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66話 カウンターストライク
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リーデにある廃家屋の一つを借り受け、自分達の宿舎とした。…どうしてもと言って付いてきた香山と斎城が射方と浮田に指示を出しながら掃除をしていた。
それを尻目に大淵は宿舎を出て広場に向かった。
黒い甲冑の将兵…ブラックレオンの騎士団が、自分達と同じように民家を宿舎として整えていた。それを眺めていると背後から黒い甲冑を装備した騎士に呼びかけられた。
「大淵殿! 宿屋を指揮所としました。軍議を行いますので、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
既に場所は分かっている。騎士の案内を断って宿屋の一階ダイナーに幹部の将官らが何事か話し込みながら自分を待ち受けていた。
「部外者なのにわざわざ呼んでもらって感謝します」
「何を仰いますか。数々の武勲に陛下の親友ともあれば、大淵殿の意見も聞かぬわけには行きません。…早速始めさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうかな?」
「ええ、勿論」
勧められた椅子に座ると、司令部付きの騎士が紅茶を運んできてくれた。
「…今更説明も不要かとは思いますが、ご覧の通りリーデはこちらが使える唯一の営地にして、最も防御の弱い場所にあります。…すぐ下には海、あらゆる方角から見下ろされる低地にあるため、敵の飛び道具持ちには格好の的となるでしょう。…そこで、林と、牧畜を移動し終えた牧場に実戦経験豊富な隊を選び、前哨の部隊を配置しようと思います」
「それしかないでしょうな。…しかし林は潜むには有利ですが、野営地としては最悪です。林には俺が一人で潜みましょう」
「大淵殿にそんな真似をさせる訳には…」
「単独なら何とでもなります。簡易な拠点も備えておりますので、快適に過ごせます。…かつ、俺なら単騎でも、地の利を生かして百の兵と同じだけの仕事が出来る筈です。敵戦力を撹乱するのに打ってつけでしょう。…それより、シバ軍の侵攻ルートは…」
「敵が我がブレメルーダを望む為には、この東南に広く押し出すルボナ山が天然の要害となり、どうしてもこのリーデの前を通り、林を抜けなければなりません。この南…山岳からリーデの穏やかな海岸までの45度、南西の範囲が、敵の限られた侵攻ルートとなります」
「それでは、山岳にへばりついたこの林は俺に任せて下さい。牧場と、海岸線を望めるリーデはブラックレオンの諸隊でお願いします」
軍議を終え、宿舎に戻った。掃除を終え、メイルアーマーを着込んだ斎城達がガスコンロを置き、レトルトのカレーとパックご飯を人数分温め終えた所だった
「俺は林でターザンごっこしてるから、俺が戻るまではここの指揮は日菜子に任せる。…ヤバくなったら迷わず高機動車で全員を連れて逃げてくれ」
昼食の際、レトルトのカレーライスをかき込みながら大淵は言った。
元々、斎城や香山…近接戦を主とするメンバーに積極的な対人戦をさせるつもりは毛頭なかった。…浮田と射方には辛いかもしれないが、彼らに頑張ってもらう他ない。
「…危ない事しない?」
「しないしない。敵さんが来たら少ーしばかりお空を飛んでもらって、そのまま海水浴をしてもらうだけだ。あー、浮田、射方。斎城の言う事をよく聞くんだぞ。戦闘が始まったら庭先の石壁を盾にしながら味方に合わせて応戦してくれ。…味方に負傷者が出るかもしれないが、桜も無理するなよ。斎城が撤退を決めたらすぐに退却するんだ」
全員に一言ずつ言い置くと、バイクに跨って林へと向かった。
なるほど、作戦地図で見た通り、岩山にへばり着くように林があり、その向こう側にはリーデに向かってなだらかに下る草原地帯が南方から西方まで、砂浜を追い詰めるように続いていた。
前に羊が群れていた牧場の柵の中には兵用の天幕が樹林のように立ち並び、柵には矢避けの為の板が張り巡らされていた。…弓士による矢は到底防げないだろうが、目隠しとすることで標的を絞らせず、矢の勢いを削ぐことくらいはできるかもしれない。
大淵は収納から自身の寝床となる個人用テントを取り出し、茂みの陰に張った。 少し考えて、もう一度収納を開けた。
「すまんが、また貸し一つ頼む」
収納の中からアラクネを呼び出した。…以前の海戦後…またも忘れかけていた所、休暇前の海から呼びかけられていた。それ以降、特にアラクネも不満は無いという事で、大淵の収納で待機してもらっていた。
「とんでもない。お力になれて幸いです。…ついては丁度良いので、またアレを頂けると…」
「…わかった」
大淵は騎兵刀を抜いた。
その元刃で、自分の左手の親指と人差し指の合間を微かに傷付けた。赤い血が一筋流れた。
…二度目だが、どうにもこれは慣れない。貧血の気が無い訳でも無いので、アラクネに傷口を差し出すと顔を背けた。…傷口に柔らかな唇が吸い付いた。
「…ああ、なんて美味しい! …白の姉妹が知れば泣いて羨む事でしょうから、くれぐれもご内密に願います」
「…わざわざ人に自慢する事でもないしな」
血を吸われる音と感触に意識を向けないようにしつつ…それは自分達の味覚に例えるなら一体どんな味なのだろうか、などと素朴に思った。
ひとしきり…恐らくあの小さな口内に一口か二口分、大淵の血を味わった後、アラクネは傷口を舐めた。 便利な事に、それで傷が綺麗に塞がり、出血も止まる。…消毒しないまま傷口が塞がる事に衛生的な抵抗感は拭えないが、アラクネの唾液自体に人間のソレとは比べ物にならない強力な殺菌作用と治癒促進効果があるらしい。
「それじゃ、お前は樹上に潜んでいてくれ。俺が敵を叩きのめすから、そうしたら糸で拘束してしまえ」
「畏まりました」
心なしか肌のツヤが一層良くなったアラクネが樹上に登った。薄水色の体色は樹上の葉色の中では迷彩として今一つだろうが、目立つほどでもない。
…そもそも、アラクネを含めた味方から敵の目を引き付けるのは自分の仕事だ。
自分が敵であって、最強の海軍を持つリノーシュに喧嘩を売るだけ兵力に自信があるなら、ここは三正面で来るだろう。村と牧場の味方は敵から丸見えだ。この二つの勢力を抑えつつ、林を抜けて王国主力とリーデ防衛隊を分断する筈だ。…そんなことは敵も味方も全員が分かっていることだが、その補給線分断の鍵となる林に自分とアラクネが陣取っている事に意味がある。
…アラクネのHPは30000。樹上にいて、銃士や弓士の矢や銃弾では大した有効打にならない筈だ。アラクネ自体も相当な障害となるに違いない。何より、効率的に中距離の敵を拘束できるのはありがたい。
午後2時…偵察をしていた斥候の軽騎兵が二騎、声高に敵の接近と確認できた規模を上げながらリーデへと去っていった。それによると騎兵500、歩兵3000、弓士200、そして謎の攻城兵器らしきものが六台、という陣容だった。
…皆殺しにして済ませるのなら、200発もの銃弾を一度に発射できる5.56㎜ミニミがある。これを強化して使えば、最低でも150人はやれる。…更に地形破壊を気にしないなら、例の弓をバカスカ打ち込めば、ゲームよろしく無限ミサイルの代わりとなるだろう。 だがそれらは、最後の手段にしたい。
平原…緩やかな傾斜の頂上に何か見えたと思うと、それは黒々とした集団だった。
5.56㎜ミニミを木に立てかけ、空間から弓矢を取り出した。
それを加減して引き絞り、牧場へと向かおうとする敵軍団の前方に撃ち込んだ。
…我ながらはた迷惑な土埃が天高く舞い上がり、戦場全体に降り注いだ。半径百数十メートル、最深部は十メートル近いだろうか…途轍もないクレーターが出来上がった。さすがの騎兵でもこれは迂回したいだろう。
それ以前に敵軍団が慄き、軽いパニックに陥った。…身構えていた牧場の味方まで軽いパニックに陥ってしまった。
(…先に自分の能力を伝達しなかったから…)
己の迂闊さを悔やんだ。…これで万一、味方が更に混乱して敵に無意味に突っ込む…などという最悪の事態になったら、自分のせいだ。
だが幸いにも味方はすぐに冷静さを取り戻した。…オルカ勲章受章者の存在を思い出したのだろう。
敵軍は進路変更せざるを得なくなった。クレーターの中に入り込めばそれこそ自分達が潜れないもぐら叩きのように良い的になる。
迂回しようとした先にももう一発。土塗れになりながらも敵軍団の侵攻ルートは一ヶ所に絞られた。…そして、土埃を発生させた張本人である自分の姿を認めた。
弓を空間に戻し、ミニミを背負った。 更に、空間から風神騎槍を取り出した。
天の怒りか、と思う激震。そして大地を1アレディオ程もある大穴が穿たれた。
数メートル先の大穴を凝視しながら茫然自失から帰った騎兵大隊長・ロルディスは、全隊に迂回の号令を下した。…敵の前をターンしてから進むのでは、強盗がお行儀よくドアをノックして侵入を宣告するようなものだが、致し方ない。 …一体何が起きたのか考えるのは後だ。騎兵は一気呵成に強襲してこそ存在価値がある。 今度こそ大穴を迂回して、邪魔なあの牧場の敵を…
またも激震。行く手を塞がれ、馬が嘶いた。
(ええい、一体何なのだ!?何が起きている!?)
怒鳴り散らしたかったが、部下の前で指揮官が取り乱すのは敗北宣言と同じだ。…何があっても平然と、できれば微笑さえ浮かべて余裕を見せるのが上に立つ者の義務だ。…だが、今は引きつった真顔を維持するのが精一杯だった。
「大隊長殿、あれを!」
副官の騎兵が隣に駆け寄り、林を指さした。
…確かに、こうなってはもう迂回突撃どころでは無い。天災による作戦変更だ。林を抜け、この方面の進撃路を確保するしか…
…違う。副官が指さしたのは進撃路の事ではない。…確かに進撃方面ではあったが、人影があった。
…黒い騎槍を手に、見たことも無い奇怪な…仔馬のような物に跨った男。首には…赤いスカーフが微かな風を受けて靡いていた。
仔馬のような物がその大きさからは想像しがたい低い唸り声を上げながら近づいてくる。
…何者かは知らんが、騎兵大隊相手に痴呆した老騎士のように突進して来る。勇猛と言えば勇猛だが…あまりに無意味過ぎて、蛮勇ですらない。
…まさかあの男が…あの大穴を穿った訳ではあるまい。あれは人の業ならぬものだ。
「良いだろう、踏み潰せ!」
勇敢な死を遂げるが良い。
…こちらが一斉に突進すると今更臆したか、男と仔馬は進撃をゆるりと止め、亀のように後退り始めた。
「軟弱者め、もう遅いわ!」
苦笑しつつ、こちらもランスを突き出す。
…途端に、見えない壁に吹き飛ばされた。…ハーフアレディオ程も吹き飛ばされただろうか…宙に自分の体が頼りなく浮かび…急速に落下していく。
「ぐぉお!」
背中から落ち、衝撃で体が動かない。…どこか骨をやったか…!?
それでも意地で半身を起こすと、周囲には自分と同じように転がる騎士が何百といた。
馬たちは難を逃れていたが騎兵の手からも逃れ、生物の本能に従って逃げ出していた。
後方にいた騎兵たちもその多くが吹き飛ばされ、穴の中へと転がり落ちていた。…今は牧場側の敵兵に弓や銃を狙い澄まされ、武器を捨てて投降する他なかった。
無事に残ったのは大隊中、百人程度。たった一瞬の暴風で…
…この男が…?なら、先ほどの大地を穿った雷撃も?
「武器を捨てて投降しろ」
男が再び黒と金のランスを突きつけ、投降を促した。
たった一人の軍隊…一騎当千…
そんな言葉を思いながら、逡巡する部下達に投降を命じた。
…騎兵から三十分遅れて歩兵3000と弓士200が丘の上に姿を現した。動ける捕虜は全てアラクネに拘束され、リーデの村に引き渡してあった。…とても村には収容しきれないので、村の横に臨時の捕虜収容エリアを設け…野ざらしだが…そこで大人しくしてもらう他無かった。
…使者を殺そうとした相手に、村の前に置いて盾にしないだけ底抜けに人道的と言えよう。
大淵はバイクを唸らせ、斜面を駆けのぼっていった。…まさか捕虜が隣にいるのにリーデに矢を降らせはしないだろうが、牧場側は依然として防御が薄い。
(まずは弓士から片付けるか)
射かけられる矢を軽々と避けながら、相手を巻くように接近する。
ビシッ
エアガンで撃たれた程度の痛みをこめかみに受け、顔を顰めた。
…偏差射撃を行える腕の良い弓士も居る。ただ互いのステータスに圧倒的な開きがあって助かった。
「ってーな、この野郎ッ!」
十分に接近し、対の足を踏ん張ってバイクを止め、騎槍を構えた。
「K点ぶち抜いてテレマーク決めやがれ!」
200の弓士と巻き込まれた歩兵が数十人、坂の頂上から吹き飛ばされ、宙で手足を泳がせた。…三百メートルも飛んだだろうか…全員、そのまま海面にバシャバシャと落下していく。並の人間ならダメかもしれないが、ステータスと海水が命は助けてくれるだろう。…運が悪い奴もいるかもしれないが、こちとらそこまで面倒を見切れない。
…チャージまで一分五十秒…
こいつらは第一陣だろう…どれだけの長期戦になるか分からない以上、SPは可能な限り温存したい。
「…」
空間から「コレクション」の武器を幾つも取り出した。各種銃器、ツヴァイハンダー…
途端にステータス警告が飛び込んでくる。
〈汎用騎兵は二つ以上の刀剣・一つ以上の遠距離兵器を所持できません〉
無視して背中のミニミを身構えた。
〈ペナルティ発動中。多重装備過多により全ステータス、90%低下〉
ミニミが火を噴いた。
「ぐわぁあああ!?」
「いででででで!」
歩兵が逃げ惑った。余程痛いらしく、重歩兵まで武器を傘代わりにして一目散に逃げていった。
敵軍が押し合いへし合いしながら後退し、蜘蛛の子が散るように退散していく。
それでも向かってくる敵には武器を一つずつ収納に戻し、殺傷力を高めて再発射する。
…向かってくるものは居なくなったが、こちらも弾を切らしてしまった。
「これ、面倒くさいんだよな…えーと、まず上蓋を引っ張って開けて…アモ缶から弾帯を出して…」
自衛官に書いてもらった説明書と見合わせながら弾薬装填を始める。
…突如として訪れた静寂に敵軍も恐る恐る様子を覗っている。
『…大輔君、急に静かになったけど、そっちは大丈夫?』
斎城から通信が送られてきた。
「弓兵から矢を撃たれてこめかみにヒットしたけど傷一つねーよ。ここまで来たら俺の方がバケモンだよな」
「…そんな事言わないで」
「あー、すまん、冗談だ。まぁ、それだけ俺は不死身になりつつあるから、心配は御無用さ。今は敵さんと紳士的な休憩タイムを…」
弾帯を重ねるように弾倉ボックスに詰め込みながら斎城に応えていると、突如として轟音が鳴り響いた。
「……いやぁ~、頂けませんなぁ、頂けませんよ大淵様!?」
ルボナ山の高台でゼルネスに超高級ソファとトロピカルドリンク・アルコールまで用意し…例の銀色頭はと言うと岩肌に突き刺した自身のステッキの上で…気色悪く…身をくねらせて悶々としている。
ゼルネスは用意されたソファの上で、それを呆れ果てた目で見上げていた。
…どういう訳か、いくら質してもこの魔物は名だけは名乗らなかった。
『名など有って無きようなもの…お好きなようにお呼びください…タキシードマスク…シルバーボール…いや、より強くて高貴そうなゴールデンボール…ガプリンチョでもンジョロゲでもお好きなように』
…などと嘯かれて、もう本当にコイツの名などどうでも良くなった。
…仕方なくお前、と呼んでいるが、そうすると「長年連れ添った熟年夫婦のような素晴らしい響きですなぁ!…敢えて名を呼ばない愛を感じます、愛を!」などと言われ、心底辟易した。
…正直な所、もう大淵大輔も魔王もどうでもいい…ここにだって別に来たくは無かったのだが、「そんな引き籠り老人のような事を仰らないで下さい!」と強引に引きずり出されたのだ。
「無双して頂くのは結構ですが、そんな子供だましなスーパーマンのような戦い方が見たいのではありません!もっとダークヒーローな戦い方をして、血と戦いに酔って頂かないと、オーディエンスは満足しませんよ!?ねぇ、主殿!?」
…来た…頼むから話しかけないでくれ、と心底ウンザリしながら溜息を吐く。
「…何をしようと奴には通用せん。…前回のように人質でも取れれば…」
思わず応じてしまってゼルネスは顔を顰めた。
「ノンノン!主殿、アレは少なくとも大淵様に対しては全く持って逆効果の人質でした!…よろしいですか、主殿?主殿には経験が無いやもしれませんが、真の雄とは雌を守るために盾となる生物です。そ・れ・を・利用しなくては!」
「…だから奴は女を助けに来ただろう」
「ええ。しかしニュアンスが致命的に違うのです。あれは拉致役である主殿と大淵様の間に、フロイライン香山が挟まっているのです。…これでは雌の略奪です。これでブチ切れない雄は、雄ではありません。ですから前回、主殿は大淵様からのヘイトを一身に受け、危うくキューティーなダルマ人形にされる所でした」
忌々しい物言いに苦々しく思いながら顔を背けた。
「…そうですねぇ、しかしこのままでは大淵様があまりに面白くありませんので、例の秘密兵器を使っちゃいましょう。秘密兵器と料理対決は、後出しした側が勝つと決まっているのです!」
轟音に顔を上げると、敵の攻城兵器らしい物…扉付き下駄箱のロッカーの奥行きを長くしたような箱状の物を運んだ荷車が火を噴き終え、硝煙を吐いていた。
…自分を狙ったものではない。形状は…どこぞのミサイル馬鹿の国が騒ぎを起こす度に自衛隊で取り上げられる、あの対ミサイル兵器にも似ていないことも無い。
それが仰角を上げ、自分を飛び越えて放たれていた。
「…まさか…」
ミニミを構えたまま、大淵は無線を操作した。
「斎城、そっちは無事か!?」
『…変な矢…槍みたいな物が飛んできたの!…ここにも屋根を突き抜けて地面に刺さったけど、私達は全員無事!けど、あちこちで怪我した人が居て、今香山さんが手当てしに出て行った』
「…わかった。何かあったらまた教えてくれ」
「…ったく、あぶねーモン撃ちやがって」
…全ての武器を戻し、ペナルティを解除した上で迷わず攻城兵器全てに掃射。全てが木片と鉄のゴミと化した。 そのまま銃口を歩兵隊に向ける。
「…ブッダフェイスは終わりだ。 …命が惜しけりゃとっとと失せな。次は殺す」
偽り無い殺気を感じ取り、残った歩兵隊がすごすごと退却していった。
「…ン~!大淵様、甘い!いや、お優しすぎる!どうしてそんな素敵な暴力性をお持ちなのにそんなつまらない慈悲など固持されるのか全く理解できません! ねぇ、主殿!?」
「そ、そうだな…」
無視しても面倒になるので、ゼルネスは仕方なく苦々しく応じた。
「しっかしそんな所がまたいじらしく、お熱い漢でございます、大淵様!さすが、私めが見込んだ男。それではフィナーレに英雄らしく苦悩を味わって頂きましょう!」
『…大輔君、聞こえる!?なんだか変なの!できれば戻って来て!』
「ど、どうした斎城?敵なら今撤退…」
「さっきので怪我をした人たちが襲ってくるの!…す、すごく強い!香山さんも戻ってきたけど、私達じゃ全然敵わない!」
「ま、待ってろ、今行く!」
「ダイス様ぁ、ファイトでございますよ~!?」
奇怪な声に上を見上げると、奇妙な人影が杖の上で踊りながらワンツーパンチのジェスチャーをしていた。
「何なんだ、あのイカレ野郎は…!」
構っている暇は無かった。
バイクに跨り、リーデに向けて全速力で坂を下った。
それを尻目に大淵は宿舎を出て広場に向かった。
黒い甲冑の将兵…ブラックレオンの騎士団が、自分達と同じように民家を宿舎として整えていた。それを眺めていると背後から黒い甲冑を装備した騎士に呼びかけられた。
「大淵殿! 宿屋を指揮所としました。軍議を行いますので、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
既に場所は分かっている。騎士の案内を断って宿屋の一階ダイナーに幹部の将官らが何事か話し込みながら自分を待ち受けていた。
「部外者なのにわざわざ呼んでもらって感謝します」
「何を仰いますか。数々の武勲に陛下の親友ともあれば、大淵殿の意見も聞かぬわけには行きません。…早速始めさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうかな?」
「ええ、勿論」
勧められた椅子に座ると、司令部付きの騎士が紅茶を運んできてくれた。
「…今更説明も不要かとは思いますが、ご覧の通りリーデはこちらが使える唯一の営地にして、最も防御の弱い場所にあります。…すぐ下には海、あらゆる方角から見下ろされる低地にあるため、敵の飛び道具持ちには格好の的となるでしょう。…そこで、林と、牧畜を移動し終えた牧場に実戦経験豊富な隊を選び、前哨の部隊を配置しようと思います」
「それしかないでしょうな。…しかし林は潜むには有利ですが、野営地としては最悪です。林には俺が一人で潜みましょう」
「大淵殿にそんな真似をさせる訳には…」
「単独なら何とでもなります。簡易な拠点も備えておりますので、快適に過ごせます。…かつ、俺なら単騎でも、地の利を生かして百の兵と同じだけの仕事が出来る筈です。敵戦力を撹乱するのに打ってつけでしょう。…それより、シバ軍の侵攻ルートは…」
「敵が我がブレメルーダを望む為には、この東南に広く押し出すルボナ山が天然の要害となり、どうしてもこのリーデの前を通り、林を抜けなければなりません。この南…山岳からリーデの穏やかな海岸までの45度、南西の範囲が、敵の限られた侵攻ルートとなります」
「それでは、山岳にへばりついたこの林は俺に任せて下さい。牧場と、海岸線を望めるリーデはブラックレオンの諸隊でお願いします」
軍議を終え、宿舎に戻った。掃除を終え、メイルアーマーを着込んだ斎城達がガスコンロを置き、レトルトのカレーとパックご飯を人数分温め終えた所だった
「俺は林でターザンごっこしてるから、俺が戻るまではここの指揮は日菜子に任せる。…ヤバくなったら迷わず高機動車で全員を連れて逃げてくれ」
昼食の際、レトルトのカレーライスをかき込みながら大淵は言った。
元々、斎城や香山…近接戦を主とするメンバーに積極的な対人戦をさせるつもりは毛頭なかった。…浮田と射方には辛いかもしれないが、彼らに頑張ってもらう他ない。
「…危ない事しない?」
「しないしない。敵さんが来たら少ーしばかりお空を飛んでもらって、そのまま海水浴をしてもらうだけだ。あー、浮田、射方。斎城の言う事をよく聞くんだぞ。戦闘が始まったら庭先の石壁を盾にしながら味方に合わせて応戦してくれ。…味方に負傷者が出るかもしれないが、桜も無理するなよ。斎城が撤退を決めたらすぐに退却するんだ」
全員に一言ずつ言い置くと、バイクに跨って林へと向かった。
なるほど、作戦地図で見た通り、岩山にへばり着くように林があり、その向こう側にはリーデに向かってなだらかに下る草原地帯が南方から西方まで、砂浜を追い詰めるように続いていた。
前に羊が群れていた牧場の柵の中には兵用の天幕が樹林のように立ち並び、柵には矢避けの為の板が張り巡らされていた。…弓士による矢は到底防げないだろうが、目隠しとすることで標的を絞らせず、矢の勢いを削ぐことくらいはできるかもしれない。
大淵は収納から自身の寝床となる個人用テントを取り出し、茂みの陰に張った。 少し考えて、もう一度収納を開けた。
「すまんが、また貸し一つ頼む」
収納の中からアラクネを呼び出した。…以前の海戦後…またも忘れかけていた所、休暇前の海から呼びかけられていた。それ以降、特にアラクネも不満は無いという事で、大淵の収納で待機してもらっていた。
「とんでもない。お力になれて幸いです。…ついては丁度良いので、またアレを頂けると…」
「…わかった」
大淵は騎兵刀を抜いた。
その元刃で、自分の左手の親指と人差し指の合間を微かに傷付けた。赤い血が一筋流れた。
…二度目だが、どうにもこれは慣れない。貧血の気が無い訳でも無いので、アラクネに傷口を差し出すと顔を背けた。…傷口に柔らかな唇が吸い付いた。
「…ああ、なんて美味しい! …白の姉妹が知れば泣いて羨む事でしょうから、くれぐれもご内密に願います」
「…わざわざ人に自慢する事でもないしな」
血を吸われる音と感触に意識を向けないようにしつつ…それは自分達の味覚に例えるなら一体どんな味なのだろうか、などと素朴に思った。
ひとしきり…恐らくあの小さな口内に一口か二口分、大淵の血を味わった後、アラクネは傷口を舐めた。 便利な事に、それで傷が綺麗に塞がり、出血も止まる。…消毒しないまま傷口が塞がる事に衛生的な抵抗感は拭えないが、アラクネの唾液自体に人間のソレとは比べ物にならない強力な殺菌作用と治癒促進効果があるらしい。
「それじゃ、お前は樹上に潜んでいてくれ。俺が敵を叩きのめすから、そうしたら糸で拘束してしまえ」
「畏まりました」
心なしか肌のツヤが一層良くなったアラクネが樹上に登った。薄水色の体色は樹上の葉色の中では迷彩として今一つだろうが、目立つほどでもない。
…そもそも、アラクネを含めた味方から敵の目を引き付けるのは自分の仕事だ。
自分が敵であって、最強の海軍を持つリノーシュに喧嘩を売るだけ兵力に自信があるなら、ここは三正面で来るだろう。村と牧場の味方は敵から丸見えだ。この二つの勢力を抑えつつ、林を抜けて王国主力とリーデ防衛隊を分断する筈だ。…そんなことは敵も味方も全員が分かっていることだが、その補給線分断の鍵となる林に自分とアラクネが陣取っている事に意味がある。
…アラクネのHPは30000。樹上にいて、銃士や弓士の矢や銃弾では大した有効打にならない筈だ。アラクネ自体も相当な障害となるに違いない。何より、効率的に中距離の敵を拘束できるのはありがたい。
午後2時…偵察をしていた斥候の軽騎兵が二騎、声高に敵の接近と確認できた規模を上げながらリーデへと去っていった。それによると騎兵500、歩兵3000、弓士200、そして謎の攻城兵器らしきものが六台、という陣容だった。
…皆殺しにして済ませるのなら、200発もの銃弾を一度に発射できる5.56㎜ミニミがある。これを強化して使えば、最低でも150人はやれる。…更に地形破壊を気にしないなら、例の弓をバカスカ打ち込めば、ゲームよろしく無限ミサイルの代わりとなるだろう。 だがそれらは、最後の手段にしたい。
平原…緩やかな傾斜の頂上に何か見えたと思うと、それは黒々とした集団だった。
5.56㎜ミニミを木に立てかけ、空間から弓矢を取り出した。
それを加減して引き絞り、牧場へと向かおうとする敵軍団の前方に撃ち込んだ。
…我ながらはた迷惑な土埃が天高く舞い上がり、戦場全体に降り注いだ。半径百数十メートル、最深部は十メートル近いだろうか…途轍もないクレーターが出来上がった。さすがの騎兵でもこれは迂回したいだろう。
それ以前に敵軍団が慄き、軽いパニックに陥った。…身構えていた牧場の味方まで軽いパニックに陥ってしまった。
(…先に自分の能力を伝達しなかったから…)
己の迂闊さを悔やんだ。…これで万一、味方が更に混乱して敵に無意味に突っ込む…などという最悪の事態になったら、自分のせいだ。
だが幸いにも味方はすぐに冷静さを取り戻した。…オルカ勲章受章者の存在を思い出したのだろう。
敵軍は進路変更せざるを得なくなった。クレーターの中に入り込めばそれこそ自分達が潜れないもぐら叩きのように良い的になる。
迂回しようとした先にももう一発。土塗れになりながらも敵軍団の侵攻ルートは一ヶ所に絞られた。…そして、土埃を発生させた張本人である自分の姿を認めた。
弓を空間に戻し、ミニミを背負った。 更に、空間から風神騎槍を取り出した。
天の怒りか、と思う激震。そして大地を1アレディオ程もある大穴が穿たれた。
数メートル先の大穴を凝視しながら茫然自失から帰った騎兵大隊長・ロルディスは、全隊に迂回の号令を下した。…敵の前をターンしてから進むのでは、強盗がお行儀よくドアをノックして侵入を宣告するようなものだが、致し方ない。 …一体何が起きたのか考えるのは後だ。騎兵は一気呵成に強襲してこそ存在価値がある。 今度こそ大穴を迂回して、邪魔なあの牧場の敵を…
またも激震。行く手を塞がれ、馬が嘶いた。
(ええい、一体何なのだ!?何が起きている!?)
怒鳴り散らしたかったが、部下の前で指揮官が取り乱すのは敗北宣言と同じだ。…何があっても平然と、できれば微笑さえ浮かべて余裕を見せるのが上に立つ者の義務だ。…だが、今は引きつった真顔を維持するのが精一杯だった。
「大隊長殿、あれを!」
副官の騎兵が隣に駆け寄り、林を指さした。
…確かに、こうなってはもう迂回突撃どころでは無い。天災による作戦変更だ。林を抜け、この方面の進撃路を確保するしか…
…違う。副官が指さしたのは進撃路の事ではない。…確かに進撃方面ではあったが、人影があった。
…黒い騎槍を手に、見たことも無い奇怪な…仔馬のような物に跨った男。首には…赤いスカーフが微かな風を受けて靡いていた。
仔馬のような物がその大きさからは想像しがたい低い唸り声を上げながら近づいてくる。
…何者かは知らんが、騎兵大隊相手に痴呆した老騎士のように突進して来る。勇猛と言えば勇猛だが…あまりに無意味過ぎて、蛮勇ですらない。
…まさかあの男が…あの大穴を穿った訳ではあるまい。あれは人の業ならぬものだ。
「良いだろう、踏み潰せ!」
勇敢な死を遂げるが良い。
…こちらが一斉に突進すると今更臆したか、男と仔馬は進撃をゆるりと止め、亀のように後退り始めた。
「軟弱者め、もう遅いわ!」
苦笑しつつ、こちらもランスを突き出す。
…途端に、見えない壁に吹き飛ばされた。…ハーフアレディオ程も吹き飛ばされただろうか…宙に自分の体が頼りなく浮かび…急速に落下していく。
「ぐぉお!」
背中から落ち、衝撃で体が動かない。…どこか骨をやったか…!?
それでも意地で半身を起こすと、周囲には自分と同じように転がる騎士が何百といた。
馬たちは難を逃れていたが騎兵の手からも逃れ、生物の本能に従って逃げ出していた。
後方にいた騎兵たちもその多くが吹き飛ばされ、穴の中へと転がり落ちていた。…今は牧場側の敵兵に弓や銃を狙い澄まされ、武器を捨てて投降する他なかった。
無事に残ったのは大隊中、百人程度。たった一瞬の暴風で…
…この男が…?なら、先ほどの大地を穿った雷撃も?
「武器を捨てて投降しろ」
男が再び黒と金のランスを突きつけ、投降を促した。
たった一人の軍隊…一騎当千…
そんな言葉を思いながら、逡巡する部下達に投降を命じた。
…騎兵から三十分遅れて歩兵3000と弓士200が丘の上に姿を現した。動ける捕虜は全てアラクネに拘束され、リーデの村に引き渡してあった。…とても村には収容しきれないので、村の横に臨時の捕虜収容エリアを設け…野ざらしだが…そこで大人しくしてもらう他無かった。
…使者を殺そうとした相手に、村の前に置いて盾にしないだけ底抜けに人道的と言えよう。
大淵はバイクを唸らせ、斜面を駆けのぼっていった。…まさか捕虜が隣にいるのにリーデに矢を降らせはしないだろうが、牧場側は依然として防御が薄い。
(まずは弓士から片付けるか)
射かけられる矢を軽々と避けながら、相手を巻くように接近する。
ビシッ
エアガンで撃たれた程度の痛みをこめかみに受け、顔を顰めた。
…偏差射撃を行える腕の良い弓士も居る。ただ互いのステータスに圧倒的な開きがあって助かった。
「ってーな、この野郎ッ!」
十分に接近し、対の足を踏ん張ってバイクを止め、騎槍を構えた。
「K点ぶち抜いてテレマーク決めやがれ!」
200の弓士と巻き込まれた歩兵が数十人、坂の頂上から吹き飛ばされ、宙で手足を泳がせた。…三百メートルも飛んだだろうか…全員、そのまま海面にバシャバシャと落下していく。並の人間ならダメかもしれないが、ステータスと海水が命は助けてくれるだろう。…運が悪い奴もいるかもしれないが、こちとらそこまで面倒を見切れない。
…チャージまで一分五十秒…
こいつらは第一陣だろう…どれだけの長期戦になるか分からない以上、SPは可能な限り温存したい。
「…」
空間から「コレクション」の武器を幾つも取り出した。各種銃器、ツヴァイハンダー…
途端にステータス警告が飛び込んでくる。
〈汎用騎兵は二つ以上の刀剣・一つ以上の遠距離兵器を所持できません〉
無視して背中のミニミを身構えた。
〈ペナルティ発動中。多重装備過多により全ステータス、90%低下〉
ミニミが火を噴いた。
「ぐわぁあああ!?」
「いででででで!」
歩兵が逃げ惑った。余程痛いらしく、重歩兵まで武器を傘代わりにして一目散に逃げていった。
敵軍が押し合いへし合いしながら後退し、蜘蛛の子が散るように退散していく。
それでも向かってくる敵には武器を一つずつ収納に戻し、殺傷力を高めて再発射する。
…向かってくるものは居なくなったが、こちらも弾を切らしてしまった。
「これ、面倒くさいんだよな…えーと、まず上蓋を引っ張って開けて…アモ缶から弾帯を出して…」
自衛官に書いてもらった説明書と見合わせながら弾薬装填を始める。
…突如として訪れた静寂に敵軍も恐る恐る様子を覗っている。
『…大輔君、急に静かになったけど、そっちは大丈夫?』
斎城から通信が送られてきた。
「弓兵から矢を撃たれてこめかみにヒットしたけど傷一つねーよ。ここまで来たら俺の方がバケモンだよな」
「…そんな事言わないで」
「あー、すまん、冗談だ。まぁ、それだけ俺は不死身になりつつあるから、心配は御無用さ。今は敵さんと紳士的な休憩タイムを…」
弾帯を重ねるように弾倉ボックスに詰め込みながら斎城に応えていると、突如として轟音が鳴り響いた。
「……いやぁ~、頂けませんなぁ、頂けませんよ大淵様!?」
ルボナ山の高台でゼルネスに超高級ソファとトロピカルドリンク・アルコールまで用意し…例の銀色頭はと言うと岩肌に突き刺した自身のステッキの上で…気色悪く…身をくねらせて悶々としている。
ゼルネスは用意されたソファの上で、それを呆れ果てた目で見上げていた。
…どういう訳か、いくら質してもこの魔物は名だけは名乗らなかった。
『名など有って無きようなもの…お好きなようにお呼びください…タキシードマスク…シルバーボール…いや、より強くて高貴そうなゴールデンボール…ガプリンチョでもンジョロゲでもお好きなように』
…などと嘯かれて、もう本当にコイツの名などどうでも良くなった。
…仕方なくお前、と呼んでいるが、そうすると「長年連れ添った熟年夫婦のような素晴らしい響きですなぁ!…敢えて名を呼ばない愛を感じます、愛を!」などと言われ、心底辟易した。
…正直な所、もう大淵大輔も魔王もどうでもいい…ここにだって別に来たくは無かったのだが、「そんな引き籠り老人のような事を仰らないで下さい!」と強引に引きずり出されたのだ。
「無双して頂くのは結構ですが、そんな子供だましなスーパーマンのような戦い方が見たいのではありません!もっとダークヒーローな戦い方をして、血と戦いに酔って頂かないと、オーディエンスは満足しませんよ!?ねぇ、主殿!?」
…来た…頼むから話しかけないでくれ、と心底ウンザリしながら溜息を吐く。
「…何をしようと奴には通用せん。…前回のように人質でも取れれば…」
思わず応じてしまってゼルネスは顔を顰めた。
「ノンノン!主殿、アレは少なくとも大淵様に対しては全く持って逆効果の人質でした!…よろしいですか、主殿?主殿には経験が無いやもしれませんが、真の雄とは雌を守るために盾となる生物です。そ・れ・を・利用しなくては!」
「…だから奴は女を助けに来ただろう」
「ええ。しかしニュアンスが致命的に違うのです。あれは拉致役である主殿と大淵様の間に、フロイライン香山が挟まっているのです。…これでは雌の略奪です。これでブチ切れない雄は、雄ではありません。ですから前回、主殿は大淵様からのヘイトを一身に受け、危うくキューティーなダルマ人形にされる所でした」
忌々しい物言いに苦々しく思いながら顔を背けた。
「…そうですねぇ、しかしこのままでは大淵様があまりに面白くありませんので、例の秘密兵器を使っちゃいましょう。秘密兵器と料理対決は、後出しした側が勝つと決まっているのです!」
轟音に顔を上げると、敵の攻城兵器らしい物…扉付き下駄箱のロッカーの奥行きを長くしたような箱状の物を運んだ荷車が火を噴き終え、硝煙を吐いていた。
…自分を狙ったものではない。形状は…どこぞのミサイル馬鹿の国が騒ぎを起こす度に自衛隊で取り上げられる、あの対ミサイル兵器にも似ていないことも無い。
それが仰角を上げ、自分を飛び越えて放たれていた。
「…まさか…」
ミニミを構えたまま、大淵は無線を操作した。
「斎城、そっちは無事か!?」
『…変な矢…槍みたいな物が飛んできたの!…ここにも屋根を突き抜けて地面に刺さったけど、私達は全員無事!けど、あちこちで怪我した人が居て、今香山さんが手当てしに出て行った』
「…わかった。何かあったらまた教えてくれ」
「…ったく、あぶねーモン撃ちやがって」
…全ての武器を戻し、ペナルティを解除した上で迷わず攻城兵器全てに掃射。全てが木片と鉄のゴミと化した。 そのまま銃口を歩兵隊に向ける。
「…ブッダフェイスは終わりだ。 …命が惜しけりゃとっとと失せな。次は殺す」
偽り無い殺気を感じ取り、残った歩兵隊がすごすごと退却していった。
「…ン~!大淵様、甘い!いや、お優しすぎる!どうしてそんな素敵な暴力性をお持ちなのにそんなつまらない慈悲など固持されるのか全く理解できません! ねぇ、主殿!?」
「そ、そうだな…」
無視しても面倒になるので、ゼルネスは仕方なく苦々しく応じた。
「しっかしそんな所がまたいじらしく、お熱い漢でございます、大淵様!さすが、私めが見込んだ男。それではフィナーレに英雄らしく苦悩を味わって頂きましょう!」
『…大輔君、聞こえる!?なんだか変なの!できれば戻って来て!』
「ど、どうした斎城?敵なら今撤退…」
「さっきので怪我をした人たちが襲ってくるの!…す、すごく強い!香山さんも戻ってきたけど、私達じゃ全然敵わない!」
「ま、待ってろ、今行く!」
「ダイス様ぁ、ファイトでございますよ~!?」
奇怪な声に上を見上げると、奇妙な人影が杖の上で踊りながらワンツーパンチのジェスチャーをしていた。
「何なんだ、あのイカレ野郎は…!」
構っている暇は無かった。
バイクに跨り、リーデに向けて全速力で坂を下った。
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