甘いココアを飲ませてもらって落ち着いたテディは、この時、このこげ茶色をした水は“コーヒー”という飲み物だということを知ります。
それと同時にテディは「この悪しきコーヒーという飲み物には、今後一切近かない。」と心に固く誓うのでした。
それがどうでしょう。今、テディの目の前にあるのは、あのコーヒーではありませんか!
動揺するテディの心を知らず、疲れた顔をしたおじさん(これからは、このおじさんをマスターと呼ぶことにしましょう。)は、「何しに来たんだい。」と、コーヒー片手にテディに近づいてきました。
テディは、ひと時もコーヒーから目を離さず答えました。
「ぼく、弟や妹のマカロンベアたちのミルク代を稼がなければいけないんです。
それからぼくの大好きなパンとはちみつとソーセージ代!
もちろんココア代も忘れちゃあいけない。
それで、この島で働かせてもらえるお店がないか探しているんです。
どこか、ぼくに合った素敵なお店は知りませんか?」
「それなら、お前さん、この店で働けばいいじゃないか!」
#喫茶店__きっさてん_#のお客さんの1人が、言いました。
「冗談はよしてください。ぼく、コーヒーが置いてあるお店では、何があっても働きたくないんです。」
「勘弁してくれよ! こんなチビ猫に何ができると言うんだ。」
テディと、マスターは同時に答えました。
そして、テディとマスターは、お互いがお互いの言葉に、ムッとし、2人は一度目を合わせたかと思うと、フンと目を反らしました。
「しかしマスター、近頃あんたは、足腰が痛くて誰かに仕事を任せたいと言っていたじゃないか。
あんたの足腰のせいで、注文したコーヒーが運ばれてくる頃には、すっかり冷めてマズくなってしまってるじゃないか。
まぁ、もっとも、でき立てでも、ここのコーヒーはマズいと評判だがな。それにチビ猫くん…」
「ぼくは、テディベアです! 猫ではありません!」テディは、もう一度プイっと顔を背けました。
「いやぁ。悪い悪い。」
お客さんはテディに謝ると、テディとマスターの顔を交互に見てから話を続けました。
「お前さんたち、1人でやっていけるのかい?」
テディもマスターも、不機嫌に黙り込みました。
こうしてテディは、晴れて働き口を見つけることが出来たのでした。
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