童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ

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第11話 異音

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「アントン! ホントに……アントン……。ああ……無事に帰って来れたなんて……」

 巣に戻ると、すぐに母アリが駆けつけて来ました。そして、アントンを抱きしめ、何度も何度も口づけをし、 触角しょっかくを撫でながら我が子の 帰りを喜びました。

「……ただいま……ただいま! お母さんっ!」

 アントンは急に泣き出しました。巣に戻って仲間達に迎えられ、母アリの優しい声と温かな手で包まれると、どうしようもないくらいに気持ちが安心したからです。
 アントンと母アリは、すれ違う人々からの温かい言葉を受けながら、自分達の家に帰り着きました。

「ただいま……」

 戸を開けて部屋に入ると、アントンの口から自然に声が れます。

「お帰り、アントン……」

 母子2人っきりになると、母アリはもう一度アントンを強く抱きしめました。

「……疲れたでしょ? アントン。すぐに何か食べるものを準備するから待っててね」

 母アリはそう言うと、台所へ向かいます。アントンはそんな母の背中を見つめ、それから部屋全体をぐるっと見回しました。生まれ育った我が家が、なんだかとても懐かしく感じます。

「お母さん……」

 アントンは母アリの背に向かい声をかけました。

「なぁに?」

 母アリはアントンに背を向けたまま、食材を集めて調理をしながら返事をします。

「あのね……僕……やりたいことがあるんだ……」

「まあ、そうなの? でも今日はもう疲れてるだろうから、お仕事は明日から始めればいいわよ」

「違うんだ!」

 アントンは慌てて訂正しました。母アリは調理台に向かったまま応じます。

「違うって? 何が?」

「僕……音楽をやりたいんだ! ギリィさん達のバンドで……」

 母アリは調理の手を止めました。そして、背後から投げかけられたアントンの言葉の意味を、しばらく考えるように間をおいて振り返りました。

「どういう……意味かしら?」

 明らかに 困惑こんわくした表情の母アリに見つめられたアントンは、身をすくめながら答えます。

「あの……僕……ギリィさんとリンさんと一緒に……音楽家になりたいんだ!」

 母アリは無言のまま、驚いた瞳をアントンに向けました。思いもかけなかった言葉に声を失っているようです。

 自分の中にある思いを……今は「言葉」という楽器に乗せて……

「あのね! 僕、あの日、川に流された時にね、助けてもらったんだ! ギリィさんとリンさんに。そしてね、すごく遠くまで流されたけど、助かったんだ! その時にギリィさんがバイオリンを かせてくれて……すっごく上手なんだよ、ギリィさん! そしてね……」

「やめて!」

 旅の話を始めたアントンでしたが、母アリにとっては聞くに えられない「強烈きょうれつな異音」だったようです。



「……何を言ってるの? ギリィって……あのダメ昆虫のキリギリスの話? あの人の話はもう絶対にしちゃいけないって、お父さんとも約束したでしょ!」

 母アリの たましいが乗った言葉の音色に、今度はアントンが口をつぐみました。

「助けてもらったって話は分かったわ……あんな人でも一応の責任感があったってことも……でもそれでおしまいよ! 川に流されたあなたが無事に帰って来た、途中で何があったのかは関係ないわ。もうあんなダメ虫の名前は出さないで!」

「……ギリィさんは……ダメ虫なんかじゃないよ……」

 ポツリと呟いたアントンの精一杯の抗議に、母アリは強く反応し睨みつけます。

「もうその話はやめにして……お願いだから。せめてお父さんが帰ってくるまでは、絶対にその話はしないでくれる?」

 母アリはそう言うと、準備を始めていた台所をサッサと片付けました。

「……お母さん、お食事を作る気分じゃ無くなったわ。お店でお弁当を買ってくるから待ってて」

 そう言うと、母アリはアントンを残したまま部屋から出ていってしまいました。
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