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転校生
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ある学校のことです。その学校に一人の転校生が来ました。壇上で先生が、皆に彼女を紹介すると、彼女は小さな声で、「香取美奈子です。よろしく」と挨拶しました。彼女の瞳には不可思議な神秘的な輝きがありました。彼女の体からは、何か見えない光が放たれているかと思われるほど、彼女には何か強い存在感がありました。彼女はおとなしそうに席につきました。彼女は時々、教室の窓から空を見ていました。彼女は自分からは友達をつくろうとしないので、いつも一人でいました。彼女は控え目な性格でしたが、先生が難しい質問を出して誰も答えられないと、美奈子がそっと手を上げて正解を答えました。どの科のどんなに難しい質問でも彼女は正解を答えられました。
彼女の隣の席の生徒が彼女に、わからないところを質問しました。
「どうしてそんなに勉強がわかるの?」
美奈子は微笑して、
「私は魔法使いだから」
と言いました。それがクラスにひろがって、彼女は魔法使い、とうわさされるようになりました。中間テストで彼女は学校で一番の成績でした。でも昼休みも彼女は空をじっと見ているだけで、ガリ勉、というのでもありません。それまで、学内ではいつもトップだった秀才の田代よりずっと高い成績でした。田代は生まれついての秀才の自負によって、勉強だけは誰にも負けない自信がありました。彼は口惜しくって仕方がありません。田代は家でも学校でも、誰にも負けないくらい一生懸命勉強していましたし、結果として事実、彼は学内で一番でした。田代は香取がどうも気になりだしました。もちろん、それまで学科の成績ではクラス一、だという自負が、彼女に負けたことの口惜しさ、ではありましたが、もう一つ、どうして彼女は勉強しないのに自分よりよく出来るのか、という疑問からです。彼女が自分のことを魔法使いだ、などという事を、はじめは笑っていましたが、事実、彼女はろくに勉強している様子もないのに、学内で一番の成績なのです。ある時、田代は彼女に、
「放課後、話したいことがあるから、のこっててくれ」
と言いました。さて、その日の放課後のことです。もうみんな帰ってしまって誰もいない教室に田代が行くと、彼女が一人、ポツンと自分の席に座っています。彼女は田代に黙って顔を向けて、静かな微笑で田代を見ました。
「なあに。田代君。用って?」
何か霊波のようなものを発しているような感覚を田代は彼女から感じました。田代は宇宙人だの、魔法使いだのといったものは毛嫌いして毛頭信じていなかったので、彼女が自分のことを魔法使いだ、などということが許せませんでした。田代は彼女の前に座ると、彼女に怒鳴るように、
「やい。おまえは自分のことを魔法使いだ、などと言うが、それなら本当に魔法を見せてみろ」
と言いました。すると彼女は微笑んで、
「なら私の魔法を見せましょう。でも私の魔法をみるためには少し、私の指示に従ってくれなくては出来ません」
田代は彼女の言う魔法のインチキさを証明したくて仕様がなかったので、何でも指示に従う、と言いました。すると彼女は微笑んで、立ち上がって田代の前に立ちました。彼女は田代に正しい姿勢で座るように言いました。田代がそうすると、彼女は満足したように、今度は目をつぶって、体を動かさないでじっとしているように言いました。田代は目をつぶりました。彼女は田代に、
「あなたを鳥でも魚でも何でも好きなものにしてみせましょう。何になりたいですか?」
と聞きました。田代はつくづくばかばかしいと思ったので、
「何でも君の好きなものにしてくれ」
と言いました。目をつぶってじっとしていると彼女が肩に手をかけてきました。触れているだけなのに、だんだんとその力が強くなっていくような気がしてきました。そしてついに全身が強い力で押さえつけられているような感覚になってしまいました。気づくと田代は、「右手がひざから離れなくなる」という彼女の声だけが聞こえました。彼女は何度もその言葉を繰り返します。すると田代は、自分の右手がだんだんと、そしてついに石のように重く硬くなってしまっているのを感じました。離そうとしても、どうしても離れません。彼女は同様に左手にも同じようなことを言いました。すると、左手も同じように動かなくなってしまいました。そしてついに、「体が石になる」という彼女の暗示の言葉で、彼は自分の体がまったく動かせない状態になってしまいました。いくらあせっても、体がまったく動きません。
彼女は、夜、寝床に入る時とか、春の昼、うつらうつらと居眠りしている時、というように具体的な状況を言います。すると本当にその場面が見えてきます。それから彼女は、哀しい場面やうれしい場面・・・などと言うと彼は、その場面を見て、心から感じて本当に哀しくなって泣いたり、うれしくなって笑ったりしました。彼女が田代に鳥になって大空を上昇気流に乗って飛んでいることを彼に言うと、彼は、鳥になって上昇気流に乗って飛んでいる自分に気づきました。校庭でひとり鳥となって飛んでいるのを彼女がじっと見ているのです。
「ああ。彼女がいつもじっと空を見ていたのはこうなった俺を見ていたのだ」
クラスではみんなが授業を受けています。でも自分はもう鳥となって空を舞うしかないのです。
「こんなのはいやだ。僕は人間に戻りたい」
でも彼女は田代を微笑んでじっと見ているのです。田代は教室の窓から鳥となって空を舞っている自分を見ている彼女に心から、人間に戻れるよう哀願しました。すると彼女は、
「一、二、三」
と言って手を強く打ちました。誰もいない教室に彼女が前でひとり微笑んでいます。田代はくたくたに疲れていました。ただ自分が人間に戻れたことに何より安心を感じました。
「どう。鳥になれたでしょ」
「やっぱり君は魔法使いだ」
田代は逃げるように教室を去りました。それからも彼女は相変わらず、物静かな生徒で、時々、教室の窓から空を見ています。田代は彼女に頭が上がらなくなりました。彼女は本当に魔法使いなのかもしれません。
彼女の隣の席の生徒が彼女に、わからないところを質問しました。
「どうしてそんなに勉強がわかるの?」
美奈子は微笑して、
「私は魔法使いだから」
と言いました。それがクラスにひろがって、彼女は魔法使い、とうわさされるようになりました。中間テストで彼女は学校で一番の成績でした。でも昼休みも彼女は空をじっと見ているだけで、ガリ勉、というのでもありません。それまで、学内ではいつもトップだった秀才の田代よりずっと高い成績でした。田代は生まれついての秀才の自負によって、勉強だけは誰にも負けない自信がありました。彼は口惜しくって仕方がありません。田代は家でも学校でも、誰にも負けないくらい一生懸命勉強していましたし、結果として事実、彼は学内で一番でした。田代は香取がどうも気になりだしました。もちろん、それまで学科の成績ではクラス一、だという自負が、彼女に負けたことの口惜しさ、ではありましたが、もう一つ、どうして彼女は勉強しないのに自分よりよく出来るのか、という疑問からです。彼女が自分のことを魔法使いだ、などという事を、はじめは笑っていましたが、事実、彼女はろくに勉強している様子もないのに、学内で一番の成績なのです。ある時、田代は彼女に、
「放課後、話したいことがあるから、のこっててくれ」
と言いました。さて、その日の放課後のことです。もうみんな帰ってしまって誰もいない教室に田代が行くと、彼女が一人、ポツンと自分の席に座っています。彼女は田代に黙って顔を向けて、静かな微笑で田代を見ました。
「なあに。田代君。用って?」
何か霊波のようなものを発しているような感覚を田代は彼女から感じました。田代は宇宙人だの、魔法使いだのといったものは毛嫌いして毛頭信じていなかったので、彼女が自分のことを魔法使いだ、などということが許せませんでした。田代は彼女の前に座ると、彼女に怒鳴るように、
「やい。おまえは自分のことを魔法使いだ、などと言うが、それなら本当に魔法を見せてみろ」
と言いました。すると彼女は微笑んで、
「なら私の魔法を見せましょう。でも私の魔法をみるためには少し、私の指示に従ってくれなくては出来ません」
田代は彼女の言う魔法のインチキさを証明したくて仕様がなかったので、何でも指示に従う、と言いました。すると彼女は微笑んで、立ち上がって田代の前に立ちました。彼女は田代に正しい姿勢で座るように言いました。田代がそうすると、彼女は満足したように、今度は目をつぶって、体を動かさないでじっとしているように言いました。田代は目をつぶりました。彼女は田代に、
「あなたを鳥でも魚でも何でも好きなものにしてみせましょう。何になりたいですか?」
と聞きました。田代はつくづくばかばかしいと思ったので、
「何でも君の好きなものにしてくれ」
と言いました。目をつぶってじっとしていると彼女が肩に手をかけてきました。触れているだけなのに、だんだんとその力が強くなっていくような気がしてきました。そしてついに全身が強い力で押さえつけられているような感覚になってしまいました。気づくと田代は、「右手がひざから離れなくなる」という彼女の声だけが聞こえました。彼女は何度もその言葉を繰り返します。すると田代は、自分の右手がだんだんと、そしてついに石のように重く硬くなってしまっているのを感じました。離そうとしても、どうしても離れません。彼女は同様に左手にも同じようなことを言いました。すると、左手も同じように動かなくなってしまいました。そしてついに、「体が石になる」という彼女の暗示の言葉で、彼は自分の体がまったく動かせない状態になってしまいました。いくらあせっても、体がまったく動きません。
彼女は、夜、寝床に入る時とか、春の昼、うつらうつらと居眠りしている時、というように具体的な状況を言います。すると本当にその場面が見えてきます。それから彼女は、哀しい場面やうれしい場面・・・などと言うと彼は、その場面を見て、心から感じて本当に哀しくなって泣いたり、うれしくなって笑ったりしました。彼女が田代に鳥になって大空を上昇気流に乗って飛んでいることを彼に言うと、彼は、鳥になって上昇気流に乗って飛んでいる自分に気づきました。校庭でひとり鳥となって飛んでいるのを彼女がじっと見ているのです。
「ああ。彼女がいつもじっと空を見ていたのはこうなった俺を見ていたのだ」
クラスではみんなが授業を受けています。でも自分はもう鳥となって空を舞うしかないのです。
「こんなのはいやだ。僕は人間に戻りたい」
でも彼女は田代を微笑んでじっと見ているのです。田代は教室の窓から鳥となって空を舞っている自分を見ている彼女に心から、人間に戻れるよう哀願しました。すると彼女は、
「一、二、三」
と言って手を強く打ちました。誰もいない教室に彼女が前でひとり微笑んでいます。田代はくたくたに疲れていました。ただ自分が人間に戻れたことに何より安心を感じました。
「どう。鳥になれたでしょ」
「やっぱり君は魔法使いだ」
田代は逃げるように教室を去りました。それからも彼女は相変わらず、物静かな生徒で、時々、教室の窓から空を見ています。田代は彼女に頭が上がらなくなりました。彼女は本当に魔法使いなのかもしれません。
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