◆完結◆『3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~』《全7章》

カワカツ

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第4章 陰謀渦巻く王都 編

第 196 話 森の探検

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 文化法暦省公営学舎庭内は、自然森林のような木々と整備された遊歩道が設けられている。ここに来てまだ数日しか経っていないエシャーだが、すっかりこの学舎庭が気に入っていた。

「すごく綺麗な樹だねぇ……大きくて立派な枝だし……」

 庭の中でもひと際大きな樹木を見上げ、エシャーは嬉しそうに感想を述べる。

「樹齢1000年以上のニムレタの樹よ。前エグラシス王国建国前からここに植わってるんだって。そう考えると樹齢ってホントに凄いよねぇ」

 サレマラもエシャーにつられて大樹を見上げる。

「長城壁内街区でも有名な大樹の1本なんだよ。さて……」

 補足説明のようにサレマラはエシャーに伝え、話題を切り換える。

「午後はどうしよっか? 授業も無いし……今日も街区観光に出てみる?」

「うーん……」

 エシャーは大きく伸びをするように両腕を広げ、大樹を見上げた。

「 街中まちなかは……もういいかなぁ?」

 大きく吸い込んだ息を吐き出し答える。

「やっぱり人が多過ぎて嫌だった?」

 サレマラは笑顔で尋ねた。

「嫌って言うか……うん! そだね。やっぱり人が多過ぎるのは嫌だったかな? 何だか息が苦しくなっちゃったもん!」

 エシャーは笑いながら答え、視線を再び大樹に向ける。

「だからここは好きだよ! 緑もいっぱいあるし、この樹もあるから!」

「そっかぁ……やっぱルエルフの自然児エシャーに、長城壁内街は狭苦しかったかぁ。ゴメンねぇ」

 サレマラが申し訳無さそうに謝る。エシャーは慌てて首を横に振った。

「ううん! 楽しかったから、ありがとうだよ!……ただ……人が多過ぎる所は、しばらくもういいかなぁって……」

 顔を向けたエシャーの視線が、自分を通り越し背後に移ったことを感じ、サレマラは振り向いた。

「あら?」

「あの子たち……」

 遊歩道の奥から走って来る2つの小柄な人影……

「談話室でお化けの話をしてた子だよね……」

「……ユイ?」

 エシャーが一瞬早く人物を見分けると、サレマラがその子の名を呟いた。

「お姉ぇちゃーん!」

 エシャーとサレマラが自分たちに気づいたと分かった2つの影は、手を振りながら叫んで駆け寄って来る。

「ユイと……ジル?」

 ハッキリと顔の判別がつくと、サレマラは改めて二人の名を呼ぶ。

「どうしたの? 2人とも……そんなに慌てて……」

 ユイとジルはサレマラの前まで駆け寄って来ると、大袈裟に呼吸を整えながら語り始める。

「こ……ここに……いたんだね……」

「探したんだよぉ……良かったぁ見つかって!」

「なぁに? どうしたのよ?」

 サレマラは4回生のユイと3回生のジルの目線まで、少し腰を屈めて尋ねた。

「ソリアとドペスがいないの!」

 ユイがまた大袈裟に目を見開いて「困ってますアピール」の表情を見せる。

「あの2人が?」

 サレマラはチラッとエシャーに目配せを送った。

 あの談話室にいた他の2人……ってことだよね?

「いつからいないの?」

 エシャーの理解を確認する間を置かず、サレマラはユイに尋ねる。

「分かんない……お昼のお弁当をもらったあと……いなくなっちゃった!」

 今日は低学年授業も朝の2コマで終わりのはず……お弁当は11時から配るから……サレマラは懐中時計を取り出し時間を確認する。

「1時……かぁ……お昼休みに散歩してるんじゃないの?」

 しかしサレマラの推察に、ユイは激しく首を横に振る。その様子を見ていたエシャーも会話に加わった。

「ねぇユイ……2人がどこかに行ったかも知れないって思ってるの?」

 ユイはジルに顔を向けて頷く。

「うん……多分『あそこ』かなって……」

「あそこ? どこ?」

 ユイの曖昧な返答をサレマラが問い ただす。

「多分……湖の森」

 まるで罪の告白でもするかのように、ユイはオドオドとした様子で答えた。サレマラは腰を伸ばして目線を下げる。

「湖の森って……え? なんで? ダメでしょ、そんなところに行ったら……」

「なんでそう思うの?」

 つい注意の言葉が先に出たサレマラの横からエシャーが尋ねた。

「ごめんなさい!……あのね……朝ごはんの時にね……」

「どこでお化けを見たのか教えてって言われて……」

 ユイとジルが交互に事情を説明する。

「お兄ちゃんたちと一緒に、3月のお休みの時に森に行ったんだ……兵隊さんの小屋から離れた湖の道から入って……森の中を歩いて行ったら広場があってね……そこから湖のほうの森に歩いて行ったら『階段のお うち』が有ったから……中を見たんだけど、真っ暗で怖かったから帰ろうとしてたら……誰かが階段を上ってきて……そうしたら……包帯をお顔にグルグル巻いたお化けだったの!」

 ジルは一生懸命に目を見開いて説明するが、イマイチ要点が掴めない。サレマラは視線をユイに向ける。

「そしたらね……ソリアとドペスが『調べに行こう!』ってなって……私は……お化け怖いし嫌だよって言ったの……でも2人とも絶対に行くって言ってて……」

「『誰にも言っちゃダメ!』……って言われた?」

 サレマラはユイが最後に飲み込んだ言葉を代弁で引き出すと、ユイはコクンと頷いた。

「で、お弁当を持った2人の姿が見当たらなくなっちゃった……ってことね?」

 ユイとジルが同時に首を縦に振る。サレマラは呆れたように溜息をつく。

「それじゃ……間違いなく行っちゃったわねぇ……あの子たち……」

「『湖の森』に?」

 苦笑して呟くサレマラに、エシャーは確認するように尋ねる。サレマラはエシャーの顔を見るとパッと笑顔を見せた。

「分かったわユイ、ジル。お姉ちゃんたちが捜して来てあげる。ね? エシャー」

 エシャーの顔も見る見る笑顔になっていく。

「うん! 行こう! 湖の森! やったー!」

「ほらほら、子どもたちの前なんだから……」

 サレマラは、まるで尻尾でも振って喜んでいそうなエシャーをたしなめると、ユイとジルに向かって語りかける。

「お夕食までにはみんなで戻って来るから、安心して待ってて。良い?」

 ユイとジルはようやく自分たちの手から「責任のバトン」を渡す相手が見つかった事に、心底ホッとしたように笑顔を見せる。

「うん!」

「……私たちが言ったって言わないでね?」

「はいはい。エシャーお姉ちゃんを森に案内してたら『たまたま見つけた』って言うから大丈夫よ。さ、お部屋に戻りなさい」

 寄宿舎の学生舎監であるサレマラにお願いすれば絶対に大丈夫だとでも言うように、ユイとジルは「よかったぁ」を連呼しながら遊歩道を戻って行った。

「お化け探しねぇ……こんな真昼間からってとこが可愛らしいわね」

 サレマラは数年前の自分の姿を見るように、温かな笑みを浮かべ2人の背中を見送った。

「さあ……ということで、行きますかぁ?『湖の森』へ!」

「やったぁ! サレマラ大好きぃー!」

 エシャーは低学年児並みにはしゃぎながらサレマラの両手を握り、ピョンピョン飛び跳ねて喜びを表した。


―・―・―・―・―・―・―


「……あそこに見えるのが、王宮兵団の巡回小屋よ」

 左手数十m先に立つ小さな小屋をサレマラは指さした。王都中央の「静けき湖」北岸に在るうっそうと茂る森……街区から湖畔を周るように整備されている道の脇に、その小屋は建っていた。道には二人の兵が立ち通行者をチェックしている。

「ソリアとドペスは向こうの森の中に?」

 エシャーは巡回小屋の先に広がっている森に目を向けサレマラに尋ねた。

「あの子たちの情報通りならね……でも……」

 2人は外周路を横断し、湖岸側に渡り歩きながら話を続ける。

「許可証を持っていないと、あの兵隊さんに止められるのよ。立入禁止の森だからね」

 サレマラはエシャーを案内するように湖に向かい歩き続ける。進路左側は森の「端」が迫っていた。進路の右側にはほとんど木も生えていない整備された湖岸の芝生が広がり、人々が思い思いにくつろいでいる姿が見える。
 湖を挟み、王城が建つ湖水島が目前に迫る。エシャーの視力なら十分に人の顔を識別できるくらいの距離だ。エシャーはしばらく湖水島に建つ建物群を凝視した。

 アッキーたち……元気にしてるかなぁ?

「エシャー……こっちよ」

 サレマラの声に反応し、顔を左側へ向ける。湖水島に注視していたため、一瞬サレマラの姿を見失っているエシャーに再び声がかけられた。

「こっちこっち!」

 湖岸の水辺に近い森の「端」の中に動く人影を見つけ、エシャーは駆け寄る。

「ここが『入口』?」

 下草や低木柴の壁がわずかに薄くなった獣道へ足を踏み入れ、先に中に入っていたサレマラにエシャーは尋ねた。

「子どもたち専用の通路よ。ここは許可証も要らない……けど……」

 サレマラは身を屈め、張り出した枝を避けながら進む。

「やっぱ子ども専用ね……前はもっと簡単に進めたんだけど……10回生にはキツイ狭さだわ……」

 獣道は「何となくのルート」を作ってはいるが、ほとんど藪の中の「道なき道」というレベルのものだ。サレマラは足元の木の根や上部の枝を何とか避けながら少しずつ前進する。

「エシャー……大丈夫?」

 後について来ているはずのエシャーを気遣い、サレマラが声をかけた。

「うん! やっぱり、凄く良い森だねぇ!」

 真横から返事が聞こえサレマラは仰天する。

「ちょ……あ……さすが……ね」

 エシャーは下草や柴の隙間を縫うよう巧みに歩き、場所によっては木の横枝を掴み渡りつつ前進している。しかもほとんど音も立てていない。

「……村の森とかでも、よく遊んだの?」

 サレマラは目の前の枝草を払いながら一歩一歩前進しつつ尋ねる。

「うん。お父さんの狩りについて行ったりお散歩したり」

「そっかぁ……友だちとかも一緒に?」

 サレマラは自分の幼少期の遊びを思い出しながら何の気無しに尋ねた。

「ううん……村は子ども少なかったから……」

 予想外の返答にサレマラは足を止め、ついでに開けた上部を確認しつつ腰を伸ばす。

「そうなんだ? ルエルフ村って……」

「うん……私と同じ年に生まれた子はいないよ。たまに遊んでたのは3年上の子と2年下の子……あとは赤ちゃんの子守りとか」

「そっかぁ……そんなに少なかったんだぁ」

 何となく言葉に詰まってるようなサレマラと向き合い、エシャーは静かな笑みを浮かべる。

「それが普通だったから、気にもしてなかったんだけどね……。アッキーが来て……外界に来て……色んな友だちが出来て……ここでサレマラにも会えて……私たちの村ってホントに『小さな世界』だったんだなって思った」

 サレマラはエシャーに笑顔を向ける。

「新しい世界を知れば前の世界を小さく感じるものよ。今いる世界を飛び出せば、この世界だって小さく感じるのかもね」

「新しい……世界……か……」

 エシャーはサレマラの言葉を繰り返す。

「あっ……」

 サレマラが何かに気づいたように小さく声を上げた。

「え? どうしたの?」

 エシャーはサレマラの動きに注目する。

「……ふふ……さ、もうちょっとであの子たちに追いつけそうよ」

 サレマラはそう言うと、木の枝に絡みついていたピンクの可愛らしいリボンを拾い上げエシャーに見せた。
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