42 / 465
第1章 旅立ちの日 編
第 37 話 探索隊発足
しおりを挟む
「遅いぞ、エルグレド。ホールで何を話していた?」
広間……と言っても、ホテルの食堂に10人程が座れる大きな長テーブルが2列置いてある場を借り、ミーティングが行われていた。1列の奥にはビデルとルロイ、エシャーが座り、もう1列にカミーラと従者らしき女性のエルフが3人座っている。従者の内2人は裁判所で見覚えのあるエルフだが、あと1人は初対面だ。黒く長いストレートの髪が独特の輝きを放つ端整な顔立ちのエルフ女性は、遅れて入って来た篤樹たちには見向きもしない。
「もうしわけございません、閣下。では早速始めましょう」
篤樹もエルグレドの後に続き、中通路を通り抜け奥へ進むと、適当な椅子に腰掛けた。右列のテーブルにエルフ族協議会関係者が固まっているので、つい左側のテーブル……エシャー、ルロエ、ビデルと向かい合う形の席に座ってしまう。エシャーはあからさまに篤樹から視線をそらした。
あーあ……嫌われちゃったかなぁ……「探索隊」に出る前に、後でもう一度ちゃんと謝ろう……
「エルグレド、大使に説明を」
ビデルの指示を受け、エルグレドは席に座ること無く、そのまま中通路を進み全員を見渡す位置に立つ。
「ビデル閣下とカミーラ大使におかれましては……先刻、裁判所でお伝えしました内容と重複する部分が多くあります事を、 予め御了解下さい。さて、この度、カガワアツキくんと私……それと……」
エルグレドがカミーラに視線を向ける。
「レイラ! 自己紹介を」
カミーラの呼びかけに、初対面のエルフ女性が立ち上がる。
「ドュエテ・ビ・レイラ・シャルドレッドです。初めまして」
エルフ族特有の余裕ある笑みを浮かべながら、しっかりと目を見開き、1人1人に目線を合わせ挨拶をする。 凄く 綺麗な女性だなぁ……篤樹は思わず視線をそらしてしまう。見た目だけでなく、雰囲気が高貴さに包まれている感じだ。
「ドュエテ……シャルドレッド? という事は大使の……?」
ビデルが少し驚いたように尋ねた。
「血縁者ではあるようだな。くだらん繋がりだ」
カミーラは特に関心も示さず、 素っ気無く答える。
「『娘』に当たるはずだ、と母からは 伺っております。定かではございませんが……」
レイラも薄く笑みを浮かべ答えた。
何かビミョーな言い回しの変な空気だなぁ……
カミーラはレイラの発言にも関心を示さない。篤樹は従者2人を 挟んで座っているカミーラとレイラを見比べながら「親子なら似てないなぁ……」との印象を受けた。レイラも、関心の無い話題を打ち切るように口を開く。
「エルフ族協議会の代表として、今回の探索隊とやらに同行させていただくことになりました。どうぞ、宜しく」
「このミシュラとカシュラのほうが有能なのだが、同行はイヤだというのでそいつを付けることにした」
カミーラが事務的な補足説明として一言加える。一瞬、その場の空気に緊張が走ったのを篤樹は感じた。仮にも「娘(かも知れない者)」に対し失礼だし、これから一緒に動くことになる「チーム」に対しても失礼な物言いだと感じる。しかし、追い打ちのようにカミーラはさらに説明を加えた。
「ミシュラもカシュラも、そもそもエルフ 純潔思想なのでな。他種族との共なる行動などしたくないそうだ。自分たちの能力は、他種族のためになど一切使いたくない、という気持ちを考慮した。特に、 尊厳の欠片も感じられない『 未熟な人間』などとは、これ以上関わりたくないと申すのでな。仕方なく残りの 随行者であるレイラを充てさせてもらう」
未熟な人間って……やっぱ俺のことだよなぁ。尊厳の欠片も感じられないって……
篤樹は裁判所での自分の情け無い姿を思い出して恥ずかしくなる。
要はミシュラさん、カシュラさんは俺に「ダメ出し」をしてカミーラさんに了解されたって事か……
「エルフ族は、誰もが素晴らしい知恵と知識と能力をお持ちですからね。心強い限りです。どうぞよろしくお願いします」
エルグレドが、場の空気に流されない自然な口調でレイラの同行を歓迎する。
「さて……」
場の空気をこれ以上悪くする発言が無い事を確認すると、エルグレドは話を続けた。
「まずはルロエさん……そしてアツキくんとエシャーさんからの報告に基づいて私たちが調べたところ……」
あえて調書と言わずに報告という表現をエルグレドは選ぶ。
「3名はガザルとサーガの群れに襲われたルエルフ村を逃れるため、村の『西の森』から『外界』へ出られました。その出口が、ここタグアの町の北に位置する森だったそうです。そこで、『結びの広場』と呼ばれるその『出入口』に、私たちは調査隊を送りました。再びルエルフ村へ移動出来るかどうかを調査するためです。しかし、残念ながらその糸口さえ見つけられませんでした。これについて、ルロエさんからの見解をお願いします」
エルグレドがルロエに目配せをする。
「はい。湖神様の許可により、村人は特別な場合を除き生涯に1往復だけ、村と外界を行き来出来るという定めがあります。通常は1人1人の『往来手順』を湖神様よりいただき、その手順に従って森を出、戻る時はその手順の逆方法で入る事になっています。その手順については本来、湖神様より許可を得た者のみが事を終えるまで『口外厳禁』とされるものなのですが……今回はあのような非常事態であったため、村人全員が同じ『往来手順』を 授けられました。……決まりでは誰にも語ってはならなかったものですが、エシャーもアツキくんも『往来手順』が『口外厳禁』である事を知らなかったもので、巡監隊の調書に全て正直に答えていたようです」
ルロエの説明をエルグレドが受け取る。
「ええ。巡監隊に確認しましたが、彼らは決して乱暴な取調べは行っていません。おふたりからの自発的な供述です。もっとも、多少の『かまかけ』はやったと申しておりました。改めて不愉快な思いをさせてしまいましたことをお 詫びいたします」
え? 言っちゃダメだったんですか?
篤樹はルロエに目を向けた。気付いたルロエはニッコリ微笑み 頷いている。「まあいいさ」とでも言ってる表情に篤樹はホッとした。エルグレドは話を続ける。
「経緯はどうあれ、今は同じ目的に歩むチームとして、互いに協力しあっていきましょう!……さて、今回ルロエさんたち村人が授けられた往来手順は、森の所定の場所から『後ろ向きで5歩・前向きで8歩・後ろ向きで5歩・前向きで5歩』進む、というものだったそうです。ですから調査隊は報告書どおりの場所でその『逆手順』を試しましたが、何回やっても何も起こらなかったとの事です」
そうか……やっぱり村には戻れないんだ……
「もっとも『村との関係が無い人間』が試しただけですので、それは当然の結果であったかと思います。ですからこの後、探索隊としての第一の試行策として私たちはアツキくんを連れてもう一度、北の森からの入村を試すつもりです」
篤樹は自分の名前が出てギクッとした。
「ただ……状況や情報から考えると、これですんなり入村出来るという可能性は低いと思われます。今回『湖神様から授けられた往来手順』そのものが、村から出るためだけの緊急手順であった可能性が高い、とも考えられるからです。ですから第一の試行策はあくまでも『確認のため』のものであると御理解下さい」
カミーラが鼻で笑う。
「上手く行けば幸運ってレベルの話か。 悠長なことをやってるだけの時間はない事を忘れるなよ」
「ええ。3ヶ月以内に成功させなければならない任務だからこそ、1つ1つを手抜かり無く確かめて歩む所存です」
エルグレドはカミーラの嫌味を 激励に聞き変えて答える。
「確認の後、もし上手くいけばそのまま入村探索に入りますが……予想通りであった場合には、そのまま北の森を抜けミシュバットの 遺跡を目指します。ここにも『結びの広場』があったと考えられている場所がありますので……その後は大陸南西岸のキボク、東周りでクシャ、ミルベ、エラツと……現在『結びの広場』であろうと確認されている場所を探索して行く予定です。それと……」
エルグレドは言葉を区切りビデルに顔を向けた。
「ルエルフの村から3人以外に『外界』へ脱出を果たしたであろう、他の村人たちについてですが……」
「まだ何も報告は上がって来ていない」
ビデルは素っ気無く答えた。
「……分かりました。ルエルフ村の『北の森』には300名以上の村人が脱出に向かったという事ですが、それだけの人数が一度に『外界』に出たなら、それなりに大きなニュースとなって伝わってきてもおかしくないはずです。が……そちらの調査については非常時対策室が引き続いて調査に当たるという事で、私たち『探索隊』は、とにかく村に入り盾を持ち帰るという任務に集中することとなります。それぞれの探索予定地での協力要請の件は?」
「各地域の行政担当者にはすでに伝令を送り、助力を指示している」
ビデルが答え、エルグレドは頷いた。
「まずは、ルエルフ村への入村方法が分からなければ『守りの盾』に 辿り着くことは出来ません。『村』との接点である『結びの広場』と思われる場所……すでに私たちが 把握している場所だけでなく、今まで見つかっていない広場を探し出し、入村方法を調べる事が第一であると考えます。よろしいでしょうか?」
エルグレドの視線は、ビデルでもカミーラでもなくレイラに向けられている。同行メンバーとして加わる者への意志の確認ということか……レイラは父親そっくりの 仕草でフッと鼻で笑う。
「異論はございませんわ。隊長さんにお任せします。ただ、今おっしゃられたルートをグルッと回るだけでも……ふた月はかかるのではないかと?」
「そうですね。ゆっくり調査をして回る時間はないでしょう。移動ルートとしても安全なコースだけというわけにはいきません。王国の未支配地域も通らざるを得ない点は御覚悟下さい」
エルグレドもにこやかに微笑んで応じた。
この2人と一緒の旅かぁ……篤樹は変な緊張感をエルグレドとレイラの間に感じ取り、不安な気分になった。
でも……とにかく行くしかない! 自分に何が出来るのか、どんな意味があるのかは分からないけど……進むためには立って歩み出さないといけないんだ! 座って待ってたって誰かが運んでくれるわけじゃない。自分で立って歩み出すしかないんだ!
篤樹は「自分で決めた道」を、しっかり歩むことだけに思いを向けようと自分に言い聞かせ、視線を前に向ける。目の前に座っているエシャーはまだ篤樹から目をそらしたままだ。
まずはエシャーにちゃんと謝る……それが「自分の今歩むべき道の第一歩だ」と篤樹は心に定めた。
広間……と言っても、ホテルの食堂に10人程が座れる大きな長テーブルが2列置いてある場を借り、ミーティングが行われていた。1列の奥にはビデルとルロイ、エシャーが座り、もう1列にカミーラと従者らしき女性のエルフが3人座っている。従者の内2人は裁判所で見覚えのあるエルフだが、あと1人は初対面だ。黒く長いストレートの髪が独特の輝きを放つ端整な顔立ちのエルフ女性は、遅れて入って来た篤樹たちには見向きもしない。
「もうしわけございません、閣下。では早速始めましょう」
篤樹もエルグレドの後に続き、中通路を通り抜け奥へ進むと、適当な椅子に腰掛けた。右列のテーブルにエルフ族協議会関係者が固まっているので、つい左側のテーブル……エシャー、ルロエ、ビデルと向かい合う形の席に座ってしまう。エシャーはあからさまに篤樹から視線をそらした。
あーあ……嫌われちゃったかなぁ……「探索隊」に出る前に、後でもう一度ちゃんと謝ろう……
「エルグレド、大使に説明を」
ビデルの指示を受け、エルグレドは席に座ること無く、そのまま中通路を進み全員を見渡す位置に立つ。
「ビデル閣下とカミーラ大使におかれましては……先刻、裁判所でお伝えしました内容と重複する部分が多くあります事を、 予め御了解下さい。さて、この度、カガワアツキくんと私……それと……」
エルグレドがカミーラに視線を向ける。
「レイラ! 自己紹介を」
カミーラの呼びかけに、初対面のエルフ女性が立ち上がる。
「ドュエテ・ビ・レイラ・シャルドレッドです。初めまして」
エルフ族特有の余裕ある笑みを浮かべながら、しっかりと目を見開き、1人1人に目線を合わせ挨拶をする。 凄く 綺麗な女性だなぁ……篤樹は思わず視線をそらしてしまう。見た目だけでなく、雰囲気が高貴さに包まれている感じだ。
「ドュエテ……シャルドレッド? という事は大使の……?」
ビデルが少し驚いたように尋ねた。
「血縁者ではあるようだな。くだらん繋がりだ」
カミーラは特に関心も示さず、 素っ気無く答える。
「『娘』に当たるはずだ、と母からは 伺っております。定かではございませんが……」
レイラも薄く笑みを浮かべ答えた。
何かビミョーな言い回しの変な空気だなぁ……
カミーラはレイラの発言にも関心を示さない。篤樹は従者2人を 挟んで座っているカミーラとレイラを見比べながら「親子なら似てないなぁ……」との印象を受けた。レイラも、関心の無い話題を打ち切るように口を開く。
「エルフ族協議会の代表として、今回の探索隊とやらに同行させていただくことになりました。どうぞ、宜しく」
「このミシュラとカシュラのほうが有能なのだが、同行はイヤだというのでそいつを付けることにした」
カミーラが事務的な補足説明として一言加える。一瞬、その場の空気に緊張が走ったのを篤樹は感じた。仮にも「娘(かも知れない者)」に対し失礼だし、これから一緒に動くことになる「チーム」に対しても失礼な物言いだと感じる。しかし、追い打ちのようにカミーラはさらに説明を加えた。
「ミシュラもカシュラも、そもそもエルフ 純潔思想なのでな。他種族との共なる行動などしたくないそうだ。自分たちの能力は、他種族のためになど一切使いたくない、という気持ちを考慮した。特に、 尊厳の欠片も感じられない『 未熟な人間』などとは、これ以上関わりたくないと申すのでな。仕方なく残りの 随行者であるレイラを充てさせてもらう」
未熟な人間って……やっぱ俺のことだよなぁ。尊厳の欠片も感じられないって……
篤樹は裁判所での自分の情け無い姿を思い出して恥ずかしくなる。
要はミシュラさん、カシュラさんは俺に「ダメ出し」をしてカミーラさんに了解されたって事か……
「エルフ族は、誰もが素晴らしい知恵と知識と能力をお持ちですからね。心強い限りです。どうぞよろしくお願いします」
エルグレドが、場の空気に流されない自然な口調でレイラの同行を歓迎する。
「さて……」
場の空気をこれ以上悪くする発言が無い事を確認すると、エルグレドは話を続けた。
「まずはルロエさん……そしてアツキくんとエシャーさんからの報告に基づいて私たちが調べたところ……」
あえて調書と言わずに報告という表現をエルグレドは選ぶ。
「3名はガザルとサーガの群れに襲われたルエルフ村を逃れるため、村の『西の森』から『外界』へ出られました。その出口が、ここタグアの町の北に位置する森だったそうです。そこで、『結びの広場』と呼ばれるその『出入口』に、私たちは調査隊を送りました。再びルエルフ村へ移動出来るかどうかを調査するためです。しかし、残念ながらその糸口さえ見つけられませんでした。これについて、ルロエさんからの見解をお願いします」
エルグレドがルロエに目配せをする。
「はい。湖神様の許可により、村人は特別な場合を除き生涯に1往復だけ、村と外界を行き来出来るという定めがあります。通常は1人1人の『往来手順』を湖神様よりいただき、その手順に従って森を出、戻る時はその手順の逆方法で入る事になっています。その手順については本来、湖神様より許可を得た者のみが事を終えるまで『口外厳禁』とされるものなのですが……今回はあのような非常事態であったため、村人全員が同じ『往来手順』を 授けられました。……決まりでは誰にも語ってはならなかったものですが、エシャーもアツキくんも『往来手順』が『口外厳禁』である事を知らなかったもので、巡監隊の調書に全て正直に答えていたようです」
ルロエの説明をエルグレドが受け取る。
「ええ。巡監隊に確認しましたが、彼らは決して乱暴な取調べは行っていません。おふたりからの自発的な供述です。もっとも、多少の『かまかけ』はやったと申しておりました。改めて不愉快な思いをさせてしまいましたことをお 詫びいたします」
え? 言っちゃダメだったんですか?
篤樹はルロエに目を向けた。気付いたルロエはニッコリ微笑み 頷いている。「まあいいさ」とでも言ってる表情に篤樹はホッとした。エルグレドは話を続ける。
「経緯はどうあれ、今は同じ目的に歩むチームとして、互いに協力しあっていきましょう!……さて、今回ルロエさんたち村人が授けられた往来手順は、森の所定の場所から『後ろ向きで5歩・前向きで8歩・後ろ向きで5歩・前向きで5歩』進む、というものだったそうです。ですから調査隊は報告書どおりの場所でその『逆手順』を試しましたが、何回やっても何も起こらなかったとの事です」
そうか……やっぱり村には戻れないんだ……
「もっとも『村との関係が無い人間』が試しただけですので、それは当然の結果であったかと思います。ですからこの後、探索隊としての第一の試行策として私たちはアツキくんを連れてもう一度、北の森からの入村を試すつもりです」
篤樹は自分の名前が出てギクッとした。
「ただ……状況や情報から考えると、これですんなり入村出来るという可能性は低いと思われます。今回『湖神様から授けられた往来手順』そのものが、村から出るためだけの緊急手順であった可能性が高い、とも考えられるからです。ですから第一の試行策はあくまでも『確認のため』のものであると御理解下さい」
カミーラが鼻で笑う。
「上手く行けば幸運ってレベルの話か。 悠長なことをやってるだけの時間はない事を忘れるなよ」
「ええ。3ヶ月以内に成功させなければならない任務だからこそ、1つ1つを手抜かり無く確かめて歩む所存です」
エルグレドはカミーラの嫌味を 激励に聞き変えて答える。
「確認の後、もし上手くいけばそのまま入村探索に入りますが……予想通りであった場合には、そのまま北の森を抜けミシュバットの 遺跡を目指します。ここにも『結びの広場』があったと考えられている場所がありますので……その後は大陸南西岸のキボク、東周りでクシャ、ミルベ、エラツと……現在『結びの広場』であろうと確認されている場所を探索して行く予定です。それと……」
エルグレドは言葉を区切りビデルに顔を向けた。
「ルエルフの村から3人以外に『外界』へ脱出を果たしたであろう、他の村人たちについてですが……」
「まだ何も報告は上がって来ていない」
ビデルは素っ気無く答えた。
「……分かりました。ルエルフ村の『北の森』には300名以上の村人が脱出に向かったという事ですが、それだけの人数が一度に『外界』に出たなら、それなりに大きなニュースとなって伝わってきてもおかしくないはずです。が……そちらの調査については非常時対策室が引き続いて調査に当たるという事で、私たち『探索隊』は、とにかく村に入り盾を持ち帰るという任務に集中することとなります。それぞれの探索予定地での協力要請の件は?」
「各地域の行政担当者にはすでに伝令を送り、助力を指示している」
ビデルが答え、エルグレドは頷いた。
「まずは、ルエルフ村への入村方法が分からなければ『守りの盾』に 辿り着くことは出来ません。『村』との接点である『結びの広場』と思われる場所……すでに私たちが 把握している場所だけでなく、今まで見つかっていない広場を探し出し、入村方法を調べる事が第一であると考えます。よろしいでしょうか?」
エルグレドの視線は、ビデルでもカミーラでもなくレイラに向けられている。同行メンバーとして加わる者への意志の確認ということか……レイラは父親そっくりの 仕草でフッと鼻で笑う。
「異論はございませんわ。隊長さんにお任せします。ただ、今おっしゃられたルートをグルッと回るだけでも……ふた月はかかるのではないかと?」
「そうですね。ゆっくり調査をして回る時間はないでしょう。移動ルートとしても安全なコースだけというわけにはいきません。王国の未支配地域も通らざるを得ない点は御覚悟下さい」
エルグレドもにこやかに微笑んで応じた。
この2人と一緒の旅かぁ……篤樹は変な緊張感をエルグレドとレイラの間に感じ取り、不安な気分になった。
でも……とにかく行くしかない! 自分に何が出来るのか、どんな意味があるのかは分からないけど……進むためには立って歩み出さないといけないんだ! 座って待ってたって誰かが運んでくれるわけじゃない。自分で立って歩み出すしかないんだ!
篤樹は「自分で決めた道」を、しっかり歩むことだけに思いを向けようと自分に言い聞かせ、視線を前に向ける。目の前に座っているエシャーはまだ篤樹から目をそらしたままだ。
まずはエシャーにちゃんと謝る……それが「自分の今歩むべき道の第一歩だ」と篤樹は心に定めた。
10
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる