ある冬の夜

浅野浩二

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ある冬の夜(心境小説)

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少年は本屋に入った。
宜保愛子氏の本が三冊あった。
手にとって思わず、笑ってしまった。
大槻教授が、ムキになって、批判していたが、これはこれで、面白いのではないか。
宜保愛子氏が意外と人がいいことが、わかった。
本屋を出た。暴走族がブンブンいわせながら、走っていた。
眠そうな目の、すかいらーく、へ入った。
海老と蟹のドリア、と、ミルクティー、を注文し、ハフハフいいながら、食べた。
そして、二日かけて、書いた、ミサちゃん、への、ラブレターを清書した。
でも、寒さのためか、上手く手が動かなかったので、それは、明日、やることにした。
時計を見ると、11時だった。
少年は片手をポケットに、突っ込んで、自転車を走らせた。
レジャープールが見える。
冬の夜、見る、プールのスライダーは、虚しい。
少年は、ふと思った。
来年の夏、あの子(ミサちゃん)、と一緒に、このプールに来よう。
少年は、想像した。
雲一つない、夏の日に、二人で、手をつないで、笑いながら、ブールサイドを歩いている二人を。
あの子には、黄色地に、水玉模様の、かわいい、ビキニを着せて、少し恥ずかしがらせて。
少年は、畝傍山を見て思った。
この形、どこかで見たことがあるぞ。
そうだ。小学校を過ごした埼玉県に似ているんだ。
少年は、常日頃から、小説を書きたいと思っていた。人の心を和らげるような小説を。寡作ではあったが、いくつか、小説を書いていた。少年は、いつも、とりとめのないことを、考えてしまうタイプだった。
でも、小説を書くためには、もっと心を外に向けなくては。
山の麓に、ポツンと、一軒、電灯がついている。
あそこに住んでいる人は、さびしいだろうな。と思った。
いや、違う。季節がさびしいんだ。もう、10月の下旬。もうすぐ冬だ。
今、見るものは、何でも、さびしく見えてしまう。
道路の脇は、畑かな、と思ったら、それは、刈り入れが終わった後の、田んぼ、だった。
少年は、ふと、一見、変わった家があるのに気がついた。一階は無く、二階が、20畳くらいの、建築中の家だった。少年は、ふと、ブレーキをかけて、その家に入ってみた。
何だか、いつもと、違って、感心が外に向かっている。
少年は、悪戯っぽい性格で、前にも、キーのついた、125ccのバイクを見つけて、夜、こっそりと乗って、元の所にもどしておいたりしたこともあった。
3回目に、たぶん、バイクの持ち主の、奥さん、に、見つかって、注意されたこともあった。
少年は、建築中の家に入ってみた。一階は、車の車庫にするつもりかしらん。
鍵はかかっていなかった。まだ、建てたばかりで、内装、は、されていなかった。
新しい木の匂い、がする。部屋の四方とも、大きなガラス窓で、景色がいい。
何の建物かは、わからない。ここに住んでみたいな、と思った。
道路が近いので、住んだら、ちょっと、うるさいだろう。
少年は、家を出た。カンカン、と、階段の乾いた音がする。これは、ちょっと、以前、読んだ、芥川賞受賞作家の、小川洋子さんの、「チョコレート工場」、の場面みたいだ。あの子(ミサちゃん)、と、住んでみたい気がした。
自転車を走らせた。24号線が見えてきた。文喜堂は、まだ、やっていて、ネオンがついている。少年は、ローソン、へ、今、冷蔵庫が、カラッポだから、何か、飲み物を買っておこうと思って入った。少年は、キャロット&フルーツジュースを、三つ、買った。
ローソンの中にある、鏡を見たら、羊の皮の、皮ジャンが、結構、似合っていて、嬉しくなった。
少年は、前から、松田優作の皮ジャン姿に憧れていて、二週間ほど前に、店じまいの、洋服屋で、1万9千円、の結構、気に入った、皮ジャン、があったので、買ったのだ。でも考えてみると、あの店は、一年前から、いっつも、「店じまい、売り尽くしセール」、をやっているぞ。レジに向かう途中、いつもは、あんまり見ない、コンビニの、書棚を見たら、一冊の本が目にとまった。「高校教師」、とある。少年は、本をとって、目次を見た。そしたら、それは、二週間前に、ビデオで観た、TBSの、「高校教師」、の小説版だとわかった。
少年は、それを買うことにした。実を言うと、少年は、四カ月前に、「高校教師」、というタイトルの原稿用紙82枚の小説を、初めて、小学館の、「パレット」、に投稿したのだった。
内容は、女子校に転勤してきた、男の新米教師と、一人の女生徒、のラブコメディー、だった。少年は、ローソンを出た。少年は、自分の書いた、小説、と、ビデオの「高校教師」、について考えた。というより、思考が、少年の頭の中に流れた。少年は、その小説を書いた時、そのビデオを故意に見なかった。というのは、そのビデオも、女子校へ転勤してきた新米教師と一人の女生徒、という同じ設定だったからだ。そのビデオを観たら、きっと、何か影響を受けてしまいそうな気がして、こわかったからだ。少年は、自分の感性をあらわしたかったからだ。投稿してから、かなりして、ビデオを観た。ビデオは、ビデオで、結構、良く出来ていて、かわいい、と思う所が多かった。思ったより純粋で、かわいいものだった。
だが、一部は、ちょっと、ストーリーに無理があった。少年は、レンタルビデオ屋の前を通った。夢野久作の、小説の、ビデオ、「ドグマ・マグラ」、を借りてダビングしようかと思ったが、やっぱりやめにした。右手にモーテルの四階建ての、看板のための、柱だけの塔が見える。いつも見ているものだった。だが少年は、今の、悪戯な気分なら、あの塔に登れる、と思った。今しかない。と思って、塔へ向かった。それは、何か、ブルース・リーの、「死亡遊戯」、を連想させた。少年は、塔の前に自転車を止めて、忍び足で、階段を登った。
いつも、いつか登ってみたい、と思っていた。それは、四階まで、階段があったが、外から見るのと、違って、もう三階は、手すり、の階段だった。少年は、屋上からなら、眺めがいいだろうと思っていたのだ。塔を降りて、橿原神宮へ向かう24号線へ出た。
以前、この道を、友達に借りた、ナナハン、で、夜とばしたことを思い出して、少年は、おかしくなった。少年は、中型二輪の免許しか、持っていなかった。少年は、秋のさびしい夜に、こんな、とりとめのないことを、考えている自分が妙におかしくなった。孤独であるということが、一人で生きているということが、自分で、おかしく思えてきた。また、それは、客観的に、見た場合、おもしろく見えるような気がしてきた。少年は、自動販売機で、温かい、缶コーヒー、を買った。110円、チャリン、チャリン、と入れた。
ブー、ガタン、という音がして、缶コーヒー、が出てきた。
その刹那、少年に、ふと面白いこと、が、思いついた。
梶井基次郎の小説、「檸檬」、が頭に浮かんだ。
あの透き通った軽やかな感覚が今の自分にはある。
彼が丸善のデパートに檸檬を置いてきたように、今の感覚を、そのまま、書いたら、ちょっとした私小説が書けるぞ。少年は、今の感覚が消えて無くなってしまわないよう、急いで、自分のアパートへと自転車を走らせた。
電気のついている自分の部屋が見えた。
いつもと違って、あの、ごっちゃ、の部屋が、「男おいどん」、の四畳半のように、生き物であるかのように、少年の帰りを待っていてくれるような気がした。
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