20 / 29
第三章:シリアスはぶち壊していく
第20話:父と再会
しおりを挟む
シャルルの実家は王都の王城近くにある。国お抱えの暗殺者一族であり、公爵の位を持つために王族の傍にいることを許されているのだ。
この国の王都は広い。それ故に城下町など区分けがされているわけだが、王都から外れた場所にあるユリウスの屋敷からだと遠かった。
馬車を使って屋敷に到着する頃には十六時を過ぎてしまっている。呼び出すならもう少し早くしてくれなどとシャルルは心中で愚痴るも、アレックスに促されて渋々と屋敷へ入った。
久方ぶりの実家は特段、何か変わった様子もない。シックな内装にシャンデリアは煌々と室内を照らしている。
程よく飾られた調度品は下品ではなく、品があって相変わらず父らしいとシャルルは眺めていれば、「ようこそお越しくださいました」と少し低めの声が耳に入った。
視線を向ければ上品に仕立てられたスーツ姿の父が歩いてくるのが見える。うげっと顔を思わず顰めれば、アームレットにじろりと一瞥されてしまう。
「わたしがシャルルの父、アームレットと申します。この度は挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません、豊穣龍様」
「いや、気にしていない。こちらこそ、ご両親に挨拶をするという考えに至らなかったことを詫びさせてほしい」
エドゥアールヴァレットが申し訳なかったと謝罪の言葉を口にすれば、アームレットは驚いたように目を開いてから、「豊穣龍様は悪くありませんので」と慌てて返す。
神であるエドゥアールヴァレットが謝るとは思っていなかったようだ。父がどういった印象を抱いていたかは知らないが、想像とはちがっていたのだろうことはその反応で分かる。
シャルルは調子が崩れたなと父の様子に察した。彼は何かしら思惑があるとシャルルは勘づている。
(さて、父はどうするのか)
シャルルはアームレットを警戒しながらも、表に出すことなく飄々としてみせる。「父上は気にしすぎなんだよ」と軽い口調で話しかけることで。
「気にしない人間はいないだろう、シャルル。この方は神であるのだから」
「それはそうかもしれないけどさ。エドゥの態度を見れば、変に気を使わなくてもいいって分かるだろ?」
ほらとシャルルはエドゥアールヴァレットと腕を組みながら指さす。彼は至って落ち着いており、気分を害してはいなかった。むしろ、挨拶をするのが遅れたことを申し訳ないと思っている。
この神は嘘が嫌いだ。それはこの国で暮らす人間の殆どが知っていると言ってもいいぐらいには有名だった。
嘘が嫌いなのだから、本心以外を口に出すことはしないと思うのは必然で、アームレットは納得したように頷く。
「わたしの息子を伴侶として番に迎え入れてくれたこと、感謝いたしております。まさか、選ばれるとは思っていなかったので、暫く信じられなかったほどです」
「そういった反応になるのは仕方ないことだ。今までの贄の最後を考えれば、想像できることではなかっただろう。ただ、私がシャルルを番にしたいと思った感情に嘘はないので安心してほしい」
彼の弱さの中にある強さに惹かれたのは事実だ。他の人間とは違った感情というのは面白く、輝いて見える。エドゥアールヴァレットは「大切にしている」と、危害を加えていないことを伝えた。
彼なりに安心させるための言葉だったのだが、アームレットが一瞬だけ顔を顰める。それにシャルルが気づかないわけもない。注意深く観察していたのだから。
(あぁ,これはあれだな。俺をまだどうにかしたいと思ってるんだ)
父は仕来りを重んじていた。暗殺者として認められる時も厳しい試験を課せられたし、掟を守らされてきたのだ。そういったものを忠実に守っているならば、本来は始末されていてもおかしくはない立場にシャルルはいる。
アームレットは諦めていないのではないか。そう推理することがたった一瞬の反応でできてしまった。なんと、面倒なことだとシャルルは呆れてしまう。
(プライドやら仕来りやら、そんなものに拘るなっつーの)
こういった性格が父の嫌いなところだった。シャルルはできれば、変な事はしないでくれよとじとりと見つめる。
視線に気づいているだろうアームレットは無視をしているようで、なんでもないといったふうにエドゥアールヴァレットと会話をしていた。
機会を窺っているのを察してシャルルはこの分からずやと口に出そうになる言葉を堪える。
せっかく死に戻ってやり直しているのだ。また、くそみたいな結末を迎えるのが御免だ。どこぞの女神様からの見物料を無駄にはしたくはない。
だから、シャルルは「挨拶は終わったんじゃないの?」と、話を切り上げさせようと会話に入った。
「時間も時間なんだし、挨拶が終わったならさっさと帰りたいんだけど?」
「お前は相変わらず、こういったものが嫌いだな。挨拶だけで済ますほうが失礼だろう」
「父上は話が長いんだよ」
「息子の事なのだから話が長くなるのは当然だろう。あぁ、そうだ。豊穣龍様とだけ話したい事がある。お前はアレックスとミサエルに黙って贄になったことを謝ってくるといい」
ミサエルはかなり心配していたんだからな。アームレットにそう言われて、シャルルはまずいなと思った。エドゥアールヴァレットと二人っきりの時に何か言うつもりなのだ。
此処は抵抗したほうがいい。シャルルが言い返そうとすれば、エドゥアールヴァレットに「兄弟を安心させてくるといい」と、気遣われてしまった。
「私は問題ない。シャルルが兄弟を安心させてあげるといい」
「いや、でも……」
「豊穣龍様の厚意を無駄にするのは如何なものか。シャルル」
伴侶ならば顔を立てるべきではないか。そんな言葉を含む言い方にシャルルは眉を寄せながらも、エドゥアールヴァレットに大丈夫だと言われてしまい。
「分かったよ。でも早めに戻ってきてほしいかな」
「疲れているのだろうか。それならば、早めに切り上げよう」
疲れていると言えば、心労的にはその通りだ。父が何を言い出すのか、ひやひやしている。もし、暗殺者一族という秘密を明かそうとしているなら余計に。
不安を抱きつつも、シャルルはエドゥアールヴァレットに言われるがままに部屋を出た。ちらりと見えた父の眼がすっと細まっていたのを睨みつけながら。
この国の王都は広い。それ故に城下町など区分けがされているわけだが、王都から外れた場所にあるユリウスの屋敷からだと遠かった。
馬車を使って屋敷に到着する頃には十六時を過ぎてしまっている。呼び出すならもう少し早くしてくれなどとシャルルは心中で愚痴るも、アレックスに促されて渋々と屋敷へ入った。
久方ぶりの実家は特段、何か変わった様子もない。シックな内装にシャンデリアは煌々と室内を照らしている。
程よく飾られた調度品は下品ではなく、品があって相変わらず父らしいとシャルルは眺めていれば、「ようこそお越しくださいました」と少し低めの声が耳に入った。
視線を向ければ上品に仕立てられたスーツ姿の父が歩いてくるのが見える。うげっと顔を思わず顰めれば、アームレットにじろりと一瞥されてしまう。
「わたしがシャルルの父、アームレットと申します。この度は挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません、豊穣龍様」
「いや、気にしていない。こちらこそ、ご両親に挨拶をするという考えに至らなかったことを詫びさせてほしい」
エドゥアールヴァレットが申し訳なかったと謝罪の言葉を口にすれば、アームレットは驚いたように目を開いてから、「豊穣龍様は悪くありませんので」と慌てて返す。
神であるエドゥアールヴァレットが謝るとは思っていなかったようだ。父がどういった印象を抱いていたかは知らないが、想像とはちがっていたのだろうことはその反応で分かる。
シャルルは調子が崩れたなと父の様子に察した。彼は何かしら思惑があるとシャルルは勘づている。
(さて、父はどうするのか)
シャルルはアームレットを警戒しながらも、表に出すことなく飄々としてみせる。「父上は気にしすぎなんだよ」と軽い口調で話しかけることで。
「気にしない人間はいないだろう、シャルル。この方は神であるのだから」
「それはそうかもしれないけどさ。エドゥの態度を見れば、変に気を使わなくてもいいって分かるだろ?」
ほらとシャルルはエドゥアールヴァレットと腕を組みながら指さす。彼は至って落ち着いており、気分を害してはいなかった。むしろ、挨拶をするのが遅れたことを申し訳ないと思っている。
この神は嘘が嫌いだ。それはこの国で暮らす人間の殆どが知っていると言ってもいいぐらいには有名だった。
嘘が嫌いなのだから、本心以外を口に出すことはしないと思うのは必然で、アームレットは納得したように頷く。
「わたしの息子を伴侶として番に迎え入れてくれたこと、感謝いたしております。まさか、選ばれるとは思っていなかったので、暫く信じられなかったほどです」
「そういった反応になるのは仕方ないことだ。今までの贄の最後を考えれば、想像できることではなかっただろう。ただ、私がシャルルを番にしたいと思った感情に嘘はないので安心してほしい」
彼の弱さの中にある強さに惹かれたのは事実だ。他の人間とは違った感情というのは面白く、輝いて見える。エドゥアールヴァレットは「大切にしている」と、危害を加えていないことを伝えた。
彼なりに安心させるための言葉だったのだが、アームレットが一瞬だけ顔を顰める。それにシャルルが気づかないわけもない。注意深く観察していたのだから。
(あぁ,これはあれだな。俺をまだどうにかしたいと思ってるんだ)
父は仕来りを重んじていた。暗殺者として認められる時も厳しい試験を課せられたし、掟を守らされてきたのだ。そういったものを忠実に守っているならば、本来は始末されていてもおかしくはない立場にシャルルはいる。
アームレットは諦めていないのではないか。そう推理することがたった一瞬の反応でできてしまった。なんと、面倒なことだとシャルルは呆れてしまう。
(プライドやら仕来りやら、そんなものに拘るなっつーの)
こういった性格が父の嫌いなところだった。シャルルはできれば、変な事はしないでくれよとじとりと見つめる。
視線に気づいているだろうアームレットは無視をしているようで、なんでもないといったふうにエドゥアールヴァレットと会話をしていた。
機会を窺っているのを察してシャルルはこの分からずやと口に出そうになる言葉を堪える。
せっかく死に戻ってやり直しているのだ。また、くそみたいな結末を迎えるのが御免だ。どこぞの女神様からの見物料を無駄にはしたくはない。
だから、シャルルは「挨拶は終わったんじゃないの?」と、話を切り上げさせようと会話に入った。
「時間も時間なんだし、挨拶が終わったならさっさと帰りたいんだけど?」
「お前は相変わらず、こういったものが嫌いだな。挨拶だけで済ますほうが失礼だろう」
「父上は話が長いんだよ」
「息子の事なのだから話が長くなるのは当然だろう。あぁ、そうだ。豊穣龍様とだけ話したい事がある。お前はアレックスとミサエルに黙って贄になったことを謝ってくるといい」
ミサエルはかなり心配していたんだからな。アームレットにそう言われて、シャルルはまずいなと思った。エドゥアールヴァレットと二人っきりの時に何か言うつもりなのだ。
此処は抵抗したほうがいい。シャルルが言い返そうとすれば、エドゥアールヴァレットに「兄弟を安心させてくるといい」と、気遣われてしまった。
「私は問題ない。シャルルが兄弟を安心させてあげるといい」
「いや、でも……」
「豊穣龍様の厚意を無駄にするのは如何なものか。シャルル」
伴侶ならば顔を立てるべきではないか。そんな言葉を含む言い方にシャルルは眉を寄せながらも、エドゥアールヴァレットに大丈夫だと言われてしまい。
「分かったよ。でも早めに戻ってきてほしいかな」
「疲れているのだろうか。それならば、早めに切り上げよう」
疲れていると言えば、心労的にはその通りだ。父が何を言い出すのか、ひやひやしている。もし、暗殺者一族という秘密を明かそうとしているなら余計に。
不安を抱きつつも、シャルルはエドゥアールヴァレットに言われるがままに部屋を出た。ちらりと見えた父の眼がすっと細まっていたのを睨みつけながら。
48
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
妹の代わりにシロクマ獣人と真っ白婚!?
虎ノ威きよひ
BL
結婚相手が想像以上にシロクマでした!!
小国の王子ルカは、妹の代わりに政略結婚することになってしまった。
結婚の相手は、軍事大国の皇子のクマ獣人!
どんな相手だろうと必ず良い関係を築き、諸外国に狙われやすい祖国を守ってもらう。
強い決意を胸に国を渡ったルカだったが、城の前にデンッと居たのは巨大なシロクマだった。
シロクマ獣人とは聞いていたが、初対面で獣化してるなんてことがあるのか!
さすがに怯んでしまったルカに対してシロクマは紳士的な態度で、
「結婚相手のグンナルだ」
と名乗る。
人の姿でいることが少ないグンナルに混乱するルカだったが、どうやらグンナルにも事情があるようで……。
諸事情で頻繁にシロクマになってしまう寡黙な美形攻め×天真爛漫でとにかく明るい受け
2人がドタバタしながら、白い結婚から抜け出す物語
※人の姿になったりシロクマ姿になったりする、変身タイプの獣人です。
※Rシーンの攻めは人間です。
※挿入無し→⭐︎ 挿入有り→★
※初日4話更新、以降は2話更新
弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる