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第8話 月夜のダンスホール
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数日の間に、3人はすっかり仲良しになりました。
ギリィは 暇が有っても無くても、思いついてはバイオリンを奏でます。楽しい曲、元気な曲、眠りへ誘う優しい曲に、心が 締め付けられて涙がこぼれてしまうような曲……アントンはすっかりギリィが奏でるバイオリンのファンになりました。
「ほらよアントン! 食料見つけてきてやったぜ!」
一緒に旅をしている間に分かった事があります。それは、ギリィは父アリ達が言うように「遊んでばかりの怠け者」ではないということです。自分が食べるための草だけでなく、リンやアントンの食料を見つけるのも得意です。
「ありがとうございます、ギリィさん!」
「あんたはホントに鼻が利くねぇ」
アントンとリンからの感謝や 称賛を受けると、ギリィはものすごく喜びました。嬉しくって仕方が無いとでも言うように、すぐに曲を奏でます。
「よぉし……あたしも!」
ときどき気持ちが抑えられなくなると、リンもギリィからもらったバイオリンを取り出し自分の「想い」を奏でようとしますが……
キーグゥイー……ギギギ……キー
ギリィが奏でる音色とは違い、楽器とは思えない強烈な異音にアントンはついつい顔を 歪ませます。それでもギリィは笑顔のままで演奏を続け……リンの鳴らす音を、まるで効果音のように聞かせる新しい曲を 即興で作り出して行きました。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「ギリィさんのバイオリンって……ホントに 凄いですよね!」
月の光に照らされ、草の上で静かな曲を奏でているギリィを見つめ、アントンはリンに語りかけました。
「……アイツの演奏は最高さ! 技術もだけどさ……アイツの中に在る『魂の声』が伝わって来るんだよねぇ。喜びも 憂いも……叫びや祈りがさ……」
リンが感じて表現している言葉は、アントンにとってまだ難しいものでした。それでも「同じ感動」を共有しているということは、なんとなく伝わってきます。
「みんな……どうしてギリィさんのことをあんなに悪く言うんだろう……。こんなに凄い人なのに……」
アントンの呟きに、リンは軽く笑って同意を示します。
「好みってのは人それぞれ違うのさ。あたしの仲間の中にだって、ギリィのファンも居ればアイツを大嫌いな奴もいる……。アントンの周りの大人は特に……合わないんだろうね、アイツの生き方とはさ……」
アントンは両親のことを思い出しました。
「ギリィさんは……自分のことを嫌ってる人を……どう思ってるんだろう……」
「は? ああ……アイツは馬鹿だからねぇ。自分以外は全員『お客さん』だって思ってるよ」
「お客……さん?」
アントンはキョトンと首をかしげて聞き返します。
「そ、お客さん。自分という演者の演奏を聞いてくれる大切なお客さんだってさ」
「そうなんだ……みんなに嫌われててもそんな風に考えられるなんて……凄いなぁ」
アントンは、草の上で演奏を続けるギリィを見上げました。
「だから……アイツを嫌ってるのは『みんな』じゃないよ。アイツを認めてる人だっているんだ。あたしたちみたいにね。だろ?」
微笑みながらウインクをするリンに、アントンも笑顔でうなずきます。
「うん! そうですよね!……いいなぁ……。僕もギリィさんみたいに、自分の思いを表現出来るような楽器がひけたらなぁ……」
「別に楽器じゃなくても良いんだぜ?」
いつの間にか演奏を終え、2人のそばに来ていたギリィが語りかけます。
「でも……僕は……なにで表せるのかなぁ……自分の心を……。全然思いつかないや……」
アントンは困ったように悲し気な声で呟きます。
「ほらギリィ! アントンが困っちゃったじゃないの! 子どもに分かりやすく教えて上げなよ!」
ギリィはリンからの 指摘を受けると苦笑いを浮かべ、言葉を選ぶように続けます。
「楽器をやりたいってんなら楽器でも良いしよ……ただ、自分を表せるモンは楽器だけじゃ無ぇってこと……。まずはハートさ! 自分の中に在る、自分を表したいって思い……それを乗っけるための道具には楽器もあれば……歌もあるしダンスもある。リンのタップなんかは超一級品だぜ? 絵でも良いし物書きだって良い……。でも一番大事なのは自分を表したいっていう、その『ハート』を持つってことさ!」
自分の胸に親指を「トントン」と当てながらギリィが言いました。
「ギリィさんみたいに……誰かに認めてもらえるようなモノで僕も自分を表したいなぁ……ダメだ! 何にも思いつかないや!」
アントンは首を横に振りました。
「アントンはさぁ……」
リンはアントンの頭を優しく抱き寄せながら言いました。
「あたしと似てるよねぇ……『自分を表したい』って気持ちと『誰かに認められたい』って気持ちがぶつかり合っちゃってんだよ……」
「なんだよそれ?」
ギリィはリンの言葉を聞くとキョトンと呟き、首を横に振りました。
「お前らそんな面倒クセェ気持ちで音楽やってちゃ、そりゃ面白くもねぇし上手くもならねぇよ! 何て言うかなぁ……そう! 自分の中にこう……在るだろ? 熱い何かがよぉ? 嬉しかったり悲しかったり恐かったり楽しかったり……。言葉じゃ表現出来ねぇような腹ん中の自分を……とにかく閉じ込めないで外に出すってのが大事なんだよ!」
ギリィはバイオリンを抱えると、静かなメロディーを奏で始めました。
「他人に認められなきゃ、自分を表せないなんて……んなこと言ってちゃいつまでも何も出せねぇよ。んなことグジグジ考えてねぇでさ……自分の中ん在るモノを外に出してきゃ……いつか同じような気持ちを持ってるヤツから歓声上げて認められるかも知れない……でもよ……」
曲調が少し楽しいものに変わります。
「まずは胸ん中に居る自分自身が歓声上げて喜んでくれなきゃ……そんな歓声を受ける毎日じゃなきゃ、何をしたって楽しくは無いぜ!」
一拍の間をとって、ギリィのバイオリンはアップテンポの明るく元気な曲を響かせ始めました。その音色はまるでアントンとリンに、ギリィの思いを伝える言葉のようです。
「……ねぇアントン……踊ろっか!」
リンはアントンの手を取り向き合うと、身体全体を激しく揺らして踊り始めました。突然の誘いに呆気にとられていたアントンも笑顔になると、リンのリードに倣って身体を動かします。
ギリィの音色はさらに軽快さを増し、アントンは込み上げてくる気持ちのままに身体を動かし続けました。
「ヘイ! リン、タップ!」
演奏のブレイクでギリィが叫ぶと、リンは承知していたように足で軽快なリズムを奏でます。初めて見たリンのタップダンスにアントンは目を丸くしました。それは自分も持っている同じ足から奏でられているとは思えない、洗練された最高の楽器のようにアントンの目に焼き付けられます。
ギリィのバイオリンとリンのタップダンス……アントンはまるで、起きたまま夢の世界に引き込まれたような不思議な気持ちになりました。嬉しくて嬉しくて……押さえられない気持ちを全身で表すようにアントンも踊り続けます。
夏の夜……月明かりに照らされた草の森は、3人のための特別なダンスホールのようでした。
ギリィは 暇が有っても無くても、思いついてはバイオリンを奏でます。楽しい曲、元気な曲、眠りへ誘う優しい曲に、心が 締め付けられて涙がこぼれてしまうような曲……アントンはすっかりギリィが奏でるバイオリンのファンになりました。
「ほらよアントン! 食料見つけてきてやったぜ!」
一緒に旅をしている間に分かった事があります。それは、ギリィは父アリ達が言うように「遊んでばかりの怠け者」ではないということです。自分が食べるための草だけでなく、リンやアントンの食料を見つけるのも得意です。
「ありがとうございます、ギリィさん!」
「あんたはホントに鼻が利くねぇ」
アントンとリンからの感謝や 称賛を受けると、ギリィはものすごく喜びました。嬉しくって仕方が無いとでも言うように、すぐに曲を奏でます。
「よぉし……あたしも!」
ときどき気持ちが抑えられなくなると、リンもギリィからもらったバイオリンを取り出し自分の「想い」を奏でようとしますが……
キーグゥイー……ギギギ……キー
ギリィが奏でる音色とは違い、楽器とは思えない強烈な異音にアントンはついつい顔を 歪ませます。それでもギリィは笑顔のままで演奏を続け……リンの鳴らす音を、まるで効果音のように聞かせる新しい曲を 即興で作り出して行きました。
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「ギリィさんのバイオリンって……ホントに 凄いですよね!」
月の光に照らされ、草の上で静かな曲を奏でているギリィを見つめ、アントンはリンに語りかけました。
「……アイツの演奏は最高さ! 技術もだけどさ……アイツの中に在る『魂の声』が伝わって来るんだよねぇ。喜びも 憂いも……叫びや祈りがさ……」
リンが感じて表現している言葉は、アントンにとってまだ難しいものでした。それでも「同じ感動」を共有しているということは、なんとなく伝わってきます。
「みんな……どうしてギリィさんのことをあんなに悪く言うんだろう……。こんなに凄い人なのに……」
アントンの呟きに、リンは軽く笑って同意を示します。
「好みってのは人それぞれ違うのさ。あたしの仲間の中にだって、ギリィのファンも居ればアイツを大嫌いな奴もいる……。アントンの周りの大人は特に……合わないんだろうね、アイツの生き方とはさ……」
アントンは両親のことを思い出しました。
「ギリィさんは……自分のことを嫌ってる人を……どう思ってるんだろう……」
「は? ああ……アイツは馬鹿だからねぇ。自分以外は全員『お客さん』だって思ってるよ」
「お客……さん?」
アントンはキョトンと首をかしげて聞き返します。
「そ、お客さん。自分という演者の演奏を聞いてくれる大切なお客さんだってさ」
「そうなんだ……みんなに嫌われててもそんな風に考えられるなんて……凄いなぁ」
アントンは、草の上で演奏を続けるギリィを見上げました。
「だから……アイツを嫌ってるのは『みんな』じゃないよ。アイツを認めてる人だっているんだ。あたしたちみたいにね。だろ?」
微笑みながらウインクをするリンに、アントンも笑顔でうなずきます。
「うん! そうですよね!……いいなぁ……。僕もギリィさんみたいに、自分の思いを表現出来るような楽器がひけたらなぁ……」
「別に楽器じゃなくても良いんだぜ?」
いつの間にか演奏を終え、2人のそばに来ていたギリィが語りかけます。
「でも……僕は……なにで表せるのかなぁ……自分の心を……。全然思いつかないや……」
アントンは困ったように悲し気な声で呟きます。
「ほらギリィ! アントンが困っちゃったじゃないの! 子どもに分かりやすく教えて上げなよ!」
ギリィはリンからの 指摘を受けると苦笑いを浮かべ、言葉を選ぶように続けます。
「楽器をやりたいってんなら楽器でも良いしよ……ただ、自分を表せるモンは楽器だけじゃ無ぇってこと……。まずはハートさ! 自分の中に在る、自分を表したいって思い……それを乗っけるための道具には楽器もあれば……歌もあるしダンスもある。リンのタップなんかは超一級品だぜ? 絵でも良いし物書きだって良い……。でも一番大事なのは自分を表したいっていう、その『ハート』を持つってことさ!」
自分の胸に親指を「トントン」と当てながらギリィが言いました。
「ギリィさんみたいに……誰かに認めてもらえるようなモノで僕も自分を表したいなぁ……ダメだ! 何にも思いつかないや!」
アントンは首を横に振りました。
「アントンはさぁ……」
リンはアントンの頭を優しく抱き寄せながら言いました。
「あたしと似てるよねぇ……『自分を表したい』って気持ちと『誰かに認められたい』って気持ちがぶつかり合っちゃってんだよ……」
「なんだよそれ?」
ギリィはリンの言葉を聞くとキョトンと呟き、首を横に振りました。
「お前らそんな面倒クセェ気持ちで音楽やってちゃ、そりゃ面白くもねぇし上手くもならねぇよ! 何て言うかなぁ……そう! 自分の中にこう……在るだろ? 熱い何かがよぉ? 嬉しかったり悲しかったり恐かったり楽しかったり……。言葉じゃ表現出来ねぇような腹ん中の自分を……とにかく閉じ込めないで外に出すってのが大事なんだよ!」
ギリィはバイオリンを抱えると、静かなメロディーを奏で始めました。
「他人に認められなきゃ、自分を表せないなんて……んなこと言ってちゃいつまでも何も出せねぇよ。んなことグジグジ考えてねぇでさ……自分の中ん在るモノを外に出してきゃ……いつか同じような気持ちを持ってるヤツから歓声上げて認められるかも知れない……でもよ……」
曲調が少し楽しいものに変わります。
「まずは胸ん中に居る自分自身が歓声上げて喜んでくれなきゃ……そんな歓声を受ける毎日じゃなきゃ、何をしたって楽しくは無いぜ!」
一拍の間をとって、ギリィのバイオリンはアップテンポの明るく元気な曲を響かせ始めました。その音色はまるでアントンとリンに、ギリィの思いを伝える言葉のようです。
「……ねぇアントン……踊ろっか!」
リンはアントンの手を取り向き合うと、身体全体を激しく揺らして踊り始めました。突然の誘いに呆気にとられていたアントンも笑顔になると、リンのリードに倣って身体を動かします。
ギリィの音色はさらに軽快さを増し、アントンは込み上げてくる気持ちのままに身体を動かし続けました。
「ヘイ! リン、タップ!」
演奏のブレイクでギリィが叫ぶと、リンは承知していたように足で軽快なリズムを奏でます。初めて見たリンのタップダンスにアントンは目を丸くしました。それは自分も持っている同じ足から奏でられているとは思えない、洗練された最高の楽器のようにアントンの目に焼き付けられます。
ギリィのバイオリンとリンのタップダンス……アントンはまるで、起きたまま夢の世界に引き込まれたような不思議な気持ちになりました。嬉しくて嬉しくて……押さえられない気持ちを全身で表すようにアントンも踊り続けます。
夏の夜……月明かりに照らされた草の森は、3人のための特別なダンスホールのようでした。
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