鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

兎森りんこ

文字の大きさ
65 / 78

叔父の正体

しおりを挟む
 
 写真では眼鏡をかけており、髪型は黒の短髪だ。
 出会った時から、派手好きで、チンピラのような遊び人の叔父。
 印象が全く違う……。

 でも、鎖子にはわかった。
 奴隷のように扱われながら、毎日見てきた顔だ。
 これは叔父に間違いない。

 叔父が……研究員?
 
「鎖子ちゃん?」

「……あ……あの、いえ……なんでもないの」

「顔が真っ青だよ! 座らせてもらおう。兄貴、椅子ー!」

「あぁ、座って座って! 貧血かな? 横になる?」

「すみません。立ち眩みで……あ、これ……ありがとうございます」

 さすがに写真を持ち帰ることはできないので、波太郎に返した。
 
「うん。なにかわかったのかな……まぁ、珈琲でも淹れようか」
 
 鎖子が落ち着くようにと、波太郎は珈琲を淹れて渡してくれる。
 その写真以外には、手がかりになるような事は結局なかった。
 
「なんの力にもなれなかったけど、僕が言えるのは……鬼人の潜在能力は、やはり遺伝されるものだからね」

「遺伝……はい」

「何も伝えられていなくても、お母さんから授けられた力が無意識に君を導くかもしれない」

 確かに、鎖の力は鎖子が物心ついた時から使える力だ。
 両親が守ってくれる愛のように感じる。
 
「……波野さん、ありがとうございます」
 
「……というわけで、少し柳善縛家の力を見せてくれないかな~!?」

「兄貴ー! 変態くさいんだけど!」

「な、何を言う! 鎖が見てみたいんだよ~~」

「あ……は、はい。どうぞ」

 研究員達にとって、柳善縛家のような特殊な力は貴重な研究材料のようだ。
 鎖のオーラを具現化して見せると、波太郎は飛び上がって喜ぶ。
 鎖子の呪術紋を見た時の、叔父のようだった。
 
 これが研究員のさがなのだろうか。

 さすがに、鬼妖力を減退させる力の事は聞かれなかったので安心した鎖子だった。
 
「今日はありがとうございました」

「僕こそ、柳善縛家の力を見せてもらえて興奮しちゃったよ。ありがとう」

「鎖子ちゃん、大丈夫? なんかちょっとフラフラしてるよ」

「うん。大丈夫。希美ちゃん、本当にありがとう」

 叔父は、柳善縛家のことを研究する研究員だった。
 そしてその研究組は、金剛の指示で作られ解体されたという噂が……。

 鎖子の心のなかは、すぐにでも要に会って話がしたいという想いでいっぱいだ。
 しかし馬車の迎えは、夕方に頼んであるし要が帰宅しているのか、わからない。
 
「九鬼兜鎖子」

「はい」

 時間まで部屋で過ごそうとして、希美と歩いていた鎖子に、女上官が声をかけた。

「九鬼兜家から急ぎの用事ということで迎えが来ている。すぐに帰宅しなさい」

「えっ……はい!」

 慌てて、部屋に戻って支度をする。

「希美ちゃん、改めて御礼をさせてくださいね……!」

「そんなのいらないよ~! 兄貴も喜んでいたしね。気を付けて帰ってね」
 
「はい……うん! ありがとう!」

 時間を早めての迎えに、鎖子は要に何かあったのかと馬車乗り場へと急いだ。

「鎖子……!」

 しかし、鎖子が馬車に駆け寄ると姿を現したのは要だった。

「要様……!?」

「鎖子、さぁ馬車に乗れ」

 優しく手を差し出されて、荷物も持たれて馬車に乗り込む。
 要が馬車を出すように、御者に伝えて馬車は走り出す。

「大丈夫か?」

 座席で肩を抱き寄せられた。
 そのまま要の胸元に、抱きついてしまう。

「要様、一体どうして? 何かあったのですか?」

「お前の不安を感じたような気がして……。ただの勘なんだが、つい迎えに来てしまった」

「では、私のために……?」

「ん、でもただ俺が早く会いたかっただけかもしれない」

 要も朝方に帰宅したが、夕方より早く迎えに来てしまったとのことだ。
 また想いが通じ合っていた事に、鎖子の瞳が潤む。

「要様……! 私も、私も、今すぐにお会いしたかったのです!」

「そうか、何かあったのか……?」

 強く抱きしめてくれる要の腕のなか。
 何よりもホッとして、安心する。

 優しく髪を撫でてくれる要に、鎖子は今日知った衝撃の事実を話し始めたのだった。

 

 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

社長に拾われた貧困女子、契約なのに溺愛されてます―現代シンデレラの逆転劇―

砂原紗藍
恋愛
――これは、CEOに愛された貧困女子、現代版シンデレラのラブストーリー。 両親を亡くし、継母と義姉の冷遇から逃れて家を出た深月カヤは、メイドカフェとお弁当屋のダブルワークで必死に生きる二十一歳。 日々を支えるのは、愛するペットのシマリス・シンちゃんだけだった。 ある深夜、酔客に絡まれたカヤを救ったのは、名前も知らないのに不思議と安心できる男性。 数日後、偶然バイト先のお弁当屋で再会したその男性は、若くして大企業を率いる社長・桐島柊也だった。 生活も心もぎりぎりまで追い詰められたカヤに、柊也からの突然の提案は―― 「期間限定で、俺の恋人にならないか」 逃げ場を求めるカヤと、何かを抱える柊也。思惑の違う二人は、契約という形で同じ屋根の下で暮らし始める。 過保護な優しさ、困ったときに現れる温もりに、カヤの胸には小さな灯がともりはじめる。 だが、契約の先にある“本当の理由”はまだ霧の中。 落とした小さなガラスのヘアピンが導くのは——灰かぶり姫だった彼女の、新しい運命。

国宝級イケメンとのキスは最上級に甘いドルチェみたいに、私をとろけさせます

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

処理中です...