鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

兎森りんこ

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鎖子の抵抗・1

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 泣き続けた鎖子は、白無垢姿で化粧を直され大広間へ運ばれた。

「う……」

 鎖子が動けないままに、婚儀が始まる。
 婚儀と言っても、鬼神祈主きじんきしゅがいるわけでもない。 
 
 ただ金色の布団が、用意されているだけ。

 そこに白無垢の鎖子が寝かされて、金剛勝時と和博がその前に置かれた膳で酒を飲み交わしている。
 
 まるで生贄の儀式のよう……いや、まさに生贄だ。

 少し遠くに、叔母と愛蘭も座って飲み食いしているのが見えた。
 
「鎖子姫の実力を、測定するために大学校へ入学させたが、あっぱれな力であった。我が花嫁に相応しい。……金剛家の跡取りをいくらでも産ませてやろう! ガッハッハ!」

 将暉が小さくなりながら、二人に酌をしていたが父親の発言にギョッとした。

「……梅さんと、岡崎さんを……解放して……」

 鎖子が言う。
 打たれた薬がまだ効いている。
 鎖子は、必死に梅と岡崎の解放を願った。

「まだ使用人ごときの身を案ずるとは、誇り高き女よ……。いいだろう。おい将暉、二人を解放しろ」

「ねぇ、父さん、跡取りは俺じゃないの……? 鎖子の子供が俺の兄弟なんて……嘘だろ?」

「今はそんな話はしていないっ!! だからお前は無能なのだっ!! さっさと解放してこい!!」

 怒号が響く。
 将暉は飛び跳ねるように消えて、戻ってきた。
 
「父さん! 言われた通りに、二人を外に追い出してきたよっ!」

 単純な将暉のことだ。
 言葉通りに、二人を逃がしたに違いない。

「健気な我が花嫁よ。願いを叶えたぞ。これで、抱き潰す前に、思い残すことはないな……」

「……針を打たれてから……どれだけ時間が経ったのかわからないけれど……」

 静かに話す鎖子の言葉を、金剛はニヤニヤと顎髭を撫でながら聞いている。

「……屋敷の皆が、私達が戻らなければ……行動をおこしてくれるはずです……あなたの罪は明るみに出るわ……」

 数時間でも反応がなければ、様子を伺い駐在所に助けを求める手筈だ。
 岡崎と梅も、行動を起こしてくれているに違いない。

「ガッハッハ! 九鬼兜の屋敷など既に制圧済みだ。全員縄で縛り上げているわい!」

「えっ……」

「先日は、鎖子の父の私に、酷い態度の使用人達だったからなぁ~思い知らせてやるよ……」

 先日の九鬼兜家での皆の態度が、既に金剛に反乱の可能性ありと伝わっていた。

「父などと二度と名乗らないで! ……屋敷の皆も……解放して……!」

「岡崎ら二人にも、無駄な抵抗はするなと伝えてある。お前を抱いたあとに、九鬼兜家屋敷の財産を奪い、使用人含めて全て焼いてやるわい!」

 嬉しそうに、酒を煽る金剛。

「……どこまで非道な男なのですか……」
  
「ガッハッハ! 褒め言葉をありがとう。我が花嫁!」

「さて、勝時様……そろそろ始めますか」

「そうだな」

 布団の前に置かれた膳の上に、装飾が施された液体の入った試験管があった。
 和博が立ち上がって、その試験管を手に取り、鎖子の顔に近づいてきた。 

「いや……」
 
「さぁ鎖子。この神酒を飲みなさい。これは、痺れ毒も混ぜてあるが、お前に溜まった力を金剛氏に与えるための『反転鎖の儀』を強制的に起こす術薬だ。……避妊術も解除され、妊娠もしやすくなるオトクな酒だぞ。さぁ~成功するかなぁ」

 顔をそむけても、無理矢理に口に入れられ飲まされる。
 手足の枷が外され、お腹の呪術紋が熱くなる。

 愛蘭や叔母も儀式が始まって、近寄ってきた気配がした。

「う……」

「身体は痺れさせるが、柳善縛の力は増すようにしてある。最大限に励めよ」

「……いや……」

 そんな鎖子を見て、男二人が恍惚の表情をする。

「壮大な計画だったな和博。どれだけの年月がかかったか……」

 更に陶酔するように金剛は上を向く。

「本当に……。柳善縛夫婦を殺害し、柳善縛家を乗っ取り……鎖子を育てて……大変でしたなぁ」

「九鬼兜の先代を狂わせ眞規子を結婚させ……九鬼兜要を、留学させて力をつけさせ……長い、長い年月がかかった……」

「やはり九鬼兜を利用して正解でしたな」

「あぁ。将暉は早くに見限って正解だった。何もかもが完璧だ」

 おぞましい計画だ。
 苦労したような顔をして、ただ精一杯生き抜いてきた子供二人の人生を狂わせただけだ。

「あの男が、自ら鎖子姫を花嫁にしたいと言ってきたのは謎の計算外だったがな! まぁ、夫婦にすれば利用しやすいので許してやったが……罠にも気付かずバカな男だった」

「男と惚れ合うことなどないように、ボロ服を着させ、悪い噂の元で育てたのになぁ~~鎖子」

「……謎なんかじゃありません……私と要様は子どもの頃から愛し合っていたから、夫婦になった……! 罠だと知っていても要様は私を望んでくださったのです……!!」

 鎖子は倒れながらも、二人を睨みつける。

 要は騙されたわけではない。

 力よりも名誉よりも何よりも、鎖子を望んでくれた。

 それは紛れもない愛。

 それを馬鹿にする者は、誰も許しはしない。

 梅と岡崎は解放された。
 屋敷を燃やすのは、鎖子を蹂躙した後だと言っていた。

 まだ時間がある……!

 今、ここで鎖子を縛るものはなくなったのだ。
 
「それでは俺が、今から皆の前で抱き潰してやろう! 九鬼兜の力を全て奪い、夫婦になろうぞ!!」

「……ふざけないで……!!」

 白無垢の鎖子の周りを、鎖のオーラが包んだ。
 一気に具現化する鎖。

 一本の鎖が瞬時に伸びて、愛蘭を締め上げる。

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