2 / 2
手錠と花火
しおりを挟む
第一章 手錠と花火
目を覚ました瞬間に視界に映り込んだのは異常だった。真っ先に見えたのは無造作に設置されているお手軽花火セット。バリエーションは豊かで個人用打ち上げ花火もあれば、爆竹も転がっている。ねずみ花火やロケット花火なんかも散見される。こんな狭苦しい室内に。面白いことに、導火線がドアの隙間を通って繋がっている。どうやらここで花火大会が行われるらしい。観客はおっさん(45)一人。虚しいものだ。
――なんて余裕ぶっこいている場合では無い。今俺は手錠を固く嵌められ、足枷までもご丁寧に装着されている。少しでも臭いを嗅ぐと、ほのかに香るガソリンの臭いで鼻の中一杯になる。これらが意味するものは……「男、湯井谷洋介は業火に焼かれて息絶えます」というものだ。俺は魔女だったらしい。火炙りだなんて中世的で浪漫があるなと思わず感心してしまった。少なくとも、一瞬にして消し飛ばすナンセンスな爆弾を用いなかったことは評価しよう。花火は好きだし、丸焦げの方が死体は綺麗だ。
自分が死んだ後の事を考える馬鹿は何処にいるか、ここにいる。そんな馬鹿を救うべく俺は脱出を試みた。所持品を確認しようと思い、ひたすらポケットを漁る。出てきた物は、ライター、タバコ、ボールペン、メモ帳の四点だった。自分の不運さに溜息をついた。最も、ライターは人生を早く諦めたい人向けには幸運なアイテムだろうが……
もう一回部屋を見渡すと、タイマーとカメラがあることに気付いた。なるほど、悪趣味だ。おそらく、刻一刻と00:00に近づいているタイマーは導火線着火までのカウントダウンであり、カメラは迷える子羊な俺をニタニタしながら鑑賞する為の物なのであろう。時間は後三十分残されているらしい。これはナンセンス認定しておこう。何故なら俺が不愉快だからだ。
さて……今俺が出来ることと言えば、ライターで寿命縮めるか、メモに遺書を書くかだ。実を言うと俺は今頭の中がカオス状態であり、嵐の真っ只中のように乱れきっている。困惑している。脱出への活路を見出せないままでいる。このままではいけないと思い、メモ帳を取り出し状況把握を図った。しかし数分後、メモ帳には「遺書」という文字が書かれていた。俺は後者を選んでいたようだった。どうせ灰になる可哀想な紙ならば、好き勝手書いてやろう。
――今までの人生、それとなく楽しかった気がする。
しかし、今となって一番脳味噌にこびりついてる記憶と言えば、クソガキの頃の花火大会の日だろうか。あの夜は河川敷に皆集合して、色とりどりに輝く花火に大きな歓声をあげていた。一番巨大な花火が打ち上げられた時は涙が一粒こぼれた記憶がある。あの鮮やかに煌めく光の美しさ。きっと、花火職人の努力の結晶をそのまま具現化したものなのだろう。今でも「あの日」を思い出すと……もしかしなくとも、室内に設置された殺人花火セットから記憶が蘇ったのかもしれない。そう考えるとこの最期も悪くない。俺はガソリン臭い空気をめいいっぱい吸い込んだ。
暫くの間俺は生涯を回想し、手錠で思うように動かない手を働かせ、遺書を綴っていた。その時だった。俺はメモ帳のある点に気づいた。メモ帳はリング式なのだ。開きやすくて重宝している。俺は空かさずボールペンを持ち替えた。そして、リングにボールペンを通し、上に持ち上げた。リングの境目が徐々に開き、メモ帳からリングが分離した。俺はこのリングの先を伸ばし……手錠の鍵穴に突っ込んだ。
「こんな漫画みたいなことできるだろうか?」と半ば疑いながらもダメ元で始めた。俗に言う「針金で手錠を外す方法」である。カチカチと金属同士がぶつかり合う。手錠の食い込みが苦しいが歯を食いしばって耐える。針金が指に刺さり血が垂れる。長い間時が経ち、鉄臭く漂うこの空間で希望の音がした。
「カチャッ」
「おおっ?!」
利き手である右手の手錠を外すことに成功した。聞き手が自由になったからには、左手の手錠など屁でもない。俺は次に、足枷の鍵穴に針金を突っ込んだ。2回目は慣れたものだと隅々までカチャカチャ言わせていく。解放された利き手は喜ぶかのように俺の力添えをした。
「カチャッ」
「ピピッ」
足枷を解除した途端、甲高い機械音が鼓膜に刺さった。タイマーを確認すると残り15分だと。俺は焦燥感に駆られながら部屋を探索した。おそらく外に出られるドアは……やはり鍵がかかっている。内側にも鍵がかけられているだなんて監禁専用みたいなドアだ。そんなことはどうでもいい。俺は導火線の切断を試みた。鋏とか言う便利な道具は勿論無い。どうする。この導火線もあまりチャチなものでは無いそうで、本気が伺える。導火線は勿論、殺人花火の元へ伸びている。面白いな……と打ち上げ花火や爆竹をざっと見る。細工がしてあり、引火しやすいよう火薬を増やしている為か、どっしりとした重みを感じるだの……導火線はひ弱な物じゃなく、例のムキムキ導火線にすり替えられているだの……俺は半ば諦めムードに追い込まれた。
一応自由の身となった俺だが、ある点が妙に心を騒つかせた。俺はそっと座ってカメラの方向を向いた。
――カメラの先にいる主は誰なのか。
俺を監禁して、挙句の果てに丸焼きにしようと企んでいる奴はどこの誰なのか。俺は死を悟った途端、犯人の正体に探りを入れたくなった。
「どう考えてもアイツしかいない...アイツ以外に俺をここまで恨んでいる奴がいるのか...?」
俺は「アイツ」の事を真っ先に思い浮かべた。そうすれば今までのストーカー被害の理由も納得が行く……
――正直な話、俺は45にもなるおっさんなのだが、こんな俺が所謂ストーカー被害を受けていたと訴えても、信じてもらえないだろう。明らかに帰り際に気配を感じる毎日だった。後ろには誰もいない……自分の部屋が妙に綺麗になっている気がする……それは有難いのだが……そして、監視しているかのようなメールが近頃届き始めた……お前は俺の家族なんかじゃねぇ……なんだよ「おかえり」とか吐かしやがって……ほぼ俺は「アイツ」だと思っているのだが……しかし確信が持てなかった。
タイマーは後5分ほどになっている。人生、長いようで短かったな……
「どうせなら……最期の少しぐらい理由を話してくれたっていいんじゃないか」
「別に道連れなんて考えてねぇよ。ほら、ライターくれてやるよ……」
俺は自暴自棄になっていた。諦めの境地に立っていた。ライターをドアに投げつけると俺は元の場所に座り込み、ひたすらドアが開くのを待ち構えていた。もし犯人が来るならば、取り押さえて鍵を奪うことも考えたが……ドアが開いて犯人が姿を現すとしても、無防備な状態で来るはずが無いだろう。
俺は最期の最後に「アイツ」と対話する事を求めた。自分の死に納得できる様な理由を得る為だけに。
目を覚ました瞬間に視界に映り込んだのは異常だった。真っ先に見えたのは無造作に設置されているお手軽花火セット。バリエーションは豊かで個人用打ち上げ花火もあれば、爆竹も転がっている。ねずみ花火やロケット花火なんかも散見される。こんな狭苦しい室内に。面白いことに、導火線がドアの隙間を通って繋がっている。どうやらここで花火大会が行われるらしい。観客はおっさん(45)一人。虚しいものだ。
――なんて余裕ぶっこいている場合では無い。今俺は手錠を固く嵌められ、足枷までもご丁寧に装着されている。少しでも臭いを嗅ぐと、ほのかに香るガソリンの臭いで鼻の中一杯になる。これらが意味するものは……「男、湯井谷洋介は業火に焼かれて息絶えます」というものだ。俺は魔女だったらしい。火炙りだなんて中世的で浪漫があるなと思わず感心してしまった。少なくとも、一瞬にして消し飛ばすナンセンスな爆弾を用いなかったことは評価しよう。花火は好きだし、丸焦げの方が死体は綺麗だ。
自分が死んだ後の事を考える馬鹿は何処にいるか、ここにいる。そんな馬鹿を救うべく俺は脱出を試みた。所持品を確認しようと思い、ひたすらポケットを漁る。出てきた物は、ライター、タバコ、ボールペン、メモ帳の四点だった。自分の不運さに溜息をついた。最も、ライターは人生を早く諦めたい人向けには幸運なアイテムだろうが……
もう一回部屋を見渡すと、タイマーとカメラがあることに気付いた。なるほど、悪趣味だ。おそらく、刻一刻と00:00に近づいているタイマーは導火線着火までのカウントダウンであり、カメラは迷える子羊な俺をニタニタしながら鑑賞する為の物なのであろう。時間は後三十分残されているらしい。これはナンセンス認定しておこう。何故なら俺が不愉快だからだ。
さて……今俺が出来ることと言えば、ライターで寿命縮めるか、メモに遺書を書くかだ。実を言うと俺は今頭の中がカオス状態であり、嵐の真っ只中のように乱れきっている。困惑している。脱出への活路を見出せないままでいる。このままではいけないと思い、メモ帳を取り出し状況把握を図った。しかし数分後、メモ帳には「遺書」という文字が書かれていた。俺は後者を選んでいたようだった。どうせ灰になる可哀想な紙ならば、好き勝手書いてやろう。
――今までの人生、それとなく楽しかった気がする。
しかし、今となって一番脳味噌にこびりついてる記憶と言えば、クソガキの頃の花火大会の日だろうか。あの夜は河川敷に皆集合して、色とりどりに輝く花火に大きな歓声をあげていた。一番巨大な花火が打ち上げられた時は涙が一粒こぼれた記憶がある。あの鮮やかに煌めく光の美しさ。きっと、花火職人の努力の結晶をそのまま具現化したものなのだろう。今でも「あの日」を思い出すと……もしかしなくとも、室内に設置された殺人花火セットから記憶が蘇ったのかもしれない。そう考えるとこの最期も悪くない。俺はガソリン臭い空気をめいいっぱい吸い込んだ。
暫くの間俺は生涯を回想し、手錠で思うように動かない手を働かせ、遺書を綴っていた。その時だった。俺はメモ帳のある点に気づいた。メモ帳はリング式なのだ。開きやすくて重宝している。俺は空かさずボールペンを持ち替えた。そして、リングにボールペンを通し、上に持ち上げた。リングの境目が徐々に開き、メモ帳からリングが分離した。俺はこのリングの先を伸ばし……手錠の鍵穴に突っ込んだ。
「こんな漫画みたいなことできるだろうか?」と半ば疑いながらもダメ元で始めた。俗に言う「針金で手錠を外す方法」である。カチカチと金属同士がぶつかり合う。手錠の食い込みが苦しいが歯を食いしばって耐える。針金が指に刺さり血が垂れる。長い間時が経ち、鉄臭く漂うこの空間で希望の音がした。
「カチャッ」
「おおっ?!」
利き手である右手の手錠を外すことに成功した。聞き手が自由になったからには、左手の手錠など屁でもない。俺は次に、足枷の鍵穴に針金を突っ込んだ。2回目は慣れたものだと隅々までカチャカチャ言わせていく。解放された利き手は喜ぶかのように俺の力添えをした。
「カチャッ」
「ピピッ」
足枷を解除した途端、甲高い機械音が鼓膜に刺さった。タイマーを確認すると残り15分だと。俺は焦燥感に駆られながら部屋を探索した。おそらく外に出られるドアは……やはり鍵がかかっている。内側にも鍵がかけられているだなんて監禁専用みたいなドアだ。そんなことはどうでもいい。俺は導火線の切断を試みた。鋏とか言う便利な道具は勿論無い。どうする。この導火線もあまりチャチなものでは無いそうで、本気が伺える。導火線は勿論、殺人花火の元へ伸びている。面白いな……と打ち上げ花火や爆竹をざっと見る。細工がしてあり、引火しやすいよう火薬を増やしている為か、どっしりとした重みを感じるだの……導火線はひ弱な物じゃなく、例のムキムキ導火線にすり替えられているだの……俺は半ば諦めムードに追い込まれた。
一応自由の身となった俺だが、ある点が妙に心を騒つかせた。俺はそっと座ってカメラの方向を向いた。
――カメラの先にいる主は誰なのか。
俺を監禁して、挙句の果てに丸焼きにしようと企んでいる奴はどこの誰なのか。俺は死を悟った途端、犯人の正体に探りを入れたくなった。
「どう考えてもアイツしかいない...アイツ以外に俺をここまで恨んでいる奴がいるのか...?」
俺は「アイツ」の事を真っ先に思い浮かべた。そうすれば今までのストーカー被害の理由も納得が行く……
――正直な話、俺は45にもなるおっさんなのだが、こんな俺が所謂ストーカー被害を受けていたと訴えても、信じてもらえないだろう。明らかに帰り際に気配を感じる毎日だった。後ろには誰もいない……自分の部屋が妙に綺麗になっている気がする……それは有難いのだが……そして、監視しているかのようなメールが近頃届き始めた……お前は俺の家族なんかじゃねぇ……なんだよ「おかえり」とか吐かしやがって……ほぼ俺は「アイツ」だと思っているのだが……しかし確信が持てなかった。
タイマーは後5分ほどになっている。人生、長いようで短かったな……
「どうせなら……最期の少しぐらい理由を話してくれたっていいんじゃないか」
「別に道連れなんて考えてねぇよ。ほら、ライターくれてやるよ……」
俺は自暴自棄になっていた。諦めの境地に立っていた。ライターをドアに投げつけると俺は元の場所に座り込み、ひたすらドアが開くのを待ち構えていた。もし犯人が来るならば、取り押さえて鍵を奪うことも考えたが……ドアが開いて犯人が姿を現すとしても、無防備な状態で来るはずが無いだろう。
俺は最期の最後に「アイツ」と対話する事を求めた。自分の死に納得できる様な理由を得る為だけに。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる