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ルーチェ(2-6)
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「綺麗……」
混じり気のない青一色にルーチェの視線は奪われた。その光景は文書だけで知識を得た海を想起させる。青花の海だ。
「にゃー」
ルーチェの隣に立つクロが感嘆に鳴き声を漏らす。ちらとルーチェが視線を向ければ、クロの瞳はキラキラと眩く輝いていた。潤む瞳は、感動に打ち震えた証だ。
「どうだ、凄いだろう? 面白い物でもないかと初めて狩りをした時に辺りを歩き回って見つけたんだ」
アーヴェンはルーチェとクロの反応に満足そうに笑った。冷静な今までの様子とは違う、してやったりとでも言いたげな悪童にも似た笑みだ。
「アンタやるじゃにゃい! これよ! これが冒険だわ!」
アーヴェンに向き直ったクロは猫人語訛りを漏らしてしまうほどに興奮していた。
「そうだろ? ほとんどの奴が見たことない景色を俺達は見てるんだ。この高揚は、冒険者だけのもんだぜ」
自らの胸をアーヴェンは軽く叩く。その姿に、ルーチェも自らの胸に手のひらを当てた。トクトクと鼓動が跳ねる。胸の高鳴りが興奮を示していた。自分は今興奮しているのだと自覚したルーチェの胸がキュッと締めつけられるように甘く疼く。初めての感覚だった。
「凄い……。なんだか、飛び跳ねたい気分です」
「いいわね! あそこで跳び回るわよ!」
クロに手を引かれ、前のめりになりながらルーチェは花畑に駆ける。青の絨毯を踏みしめる足が軽く感じた。加速する身体を風が撫でる。この時だけは王族としての責務も自らの血のことも全て忘れて、鎖から解き放たれたような心地でルーチェは跳ねた。
「楽しいです! こんな、こんなこと初めて!」
心から想いが溢れて上手く言葉にできないままにルーチェは笑う。花畑に飛びこむのも、無我夢中に走り跳ね回るのも初めてだった。自分は冒険者なのだと心が叫ぶ。
「これだけ喜んでくれるなら、秘密の場所を教えた意味もあったな」
無邪気に跳ねるクロとルーチェを眺めてアーヴェンは近場の岩に腰かけて微笑む。冒険者になったばかりのルーチェには、殺しという苦い記憶ではなく楽しい思い出を残して欲しかったのだ。
***
「ところでこれってなんて花なの?」
しばらくはしゃいで満足したクロとルーチェは花畑のど真ん中に座りこんで談笑をしていた。その中で、クロはふと花の名前が気になったのだ。
「これは蒼涙花って呼ばれてますね。魔力を流すと涙のような雫を生み出すことからそのような名前がついたそうです」
「へー。あ、ほんとね!」
クロが近場の蒼涙花に手を触れて魔力を流すと、一滴の雫が滴り落ちた。手の甲に落ちた雫を少しの間眺めたクロは、手を口元に寄せる。雫を舐め取ろうとしたのだ。
「おい、待て。危なくないのか?」
側にまで寄っていたアーヴェンが慌ててクロの手を掴んで、ルーチェに問いかける。
「大丈夫ですよ。蒼涙花の雫は傷を癒す力があるんです。ただ、摘んでしまうと雫を生まなくなるので使われることは少ないんですけどね」
「そうか」
アーヴェンがそう呟く時には既にクロは雫を舐め取っていた。味わうように舌の上で雫を転がして、クロは無邪気に笑う。
「猫人の習性なんだけど、気になったら試さずにはいられないのよ。何かまずいことしそうだったら今みたいに止めてくれると助かるわね。ちなみに雫は甘かったわ」
クロは魔力を注ぎながら蒼涙花から雫を垂らし飲んだ。その様子を見つめてアーヴェンは呆れたように息を深く吐き出す。
「猫人族の死因の半分は好奇心と聞くが、あれは誇張じゃないのかもしれないな」
「ふふっ、そうですね」
ルーチェは楽しそうに笑いながら空を仰いで陽が少し傾いていることに気がつく。
「あら、想定以上に花畑で遊んでしまいましたね。そろそろ帰りましょうか?」
これ以上狩りをする予定のない現状、早めに帰って素材の売り方や依頼の報告の仕方などを教わりたいとルーチェは思った。
「そうだな。ここらへんには魔兎しか出ないとはいえ暗くなると面倒だ」
「アタシなら暗さは気にならないけどね!」
荷物をまとめるアーヴェンにクロが胸を張って笑う。その時だった。
「----!」
遠吠えが周囲に響き渡る。
「うそ!?」
まず始めに反応したのはクロだった。猫人族の優秀な聴力を遠吠えが響いた方向へ向けてクロは顔を青く染める。四足走行の巨大な何かが凄まじい速度で花畑に向かってきていたのだ。
混じり気のない青一色にルーチェの視線は奪われた。その光景は文書だけで知識を得た海を想起させる。青花の海だ。
「にゃー」
ルーチェの隣に立つクロが感嘆に鳴き声を漏らす。ちらとルーチェが視線を向ければ、クロの瞳はキラキラと眩く輝いていた。潤む瞳は、感動に打ち震えた証だ。
「どうだ、凄いだろう? 面白い物でもないかと初めて狩りをした時に辺りを歩き回って見つけたんだ」
アーヴェンはルーチェとクロの反応に満足そうに笑った。冷静な今までの様子とは違う、してやったりとでも言いたげな悪童にも似た笑みだ。
「アンタやるじゃにゃい! これよ! これが冒険だわ!」
アーヴェンに向き直ったクロは猫人語訛りを漏らしてしまうほどに興奮していた。
「そうだろ? ほとんどの奴が見たことない景色を俺達は見てるんだ。この高揚は、冒険者だけのもんだぜ」
自らの胸をアーヴェンは軽く叩く。その姿に、ルーチェも自らの胸に手のひらを当てた。トクトクと鼓動が跳ねる。胸の高鳴りが興奮を示していた。自分は今興奮しているのだと自覚したルーチェの胸がキュッと締めつけられるように甘く疼く。初めての感覚だった。
「凄い……。なんだか、飛び跳ねたい気分です」
「いいわね! あそこで跳び回るわよ!」
クロに手を引かれ、前のめりになりながらルーチェは花畑に駆ける。青の絨毯を踏みしめる足が軽く感じた。加速する身体を風が撫でる。この時だけは王族としての責務も自らの血のことも全て忘れて、鎖から解き放たれたような心地でルーチェは跳ねた。
「楽しいです! こんな、こんなこと初めて!」
心から想いが溢れて上手く言葉にできないままにルーチェは笑う。花畑に飛びこむのも、無我夢中に走り跳ね回るのも初めてだった。自分は冒険者なのだと心が叫ぶ。
「これだけ喜んでくれるなら、秘密の場所を教えた意味もあったな」
無邪気に跳ねるクロとルーチェを眺めてアーヴェンは近場の岩に腰かけて微笑む。冒険者になったばかりのルーチェには、殺しという苦い記憶ではなく楽しい思い出を残して欲しかったのだ。
***
「ところでこれってなんて花なの?」
しばらくはしゃいで満足したクロとルーチェは花畑のど真ん中に座りこんで談笑をしていた。その中で、クロはふと花の名前が気になったのだ。
「これは蒼涙花って呼ばれてますね。魔力を流すと涙のような雫を生み出すことからそのような名前がついたそうです」
「へー。あ、ほんとね!」
クロが近場の蒼涙花に手を触れて魔力を流すと、一滴の雫が滴り落ちた。手の甲に落ちた雫を少しの間眺めたクロは、手を口元に寄せる。雫を舐め取ろうとしたのだ。
「おい、待て。危なくないのか?」
側にまで寄っていたアーヴェンが慌ててクロの手を掴んで、ルーチェに問いかける。
「大丈夫ですよ。蒼涙花の雫は傷を癒す力があるんです。ただ、摘んでしまうと雫を生まなくなるので使われることは少ないんですけどね」
「そうか」
アーヴェンがそう呟く時には既にクロは雫を舐め取っていた。味わうように舌の上で雫を転がして、クロは無邪気に笑う。
「猫人の習性なんだけど、気になったら試さずにはいられないのよ。何かまずいことしそうだったら今みたいに止めてくれると助かるわね。ちなみに雫は甘かったわ」
クロは魔力を注ぎながら蒼涙花から雫を垂らし飲んだ。その様子を見つめてアーヴェンは呆れたように息を深く吐き出す。
「猫人族の死因の半分は好奇心と聞くが、あれは誇張じゃないのかもしれないな」
「ふふっ、そうですね」
ルーチェは楽しそうに笑いながら空を仰いで陽が少し傾いていることに気がつく。
「あら、想定以上に花畑で遊んでしまいましたね。そろそろ帰りましょうか?」
これ以上狩りをする予定のない現状、早めに帰って素材の売り方や依頼の報告の仕方などを教わりたいとルーチェは思った。
「そうだな。ここらへんには魔兎しか出ないとはいえ暗くなると面倒だ」
「アタシなら暗さは気にならないけどね!」
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「----!」
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「うそ!?」
まず始めに反応したのはクロだった。猫人族の優秀な聴力を遠吠えが響いた方向へ向けてクロは顔を青く染める。四足走行の巨大な何かが凄まじい速度で花畑に向かってきていたのだ。
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