◆完結◆『3年2組 ボクらのクエスト~想像✕創造の異世界修学旅行~』《全7章》

カワカツ

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第7章 それぞれのクエスト 編

第 441 話 武器

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 ズン……

 荒涼とした薄闇の大地―――篤樹は赤黒い光がうごめく天井を見上げた。

 今の音……何だろう?

 後に続くはずのレイラとスレヤーが現れないまま、もう10分以上が経過している。篤樹は上方で響いた振動音に、言い様の無い不安を覚えた。

 まさか……スレヤーさんたちに何か……

 直感とも言える不安が胸の内に膨らむ。この世界……この「星」の中心となっている「地核」は、卓也が言うように「地球とは全く構造が違うもの」なのだろう。全地を巡る「地脈」と呼ばれる魔法力の流れが地表近くを網目のように覆い、その「法力」が大量に集まる「集束点」がいくつか存在する。

 集束点の中でも、小宮直子と加藤美咲が佐川を誘い込み捕えるために設けた「地核への入口」は他の集束点と異なり、文字通り「タクヤの塔」から「地核」へ下る特別な道となっていた。

 垂直方向に移動する「道」って事は……この「上」がさっきの空洞……その「上」に螺旋階段……そして卓也が造った塔が在る……ってことだよな……

 100メートル近くの高さがありそうな天井から、拳大程度の石と砂礫が落ちて来る。篤樹は落下物が収まるのを待ち、先ほど「衝撃音」が聞こえた天井を再び見上げた。

 スレヤーさん……レイラさん……

 さらに5分ほど「後続者」を待つが、周囲には何の変化も起こらず、ただいたずらに時間だけが過ぎる。篤樹は改めて辺りを見回した。ゴツゴツした大小の石岩に覆われた地面は、陸上競技場が4つは入りそうな広さがある。薄暗いためにハッキリ確認は出来ないが、この広々とした石岩原を天井と壁がドーム状に囲んでいるようだ。

 独り……ぼっち……

 自分が置かれている状態を、篤樹は不意に認識する。何があったかは分からないが、何かがあったからこそスレヤーもレイラも姿を見せないのだ……もう……会えないのかも知れない。唯一の「武器」であった成者の剣も失ってしまった。エシャーもピュートも篤樹の目の前で死に、エルグレドは行方知れず……

 何も……無い。武器も……仲間も……友だちも……目的地も……

 突然置かれた孤独な状況に呆然と立ち尽くした篤樹は、しかし頭を振って自分を奮い立たせる。

 違う! 目的は在る! あいつを……佐川のおっさんを殺さなきゃ! それに……先生と美咲さんを助けないと……

「でも……どこに行けば……」

 篤樹はいつものように無意識で胸元へ手を当てた。直子から「力」を分けてもらった「渡橋の証し」を、服の上から掴む仕草で気持ちが落ち着けられる。

 そっか……これ……卓也のボタンだったんだ……

 塔の中で卓也と会話した言葉が脳裏に浮かぶ。

『忘れるな。思い出せよ……』

 ああ……言われた通りに辿り着いたぜ? 途中で……ちょっと「道」を外れちゃったせいで、せっかくの武器を無くしちゃったけどな……

 篤樹は自嘲気味に薄く笑い、成者の剣を失ったことを後悔する。

 とにかく……武器を手に入れなきゃ……何か……良い方法は……

 辺りを見ても、石や岩が点在する地面が広がっているだけだ。篤樹は渡橋の証しを服の上から揉むように触りつつ、しばらく考えを巡らす。

 この世界の魔法……磯野が編み出した「近代魔法」ってのは、科学や技術を知る事でイメージを具現化する……でもレイラさんたち妖精種は「知識」ではなく「経験」で「古代魔法」を操れる……。どっちも、想像から創造する力……「出来るはずがない」と信じていれば創る事は出来ない……でも……

 篤樹は「この世界」の原理を思い出した。「無から有を創り出す力」……その力を持つ存在として、自分たちは地球から連れて来られたのだ。現に、バスの運転手だった佐川が「星々」を創り、中学校教師の直子とバスガイドの美咲が「この世界」を想像し、創造した。卓也も、川尻恵美も、神村勇気も、この世界で「魔法術」を操る者として生きた……ついこの間まで、同じ中学校で過ごしてた彼らが……

 俺にだって……

 エルグレドから教えられた「法力呼吸」を篤樹は整える。渡橋の証しを左手に握り替え、右手をゆっくり前に出し、篤樹は「剣」のイメージを高めていく。

 剣が欲しい……佐川を斬るための剣が。……法術戦は無理だ……イメージが出来ない。だけど「剣」なら……

 スレヤーから剣術の手ほどきを嫌と言うほど受けた王都の日々を思い出す。剣の柄の感触……重さ……輝き……。イメージはやがて、先ほどまで握っていた成者の剣の姿に変わる。襲撃して来たサーガの群れを、難なく斬り倒した鋭い剣刃を……

 剣が……欲しい!

 目を硬く閉じイメージが固まった。

 出て来い! 剣よ……出て来い!

 右手を伸ばし、その手に剣を握る姿をイメージする。しかし、何分間集中しようとも、ただ虚しく空を握るだけの時間が過ぎていく。

「そりゃ……無理……だよな……」

 だって俺は……ただの中学生なんだし……

 腕をゆっくり曲げ戻し、握り締めた右拳を見つめ自嘲気味な笑みを浮かべる。
 暴力とは無縁な15年間を生きて来た。会社務めの父と家電量販店のパートタイムで働く母……姉と妹の5人家族で暮らす普通の中学生男子……。この「手」は、人を殺した事も無ければ、殴った事さえなかった。それが……

 サーガだって、元は「普通に生きてた人々」だったんだろうな……

 「こちら」に来てからも、これまで篤樹は「人(人間種)」を殺すことなく過ごして来た。だが、初めこそ 躊躇ちゅうちょしていた「サーガ殺し」を、今では 躊躇ためらいなく剣を振るい行えるようになっている。自分と仲間を守るための必要な「防衛本能」……殺らなければ殺られる……それが「当たり前」になっていた。いつの日か……相手が人間種でも躊躇いなく剣を「当たり前に」振るうようになるのだろうか……

 違う!

 篤樹は自分の拳を見つめながら、大きく深呼吸する。

 俺は「人殺し」をしたいんじゃない! 佐川を殺す……あのおっさんを殺すだけだ! エシャーの恨みを晴らし……仇を討つ……絶対に……アイツだけは赦さない!

 スレヤーもレイラも居ない、成者の剣も無い。頼れるのはもはや「自分の拳・自分の力」だけなのだと再確認し、篤樹は右拳で左手の平を打ち気合を入れた。

「とにかく……」

 どこだ……どこに隠れてるんだ? この空間の……どこかに居るはずだ……

 篤樹は意を決し歩き出す。薄暗い荒野を注意深く見渡しながら、とりあえず「壁」に向かって真っ直ぐ進んだ。石岩原と言っても完全な平坦地ではない。視界を遮る高さの岩や水晶があちらこちらに生え立っている。

 登ってみるか……

 辿り着いた岩壁の凹凸を利用し、数メートルほど壁を登り手頃な岩場に立つ。ここからなら、石岩原の岩や水晶の柱に視界を妨げられず全体を見渡せる。

 あれは……

 グルッと全体を見渡した篤樹は、左手前方200メートルほど離れた「岩場」に違和感を感じた。薄暗いシルエットしか見えないが、他の岩場のようにゴツゴツした姿では無く、四角い建物のようにも見える。

 行ってみるか……

 篤樹は壁を下り、岩や水晶の隙間を縫うように目標地点に近付いて行く。

 あっ!……やっぱり……あそこだ!

 残り50メートルほどまで近付くと、岩柱の間から「建物」が見えた。明らかに人工物と感じる凹凸の無い壁に囲まれた四角い建物……マンションの「ゴミステーション」みたいな味気無い外観で、大きさは10メートル四方ほどの平屋造り……

 篤樹ははやる気持ちを押さえ、足音を立てないよう注意しながら建物に近づいて行った。
 
 中は……どうなってるんだ?

 辿り着いた面の壁には、中の様子を窺えるような窓や扉は無い。壁に耳を当ててみたが、音を漏れ聞くことは出来なかった。篤樹は左右を確認し、とりあえず距離が近そうな左角に向かって壁伝いに移動する。

 あ……

 角を曲がると、こちらの面には窓が設けられている事に気付いた。壁の上方の窓から、建物内の灯りが外の岩柱を照らしている。こちらの壁にはその窓1つだけしか無いのを確認すると、篤樹はそっと窓に近付いて行く。

 窓枠下部は篤樹の額ほどの高さに在る。これでは背伸びをしても中を覗くのは難しい。篤樹は足台になりそうなものを周りに探すが、手頃な大きさの石も見当たらなかった。ふと視線を動かし、窓の正面1メートルほど離れて生え立つ岩柱に目を向ける。

 音を立てないように岩柱の裏に回り込み、凹凸に手足をかけてよじ登った。窓枠との距離があるぶん、中の様子は部分的にしか見えない。

 あれは……

 右側に人の足のようなものが見えた。仰向けに寝かされているのか、爪先から膝くらいまでしか見えないが、白い左右の足が少し距離を開いて確認出来る。篤樹は出来る限り多くの情報を集めようと、岩柱の陰で頭を動かした。右側に見える「足」の持ち主は手前に1人、奥にもう1人横たえられている。

 先生……美咲さん……

 再生体を分断され、泥土に飲み込まれて行った直子と美咲の姿を思い出す。佐川は2人を「捕まえた」と言っていた。ここに運び込まれ、また再生の時を待っているのだろう。佐川に捕らわれた状態で……
 篤樹の胸にムカムカと熱い怒りがこみ上げて来る。

 あの変態野郎……絶対に赦さない……

 窓の正面から、台に置かれた様々な「小道具」が目に入った。佐川が何をするつもりなのか……過去の「記憶」からも容易に想像出来る。篤樹は視線を左側に移した。

 あっ! 剣だ……

 左側にも台が置かれているが、そちらは「小道具」ではなく、武器の類が置かれていることに気付く。視野に制限がある窓から全体は見えないが、斧やハンマー、そして、数種類の「剣」が置かれているのを確認すると、篤樹は静かに笑みを浮かべた。
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