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コラジオ(2-1)
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「おや、コラジオくん。今日分の商品陳列終わってないですねぇ」
ねっとりとした男の声が、小さな店の中で響く。コラジオはその声を聞いて、慌てて店奥の倉庫へと向かった。
「は、はい副店長! 今やります!」
商人として経験を積むことにしたコラジオが街外れの商店にて働き始めた初日。コラジオは副店長に雑用として使われていた。
「掃除もまだですねぇ。あぁ、接客はしなくていいですよ。みすぼらしいコラジオくんが出ても迷惑なだけですからぁ」
倉庫から荷物を運ぶコラジオの進路を妨げる位置で棒立ちした副店長は、陰湿な眼でコラジオを見つめてにちゃりと微笑む。その視線には隠しきれないほどの侮蔑と、相手を見下すことの愉悦が混じっていた。
「はい、わかりました! 俺っちは副店長を見て、学ばせてもらいます!」
「えぇ、それが良いでしょう。まっ、無駄かもしれませんが。それと、俺っちというのは商人としていただけないですねぇ。私と言いなさい?」
「はい! わかりました!」
元気よく返事をするコラジオに気を良くして、副店長は自分の業務へと戻る。その様子をちらと見たコラジオはにこりとした笑顔を貼り付けたまま商品の陳列を行った。
「ふむ……」
馬鹿にされている。相手を信じることが信条のコラジオでもそれくらいは容易にわかった。だが、コラジオはそれで落ちこむことはない。むしろ、自分の作戦が成功していることに喜びを感じていた。
今コラジオが働いている街外れのベーネ商店は、店長のベーネが一人で経営する小さなお店だ。働き口を探して商店を巡っていた中で、ほとんどの人がコラジオを馬鹿にして追い出したのとは対照的にコラジオを唯一雇ったのがベーネだった。
ベーネは好々爺然とした人だが、その本質は『見極める目』を持つ商人であるとコラジオは見抜いている。
『ベーネ商店を踏み台に成り上がろうというわけか。面白い! 気に入った! 商人はそれぐらいじゃないとのぅ』
そう言って笑いながらベーネはコラジオを雇ったのだ。見透かされていると、コラジオは驚いたものである。
一方で副店長は『見極める目』がない。見るからに副店長はコラジオを頭の悪い貧民だと見下していた。こうしてコラジオにとっての『見極める目』は正確に作動しているのだ。
「よし、陳列はこれで問題なしっと! ふむ、ここは日用雑貨の店なわけか」
コラジオは陳列を終えた棚を見つめて呟く。ベーネ商店が扱う商品は日用雑貨だった。その中でも特に多いのが消耗品だ。買い替えを狙った商売なのだということはコラジオも理解した。
「副店長、少しいいですか?」
「んー? 私も暇じゃないんだがねぇ。でもまぁ、ベーネさんからも面倒を見るように言われているから聞いてあげよう」
疑問を解決するためにコラジオが質問をしに行くと、恩着せがましい口振りで副店長が応じる。帳場でだらけさせていた身体を戻して、欠伸混じりに副店長がコラジオに顔を向けた。
「では聞きたいのですが、商品の仕入れは誰がしているんでしょう。日用雑貨ばかりのように見えますが、他の物は仕入れないのですか?」
「あぁ、それは私がベーネさんに仕入れをお願いしているんですよ。むしろ日用雑貨以外に何を売るというんです? 食材なんかを売っても、売れ残って無駄になるだけですからねぇ。まぁ、貴方にはわからないかもしれませんが」
くだらない質問だと言わんばかりに吐き捨てると、副店長はコラジオからじっとりとした視線を外して店の外を眺めた。これ以上話す気はないのだと言外に伝えられ、けれどコラジオは引かない。
「では、私も店長に仕入れをお願いしても良いんでしょうか?」
「勝手にすればいいんじゃないですか。あ、でも私の販売計画の邪魔になるのでぇ新しく仕入れた物は店の外で売ってくださいねぇ。盗まれても知りませんが」
「はい! わかりました!」
元気よく返事をするコラジオに一瞬興味の視線が副店長から向けられる。
「ところで、何を仕入れるんです?」
「いえ、それはまだ決めてませんが……」
「くくっ。決まるといいですねぇ」
副店長はコラジオの言葉に満足して小さく笑うと、今度こそ話す気はないと店の外に目を向けてしまった。
それからしばらく、客の来ない時間が続く。初めて客が現れたのは昼になる少し前の頃だった。
「いらっしゃいませぇ! 本日は何をお探しでしょうかぁ?」
「へぇ……」
ねっとりとした口調で手を擦りながら副店長が接客する様子を、コラジオは後ろから眺めて感心の声を小さく漏らす。普段はやる気のなさそうな副店長だが、接客においては非常に低姿勢で丁寧だったのだ。嫌な奴ではあるが、商人としての対応は心得ているのだとコラジオの見る目が変わる。けれど、それも次の客が来るまでの間だった。
「いらっしゃ……。ちっ、冒険者か。中を見るなら武器を外に置いてくれますかねぇ。盗みとか、やめてくださいよ?」
「あ? するわけねぇだろ、んなこと。ちっ、帰るぞ」
副店長は、客として店に入ってきた冒険者達に嫌味を言って追い返したのだ。その様子を見て、黙っていられないと思ったコラジオは店を飛び出して冒険者を追いかけた。
「お待ちください、冒険者の方々!」
「あ? んだよ、あの短時間で何か盗んだわけねぇだろ!」
店から追いかけてきたコラジオを見て冒険者達はしてもいない盗みを咎めに来たのだと勘違いする。しかし、コラジオがすぐに頭を下げたことでその認識は消え去った。
「先程は失礼しました! 商店に入ってくださったお客様を追い返すなどあってはならないことです。ましてや、盗人扱いするなど! お詫びにはなりませんが、買いたい物があったのでしたら私が代わりに買ってきますので」
「あー、いや。別にそれはいいんだけどよぉ。冒険の帰りにちょっと覗いただけだからな。それに、俺たち冒険者は嫌われ者なのもわかってるからよ。まぁ、頭上げてくれや」
頭を下げたままのコラジオに冒険者は困ったように苦笑いを浮かべる。頭を上げて見た冒険者達の姿は確かに荒くれ者といった様子だったが、その声音は穏やかで意思疎通ができる相手であることには違いなかった。
「嫌われ者なんて、そんな。私に戦う力があれば、冒険者になりたかったくらいです」
「おっ、なんだ? 冒険の良さがわかるのか。ははっ、いいな兄ちゃん。そう言われちゃ気分も悪くない。まぁ、お互い水に流そうや」
「ありがとうございます。ところで思ったのですが、あの店の前を通る冒険者が多い気がするのですけれど……」
「あぁ、そりゃあ初心者向けの狩場に行くならあの店の前の道通るのが早いからな」
その言葉を聞いてコラジオは納得いったとばかりに深く頷いた。これは商売に利用できる。そう考えてコラジオは冒険者達に一つお願いをすることに決めた。
「もしよろしければ、あったら嬉しい商品をお聞きしても?」
「ん? そうだなぁーー」
冒険者が述べる商品を頭に叩きこんで、コラジオは冒険者にお礼を言って別れるとベーネ商店への帰路についた。
ねっとりとした男の声が、小さな店の中で響く。コラジオはその声を聞いて、慌てて店奥の倉庫へと向かった。
「は、はい副店長! 今やります!」
商人として経験を積むことにしたコラジオが街外れの商店にて働き始めた初日。コラジオは副店長に雑用として使われていた。
「掃除もまだですねぇ。あぁ、接客はしなくていいですよ。みすぼらしいコラジオくんが出ても迷惑なだけですからぁ」
倉庫から荷物を運ぶコラジオの進路を妨げる位置で棒立ちした副店長は、陰湿な眼でコラジオを見つめてにちゃりと微笑む。その視線には隠しきれないほどの侮蔑と、相手を見下すことの愉悦が混じっていた。
「はい、わかりました! 俺っちは副店長を見て、学ばせてもらいます!」
「えぇ、それが良いでしょう。まっ、無駄かもしれませんが。それと、俺っちというのは商人としていただけないですねぇ。私と言いなさい?」
「はい! わかりました!」
元気よく返事をするコラジオに気を良くして、副店長は自分の業務へと戻る。その様子をちらと見たコラジオはにこりとした笑顔を貼り付けたまま商品の陳列を行った。
「ふむ……」
馬鹿にされている。相手を信じることが信条のコラジオでもそれくらいは容易にわかった。だが、コラジオはそれで落ちこむことはない。むしろ、自分の作戦が成功していることに喜びを感じていた。
今コラジオが働いている街外れのベーネ商店は、店長のベーネが一人で経営する小さなお店だ。働き口を探して商店を巡っていた中で、ほとんどの人がコラジオを馬鹿にして追い出したのとは対照的にコラジオを唯一雇ったのがベーネだった。
ベーネは好々爺然とした人だが、その本質は『見極める目』を持つ商人であるとコラジオは見抜いている。
『ベーネ商店を踏み台に成り上がろうというわけか。面白い! 気に入った! 商人はそれぐらいじゃないとのぅ』
そう言って笑いながらベーネはコラジオを雇ったのだ。見透かされていると、コラジオは驚いたものである。
一方で副店長は『見極める目』がない。見るからに副店長はコラジオを頭の悪い貧民だと見下していた。こうしてコラジオにとっての『見極める目』は正確に作動しているのだ。
「よし、陳列はこれで問題なしっと! ふむ、ここは日用雑貨の店なわけか」
コラジオは陳列を終えた棚を見つめて呟く。ベーネ商店が扱う商品は日用雑貨だった。その中でも特に多いのが消耗品だ。買い替えを狙った商売なのだということはコラジオも理解した。
「副店長、少しいいですか?」
「んー? 私も暇じゃないんだがねぇ。でもまぁ、ベーネさんからも面倒を見るように言われているから聞いてあげよう」
疑問を解決するためにコラジオが質問をしに行くと、恩着せがましい口振りで副店長が応じる。帳場でだらけさせていた身体を戻して、欠伸混じりに副店長がコラジオに顔を向けた。
「では聞きたいのですが、商品の仕入れは誰がしているんでしょう。日用雑貨ばかりのように見えますが、他の物は仕入れないのですか?」
「あぁ、それは私がベーネさんに仕入れをお願いしているんですよ。むしろ日用雑貨以外に何を売るというんです? 食材なんかを売っても、売れ残って無駄になるだけですからねぇ。まぁ、貴方にはわからないかもしれませんが」
くだらない質問だと言わんばかりに吐き捨てると、副店長はコラジオからじっとりとした視線を外して店の外を眺めた。これ以上話す気はないのだと言外に伝えられ、けれどコラジオは引かない。
「では、私も店長に仕入れをお願いしても良いんでしょうか?」
「勝手にすればいいんじゃないですか。あ、でも私の販売計画の邪魔になるのでぇ新しく仕入れた物は店の外で売ってくださいねぇ。盗まれても知りませんが」
「はい! わかりました!」
元気よく返事をするコラジオに一瞬興味の視線が副店長から向けられる。
「ところで、何を仕入れるんです?」
「いえ、それはまだ決めてませんが……」
「くくっ。決まるといいですねぇ」
副店長はコラジオの言葉に満足して小さく笑うと、今度こそ話す気はないと店の外に目を向けてしまった。
それからしばらく、客の来ない時間が続く。初めて客が現れたのは昼になる少し前の頃だった。
「いらっしゃいませぇ! 本日は何をお探しでしょうかぁ?」
「へぇ……」
ねっとりとした口調で手を擦りながら副店長が接客する様子を、コラジオは後ろから眺めて感心の声を小さく漏らす。普段はやる気のなさそうな副店長だが、接客においては非常に低姿勢で丁寧だったのだ。嫌な奴ではあるが、商人としての対応は心得ているのだとコラジオの見る目が変わる。けれど、それも次の客が来るまでの間だった。
「いらっしゃ……。ちっ、冒険者か。中を見るなら武器を外に置いてくれますかねぇ。盗みとか、やめてくださいよ?」
「あ? するわけねぇだろ、んなこと。ちっ、帰るぞ」
副店長は、客として店に入ってきた冒険者達に嫌味を言って追い返したのだ。その様子を見て、黙っていられないと思ったコラジオは店を飛び出して冒険者を追いかけた。
「お待ちください、冒険者の方々!」
「あ? んだよ、あの短時間で何か盗んだわけねぇだろ!」
店から追いかけてきたコラジオを見て冒険者達はしてもいない盗みを咎めに来たのだと勘違いする。しかし、コラジオがすぐに頭を下げたことでその認識は消え去った。
「先程は失礼しました! 商店に入ってくださったお客様を追い返すなどあってはならないことです。ましてや、盗人扱いするなど! お詫びにはなりませんが、買いたい物があったのでしたら私が代わりに買ってきますので」
「あー、いや。別にそれはいいんだけどよぉ。冒険の帰りにちょっと覗いただけだからな。それに、俺たち冒険者は嫌われ者なのもわかってるからよ。まぁ、頭上げてくれや」
頭を下げたままのコラジオに冒険者は困ったように苦笑いを浮かべる。頭を上げて見た冒険者達の姿は確かに荒くれ者といった様子だったが、その声音は穏やかで意思疎通ができる相手であることには違いなかった。
「嫌われ者なんて、そんな。私に戦う力があれば、冒険者になりたかったくらいです」
「おっ、なんだ? 冒険の良さがわかるのか。ははっ、いいな兄ちゃん。そう言われちゃ気分も悪くない。まぁ、お互い水に流そうや」
「ありがとうございます。ところで思ったのですが、あの店の前を通る冒険者が多い気がするのですけれど……」
「あぁ、そりゃあ初心者向けの狩場に行くならあの店の前の道通るのが早いからな」
その言葉を聞いてコラジオは納得いったとばかりに深く頷いた。これは商売に利用できる。そう考えてコラジオは冒険者達に一つお願いをすることに決めた。
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