武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし

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第二話 上陸作戦中止

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■揚陸指揮艦
 マウント・マッキンリー

「戦艦だと?いったい海軍は何をやってるんだ、まったく……仕方ない、上陸作戦は一旦中止だ」

 わずか数分の砲撃でゴールドビーチ上陸部隊の半数を無力化されたブルース少将は作戦の中止を決断した。

 さすがに今では彼もこの攻撃が機雷などではない事を理解している。

「展開した上陸部隊の収容には時間がかかります。それに海に投げ出された兵士も多数います」

「分かっている。すべて収容するまで我々もここに留まる。誰一人として見捨てるな」

 阿嘉島の海岸近くにはLVTから投げ出された多数の兵士が取り残されていた。撤退してくるLVTも居る。これらを回収するまでは上陸艦隊が撤退することはできない。

 ブルース少将の座乗する揚陸指揮艦の見た目は通常の輸送船と大差がない。

 しかし上陸艦隊の中心に居てなんの作業も行わず、巨大なアンテナを林立させ通信だけを頻繁に行っている輸送船の役割は、日本軍からみても非常にわかりやすいものだった。


■阿嘉島 中岳
 陸軍砲兵観測所

「敵上陸部隊が反転。撤退を開始した様です」

 観測員の言葉で掩体壕の中に歓声があがった。

「中尉、次の目標をお願いします」

 興奮しているのだろう。顔を紅潮させた海軍少尉が意気込んで陸軍中尉に尋ねた。

「防衛司令部の指示によれば、次は後方の輸送船だそうだ。優先目標は中央のあの船だ」

 そう言って中尉は上陸部隊の後方にる輸送船を指さした。

「輸送船……?巡洋艦ではないのですか?」



 若い海軍少尉にとっては、次の目標が軍艦ではなく輸送船であることが不満だったらしい。

 彼の声と顔には明らかな失望が現れていた。その分かりやすい態度に中尉は苦笑した。

 二日前に沖縄南部が艦砲射撃された際にも武蔵の発砲は認められなかったと聞いている。

 まったく海軍さんは敵艦を撃沈することに拘泥しすぎる。

「敵の上陸を防ぐなら第一目標は上陸部隊、それを運ぶ輸送船であるのは当然だろう」

「はい中尉」

 海軍少尉は頷いた。しかしまだ少し不満げな様子である。

 仕方なく中尉は説明を付け加える事にした。我ながら優しいものだと心の中で苦笑を深くする。

「特にあの中央の輸送船は何の作業もしていない。そのくせでかい通信塔を立てている。おそらくあの船がこの上陸作戦の司令部だ。あれを失えば敵は混乱し大きな痛手になるはずだ」

 戦いでは相手の司令部を狙うのが道理である。その常識が、どうやらこの海軍少尉には分からないらしい。

 本来なら怒鳴りつける所だが、海軍の協力が防衛の要であるから無下にするわけにもいかない。

「はい中尉。申し訳ありません。失礼いたしました」

 中尉の丁寧な説明で少尉はようやく自分の不明に気付いた。

 ここに来る前に上官から陸軍とは絶対に揉め事を起こすな、すべて従えと言い含められてもいる。少尉は素直に謝罪した。

「少尉殿、こちらが新しい緒元です」

 そして観測員に伝えられた観測緒元を再び戦艦武蔵34特根にむけて送信した。

 諸元を送っているのはこの観測所だけではない。この島に存在する他の複数の観測所も同様に緒元を送っている。

 それが武蔵に島越しの射撃と恐ろしい程の命中精度を与えていた。


■重巡サンフランシスコ

「なぜ撤退しない?これでは良い的だぞ。次に狙われるのは自分だと分からんのか?」

 陸軍はようやく敵が戦艦だと理解し上陸を中止した。

 それなのに一向に動こうとしない揚陸指揮艦を睨みつけ、ウェルチェル艦長が焦りを露わにした。

「何度も警告しましたが……向こうも収容作業が終わるまでは動けないとのことです。艦隊司令部からの指示も待機のままです」

 副長が申し訳なさそうに答える。その直後、通信室から届けられた紙をみて彼は少し表情を緩めた。

「良いニュースもあります。砲撃している戦艦が発見されました。すでにミッチャー中将第58任務部隊が攻撃部隊を送り出したそうです。これでじきに攻撃も止むことでしょう」

「間に合えば良いがな……」

 ウェルチェル艦長の見つめる先、彼の心配する輸送船団の中には既に水色の水柱が立っていた。


■揚陸指揮艦
 マウント・マッキンリー

 既に2隻の輸送船が擱座していた。そしてこのマウント・マッキンリーもついに水柱に囲まれる。

 揚陸指揮艦とは言え、その実は他の輸送船と同じ、ただのC2型リバティ船に過ぎない。

 薄い外板で覆われただけの船体は至近弾の爆発だけで大きく歪み浸水が始まっていた。隔壁がほとんど無い商船構造のため浸水が急速に広がっていく。

「少将!この船は危険です。退艦してください!」

「駄目だ!まだ部隊の収容が終わっていない」

 艦長と副官の要請をブルース少将は却下した。大体この状況でどう逃げろというのかと彼は思う。

「ではせめて艦の移動許可を。このままでは良い的になるだけです」

 それにはさすがにブルース少将も頷いた。だがその判断は遅すぎた。

 既に夾叉されていたマウント・マッキンリーは次の砲撃で完全に捕らえられた。

 一発がマウント・マッキンリーの中央で炸裂する。

 着発に信管設定された零式通常弾の爆発はマウント・マッキンリーは中央部を大きくえぐり取った。

 それは同時にブルース少将ら第77歩兵師団の司令部を粉々に砕き吹き飛ばした。


■重巡サンフランシスコ

「ああっ!クソ!」

 目の前で真っ二つになって沈んでいくマウント・マッキンリーを見つめウェルチェル艦長がこぶしを握り締める。

 彼の額は汗に滲み、極度の緊張で目を剥きだすように開いている。

「我々への命令はまだか?」

「まだ、です。この場に留まり陸軍の撤退を支援せよとのことです」

「支援?支援だと!?この状況で一体何を支援しろというんだ!ミネアポリスの方は?」

「司令部の命令に従うとのことです」

「クソ!!」

 海軍の面子として、陸軍を見捨てて撤退するわけにいかない。それはウェルチェル艦長にも理解できた。

 だが次の目標は間違いなく自分たちの艦なのだ。

 海軍の面子につき合わされて意味もなく戦死させられるのはたまらない。

「……とにかく命令がくるまで原位置を維持。旋回をつづける」

 ミネアポリスとサンフランシスコは、少しでも狙いを逸らすため海岸から少し遠ざかった所で旋回を続けていた。

 島に囲まれた狭い水域のうえ、混乱した輸送船が右往左往しているため速度も出せず不規則運動も出来ない。

 敵の砲術士官が多少なりともまともならば、こんな運動はなんの効果も無いだろう。

 ウェルチェル艦長は自嘲気味に笑う。そして彼の予感はすぐに的中した。

 前方のミネアポリスが水柱に囲まれた。

 さすがに重巡だけあって至近弾程度では目立つ損害はない。

 狙われたミネアポリスは慌てて変針しようとした。だが島と輸送船に遮られ大きく針路を変えられない。

 そこに次の砲弾が落下した。その一弾がミネアポリスの艦前部に命中した。

 その九一式徹甲弾は、わずか2インチしかない甲板装甲を貫き、その下の5インチの装甲も貫いて弾薬庫内で爆発した。

 瞬時にA砲塔の弾薬庫が、ついでB砲塔の弾薬庫も誘爆を起こす。ミネアポリスは一撃で艦の前半分を失った。

 艦尾を高くあげて急速に沈んでくミネアポリスを見て、ウェルチェル艦長は覚悟を決めた。

 自分はどうなってもいい。だがこんな馬鹿馬鹿しい戦いで部下達を死なせる訳にはいかない。

「取舵一杯。機関全速!」

「艦長、まだ撤退命令は出ていません!」

「構わん!責任はすべて俺がとる!」

 その後、サンフランシスコはなんとか砲撃を躱し退避することに成功した。

 だが単独で持ち場を離れたことで、ウェルチェル艦長は敵前逃亡の疑いで査問会議にかけられることとなる。

 なんとか不名誉除隊だけは避けられたものの、閑職に飛ばされ昇進も見送られたウェルチェルは終戦後すぐに退役した。

 その後、彼は縁があってワシントンのフットボールチームのヘッドコーチを務めた。

 戦績はあまり良くなかったが選手らに親しまれ、また重巡サンフランシスコの元乗員やその家族からは生涯にわたって感謝されたという。

 なぜ武蔵が沖縄に居るのか。なぜ陸軍と共同して沖縄防衛戦に関わっているのか。

 その原因を知るには、今からおよそ五ヵ月前、前年の10月にシブヤン海で行われた海戦にまで遡ることとなる。


【後書き】

史実でも重巡サンフランシスコのウェルチェル艦長は戦後すぐに退役してフットボールチームのヘッドコーチを努めています。

次話より時間を遡って、武蔵がレイテ沖海戦で生き残って沖縄に来るまでの経緯をお送りします。

作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想をお願いいたします。
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