◆完結◆『3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~』《全7章》

カワカツ

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第7章 それぞれのクエスト 編

第 404 話 関心

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 多種族連合から成るサーガ討伐の陣を離脱し、和希たちはゲショルの滝下に在る「ユフの民」の集落へ歩を急いでいた。

「メシャクさんたちが怒った気持ち……僕も何となく分かるよ」

 道と呼ぶには足下の状態が悪い森の中を進みながら、大田康平は持論を語る。

「『自分たちの世界』だと思って生きて来たのにさ……それが『そうじゃない』って現実を急に突き付けられたワケでしょ? 僕らからすれば『バスガイドさん』だし『先生』だけど、この世界の人たちからすれば『神さま』って存在が居てさ……この星を創って、世界を創って……その目的が柴田さんを助けるためだった、なんて言われたら……そりゃ怒るよ。『お前たちの世界では無い・お前たちはわき役だ・捨て駒だ』って言われた様なもんでしょ?」

「まあ……やってらんねぇって気にはなるわなぁ……」

 そばを歩む牧野豊が、その弁に応じた。

「この世界を創ったってのが先生たちだとは言えさ……結局、先に作ったモンが支配者になってよ……自分たちが作ったルールを、後から生まれたモンに押付けやがるってのは、かなり腹立たしいよな。無茶苦茶な世界だぜ!」

「そんなの、『向こう』だって一緒だろ?」

 背後で続く会話に、上田一樹がウンザリ声で加わる。

「先に生まれた大人たちが決めたルールの中で、俺たちは『生かされて』る。俺たちが納得して決めたルールじゃ無く、誰かが決めたルールの中で生きる……それ自体はこっちも向こうも同じなんだよ」

「でも……大体、勇気の説明が悪いから、メシャクさんたちは怒ったんじゃないの?」

 美月と恵美と3人で並び進む洋子が、勇気に聞こえるように言い放つ。

「そりゃ、上田くんが言うように『先に決められてるルール』が有ったとしてもさ、あんたの説明だと、完全にこの世界の人たちが置き去りだったでしょ? 先生たちがこの世界の人たちを、そんな無責任に『創った』なんてこと無いんじゃない?」

「えー?……いや、そりゃ……そうだけど……」

 責められた勇気は心外そうに口を尖らせる。

「でもさ……『見て・聞いた内容』を皆に話しただけじゃん!……そりゃ……僕の言い方が『こっち中心』になっちゃってた気もするけど……」

 事実として、メシャクたちをあれほど「怒らせた」のは、自分の説明不足が原因だと認めている勇気は、バツが悪そうに言い淀む。

「ルールは有る……でもそれは、絶対不可侵で変更不可能なものなんかじゃ無い……ってところの説明は足りなかったよね」

 周囲の警戒をしつつ、田中和希がやんわりと会話に加わって来た。

「あまりにもいきなりだったし、一方的な話に聞こえたから、メシャクさんたちも困惑して『怒った』けど。でもそれを『変える』って決断をしたから、あの場で短絡的にボクらの口を封じるって考えをやめたんだよ」

「え? そうなの?」

 勇気が不思議そうに尋ねる。

「でもさ……美咲さんは『柴田さんを助けて上げて』って言ってたんだよ? その『使命』を拒んで、僕らを殺そうとしたんじゃん?」

「最初は、ね」

 和希は勇気にふわっと笑みを向けて応じた。

「受け入れられない『ルール』だから、最初は『全部を拒もう』としたんだよ、メシャクさんたちは。美咲さんや先生の残した『思い』や、この世界の根底にある『歴史』そのもの……その情報を知るボクたちを全部壊そうとね。だけどガイムさんがワンクッションになってくれたおかげで……」

 和希はチラッと一樹に視線を向けた後、また勇気に目を戻す。

「……少し冷静になって、考えを変えてくれたんだよ。『壊してゼロにする』んじゃなくて、『新しく創り変える』って方向にね」

「なにそれ? よく分かんないよ?」

 勇気は首をかしげ、和希に問う。その問いに、一樹がぶっきらぼうに応じた。

「向こうは向こうで『自分たちの道を進む』ってことだよ。これまで通り、この世界で自分たちの生命を脅かす『黒魔龍』って存在を消し去るために戦うってな。でも、先生とバスガイドさんが俺らに託した『柴田加奈を助けろ』って使命にまでは干渉しないって決めたのさ。いや……むしろ、その使命を『果たせ』ってことな」

「つまり……」

 洋子と手をつないで歩く美月が口を開いた。

「柴田さんを私たちが助けて上げれば、黒魔龍自体が消えるから……双方の目的は果たせるってこと?」

「それと……」

 美月の言葉を肯定した上で、和希が付け加える。

「たとえ上手く行ったとしても、勇気と川尻さんが持って来た全ての情報は、絶対にこの世界に広めるなって趣旨でボクらは送り出された。メシャクさん、あれはかなりマジで言ってた……よ!」

 法力強化を施された「編みボール」を、和希はおもむろに一樹に向けパスした。一樹はトラップもせず、ダイレクトに左前方の木々に向けそれを蹴り込む。鋭いカーブで軌道を変えたボールが木の裏側に曲がり込み、破壊音が響いた。

「え? な、何、急に……」

 話の途中で起こされた突然の行動に、勇気は目を見開きオドオドと尋ねる。ユフの民が2名、即座に木陰に駆け込み、数秒後に何かを抱えて姿を現わした。

「ゴブリン種のサーガってのは、警戒心は弱いけど、とにかく動きが速いんだってさ。だから、気付いてない振りをして、一気に片付けなきゃいけないんだって」

 和希は勇気に軽くウインクをして見せる。

「相変わらず阿吽の呼吸だな……お前らは」

 豊が呆れ声で一樹に顔を向けると、当の本人は涼し気な表情で細く笑んだ。

「しばらく前からつけてやがったからな。群れの一部なのか、単体なのか、様子を見てたんだ。で、単体行動みてぇだし、さっき田中とアイコンタクトで攻撃のタイミングを決めたんだよ」

「エルフの『伝心』みたいだね、上田くんたちって」

 黒霧化していくゴブリン種のサーガを見ながら、洋子が感想を述べる。その声に、豊も続く。

「田中くんはこっちに来てから『気配の読み』もエルフ並みに敏感になったんだろ? 小林だって俺らより『敵』に気付くの早いし……それもやっぱり『想像を創造する力』ってのと関係あんのかなぁ?」

「……どうだろうね?」

 和希は微笑んだまま曖昧に応じ、美月を見る。視線の合った美月は照れ臭そうに笑み肩をすくめた。

「こっちに来てから……向こうに居た時よりも集中力の『質』が変わった気はするかも……プレーの時には『勘が当たった』ってくらいの確率だったけど、こっちだと、上手く言えないけど……『予知』? みたいな感じで……」

「ボクもそんな感覚だよ」

 和希は美月に同意しうなずく。

「知らない世界だから、向こうよりも余計に集中して周りを観察してるんだろうね。そうしたら、いろんな情報が『見えて』来て、何となくイメージが鮮明になるんだ。一樹との連携も……ここでは向こうの数倍上手く行ってると思うよ」

「関心……か……」

「え、何か言った? 川尻さん……」

 恵美が噛みしめるように呟いた声を、康平が拾う。その声で皆の視線を向けられた恵美はハッと顔を上げ、考えをまとめながら語り始める。

「あ……うん。『魔法』とかそういうのはまだ実感無いんだけど……ユフの人たちとかって、言葉を交わさないでも相手の思いを理解し合ってるでしょ? エルフの『伝心』も、原理は分からないけど……でも、それって、田中くんや小林さんが言うような『周りを観察する力』が関係してるのかなぁ……って」

「つまり?」

 理解が出来ない様子の勇気が、キョトンとした目で尋ねた。

「えっとね……だから『関心』をもって集中すると、色んなモノが見えたり聞こえたりするのかなぁって……もちろん!『向こう』でもそうだったんだけど……ここは、その『関心力』が、魔法とかに影響を与えるのかもって思ったの」

「『関心』ねぇ……」

 そばに落ちていた小枝を拾い、一樹がニヤニヤと復唱する。

「え……何?」

 一樹の視線を感じた和希が、少し焦り気味に応じた。立ち話の間に自然と和希との距離が近くなっている美月にも、その視線が向けられる。

「数日前から俺が一番『関心』持ってること、何か分かる?」

「あ! それ、俺も感じてるヤツだわ!」

 即座に豊が顔を輝かせ話に乗って来た。男子2名のにやけた視線が、和希と美月、そして、康平と洋子の2組に向けられる。2人の「関心事」に思い当たった4人は、にわかに顔を赤らめ視線を外す。

「えっ? なになに? 僕にも教えて!」

 微妙な「場の空気」に気付いた勇気が、興味深そうに一樹たちに尋ねるが、2人はニヤニヤしたままシラを切る。

「さあ、何でしょうねぇ?」

「神村もあの4人を『関心』もって見てりゃ、すぐに分かると思うぜぇ」

「ちょ……ちょっとぉ! 牧野くん!」

 堪らず発した洋子の抗議にも、一樹と豊はイタズラ満開の笑みを浮かべヘラヘラ応じるだけだ。その様子を、いまだ理解出来ずに勇気は不思議そうに見ている。

「関心かぁ……」

 冷やかしの内容を理解し微笑む恵美は、ポツリと声に洩らす。話題を変えるチャンスとばかりに、和希の視線が恵美に向けられた。

「え? 川尻さん、何か言った?」

「私……柴田さんの『声』……なんにも聞こえなかったんだぁ。『来るな』も『助けて』も……何にも……」

 恵美の目に涙が現れ、溢れ零れ頬を伝う。

「私……彼女のこと……全く気にもしてなかったんだなぁって……。転校して来た『知らない子』に、何の関心も持たないで過ごしてたんだなぁって……。あんな……同じ歳の子が『あんなに酷い目』に遭って生きていた事なんか……何にも知らなかった……見ようとも……聞こうともしてなかった……」

 語る様子に気付いた洋子と美月は、話が終わる頃には両脇に立ち、恵美の身体を支えるように並び立っていた。そのまま女子3人は抱き合い泣きじゃくる。

「みんな……同じだよ。川尻さんだけじゃ無い……」

 少しの間を置き、和希が声をかける。

「『察してくれ子ちゃん』の声なんか誰も聞こえ無いっつったろ? そんなんで、自分を責めてんじゃ無ぇよ!」

 優しい和希の声とは対照的に、ぶっきらぼうな一樹の言葉が続く。

「責められるべき悪人は、柴田の母ちゃんとその彼氏だよ! あと、バスの運転手な! 川尻が悪いわけじゃ無ぇんだから……もう泣くなよ! 大田も!」

 女子3人の背後でさめざめと涙を流す康平に、一樹は視線を向け苦笑する。

「あ……うん……いや……だって……」

 指摘された康平は、グジュグジュと音を立てながら自分の服の袖で顔を拭う。

「さ……」

 和希は気持ちを切り替える意思をこめて声を上げた。

「とにかく、ここで泣いてるヒマは確かに無いよ。柴田さんの悲しみや怒りが、これ以上『黒魔龍』になって被害を広げないためにも、早く川尻さんの『メガネ』を見つけて処分しないと!」
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