転生先はパラレルワールドだった

こぶたファクトリー

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21話 黒馬の王子様

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 ゲートを潜り抜けると、前回設置されていた通信塔が途中から圧し折られ、破壊されていた。…三日前に破壊されたのだろう。
 整備されたスロープを楽々と下り、前回バギーと125ccを隠した場所に辿り着く。そこに何と、次回の強行偵察任務に使う予定だったであろう400ccのバイクが運び込まれてあったのは僥倖だった。隣には高機動車も置かれていたが、これは自分のスキル特性が発揮されないらしく、限定免許のペーパードライバーである自分では諦めるしかなかった。
 
 早速、アイボリーブラックに塗られたバイクに跨り、前回の町…ベース2の予定地へと向けて走り出した。
 遥か遠くに、白銀の煌き。あの騎士達だろう。…どうやらあの騎士達も同じ目的地のようだ。 
 そちらに近づきすぎないよう、並走するように距離を取った。いずれにせよ、先ずはベース1で一泊しなければならないだろう。空は相変わらず曇り…今にも雨まで降って来そうだ。
 ベース1に行けばこの先必要な燃料や物資、その他雑貨がある程度揃っている。予備の個人テントやバックパックも見かけたのを覚えている。
 迂回したため、前回は遠目に素通りした城へと近づいていた。
 と、瓦礫の中から何かが飛んできた。慌ててハンドルを切り、危うく転倒しかける。スキルの恩恵が無ければ今頃どうなっていたか分からない。
「なんだ!?」

 瓦礫が盛り上がり、その下から甲冑を纏った白骨が現れた。手にはボロボロの盾と剣を装備している。
「魔物…いや、モンスターなのか…?」
 カカカカカッ、と骨が笑うように揺れた。見ると、薄らと…火の玉のようなものが見え隠れしている。
 前回訪れた城の死体は動かなかった。とすると…
「お化けかよ…」
 しかし、遺体に乗り移るのは厄介だ。ステータス確認。

「ポーンゴースト」とだけ浮かび上がってくる。予想通り、兵士の遺体に取りついた幽体か。
 だが、相手をしてやる義理も無い。下手に発砲してあの騎士共に気付かれても敵わないしな…
 肩に強い衝撃。肩アーマーを吹き飛ばされ、平原に転がった。
 ドジった。城の瓦礫の影から弓兵のポーンゴーストが矢を再び番えている。
「畜生め…!」
  移動の足であるバイクを攻撃される方がマズい。瓦礫の中に飛び込み、一部が抉れるように欠けたアイロン型の盾を拾いながら立ち上がった。銃で手早く始末したいが、銃声が心配な事、そして相手が穴だらけの骨体であることから、騎兵刀を抜いた。
 雨が当たり始める。
 
「無駄に雰囲気出しやがって…!」
 映画のワンシーンなら、雨降る廃城…勇者vs魔界騎士軍団と言った所か。
 冬季戦闘服には防水、防寒機能も備わっているが、雨が戦闘にも、移動にも邪魔である事には変わりない。
 飛んできた矢を盾で防ぐ。薄い鉄を厚い木板に張り付けた盾は、本来ならその矢が突き刺さるか貫通するところだっただろう。だが、大淵に握られたことで本来以上の耐久性を持ち、矢を弾いた。
「何だよ、盾も使えたのか」
 横から飛び掛かって来るポーンの剣を捌き、倉田仕込みの「受け身が取れない」背負い投げ。鎧と骨が雨の中に盛大に砕け散った。

 また放たれた矢を弾き、迫って来るポーンに盾を叩きつける。怯んだ隙に胴体を横薙ぎ。その遠心力でついでに反対側のもう一体も薙ぎ払う。
 振り下ろされた剣を鍔と鎬で受け止めつつ、盾の縁でポーンの胴体を穿つ。鎧が大きくへこみ、もう一度叩きつけると、鎧の中で骨体が分断され、相手は崩れ落ちた。
 
 そろそろか、と飛び退ると、矢が自分のいた場所に突き刺さる。
 一気に距離を詰め、弓矢ごとポーンを切り伏せた。

 静けさが戻るが、この分ではここに何体のポーンが現れるか分からない。新手に遭遇する前に、さっさと離れるに限る。 バイクに駆け寄り、車体を立て直した。
「…」
 逡巡し、白骨の元へ戻る。合掌してからポーンの死体を検めた。
 その中で最も状態の良いバスタードソードを拝借し、予備の剣とした。更に、先ほどの西洋盾も剣に括りつけてバイクに載せ、その場を離れた。

 雨が強まっていた。遥か遠くの地平線は雨で霞み、灰色の視界が広がっていた。この世界なら夜になった方が見えやすいかもしれない。だが、感覚的に夜までまだ時間がありそうだ。
(道に迷わなければいいが…)
 頼りない道らしきものを進む。地面が所々ぬかるみ、非常に危ういが、スキル特性のおかげで超人がかったハンドル・重心操作を駆使し、一切転ぶことも無く勧める。
 
 なだらかな坂道に差し掛かり、慎重にアクセルを操作しながら進む。坂を上り切ると、異変に気付いた。
 遥か遠くに、黒々とした森のようなものが見えた。
「森…?」
 目を凝らすと、それは微かに動いているように見えた。 
 魔物の大軍勢。
 魔物達が陣形を組み、草原の只中で待機しているのだ。雨に濡れる事を苦にしないのか、そのままそこで待機しているように見える。
 慌てて坂を下る。小高い場所に居て発見されたら目も当てられない。念の為、下りきったところでテープを出し、ヘッドランプを一部覆って光量を絞った。
 奴らは一体どこへ行くつもりなのか…まさか、早速こちらの世界に攻めこんで来ようというのか…?ともかく、こうなった以上、道に沿って移動し続けることはできない。アクセルを吹かし過ぎないように、大きく迂回した。

 一体どれ程の規模なのか…丘の上から見た限りの目算では…魔物一体一体のサイズにもよるだろうが…もし、この間の狼やゴリラ…ヘルハウンドとハヌマーンだったか。二メートルサイズのあれらで言えば、一万…まさか十万になるのか?
 少なくとも千ではない。人間でもそのくらいの集団は見たことがあるが、サイズ差を考えても明らかに規模が違う。 いずれにせよ、自分にはその正確な数字を割り出すことはできそうもない。考えるだけ時間の無駄だと割り切った。
 惜しむらくは、この情報を外に伝える手段が無いという事だ。ベース1には長距離無線機があり、本来ならゲート坑内の基地に連絡できるのだが、通信塔を破壊された今、それも敵わない。
 一万の軍勢…先日の、たかが百体程度の魔物の強襲で、こちらは14人もの死者を出した。もし、あんなものが洞窟内に溢れたら…。
 
 空の色が明るみ始める。夜になるのだ。
 相変わらず雨は降っていたが、雲は逃げ去り、赤く染まった不気味な空と月が浮かぶ。
「良し…取り合えず視界は良くなった」
 …恐らく敵にとっても。

 二時間も走らせただろうか。遥か彼方にベース1が見えてきた。
「良かった…」
 もし、ベース1を見失って道に迷い、全く別の方角へ行ってしまったら、いずれガス欠し、延々と彷徨う事になる。今の所、このベース1だけが、この世界で人類の味方なのだ。
 外郭を残して何もかも無くなった廃墟が、なんとも暖かいホテルに見えてくる。
「…物資は無事だろうな…?」 一抹の不安を抱えながらも村の外郭にバイクを隠すように停め、崩れかけた石垣を飛び越えて村の中へ向かった。

(確かこの辺に…)
 殆ど全壊した家屋跡。あった。全て無事だ。天に感謝しながら燃料のコンテナを開け、中からガソリンと、水筒に似た携行缶を取り出した。これで、いざという時の予備燃料を持っていける。
 バイクに給油し、携行缶二本にも並々と注いで、リアシート内蔵型の小物入れに収納する。残ったガソリンをコンテナに返し、続いて必要な装備を整えた。バックパック、テント、シュラフセット。続いて食料コンテナを開け、お馴染みの自衛隊レーションとミネラルウォーターをバックパックの中に詰められるだけ詰め込む。更に一つ、水とレーションセットを拾い上げてから食料を返した。
 これもまた雑貨コンテナから飯盒とコンロを取り出し、廃屋陰にテントを張り、その中で隠れながらレーションを暖めた。
 とり五目飯と沢庵、煮物のセット。暖め終えた食事を摂った。

(美味いけど、何とも味気ない食事だったな)
 …思考を読む者も居ないと、思考する事すら虚しい。足甲以外のメイルアーマーを外し、テントの中でシュラフに包まった。雨はわずかに弱まってきたようだ。 

(魔王…何故なんだ…何があった?)
 一万だか十万かの軍勢。 …別に参考にはならないが、桶狭間で織田信長が奇襲で倒した今川軍が二万五千だったか。
 今更、仲間達を置いて来たことを後悔した。寂しいからではない。確かに仲間達は恋しいが、無責任に置いて来た事を悔いた。
 もし、あの魔王軍が攻め込めば、当然、仲間達が迎え撃たねばならないだろう。…そうなれば、仲間達から犠牲者が出るかもしれない。…最悪、全滅しないという保証もない。
 その時、クランリーダーの責任を放棄した俺は…

 気配。

 飛び起き、メイルアーマーを装備し直した。そして手元の騎兵刀と騎兵銃、更にシールドを引っ掴み、耳を澄ませた。

 ザ、ザ、と草を踏み締める音が響いてくる。

 テントをそっと抜け出し、瓦礫の物陰から周囲を見渡すと…いた。巨大な黒い狼、ヘルハウンドと、二足歩行の…トカゲ?そのトカゲは剣や槍、盾、そして簡易な鎧を装備しているようだ。
(ヘルハウンド4、…レプティリアン野郎…4か…)
 厄介なことに、レプティリアン野郎は松明を掲げている。そしてヘルハウンドもしきりに鼻を鳴らしている。
(…まさか)
 レーションの匂いを辿ってきたか?…そこまで考えが至らなかった。
(…一戦交えるしかないか)
 音もなく騎兵刀を抜く。
 ヘルハウンドとの格闘戦は初めてだし、トカゲ野郎の実力は未知数だが…やるしかない。
 一対八…無残に八つ裂きにされる自分の最期が一瞬、脳裏に浮かんだ。
 
 そのイメージを切り裂く。 
 弱気になるな。やるしかないんだ。
 …あの時…生まれ変われたら、どんな敵が相手でも逃げずに立ち向かってやると決めたでは無いか。

 あのベッドで死んだ俺は、見すぼらしい何一つ残せない、五十過ぎの男だったが、一つだけ誇れるものがあった。死の瞬間まで抗い続け、決して逃げず、命乞いもしなかった。
 
 最早隠れる意味もない。物陰から飛び出し、魔物の一隊の前に出た。
 感覚を研ぎ澄ませ…自分の戦闘技術の全てを引き出さなければ死ぬ。

「人間!」
 トカゲ男とヘルハウンドが自分を包囲し始める。
 スキル、発動。
 自分を囲みつつあるトカゲ男に一連射。トカゲ男は俊敏に盾を突き出して銃撃を防ごうとするが、放たれた銃弾はそれを易々と貫通し、トカゲ男の体をズタズタに引き裂く。 

「おのれ!」
 別のトカゲ男が迫る。後方からもヘルハウンドが自分の足を噛み千切ろうと迫る。互いの盾をぶつけ合うと、トカゲ男が吹き飛ばされた。その隙に、右手の騎兵刀でヘルハウンドの頭部を串刺す。
 トカゲ男が体勢を整えるが既に遅く、その首にも騎兵刀を突き刺す。
 別のトカゲ男の片手剣が振りかぶられる。引き抜くのは間に合わない。足払いでトカゲ男の体勢を崩させ、上から重力を味方につけ、その首をシールドの縁で圧し潰す。騎兵刀を引き抜き、ヘルハウンドの残りに突進。強化された刃はヘルハウンドを牙ごと切り捨て、串刺しにした。

 その頭部から騎兵刀を引き抜き、生き残りに視線を移した。
 残されたトカゲ男とヘルハウンドが、化け物でも見たかのように怯え、方々に逃げる。
 ふざけた奴らだ。お前らに化物扱いされる謂れは無い。
 スキルは消えていたが、騎兵銃で逃げる背中に銃弾の雨を浴びせる。悲鳴が立て続けに聞こえた。
 
「どうした!?」
 新手。今度はゴリラを加えた二隊か。やり甲斐がある。
 魔物の二個分隊は同胞の無残な死体を見たらしい。
「き、貴様、生かしておかんぞ!」
「八つ裂きにしてくれる!」
 口々に囀る声が聞こえる。
(上等だ。 …それにこっちの台詞だ)

 騎兵刀の血を払い、敵集団に突進。
 脳裏に、虐殺された味方達の姿が蘇る。
(よくも…)
 スキル、発動 〈注! オーバーヒートに注意〉
 見慣れない警告を無視し、向かってくる敵とぶつかり合う。
 
 戦闘技術も何もない、極めて単純な殺戮。
 
 間合いにさえ入れば、それは紙細工のように壊れて行った。逃げる者は騎兵銃で処理するだけ。
 殺された14人…まずはそれと同数を殺し返してやった。まだ終わらない。
「何が生かしておかねーだ、何が八つ裂きだ。お前らこそ逃げられると思うな!」 
 血飛沫が舞う。目で獲物を探すと、もう三体しか見当たらない。他はどこへ消えた?…地面に散らばってるのがそうか? …もう数を数えるのが億劫だ。

「ひっ、ひいぃ!」
 ゴリラが腕を振るってくる。避けるまでもなく、腕ごと胴体を切り捨てる。逃げるゴリラ野郎の足を撃ち抜き、その背に騎兵刀を突き入れ、変った色の内臓をかき混ぜてやった。
 何なら解剖してやりたい所だが、時間が惜しい。あと二匹いる。
「遠慮するな」その脚に当てるつもりが手が滑り、頭部の脆い部分に当たったらしい。一発で終わってしまった。

 なんて心地の良さだ。
 アルコールで酔うよりも遥かに。

 逃げるもう一方に向け、ガントレットを向けた。…星村が言っていた新機能、まだ試してなかったな。
 パシュ、とワイヤーアンカーが伸びる。無線制御でアンカーが微かに重心移動し、狙った場所で対象に絡みつけられる。
「こりゃいい」
 逃げていたゴリラ野郎の首に食い込み、仰向けに倒れた。スイッチで高性能モーターが起動し、それを引き網の様に巻き取って来る。どんなに暴れても筋力アシストで強化された腕力からは逃げられない。
「や、やめてくれぇ!お願いだぁ!」
「ダメだ。生かしておいたら仲間を連れて来るだろう」
 …それもアリか、などと思いかけたが、コイツを生かしておくのも気に入らない。新手はまた後で探せばいい。ゲート基地でこいつらがしたように…
 いや、倍返しだ。じっくり嬲り殺してやる。臓腑を切り分けて不細工な活け造りにしてやろう。
「呼ばない!頼む、助けてくれぇ」
「黙れ」
 しかし、咽び泣く化物を見ている内に、気が沈んできた。

 …もういいじゃないか 
 誰かに諭された気がした。
「…チッ…」
 …ものは考えようだ。コイツを生かして返せば、敵の大軍が俺を探して、ゲートへの侵攻が手薄になるかもしれない。…そうだ、その方が何かと得だし、仲間達の為になる。
「失せろ」
 ワイヤーから解放してやると、ゴリラ野郎は信じられない、といった表情でこちらを見上げた。
「気が変わるぞ」
 そう言って見下ろすと、四足歩行で一目散に逃げて行った。

「…」
 振り返ると、23もの死骸が転がっていた。
(俺は一体、何をしたんだ…)
 虐殺…殺しに酔っていた。
 …殊に、後半の…あのスキル警告が表示された後、スキルが切れていたにも拘らず、切られた死体は他よりも損壊が激しかった。
 まさかと思って見ると、騎兵刀がボロボロになっていた。
「な…」
 刃毀れでは無かった。 刀が内部から破壊されていくような…何か、途方もない力で何年もメンテナンスもされずに酷使され続けたような、そんな草臥れ方だった。

 騎兵刀を鞘に納め、急いで荷物を纏めにかかった。弾薬を補充したが、一マガジンも使い切っていなかった。殆どを騎兵刀と盾を利用した格闘で殺していた。
(こんな事をしていたら命が幾つあっても足りない…)
 今回は運が良かったのだろう。次は無いかもしれない。
 自らの軽挙を戒め、大淵は再びバイクに跨った。
 そのまま眠らずにバイクを走らせ続け、例の町に向かった。
 
 魔王の城がどこにあるか分からないが、唯一の手掛かりは魔王と出会った、ここしかないのだ。
(クソっ、それこそさっきの奴に聞き出せば良かった…)
 とことん抜けている自分に呆れながらも、町へとバイクを進めた。
 赤かった空が白んでくる頃、長大な山脈と町が見えてきた。
 町には相変わらず何の気配もなく、バイクに跨ったまま裏口方面に向かってみた。
 小さな通用口はとてもバイクに跨ったまま抜けられるものではなく、そこで降車した。山脈の絶壁と町の壁に挟まれた裏通り… 魔王と出会った場所。
 …期待していた訳では無かったが、魔王は居なかった。
 あの山脈を越えてきたのだろうか…だとするとバイクで行くには迂回するしかないが…

(この山脈を迂回するとなると…恐らくとんでもない日数が掛かるぞ…)
 断崖を見上げ、大淵は首を傾げた。
「そもそも、何故魔王は町の中ではなく、こんな裏手に居たんだ…?」 
 そう言えば、人形を持っていた。町の中を通ってここに来たんだろう。
 手近な家屋に飛び移り、筋力アシストを利用して屋根の上を伝った。
 城壁の上から山脈の東側を見た。…何も見当たらない。赤い岩質の急斜面がどこまでも続いている。壮観な景色ではあったが、車両泣かせのこの山脈が文字通り壁となって、この先の様子を見通すこともできない。
(山を登るか…?しかし…)

 山を登って、仮にすぐそこに魔王城があったとして、バイク無しで行って、帰りはどうするのか。魔王城の警備は生半可では無かろう。いざという時、バイク無しで逃げられるか?のほほんと山脈を登山する自分を魔王軍が見逃してくれるか?
 
(…反対側を見て、それでもダメなら…)
 その時は行くしかあるまい。

 それもダメなら、今度こそ魔物を捕え、尋問して聞き出すしかない。
北側の外壁はささやかなもので、何とか人一人歩ける通路でしかなかった。山脈を防壁として、工事費を浮かせたのだろう。
 手すりなど無く、壁が膝までしかない。足を踏み外せば六メートル下に転落だ。これでは工事する者の方が怖かっただろうに…平気なのか?
 もっとも、戦闘服とメイルアーマーを装備している自分なら、この程度なら転落しても大したダメージにはならない。…これから魔王の元へ向かうのに、無駄な怪我をするつもりも無いが。

 反対側に辿り着き、西側の壁を見渡した。やはり同じ景色が続くかと思ったが、麓に黒い影が見えた。
(木か…?)
 岩陰かもしれない。だが、それ以外は山脈は延々と続くだけで、他に何も見えない。…どうせ現状手詰まりだ。行って見る価値は十分にあるだろう。
 家屋を伝って飛び降り、バイクの元へ駆け寄った。

 例の黒い物体の元に駆け寄ると、それは洞窟だった。一メートルほどの段差の上に、先の見えない横穴が開いている。
「…繋がっていればいいが…」
 万一、途中で行き止まりなら最悪だ。どんなモンスターが出るかも分からない。
(世界最恐の肝試し、だな…)
 段差を乗り越え、横穴内に進入した。直径二メートルほどの丸いトンネルが続いている。
「南無三…」
 バイクをそろそろと歩かせる。妙なキノコやコケが壁や足元に生えては居たが、生物の気配は無い。
 ヘッドライトに張り付けたテープを剥ぎ取った。
(本当に繰り抜かれたトンネルの様になっている。これなら或いは…)
 
 トンネルは曲がりくねる事もあるが、通れた。道が狭まる事は無いが、念の為と徐行で進む。
 
 …一時間も進んだだろうか。ようやく、トンネルの先に光を見つけた。アクセルを軽く吹かし、トンネルを抜けた。


 曇り空の下、その城は遥か彼方にあった。右手、西側には鬱蒼とした樹海が見えた。左手にはどこまでも広がる草原…その中に城が佇んでいた。
「とすると、この洞窟は…」
 魔物か、モンスターが人間領…あの町を攻める為に掘ったのだろう。それを今度は自分が逆に利用させてもらったという訳だ。
 それにしても巨大な城だ。これまでに見た人類側の城とはスケールが違う。この距離からでもはっきりと見えるのだ。2…300メートルもあろうか。
 平原には今の所、敵の姿は見えない。
「…行って見るか」
 アクセルを吹かし、城へと向かった。

 一時間もすると、その城の近くにまで辿り着いた。さすがに平原のど真ん中を城に向かって行くわけにもいかず、途中からは樹海沿いを隠れるように進んだ。樹海の傍らにバイクを置き、一キロ先の城を見据えた。

 腹拵えを済ませ、騎兵銃と騎兵刀、盾、更にバスタードソードを担いでいこうとする。
 すると、途端にステータス警告が表示される。
〈汎用騎兵は二つ以上の刀剣を所持できません〉
「そうなのか…しかし二つ以上?」はたと、腰に下げた銃剣が思い当たった。銃剣をホルダーから外してバイクのリアシートに仕舞うと、警告は消えた。
「…さて」
 バックパックも下ろし、身軽にしてから城へと向かった。

 まだ昼間だが…曇天で暗く、もしかしたら魔物は昼の方が活動が不活発なのではないかと期待しながら進んだ。
 期待は裏切られず、城の外壁にまで到達した。やはり300メートル近い巨大な城の構内に進入し、その周辺を覗った。
「流石にそう上手くは行かないか…」
 構内には少なからぬ魔物の警備兵が配置されていた。最外壁から見る外庭に見えるだけで100体の魔物が詰めている。
(考えてみれば、いくら城が巨大でも、その中に何億も魔物が入る訳がない。その数億の魔物はこの世界で幾つかの軍団に分散しているんだろう)
 昨日見かけたあの数万の大軍団もその一つだろう。
 隠れ潜み、外壁から侵入できそうな場所を探す。

 愉快な事に、テレビやゲームで見たように隠れ潜むだけで魔物の目は誤魔化せた。この世界の人類を絶滅させて、完全に油断しているのだろう。王城警備は最精鋭の仕事だろうが、プライド高い魔物達には「この自分達の警備を掻い潜れる訳がない」「来るとすれば大軍で、正門から来るはずだ」という思い込みがあるようだ。これは大変ありがたい。
 
 その魔物達の油断と自尊心の隙を縫い、小窓を開けると、城の中へと侵入していった。

(やはり、流石にそう上手くは行かなかったか…)
 城内に進入した途端、何かの警報が発動したらしい。自分には何も聞えなかったが、明らかに魔物達が慌ただしく動き始め、城内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
 会談からフロア全体には深紅の絨毯が敷き詰められ、何もかもサイズとスケールが巨大だった。巨大な柱、巨大な扉…歴代の魔王にはギガント並の背丈の者でもいたのか、と思いたくなる程だ。
 その巨大な螺旋階段の陰に隠れ、魔物の小隊が続々と一階フロアに集まるのを見守った。
「人間はどこだ!?」
「勇者なら正面から来たものだが…見当たらん。正門の結界を破った痕跡も無いぞ…」

 やはり、奴らには勇者とやらとの戦いが固定観念としてあるらしい。そのセオリーに囚われている訳だ。…勇者?
 記憶の中を振り返って見る。 初陣の際、ゲートで自分と相対したあの、自分限定の不死身黒タイツ野郎…確か対勇者魔造兵だったか?
 こいつらの言っている勇者のための兵士だったのか?だとすれば…
「勇者は死んだ。カロン様が倒して下さったのだ!もういる訳が無い!向こうの世界の人間共だ。きっと、正門まで来て、結界を破れずに逃げ出したのだ」
 
 …これはチャンスか。新たな増員がフロアに下りて来る気配が無い事を確認した。現在、一階フロアには1000体もの魔物兵士が集まり、正面玄関を睨み、来たる襲撃に備えている。自分達に宣戦布告してきたあの騎士の部隊も居れば、全身が岩でできた人型…ゴーレム、そして獣人とでも言うのか、虎や山羊、狼を擬人化させたような男女の騎士も居る。全く、国際色豊かで結構である。

 その隙に階段を隠れながら登り、上階を目指した。
(魔王と言えば、最上階に居ると決まっている)
 …これで万一地下だったら、発狂する自信があるが。
 とにかく隠れてやり過ごした。魔物達は自分の様に隠れて侵入して来る人間を相手した経験は少ないらしく、子供騙しのように上階へと進み続けることができた。
 …ただし、魔物達の気配はこれまで倒して来たヘルハウンドやトカゲ男、ゴリラとは明らかに違っていた。下手に見つかり囲まれれば、今度こそダメだろう。

 それでも空が赤らみ始める頃、ようやく最上階へと辿り着いた。
 300メートル近い上り動作をさせられ、足は棒のようになり、喉も渇ききっていた。
(ある意味…これが最大のセキュリティーシステムだな…)
 身軽にするため、水すら持ってこなかった事を後悔した。階段を登り切った先に、どうやっているのか水が湧き出る、小さな噴水があった。が、どういう水か分からない以上、手を出すわけにもいかず、唾を飲み込んだ。

(とにかく…行こう)
 壁の陰からそのフロアで最も仰々しい扉を覗く。
 二体の、二メートル超えの屈強な衛兵が待ち構えている。
「勇者…いや…人か?」
 二人の衛兵は瞬時にこちらに気づき、鉤槍を構えながらも困惑した声を漏らす。
「…魔王に会いに来た。話がしたいだけだ」
「…貴様が!?」
「そうか、貴様が魔王様を洗脳した人間の術者か!おのれ、よくも!」

「洗脳だと…?」
 困惑するが、流石に話の流れは読めた。魔物達がいきり立っている時に魔王が停戦を命じたものだから、敵にたぶらかされた、という話になったのだろう。
 どの国、どの時代でも、往々にしてある事だ。
「…違う。洗脳などしてない!魔王は無駄な争いを好まないだけだ。頼むから、せめて取り次いでくれ」
「黙れ。貴様はここで討つ。…カロン様の元へ詫びに行くがよい!」
 二人の衛兵がにじり寄って来る。
「…警告はしたからな」
 騎兵刀を抜き、相対する。

 左からの刺突を斬り払い、右からの刺突をシールドで受け流しつつ懐に入り、投げ飛ばす。腕は離さず、そのまま圧し折った。ついでにもう片手も踏み抜く。
「ぐおおぉっ!」
 もう片方が突いてくるが、回し蹴りで払い、騎兵刀で小手を切り裂いた。
「ぐうぅうう!」
 衛兵の手は三分の二が切り抜かれ、辛うじて繋がっているだけだ。素早く回し蹴りで倒し、昏倒させた。腕を折った方も顔面に膝蹴りを入れ、意識を失わせた。倒れた二体の魔物の先に、見事な装飾を施された重厚な扉が待ち構えていた。

 扉を開け放つと、広い大部屋…ホールに出た。
 …巨大だ。大型の市民体育館…いや、それ以上か。 奥には玉座があり、その奥に更に部屋があるようだった。長大なカーテンは殆どが閉じられ、陽の光を絞っていた。
「な、何者だ!?」
 謁見の間を警備する侍女たちが剣や槍を構えて自分を取り囲む。
「魔王と話がしたい。通してもらおう」

「痴れ者が! また魔王様に良からぬ真似をしようというのか!」
「カロン様の仇!」
 繰り出される剣を避け様に回し蹴り。強かに鎧の胴部を蹴り上げ、獣人は気を失った。
 峰打ちでもう一人を気絶させた。しかし、その隙に兎の獣人が抜け出し、増援を呼びに階下へ走り去った。
「しまった…クソ…」
 射殺するのを躊躇ってしまった。仕方なく、残りの魔族騎士と斬り合う。
「魔王様をどうしようというのだ、卑劣な人間め!」
「ええい!分からず屋共め!魔王を信じられないのかよ!?」
「何だと、貴様!?云うに事欠いて…!」
 魔族騎士に腕を絡められ、投げられた。…上を取られた。

「うっ!?」
「でかした!待っていろ、今止めを刺す!」
 他の騎士が止めを刺そうと駆け寄って来る。
 だが、この手の組討ちへの対応は十分に習っている。自分の上にいる魔族の美人顔を観察する程度の余裕はあった。
(アイツもあと1000年したらこんな感じか…?)
 対して相手の騎士達はその訓練を受けていないらしい。自分の上に跨ったまま、ただ両手でこちらの首を押さえつけているだけだ。自由なままの足を思い切り起こし上げ、無防備に自分の腹の上に跨っている騎士の上体に組みつかせ、バネのように足腰の力で押し倒す。
「きゃっ!」
 頭を打ったのか、騎士は気を失った。
 残る二人を適当にいなし、後頭部にそれぞれ柄頭を叩き込む。それでようやく静かになった。…だが、じきに増援が雪崩れ込む。

「おい!何の騒ぎだ?まさか…」
 玉座の向こう…扉から声が聞こえた。
「魔王か!?」
「ダイス!?ダイスなのか! …おお、来てくれたか!」
 扉に駆け寄り、ドアノブに触れようとするが…まるでゲームの「禁止区域」のように手が触れられない。

「なんだ、このドアは…」
「ゼルネス…あの姦賊め!事もあろうに我が幻惑されたなどと奸計を…!」
「…わかった。危ないから離れていろ、魔王。ドアをぶち破ってやる」
 スキル発動。筋力アシスト機能フルモード〈注・マイクロモーター オーバーヒートに注意〉。
 スーツとメイルアーマーが限界までパンプアップする。騎兵刀が深紅の光に包まれた。 
〈注!アーマーが異常なエネルギー負荷を感知! 直ちにスキルを中止してください!〉

「…そうはいくかよ」
 アメコミのマッチョヒーローよろしく、全身をパンプアップさせ、騎兵刀でドアに切りかかった。
 …ダメだった。
「…!」
 ならばと周囲の壁を斬る。…これもダメだった。どうやっても、「禁止区域」に触れることができない。
〈注・SP残量:少〉
「…クソッ! ダメだ…触れられん」 
 
「…ダイスよ、まさかお前、一人で来たのか?」
「…そうだ。待ってろ、何か方法がある筈だ…」
「良い。それよりもダイス、ここから逃げろ。じきにこの術を使ったザルネスや、闘将バルべスらが精鋭を連れてここに来る。その前にお前だけでも逃げろ」
 
 そんな訳に行くか。絶対に出してやる。
「…それにしても…歴代の勇者ですら、一人でこの魔王の元に来た者は一人としていないのだぞ?…流石
、我が夫である!誇りに思え!」
 お前を連れ出すまでは行かないぞ。…絶対に退くものか。
「…命令だ、すぐに行け。この忌々しい術は…破りようが無い」
「…術者を殺れば消えるかもしれないだろ?」

「それはどうかな?」
 声に振り返ると、小柄な魔物を中心にして、フロアにいた屈強な魔物達が続々と駆けつけてきた。

「まさか一人でここに辿り着くとは…随分と無謀な勇者だ。…惜しむらくは、魔王様に幻惑の呪いを掛けるという卑劣千万な手段。…それは敬意に値しない。 …しかし、我らが偉大なる魔王様には指一本触れさせはせぬ。その結界は我が命が消えても魔王様をお守りし続けるのだ」
 子ども程の小柄な体を灰色のローブに包んだ、皴がれた声の魔物。 …どことなく饐えた臭いを感じた。

「何が偉大なる魔王様だ! てめーらの君主を監禁するとは。大した忠誠心だな、オイ?」
 一際立派な体躯を誇る魔物が微かに身じろぎし、視線を逸らした。他の魔物達も僅かに…しかし確実に動揺・逡巡している。
「たぶらかされるな!気をしっかりもて!お前達まで洗脳されて、一体誰が魔王様をお守りするというのだ!? バルべスよ、貴公が示しをつけずにどうする!? …カロン殿が見たらなんと思うか…」
「…ッ!」

「よくもぬけぬけと!不義の姦賊め!一体何が狙いだ!?我の魔力まで奪いおって…これは反逆だ!」
「おいたわしや…卑劣な術に冒され、心を乱されておられる…一刻も早くお救いせねば」

 バルべスが剣を抜き、大淵を指した。
「…行け!最後の勇者擬きを血祭りに上げ、魔王様をお救いしろ! …我が友への手向けだッ!」

「止めろーッ!」
 ドアの向こうで魔王が悲痛な声を上げた。

 千体もの魔物が広いホールにひしめき合い、津波となって押し寄せて来る。
 スキル…発動。全身が弱弱しく光に包まれる。
 〈SP・0〉
 騎兵銃で水平掃射。 多くの魔物を次々と撃ち抜いていくが、あっという間に弾を切らし、素早く弾倉交換。再び掃射。…再度、弾倉交換、掃射…スキル効果が切れた。
 豆鉄砲と化した騎兵銃を背負い、騎兵刀に持ち替える。迫ってきた巨サイのような重装兵の戦斧を避け、鎧ごと両断する。繰り出される腕を斬り払い、振り下ろされる剣ごと敵を斬り上げ…騎兵刀が折れた。
 バスタードソードに持ち替える。繰り出された槍を盾で防ぎ、剣で突き返して倒す。
「ォオオッ!」
 剣を一薙ぎして魔物を三体、胴切り。
 
 異様な光景だった。圧倒的な戦力差。 一粒の小石を濁流が飲み込むが、その小石が幾千度もの熱を発して周りの水を蒸発させ続けるかのような耐久。
 魔物達の勢いが削がれ、その濁流が弱まる。
 それでも舞うように剣を振るい、敵の命を貪り続ける一柱の鬼神。
 …最早人間の域ではない。
 
 バルべスは確信した。 …あの剛弓を放ったのはこの男だ。
 それは天敵…勇者の再臨そのものだった。
 僅か数分と掛からず、魔物達の三割近くが死傷し、濁流が途絶えかけた。
 剣を抜き払い、バルべス自ら突進した。

「闘将・バルべス。いざ参る!」

 バルべスの剣と鬼神の剣が切り結ぶ。
 魔物達が闘将の勇姿に歓声を上げる。
 鬼神の剛剣がバルべスの大剣に食い込む。切り払って別れたかと思うと、盛大な火花を散らし合いながら再び切り結び合う。
 二対の魔神が幾度となく剣を打ち鳴らした。その激しさに歓声を上げていた魔物達も次第に熱狂と歓喜が醒め、畏れへと変わっていく。
 
 二対の魔神は次元が違い過ぎた。…特に、人の姿をした鬼神は。
 バルべスの大剣が宙に舞った。その胸元に血飛沫が噴き出る。崩れ落ちる闘将の前に、鬼神が立っていた。

「…」
 戦意喪失し、その場に固まった魔物達には目もくれず、鬼神は玉座の先…王の部屋へと進んでいく。
〈注! 異常  ス ル(Revocation)〉
〈注! 状態・ 瀕死 〉
 そのままドアに辿り着くと、そのドアを難なく開いた。

「ダイス…?」
 魔王が目を瞬いて自分を見ている。だが、自分の意識は今にも飛びそうだった。
 恐ろしく眠い。体にはもう、力など入っていなかった。あの時…初陣の時より酷い…
 それでも、最後の気力を振り絞って…目の前の小さな顔…その頬に触れられた…
「大輔!? しっかりしろ!」
 そのまま意識は途絶えた。

 崩れ落ちてきた大淵を抱き留め、魔王は我に返った。
 魔物達は硬直している。ゼルネスも…下すべき指示を忘れている。
 今しかない。
 大淵を抱き締めたまま部屋を出る。生きるために最低限残されていた魔力を使い、謁見の間のステンドグラスを睨んだ。
「い、いかん!止めよ!魔王様をお止めせよッ!」
 我に返ったゼルネスが叫ぶ。遅れて魔物達が迫って来る。
 飛翔の魔術を使い、間一髪その手から逃れ…ステンドグラスを突き破った。
 赤みがかった夜空と月が広がっていた。魔力の残りの限り、城から離れようとした。
(樹海…!)
 既に魔力は生命維持に必要な分を削り始めていた。二人は森に向かって滑降していった。





 

 体の節々が、まるで筋肉痛のように痛む…所々に出血…。
 大淵大輔は顔を顰めながら起き上がった。
 (何が起こった…?)
 モンスターと必死に戦って、騎兵刀が折れた辺りまでは覚えているのだが…
 いや…そんなことはどうでもいい。

 魔王は?

 ハッとして周囲を見回した。少し離れた木の根元に、小さな体が倒れている。
 …自分のプレゼントした黒のドレスを着たまま。
「魔王!」
 ふらつきながら魔王の元へ駆け寄る。
「魔王、おい…おい!?」
 いくら揺さぶっても反応が無い。慌てて口元に耳を当ててみるが…呼吸を確認できなかった。
「…嘘だろ…?」
 恐る恐る、ステータスを見る。
 「魔王」(総ての人類の敵) (HP:14)(MP:5)
「…」
 大きく溜息を吐いて安堵した。とはいえ、危険な状態であることに違いは無い。これまで高すぎて感知できなかった数字が、たったのこれだけになってしまっているのだ。
 念の為、気を静めて自分のステータスも確認した。
(HP:20)(SP:0)
 自分も文字通り満身創痍だ。

 魔王を抱きかかえ、木の陰に横たえた。
 ここまで運んでくれたのは魔王だろう。樹海の近くに来てくれたおかげで、バイクもすぐに見つかる。

「…き、きひひひひ」
 か細いが、聞き慣れた笑い声。
「魔王…大丈夫か…!?」
 そっと魔王の元に駆け寄った。
「やってやったな…ダイス。よくぞ…私を姦賊の魔手から救い出した。…褒美をやらんとな。…何が良い」
「そうだな…どうやったらお前の魔力が回復するか教えてくれ」
「きひひ…欲の無い奴め…あの部屋にさえいなければ、じきに回復する。…安心せよ」
「良かった… 怪我は無いか?…お前がここまで運んで…守ってくれたんだろう?」
 そうでなければ魔王と離れて倒れている訳が無い。スキルでここまで飛び、地面に衝突したのだろう。
「良い。…移動せねばな。奴らが血眼になって探し始めるぞ」
「…ここでしばしお待ちください、美しい姫よ。すぐに我が黒馬を駆って戻ってきます故」
 殊更恭しく、宮廷風の辞儀をして見せた。
「…たわけ」
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