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助けの光・1
しおりを挟む照明弾など比ではなかった。
目も眩む、激しい稲妻のような光。
穴の上から皆の叫んだ声が反響した後、地を揺らすように洞窟に衝撃波が突き刺さった。
鎖子も目がくらんで、何が起きたかわからない。
でも、目が見えなくてもわかる。
触手から開放されて、抱きとめられた逞しい腕の温かさ。
頬に当たる、鍛えられた胸元。
何よりも、腹に刻まれた呪術紋が、疼く。
「……か……要様……っ」
鎖子と愛蘭を絡め取った触手。
それを飛び降りた時の斬撃で切り落とし鎖子を抱きとめたのは――九鬼兜要だ。
「鎖子、よく頑張ったな」
要は鎖子を抱き上げて一度、岩の地面に降り立つ。
「か、要様……どうして……」
「感じた」
信じられない想いで、要を見つめる鎖子。
必死に『千祈』を振っていた右手が、震えて固まり動かない。
「手が、こわばって動かないか……大丈夫だ。息を吐いて」
鎖子の手に握られた自分の愛刀を、一緒にやさしく握り、鞘に納めた。
一気に緊張が解けて、力が抜ける。
そんな鎖子を、ゆっくりと要は地面に座らせた。
「これは俺の式神だ。お前を守る」
「要様……」
黒い大きな鴉の式神が、要と鎖子の少し上空で鳴き声をあげた。
「少し待っていろ」
「はい……!」
要に何箇所も切断された触手だったが、すべて頭の方にズルズル……と戻り始めていた。
上空から、更に灯りになる浄化閃光弾が投下され、妖魔が悲鳴をあげた。
光に照らされた要を、鎖子は見る。
擦り切れたマントには血がこびりつき、破れた軍服の下には包帯が見えた。
突然の遠征任務から帰宅したばかりなのだ。
それでも、彼は威厳を一切失っていない。
鎖子自身がわかっているように、彼の力が半減したとしても――九鬼兜要少佐は、そのままだ。
「妻へ手を出した報いを、受けてもらうぞ……!!」
九鬼兜要の尊厳も、強さも、何も失ってなどいない――!!
まさに神業だった。
一瞬の太刀筋で、触手を追撃し本体の頭をまず上下に両断する。
上空に飛んだ頭上部を、繰り出した浄化術で粉砕し、触手が繋がる頭下部へ直接刀を突き刺した。
その衝撃で八本の足が弾け飛ぶ。
膨大な力で粉砕すれば、この穴も洞窟も一気に崩れるしかない。
それを要は、この巨大な妖魔だけを消滅させる術で、やり終えた。
まばゆい光の中で、砕け散る妖魔と、要が見えた。
しかしこれだけの上級呪術を、今は力が減退した要が使えば……。
「ぐっ……!」
「要様……!」
身体の方がもたない!
鎖子は、要の身体から血が吹き出したのを見て、叫んで彼を抱きとめた。
要も鎖子を優しく抱き締め、鎖子の頭に顎を乗せる。
「ふぅ……終わったぞ。怪我はないか?」
「か、要様の方が……!」
あちこち打撲はしているが、大した怪我ではない。
誰がどう見ても要の方が重症だ。
「こんなものは、かすり傷だ。大丈夫か?」
それなのに、彼は鎖子の心配ばかりする。
閃光弾は、徐々に光を失ってきている。
その光のなかで、宝物を扱うように要は鎖子の頬を撫でる。
無事を確認すると、優しく微笑んだ。
「わ、私は大丈夫です……」
「そうか」
「要様が守ってくださいました」
「いや、遅くなって、すまなかったな」
「うっ……かなめ……さまぁ……」
鎖子はもう何も言えなくなって、涙が溢れて、それを見た要も強く胸元に抱き寄せてくれた。
それから、到着した本部の救助が穴に到着して鎖子と要、そして愛蘭も救助された。
「鎖子ちゃあああああん!!」
希美に泣いて抱きつかれ、他の隊員も泣いて鎖子の生還を喜んでくれたのだった。
愛蘭は意識を取り戻してすぐに、鎖子への罵倒を始め、そのまま将暉の付き添いのもとに担架で運ばれていった。
本当の朝日が山を照らし、前代未聞の入学生初演習は終わったのだった。
そして、要と共に岡崎の待つ馬車の元へ急いだ。
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