【ひっそり】たたずむ効果屋さん

龍尾

文字の大きさ
31 / 51

ルーチェ(2-5)

しおりを挟む
「ふぅ、もう大丈夫です」

 息を落ち着け水分を取り、少しの間だけ目を閉じたルーチェは初めての討伐による罪悪感から気を取り直して立ち上がった。

 いつまでも落ちこんでいたところで、強くなれるわけでも金が得られるわけでもない。ルーチェは王族として、未来のために『生きる』という使命があるのだ。

「本当か? 辛ければ今日のところは狩りを終わりにしてもいいぞ。戦えることはわかったしな」

「いえ、大丈夫です。この程度では、食事代にもならないですよね?」

「……そうだな。魔兎なら十は狩りたいところだ」

 魔兎は襲われない限り襲ってこない魔物だ。そのため一撃で倒せる実力さえあれば難なく複数を狩ることができる。その容易さもあり、魔兎の素材は市場に溢れていて価値が低いのだ。

「ちなみに、魔兎の素材を取るなら頭の石だけでいいわ。他の部位は使い所があまりないからね」

 クロは魔兎の首から魔爪で魔石を切り出して腰の皮袋にしまう。唯一魔兎の素材でも需要がなくならないのが、頭の魔石だった。魔石から取り出せる魔力はあらゆる道具の燃料として使用できるため、いくらあっても困ることがないのだ。

「とはいえ、魔兎の魔石は純度が低いからな。高くは売れん」

「それで、十は狩りたいということなんですね? わかりました、任せてください」

 魔兎の価値を聞き、ルーチェは意識を切り替える。生きるためには金が不可欠だ。それを得るためならば、罪悪感で心が痛もうとも耐えてみせる。そう決意したルーチェは魔力を練り上げ、狩りを続行した。

***

「こんなものっ、ですかね……」

 息を切らしたルーチェが、汚れるのも気にせずに地面に寝転がる。結局、ルーチェは初めての狩りの後に十五の魔兎を狩っていた。命の脅威に晒されることはなくとも、剣気の使用による魔力の消費はルーチェの体力を大幅に削っていたのだ。

「やるじゃないか。全て一撃で仕留めているところを見るに、もう少し強い魔物を狩る方がいいかもしれないな。魔兎でこれだけ消耗するのも勿体ないだろ」

「そう、ですね」

 流れる汗を拭って、ルーチェは小さく頷く。剣気を乱用したことなどなかったルーチェは、想定以上の疲労感に襲われていた。

 もう少し狩りを続けたいとルーチェは考えていたが、魔力を身体にまとうのが常の魔物を剣気なしの攻撃で傷をつけるのは非常に困難であることを考えると戦闘継続は不可能だった。

「よし。それじゃあ最後はルーに冒険の醍醐味を教えてやろう。動けるか?」

「は、はい。ありがとうございます」

 アーヴェンが差し出す手を握り、ルーチェは起き上がる。力強い手の感触に場違いながらもルーチェの鼓動が少し早まった。

「ちょっと! 冒険の醍醐味ってなに? アタシも教えてもらってないんですけど!」

「クロとはまだ一派を正式に組む前に一度顔合わせで一緒に来ただけだろ。しかもあの時、お前は他の狩場に行きたいってすぐここを離れただろうが」

 少し怒ったようにクロが小突くと、アーヴェンは呆れたような苦笑いを浮かべて深く息を吐いた。その軽いやり取りが仲間の象徴であるように感じて、ルーチェは少し羨ましく思う。自分もこんな風に言いあえる仲間になりたいと。

「っと、悪い。少し話が逸れたな。それじゃあ二人とも着いて来てくれ」

 ルーチェの視線を感じたアーヴェンは謝ると、草原の奥深くへと進んでいった。

「それにしても何かしらね、冒険の醍醐味って」

 アーヴェンを追いかけるルーチェの横に並んだクロが不思議そうに首を傾ける。ルーチェも同じように首を傾けて、冒険者について考えてみた。冒険者の制度や成り立ちこそ為政者である王族として学んでいるが、それ以上に冒険者について考えたことは今までにない。何も思いつかないというのが正直なところだった。

「アタシはね、知らない物や知らない景色に出会うことだと思うわ。それを冒険って言うのよ。その点、こんな人がよく来る草原じゃ冒険って言えないとも思ってるけどね」

「なるほど」

 クロの持論を聞き、ルーチェは小さく頷く。知らない物を知る、それは心躍ることだろうとルーチェも思ったのだ。ルーチェは王族としてあらゆることを学んできたが、知識を得る過程は楽しいものだった。そして、その知識で得た物を実際に見るのも素敵なことだとルーチェは火山を見た時に思ったのだ。

「それならわたくしは冒険に向いてますね。街から一切出たこともなく、世間にも疎いですから」

「なにそれ、どっかのお姫様みたいね!」

 クロはルーチェをキョトンと見つめて吹き出すように笑う。その姿に引きずられるようにルーチェも笑いながら、軽率な発言だったかと内心で冷や汗を流していた。

「おい、着いたぞ! こっち来てみろ」

 そうこうしている間に、目的地に辿り着いたアーヴェンが振り返って二人を呼ぶ。クロとルーチェは少し駆け足になってアーヴェンの横まで向かった。そこで二人の目に映ったのは、一面真っ青の花畑だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。 (2月15日記) 連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。 一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (当面、月、水、金、土、日の更新)

処理中です...