大創作家たち

ショー・ケン

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大作家たち

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 私は作家だ。友人に画家がいて、だがこの画家というものがいくつものクセをもっていた。口癖が
「才能あるものは恵まれない」
 だ。こいつは苦労せずに生きていけるのだから、かまわないじゃないかと思うばかりである。私はというと30代で作家を名乗ってはいても、ヒット作はひとつだけ。大ヒットはしたものの、それだけでは明日の生活はままならない。だから物書きの軽い仕事をいくつか掛け持ちしている。

 一方その意味で友人はというと、昼間っから酒を飲んだり、ぶらぶらあるいたり、近所の人と意味のない世間話をしているが、もう、地域に溶け込んでいる。誰もがうらやむ“完全な成功者”である。

 だが私はこいつの事が気に食わない。いや、それでも愛すべき理由もあるのだが。
こいつはことあるごとに、説教くさいことをいうのだ。
やれ“好きな事を仕事にすると、嫌いになる”
だの“売れる絵とそうでない絵の違い”
だの、他方、こいつはこうもいう。
“今月も稼ぎがなかった”
“俺はこんなに必死なのに、本来の才能が認められない”
“思わぬ成功が俺を惑わせた”
“何も考えずにも、これまでは成功したのに”
 なぜ、こいつがこんな事をいうのか、そもそもなぜ昼間からぶらぶらしていて、いつ創作活動をするのか、不思議に思うひともいるかもしれない。

 答えは単純。そう、こいつは、本来の意味で画家なのではない。画家を名乗ってはいるが、実は売れる絵を一枚も描いていない。それどころか、画家を自称しているだけで、彼を画家と本来の意味で認めるものは一人もいないのだ。そんなことは近所の人間はみんなしっている。こいつはただ運がいいだけの男で、何億円もの宝くじに二回も当たって悠々自適の生活をしているだけなのだ。

 俺はこいつを内心見下しながら思う。いくら夢や才能だの語ろうが、本気で考えてないやつには、欲求がみたされれば成果など関係ないのかも。つまり“画家”という肩書が欲しかっただけのやつなのだ。

 こいつと絡むたびに、彼の自称があまりにもみじめなので、おれは枯れていた創作意欲を思い出す。見返りが欲しくてつくるわけじゃないのだ、俺の創作は終わらない。まるでそのたびに“こいつのようにならないぞ”と燃え上がる。

 ただ一つの不安はある、俺のかつての大ヒット作ができた経緯。それが、この男がねぼけてかいてゴミ箱へすてたものを上手にばれないように焼き直したものだとばれる事だ。
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