7 / 107
エイシオさんの怪我※アユム視点
しおりを挟む甲冑はどこかに置いてきたのか、三角巾をした左腕を下げたエイシオさんを見て俺は血の気が引いた。
「エッエイシオさんっ!! あぁ! け、怪我を……! だっ大丈夫ですかっ」
俺は狼狽してエイシオさんに、駆け寄った。
「ごめんよ。帰ってくるのが遅くなってしまって」
「そ、そんな事どうでも……怪我は、怪我は」
エイシオさんが怪我をした。
俺は自分でも驚くくらい動揺してしまって、馬鹿みたいに『大丈夫ですか』と繰り返して涙がボロボロ出てしまった。
泣いてどうするんだよ……。
だから無能扱いされてたんだよ……でも、どうしようどうしよう。
「アユム……ごめん大丈夫だよ」
「エイシオさん、大丈……」
ぎゅうっと包帯のない右手で、抱き寄せられた。
エイシオさんの顔が俺の首元に沈む。
「アユム……落ち着いて」
「は……はい、すみません」
首元に伝わえる温かいエイシオさんの体温。耳元で優しい声が響く。
じんわりと落ち着いてきた。
「ダンジョンで……少しミスをして左手を怪我したんだ」
「ま、魔物に……?」
「うん。先頭の僕が怪我をしたもんだから、後ろの……ほら今のパーティーは御高齢の方が多いだろう」
「はい……」
ぎゅうっと、また抱きしめられて、俺もエイシオさんの右の背中に腕を回して抱き締めてしまった。
「魔物は僕がすぐに切り落としたけど。それで、びっくりさせてしまってリーダーのブエシュッタさんがギックリ腰になってしまったんだよね」
「えぇ」
エイシオさんが一人メンバーになるだけで、老人チームも安泰だったんだろう。
それにしたってブエシュッタさん……びっくりでギックリって。
「それで治療院まで運んで、家まで送ってきたんだよ」
「エイシオさんが? 怪我をしてるのに……」
「僕のせいでもあるしね」
「そんな事……ないと思います。だってチームなんだし……」
うまく言えない。
「ごめんね、約束を破ってしまった」
「そんな事いいんです……エイシオさんの怪我が心配で……」
「ちょっと魔物に切られただけなんだけど……その時に呪いを受けてしまってね」
「の、呪い!?」
「心配しないで。呪いを消すことのできるヒーラーが今は留守にしていてね。呪いを消した後になら回復魔法ですぐに傷も治せるよ。ヒーラーが町に戻ってくるには四日後だから、それまでの辛抱だよ」
優しく一つ一つ丁寧に囁くように教えてくれた。
呪いを消す前に回復魔法で傷を治してしまうと、体内に呪いが残ってしまうんだとか。
「……痛くないですか?」
「大丈夫、痛み止めもあるからね。三角巾までして大袈裟に見えるけど、少し縫った程度さ」
「す、少しじゃないですよ。それに呪いの影響は……」
「大丈夫だよ」
「む、無理していませんか……?」
「……不便は不便だから……頼ってもいいかい?」
「もちろんです……! なんでもします……」
「……ありがとう……」
ぎゅうっとお互い抱き締めあった。
「あ……おかえりなさいエイシオさん」
「うん、ただいま」
俺はやっぱり無能だ。
お腹の空いた怪我人を玄関で立たせたままで、ずっと抱きついている事に気付いたのはもう少し経ってからだった。
147
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
2026/01/09 加筆修正終了
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる