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幼少期編
38.作法はお好きですか?
しおりを挟むカローナの言葉から1ヶ月後、リアンの本格的な作法勉強が始まった。
講師は、見た目50歳ぐらいのベテランで少しつり上がった目に眼鏡をしているので、さらに厳しく見える。彼女の名は、イルシェと言ってシミーレ侯爵夫人である。リアンの兄姉たちも彼女にしごかれたようだ。アシュトンはイルシェにリアンを預けると風のように仕事に戻っていった。アシュトンも幼い頃にイルシェに教え込まされていたと聞いている。だからなのかイルシェには頭が上がらないようだ。一応国王なんだから、胸を張って会えば良いのに…
『そんなに怖いのだろうか…』
冷や汗をかいて、いつもとは違い、リアンとのスキンシップもとらずに急いだ様子で仕事に戻るアシュトンを見て、まだ得体の知れぬイルシェに恐怖を抱いた。
「リアン様ですね?」
イルシェは笑みを浮かべているが、元々目付きが悪いことや、これからのことを想像して悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「は、はい!」
「今日から、よろしくお願い致しますね」
「よ、よろしくおねがいしましゅ!」
こうして、イルシェとの勉強と言う名の特訓が始まった。
「はい、背筋を伸ばしてっ、ここで礼!」
イルシェとの特訓は今のリアンに合わせて約30分位になっている。この特訓でイルシェから指示され、リアンはそれに合わせてキビキビと動いた。その行動を見て、イルシェは舌を巻いた。
「よく頑張ったわね。今日はここまでにしましょう」
「はい、ありがとうごさいました」
「まだ、数ヶ月しか経ってないのにすごいですね…」
「は、はは…」
実はリアンもとい旬のお母さんは茶道家で、いつも優しい母も作法にだけは人一倍厳しかった。だから、前世ではいつも姿勢が伸びており、礼も美しかった。知らない人と会うときも「礼儀正しいね」と褒められたことは数知れないのだ。そんなこともあり、現世のリアンも身体ではなく魂自体に作法が染み着いていたのか、すぐに感覚を思いだして基本はすぐにマスターし、日本とは違うこちらの世界の作法も形になり、大分出来るようになっていた。
この成長スピードにはイルシェも思わず才能を感じられずにはいられなかった。これまで教えてきた中で1番筋が良かったのはソフィーナだったのだが、そのソフィーナも今のリアンの姿に追いついたのは5歳ぐらいであった。これから大きくなり今よりも体の使い方が分かったら、きっと周りの人が惚れ惚れする姿を見せてくれるだろう。
今日も特訓を終え、日課となったイルシェとの反省会及びお茶会となった。
「3歳のパーティーまでは思ったより時間がありません。今のままでも素晴らしいですがもっと上を目指せるでしょう」
「はい、がんばりましゅ!」
カローナから期待されている以上、リアンはその期待に応えようと毎日コツコツ頑張っていた。
「リアン様は毎日逃げ出さず、練習に来てくださって私は嬉しく思います」
「えっ、しょれがふつうじゃないんでしゅか?」
「まだ2歳なのにお心構えが素晴らしいですね。少なくとも陛下よりは100倍、いやそれ以上かもしれませんね…」
『えぇ~!この世界ってどんなけ緩いの!』
リアンは驚いているが、普通2歳から作法の練習をする人なんていない。それに加えリアンは作法勉強の他に、魔法練習と木刀を持てるように努力している。逃げ出しても良いぐらいハードなのだ。しかし、精神年齢がもう20歳に達すること、そして体力の数値がチートなこともあり、自分自身ではあまりきつさを感じていないのだ。むしろ、とても充実した日々を送っていると考えている。なので、どちらかと言えばリアンの反応の方がおかしい。
「リアン様はちゃんと休憩なさっているのでしょうか?これだけ出来れば別に週4日じゃなく…」
「いえ、ぼくはだいじょうぶでしゅ!」
リアンは別にそこまで大変でもないし、カローナに期待されていることもあり、食い気味で否定した。逆に減ったら、アシュトンからの親バカな行動に付き合う羽目になってしまう。どちらかといえば、親バカに付き合いたくないという方が大半の理由のような…
「本当に大丈夫?」
「はい!」
「はぁ…。リアン様は生徒の鏡ですね。陛下の子どものときなんか、逃げてばかりで…」
「ははは…」
今も面影がしっかり残っており、仕事から逃げ回っている。この性格は子どものときからのようだ。
リアンがそんなことを考えていると、イルシェはアシュトンのことを思い出し、愚痴を吐き出した。
「本当に大変だったんです。陛下はとにかく隠れるのが得意で、見つけるのに一苦労したんです」
「はぁ」
「私も当時の陛下、アシュトン様のお父様ですか…に頼まれて緊張していました。しかし、アシュトン様はそんな私にもお構い無しに逃げ回りました。その光景を見て、少しイラッとしたんです。それで、いつの間にか怒ってしまって…」
「はぁ、すこしでしゅか…」
「無意識に怒ってしまって、不敬罪になってしまってもおかしくないぐらいだったのに、前陛下は笑って許してくださいました。「これからもそのくらい怒ってやれ、作法は厳しくやってもらわないと困る」と…」
「はぁ」
「それからというもの、アシュトン様に厳しく指導させて頂きました」
「そうだったんでしゅね」
『多分、イルシェ様が怒ったのはお父様の自業自得だよ…』
リアンはアシュトンがイルシェのことを必死で避ける理由が分かり、イルシェの仕事を全うしようとする姿に好感度が上がり、逆にアシュトンの好感度は下がった。
イルシェは顔は怖そうなものの、出来たらちゃんと褒めてくれる優しい講師だったのだ。
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