【ひっそり】たたずむ効果屋さん

龍尾

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コラジオ(1-1)

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「ふぁーあ。今日も清掃の依頼一つやっただけの日銭稼ぎで終わっちまったなぁ。いつになったら、俺っち達は貧民街から出られるのかね」

 欠伸を噛み殺して、一人の青年が小銭の入った袋を弄びながら貧民街を歩く。倉庫清掃を終えてきたばかりの青年は身体中が埃まみれになっていた。だが、青年は着替える服を買う余裕もない。

 物心ついた頃には貧民街にいた青年は、雑用をこなすことで得られる僅かな賃金だけでどうにか生活していた。

「他の奴らも何かしらで稼いでくるだろうけど、金は貯まらないだろうしなぁ」

 一人愚痴を零しながら、青年は貧民街の路地裏にある仲間達と作った隠れ家へ帰り着く。

「おっ、戻ってきたか。お前がコラジオか?」

「なんだお前ら。確かに俺っちは、コラジオだけど……」

 ボロ布で隠された入り口に入った瞬間、突然見知らぬ男達に声をかけられたコラジオは怪訝な顔をして隠れ家の中を見回した。荒らされた隠れ家の惨状と男達の冒険者らしい風貌に、コラジオは不穏な気配を察知する。

「お前が宝石店で盗みを働いたという証言があったんだ。俺達の雇い主もキレちまってなぁ。手足切り落として連れて来いって言われてんだ」

「いや、俺っちはそんなこと……。何かの間違いだ!」

 憶えのない罪を着せられたコラジオが咄嗟に詰め寄ろうとした瞬間、冒険者達は一斉に武器を取り出した。

「おっと、動くな! お前のその威圧感、只者じゃねぇな。これは手加減してる余裕はなさそうだ」

「くそっ、またこれか!」

 冒険者達の態度に、コラジオは内心舌打ちをする。幼い頃から残る顔の古傷のせいか、はたまた見目のわりに低い声のせいなのか。コラジオは会う人全てから恐れられるのが常であった。

「俺っちは本当に盗みなんてしてないんだ!」

 威圧感のない口調を心がけ、手を上げて武器を持ってないことを示すも冒険者達の警戒は変わらない。油断のない眼差しで冒険者達はコラジオを見つめ、にじり寄った。

「そもそも間違いだろうがどうでもいい。俺達に出された依頼は、コラジオって奴を連れて行くことだからな」

 武器を構える男達を見て、コラジオはじりじりと後退る。潔白を信条に生きてきたコラジオに盗みをした憶えはなかった。しかし、冒険者達は真偽に関係なくコラジオを痛めつけて連行する気だ。

 逃げないと。咄嗟に、踵を返してコラジオは貧民街の裏路地を駆けた。

「逃げたぞ、追え!」

 響く冒険者達の怒号を背に、コラジオは脇目も振らずに走る。

「足を潰せ! 手もだ! 何をしてくるかわからねぇ!」

 コラジオが無防備に逃げているにも関わらず、冒険者達はまるで魔物を相手にしているかのように慎重だった。

「うっ。くそっ……」

 冒険者の放った矢がコラジオの足を掠る。次々と飛来する攻撃は急所を避けていはいるものの容赦がなかった。

「なんで、こんなことに……」

 そう零しながら、コラジオは唇を噛み締める。頭では、何故盗みをしたことになっているのかをコラジオは理解していた。隠れ家とコラジオの名前を知っているのは貧民街の仲間だけ。その誰かに、裏切られたのだ。

 けれど、コラジオが嘆いているのは裏切られたことではない。コラジオは仲間を信じていた。だからこそ、仲間が意図してコラジオに罪を着せたのではないと確信している。自分を守るために咄嗟に裏切ってしまったのだと。

「俺っちが、気づいてやるべきだった」

 矢が頬を裂き、投げられた短剣が腕を裂く。そんな中でも、コラジオは仲間の盗みを止められなかったことを悔やんでいた。

 盗みをしてしまうほどに困っていた仲間がいたはずなのだと。

「うぁっ!」

 とうとう、一本の矢がコラジオの足を貫いた。このままじゃ捕まって、終わってしまう。普通であれば盗みをした者に待つのは極刑だ。貧民街の一市民でしかないコラジオを救ってくれる者はいない。何を言おうと、コラジオは最終的に殺されてしまうだろう。

 生きたい。ただ必死にそう願って足を動かすコラジオは、走り回った先に辿り着いた裏路地に効果屋と看板の出された奇妙な店を見つけた。あそこに逃げこめば。一瞬頭に浮かんだその考えをコラジオは即座に否定する。

「だめだ、だめだ! 巻きこめないっ!」

「後もう少しだ、油断するなよ!」

 店に逃げこめば、店にいる人まで盗みの関係者と思われてしまうかもしれない。罪のない人を巻きこむ可能性を考えて、コラジオは店を過ぎ去った。

 息も絶え絶え。血を失って頭も朦朧としたままにコラジオは裏路地を走る。一瞬背後を見た瞬間、迫る矢に気がついたコラジオは咄嗟に十字路を曲がった。体力も限界だと倒れそうになりながら顔を前に戻したその視線の先、黒髪の男が一人歩いているのが見えてコラジオは咄嗟に叫んだ。

「逃げて! 危ないっ!」

「おや?」

 その瞬間、コラジオの足がついに限界を迎える。前のめりに倒れたコラジオは薄れゆく意識の中で、どうか黒髪の男が巻きこまれないようにと願いながら気を失った。
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