龍血の系譜

盤上の観察者

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神話の世界

見誤り

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 数十メートル後方の土手に叩きつけられたシンジが、土煙を払ってゆっくりと立ち上がる。

「……来たか、まあよい」

 大気を震わせる重低音。
 次の瞬間、空を覆っていた巨大なブラックドラゴンの質量が、音もなく一点へと極限まで圧縮されていく。
 爆発も、閃光もない。ただ純粋な『漆黒』が凝縮し、瞬時に人間のシルエットを形作った。
 王の人間形態へのトランスフォーム。その手には、光すら吸い込むような暗黒の長剣が握られている。

 シンジは低く身を沈め、静かに息を吐き出した。
 漆黒の瞳の奥に、研ぎ澄まされた光が宿る。『心眼』。
 世界から一切のノイズが消え去り、王の肉体が放つ力の奔流と、次に描かれるであろう無数の剣の軌跡が、可視化された線となってシンジの脳内に浮かび上がる。

 ――ドンッ!

 シンジの姿がブレた。
 音速を超えた踏み込み。心眼が導き出した、王の防御の完全な『死角』を貫く、神速の一撃。

 ガキンッ!!

 だが。
 シンジの刃は、王の首筋に届く数ミリ手前で、完全に弾き返されていた。
 王は一歩も動いていない。
 ただ、手首のわずかな返しだけで、心眼の捉えた絶対の軌道をいとも容易く凌駕したのだ。

 純粋な剣技。
 そこに力任せの暴力はない。
 互角、いや、それ以上。
 無数の次元で闘争を重ねてきたのであろう、次元の違う剣の理(ことわり)がそこにあった。

 二度、三度と空気が爆発し、火花が散る。
 幾度打ち合おうとも、刃は届かない。一進一退に見える攻防の中で、確実にシンジの体力が削り取られていく。

(……あの黒い戦士ほどではないな)
 いとも容易くシンジの連撃を捌きながら、王は無表情のまま内心で吐き捨てた。
(見誤ったか……)
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