【ひっそり】たたずむ効果屋さん

龍尾

文字の大きさ
17 / 51

コラジオ(2-1)

しおりを挟む
「おや、コラジオくん。今日分の商品陳列終わってないですねぇ」

 ねっとりとした男の声が、小さな店の中で響く。コラジオはその声を聞いて、慌てて店奥の倉庫へと向かった。

「は、はい副店長! 今やります!」

 商人として経験を積むことにしたコラジオが街外れの商店にて働き始めた初日。コラジオは副店長に雑用として使われていた。

「掃除もまだですねぇ。あぁ、接客はしなくていいですよ。みすぼらしいコラジオくんが出ても迷惑なだけですからぁ」

 倉庫から荷物を運ぶコラジオの進路を妨げる位置で棒立ちした副店長は、陰湿な眼でコラジオを見つめてにちゃりと微笑む。その視線には隠しきれないほどの侮蔑と、相手を見下すことの愉悦が混じっていた。

「はい、わかりました! 俺っちは副店長を見て、学ばせてもらいます!」

「えぇ、それが良いでしょう。まっ、無駄かもしれませんが。それと、俺っちというのは商人としていただけないですねぇ。私と言いなさい?」

「はい! わかりました!」

 元気よく返事をするコラジオに気を良くして、副店長は自分の業務へと戻る。その様子をちらと見たコラジオはにこりとした笑顔を貼り付けたまま商品の陳列を行った。

「ふむ……」

 馬鹿にされている。相手を信じることが信条のコラジオでもそれくらいは容易にわかった。だが、コラジオはそれで落ちこむことはない。むしろ、自分の作戦が成功していることに喜びを感じていた。

 今コラジオが働いている街外れのベーネ商店は、店長のベーネが一人で経営する小さなお店だ。働き口を探して商店を巡っていた中で、ほとんどの人がコラジオを馬鹿にして追い出したのとは対照的にコラジオを唯一雇ったのがベーネだった。

 ベーネは好々爺然とした人だが、その本質は『見極める目』を持つ商人であるとコラジオは見抜いている。

『ベーネ商店を踏み台に成り上がろうというわけか。面白い! 気に入った! 商人はそれぐらいじゃないとのぅ』

 そう言って笑いながらベーネはコラジオを雇ったのだ。見透かされていると、コラジオは驚いたものである。

 一方で副店長は『見極める目』がない。見るからに副店長はコラジオを頭の悪い貧民だと見下していた。こうしてコラジオにとっての『見極める目』は正確に作動しているのだ。

「よし、陳列はこれで問題なしっと! ふむ、ここは日用雑貨の店なわけか」

 コラジオは陳列を終えた棚を見つめて呟く。ベーネ商店が扱う商品は日用雑貨だった。その中でも特に多いのが消耗品だ。買い替えを狙った商売なのだということはコラジオも理解した。

「副店長、少しいいですか?」

「んー? 私も暇じゃないんだがねぇ。でもまぁ、ベーネさんからも面倒を見るように言われているから聞いてあげよう」

 疑問を解決するためにコラジオが質問をしに行くと、恩着せがましい口振りで副店長が応じる。帳場でだらけさせていた身体を戻して、欠伸混じりに副店長がコラジオに顔を向けた。

「では聞きたいのですが、商品の仕入れは誰がしているんでしょう。日用雑貨ばかりのように見えますが、他の物は仕入れないのですか?」

「あぁ、それは私がベーネさんに仕入れをお願いしているんですよ。むしろ日用雑貨以外に何を売るというんです? 食材なんかを売っても、売れ残って無駄になるだけですからねぇ。まぁ、貴方にはわからないかもしれませんが」

 くだらない質問だと言わんばかりに吐き捨てると、副店長はコラジオからじっとりとした視線を外して店の外を眺めた。これ以上話す気はないのだと言外に伝えられ、けれどコラジオは引かない。

「では、私も店長に仕入れをお願いしても良いんでしょうか?」

「勝手にすればいいんじゃないですか。あ、でも私の販売計画の邪魔になるのでぇ新しく仕入れた物は店の外で売ってくださいねぇ。盗まれても知りませんが」

「はい! わかりました!」

 元気よく返事をするコラジオに一瞬興味の視線が副店長から向けられる。

「ところで、何を仕入れるんです?」

「いえ、それはまだ決めてませんが……」

「くくっ。決まるといいですねぇ」

 副店長はコラジオの言葉に満足して小さく笑うと、今度こそ話す気はないと店の外に目を向けてしまった。

 それからしばらく、客の来ない時間が続く。初めて客が現れたのは昼になる少し前の頃だった。

「いらっしゃいませぇ! 本日は何をお探しでしょうかぁ?」

「へぇ……」

 ねっとりとした口調で手を擦りながら副店長が接客する様子を、コラジオは後ろから眺めて感心の声を小さく漏らす。普段はやる気のなさそうな副店長だが、接客においては非常に低姿勢で丁寧だったのだ。嫌な奴ではあるが、商人としての対応は心得ているのだとコラジオの見る目が変わる。けれど、それも次の客が来るまでの間だった。

「いらっしゃ……。ちっ、冒険者か。中を見るなら武器を外に置いてくれますかねぇ。盗みとか、やめてくださいよ?」

「あ? するわけねぇだろ、んなこと。ちっ、帰るぞ」

 副店長は、客として店に入ってきた冒険者達に嫌味を言って追い返したのだ。その様子を見て、黙っていられないと思ったコラジオは店を飛び出して冒険者を追いかけた。

「お待ちください、冒険者の方々!」

「あ? んだよ、あの短時間で何か盗んだわけねぇだろ!」

 店から追いかけてきたコラジオを見て冒険者達はしてもいない盗みを咎めに来たのだと勘違いする。しかし、コラジオがすぐに頭を下げたことでその認識は消え去った。

「先程は失礼しました! 商店に入ってくださったお客様を追い返すなどあってはならないことです。ましてや、盗人扱いするなど! お詫びにはなりませんが、買いたい物があったのでしたら私が代わりに買ってきますので」

「あー、いや。別にそれはいいんだけどよぉ。冒険の帰りにちょっと覗いただけだからな。それに、俺たち冒険者は嫌われ者なのもわかってるからよ。まぁ、頭上げてくれや」

 頭を下げたままのコラジオに冒険者は困ったように苦笑いを浮かべる。頭を上げて見た冒険者達の姿は確かに荒くれ者といった様子だったが、その声音は穏やかで意思疎通ができる相手であることには違いなかった。

「嫌われ者なんて、そんな。私に戦う力があれば、冒険者になりたかったくらいです」

「おっ、なんだ? 冒険の良さがわかるのか。ははっ、いいな兄ちゃん。そう言われちゃ気分も悪くない。まぁ、お互い水に流そうや」

「ありがとうございます。ところで思ったのですが、あの店の前を通る冒険者が多い気がするのですけれど……」

「あぁ、そりゃあ初心者向けの狩場に行くならあの店の前の道通るのが早いからな」

 その言葉を聞いてコラジオは納得いったとばかりに深く頷いた。これは商売に利用できる。そう考えてコラジオは冒険者達に一つお願いをすることに決めた。

「もしよろしければ、あったら嬉しい商品をお聞きしても?」

「ん? そうだなぁーー」

 冒険者が述べる商品を頭に叩きこんで、コラジオは冒険者にお礼を言って別れるとベーネ商店への帰路についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。 (2月15日記) 連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。 一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (当面、月、水、金、土、日の更新)

処理中です...