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屋敷に着いて……
しおりを挟む道場を燃やそうとした辺境伯のバカ息子一味を村の駐在所に引き渡し、ラファエルがヴァレンティーナとの婚約を宣言した朝。
ゆっくりと馬車に揺られて、ラファエルの屋敷に着く。
静かな屋敷の中を、手を繋いで歩いた。
先に帰ってきているはずの使用人達は、誰も顔を出さない。
二人きりの時間が……始まる。
「さぁ、ヴァレンティーナ。俺の部屋に着いたよ」
「あ、あぁ」
手を繋いで歩いていたが、ラファエルのドアの前で立ち止まるヴァレンティーナ。
「どうした?」
「ん……ど、どうしたらいいのかと……」
下を向いて固まっているヴァレンティーナを見て、ラファエルが優しく微笑む。
そして軽く、抱き締めた。
「可愛いけど、そんなに緊張しなくていいよ」
「うん……」
「うん……って、もう可愛いな……。じゃあソファでワインでも飲もう。ヴァレンティーナが嫌な事を無理になんかしない。癒やすって言っただろ?」
「そ、そうだな……」
「さぁ、どうぞ」
優しく肩を抱いて、二人で部屋にはいる。
「あぁ、ちゃんと色々と用意してある」
部屋のローテーブルの上には、酒や軽食が。
本来ならベッドの上に用意されるはずの寝間着やガウンも、ソファの上に用意されていた。
二つ並んだタオルと、ヴァレンティーナにはネグリジェが。
下着や化粧品が入っているだろうリボンのかかった袋も、全て純白だ。
まるで結婚式後の、夜を思わせる……。
またそれを見て、緊張で固まってしまったヴァレンティーナ。
「あ~……あはは、さぁ気楽に座って」
固まったヴァレンティーナの緊張を解すように、ラファエルが笑う。
「うん……」
「じゃあ俺はこっちに座ろうか?」
少し離れようとしたラファエルの腕に、ヴァレンティーナが抱き着く。
「い、嫌なわけではないんだ……わからないだけだ……私も離れたくない……」
「ヴァレンティーナ……俺もわからない事ばっかりだよ。二人で探っていこう」
「……わかった……私はどうしたらいい?」
いつもは自信に満ち溢れたヴァレンティーナが、上目遣いで困ったようにラファエルのシャツを掴む。
「か、可愛すぎて……どうしたらいいんだ」
「もう~からかわないでくれ~」
「からかってないさ。可愛くて可愛くて、もう俺は……たまんないんだよ。じゃあワインを一口飲んで。リラックスしよう」
手を引かれて、二人でソファに座る。
ヴァレンティーナの肩を抱きながらワインを片手で注いで、彼女に渡す。
「わかった……」
乾杯するとヴァレンティーナは、そっとワインを飲んだ。
まるで借りてきた猫のように、ぎこちなくギクシャクとしている。
「楽にして、ヴァレンティーナ。なぁ、あそこに飾っている絵の中でこっちを見てる男は俺の先祖……」
ラファエルが突然に、壁の絵画を指差す。
湖畔に立つ一人の男がこちらを向いている絵。
「えぇ!! そ、そんな御先祖様を目の前にして、こ、こんな」
ヴァレンティーナは慌てて離れようとする。
「だと思った? 俺も知らん謎のおっさんなの。誰なんだよ? あいつは……誰なんだ!?」
離れようとしたヴァレンティーナの肩を、ラファエルは抱き寄せる。
「ぷっ……誰って、君の部屋に飾ってある肖像画なのに……わからないのか?」
ラファエルの話に、ヴァレンティーナが笑う。
「そうだよ。俺は謎のおっさんに見守られながら、毎度このソファに座ってるわけだ」
「嫌だな。なんだか私まで見られているような気になるじゃないか」
「大丈夫。あのおっさんは愛し合うカップルは、嫌いだから見ないんだってさ!」
「ふふ、そんなバカな話ばかりして……! 嘘だろう!」
「バレた? あはは」
ラファエルの話で笑うヴァレンティーナを見て、ラファエルも微笑む。
緊張をほぐすためだと気が付いたヴァレンティーナは、ラファエルにもたれかかった。
「なぁ、オレンジ剥いてあげよっか? 俺はオレンジで可愛い兎を作れるよ」
陽だまりのような笑顔で、優しい事を言う。
「……好きだラファエル……とても」
じわりと滲む愛。
「うん、俺もだよ」
「優しいな……ラファエルは」
「俺のお嫁さんに、こんな女神がなってくれるって言うんだぜ? この世で一番優しくするし、大事にする」
自分がまさか誰かの『お嫁さん』になるだなんて……。
あの白豚息子との婚約が決まった時には、一切思わなかった感情が心を満たしていく。
望まれる事がこんなにも嬉しいだなんて。
彼に愛される事、全てが自分の喜びになる。
そしてこの想いを、ラファエルにもあげたい。
母のことで傷を負った少年の心を癒やしたい。
「……私もだ。絶対に君を一人にしない……」
「ヴァレンティーナ……剣に誓って……?」
「剣に誓って……」
「俺も誓うよ……」
二人で手を取り合ってキスをした。
「でも、お風呂は……やっぱり別にしたほうがいいかい?」
「……私が先に……入って……」
「うん、いいよ」
「な、中で待ってても……いいか?」
「え! あぁ! それはもちろん……大丈夫だよ」
てっきりヴァレンティーナが断ると思っていたラファエルは、驚いて照れたように微笑む。
そしてワインを飲み干した。
「ラファエル、風呂に入るなら……あまり飲み過ぎるな」
「そ、そうだな。じゃあ、どのくらい待っていればいい?」
「……オレンジの兎を作り終えるくらい……?」
「うん、わかったよ。可愛い恋人のために沢山作って……それから行くよ」
「ありがとう。では先に行く」
ヴァレンティーナは、自分のために用意されたタオルとネグリジェや下着の入っているだろうバッグを持つ。
少し中身を確認したヴァレンティーナは『これは……』と声をあげた。
「どうした?」
「いや! なんでもない……アリスだな……もう……」
「ん?」
「じゃ、じゃあ待っている……」
ヴァレンティーナが、少し頬を染めて部屋を出て行った。
ラファエルは可愛いオレンジ兎を8羽作って、皿に置く。
とは言っても、長年作っていた兎は慣れていて素早く作りすぎた。
もう時間はいいだろうか? と少しソワソワするラファエル。
「兎達……俺のお嫁さんは、もう風呂に入ってもいいって思ってる頃かな……?」
ラファエルだって、ヴァレンティーナが傷つかないように怖がらないようにと手探りだ。
だが、男の自分が戸惑っていてはヴァレンティーナが不安になるだろう。
ラファエルは覚悟を決めて、風呂場まで行ってガバっと服を脱ぎ捨て、そして風呂場のドアに手をかけた。
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