碧眼のマリオネット

ショー・ケン

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1章

1話

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 まん丸の瞳、茶髪に肩まであるロング、丸やさしそうな下がり目下がり眉の丸顔。背の低いかわいらしいシスターが、教会へ続く石畳を進んでいる、と、コの字型の庭に佇むふと上を見上げる少年に気づく。路地裏での出会い。あれからどれだけの日々を共に過ごしてきただろう。教会の上、聖なる星型を見つめる少年。青い瞳に、青い髪、見るからに異質の子。衣服は寄付されたぼろきれのようなグレーの服。
「プラグッ」
「シスター・マルグリッド」
 にこにこしてそちらに歩み寄る。そしてすっと手をさし出した。
「これ」
「あ……」
「また、落ちてたよ、大事にしないとご両親の形見なんだから」
 そういって渡されたのは、星型のお守り、ネックレスである。それをうけとって、一瞬目を細めたかと思うとプラグは人差し指でくるくるそれを回して、つぎにおおきく腕ごと回したかと思うと、それを放り投げた。
「あっ!!!コラ!!」
 それは高く飛び上がり、先ほどプラグの見上げていた星型のその天辺にひっかかった。
「ホラ……キレイだろ」
 一瞬言葉を失った。夕日が反射して、風で揺れてキラキラとひかるそれを、きっと彼女もそう思ったに違いない。にやりと笑うプラグ、いたずらっぽい表情がよくにあう、野心的な目をしている。
「…………ねえ……プラグ?」
「あ……ちっ、始まりそうだな」
 そういって、プラグは足に力をこめる、腰をおろすと口の前で両掌をまるめて息を吹きかけ、それを両足にかさねた。すると
《ギュインッ》
 プラグはすさまじい脚力で飛び上がり、教会の屋根の上にのぼり、十字架にてをかけ、アクセサリーを手に取った。
「これでいいだろ?説教はやめてくれよ」
「はあ」
 シスターはため息をついて教会へ戻った。プラグはその背中を苦い顔で見送っていた。

 ―翌早朝。鉄と鉄のぶつかり合い、そこには血なまぐささなどない。そして、残酷さもない。その殴り合いをみながら。プラグは死んだような半開きの目をして部屋の隅で立ちながらその様子を見る。
 オートマタが二体、鋼の体や手を打ち合わせている。
《カキィン》
《キシンッキシッ》
 そのオートマタ同士の争いは、決闘であった。大人たちのそれを子供たちが真似をして、それも孤児が背の高い台の上で、対峙させ見上げている。
「いけえ!!グラッツ!!」
 赤い髪に吊り上がった目、生意気そうに口のひん曲がった男っぽいショートの少女、ペペラ14歳。彼女はこの孤児院のガキ大将のようなものだ。孤児院の皆は皆そうだがまるで囚人服のようなオンボロの服をきている。だが彼女の右袖は院長の手製の赤い刺繍がしてある。伝説のクランバ騎士団の文様が入っている。男まさりな彼女にふさわしい。

 彼女のオートマタは赤い、孤児院に寄付されたオートマタはほとんどオンボロで、動くのが不思議なくらいの子供のおもちゃだが、彼らはそれを改造して喧嘩ができるようにしている。中世の騎士のようないでたちで、サーベルをうちあい、お互いのサーベルの軌道をはずしあう打ち合いが続く。一方が責めれば一方がひき、また立場が逆転し、一進一退の攻防が続く。

《ガキィン、キョン、キュィン》
「ま、まけるな!!デドン!!今日こそは……こっちの方が体格がでかいんだ、今日こそ打ち負かせて、僕が孤児院で一番偉くなる!」
 そういっているのは、本来はガキ大将のペペラについているはずの、グドだ。16歳ぽっちゃり体型。右手に菓子をつぶさんというほどに力をこめて持っている。昨日までガキ大将に従順だったのに、彼は昨日“年上のくせに愚鈍”とペペロに言われた事を根に持っている。痩せろ、菓子を食いすぎだといわれた事は無視して、菓子を片手に敵を倒そうとしていた。
「デドン!!今だ!!体制をくずした!!」
 誰が見ても、それは明らかだった。グドの黒く、彼に似てふくよかな体型のオートマタが、右手のサーベルをつきさした、が、それははずした。次の瞬間、グドは左手を突き出した。するとデドンも左手をつきだし、ペペロのグラッツの頬を張り手で思い切りうった。
《ドスッ》
「ウッ……」
 シンクロして背中が反り返るペペロ、が、その体制を、彼女の金魚の糞の二人がとめる。双子の兄弟であり、やけにつんとたった髪型をしているガロと、反対にくせっけのケロである。二人とも背が細く、ひょろい。二人がペペロの背中でしゃがんで彼女の体制を保持する。
「いっけえええ!!!」
 グドは、今度はサーベルをがむしゃらに振り回す、ペペロのオートマタは、姿勢を維持できず、一歩、二歩とさがり、くるくるとまわりながらとおのいていく。
「まずい!!」
 様子をみていたプラグがいった。それはオートマタが場外へおしだされそうになったから、プラグはペペロの事が大嫌いだったが、オートマタは危険なサーベルを持っているし、それ自体も重量がある、怪我をしてはまずいと、オートマタをとめようとした。彼にはその自信があった。
《スッ》
 今まさに彼女の前にでようとしたその時だった。姿勢をなおし、体を前向きに勢いよくもどしたペペロは、口から思い切り息をすった。
「笑ってる……」
 誰もがペペロの、彼女の態勢が急激に戻った瞬間の不敵な笑みをみた、その意味を考えている間に、彼女は思い切り息をはきだした。それは黄色い魔力の風となって、彼女のオートマタを包み込んだ。
「キュッルルルルルルル」
 オートマタは奇妙な起動音をだし、崩れた姿勢をおしもどした、変わりにそのテーブルに、両足で二つの穴をあけた。その足からは鋸の歯のようなものがでていた。
「キィィイィィン」
 モーターのような音がすると、彼女のオートマタは勢いよく、彼女にシンクロし、そして自分より巨大な敵オートマタの顔面の鎧をつきさした。
《シュッ、ズゴオオオオッ》
その瞬間、勢いよく頭部のよろいがはずれ、グドのオートマタの頭部にあるセンサーが作動する。やがてオートマタは声を発する
「機能停止、機能停止!!!直ちに修復が必要、技師へ届け出を!」
「そ、そんなああ!!」
 落ち込み、うなだれるグド。だがペペロは容赦しなかった。オートマタを動かし、機能が停止したオートマタを殴りつける。
《おらあ!!!》
 まだ同期をきっていなかったグドは、勢いよく回転しながらうしろむきにふっとんだ。
《ぶごおおおッ!!!》
 鼻血をだし、一瞬動かなくなり周囲がざわつく、しかし彼はお菓子を持った手を天高く掲げるとガッツポーズをして、起き上がる。その様子を手下とケラケラ笑いながらオートマタをテーブルから降し、彼に近寄り、ペペロはいった。
「これであんたは1週間、私の奴隷だ、残念だったな、私を奴隷にするチャンスがつかめなくて」
「こんな!!汚い!!直接魔力を吹きかけるなんて、事前所増分で戦え!!」
「そんなの、ルールにねえなあ?」
 背後でクスクス笑い声が聞こえる。
「はあ……」
 あまりに退屈で、あまりにルールがない、ずさんな闘いとむしろ生ぬるいと思えるような決闘に、ペペロはその場をでて、離れの孤児院から、まっすぐ進み教会のコの字になっている中庭にでた。
「早く大人になりたい」

 その夜、夜の街の闇、家々の天井をとびまわりかけぬける者がいた。静かな城下町、それを見下ろす巨大な城壁を称えたバルブス城。その影はそれを見上げた。顔も口も黒い布で覆い、目だけを光らせている。その目は、青く澄んだ瞳だった。それはふと、地面を歩く人の中から、今群れから外れて裏路地をいくものをみつけ、彼の方向に飛び去ると、彼を追いかけ始めた。
「何、何だあ?」 
 それはごく普通の正装に身を包みスーツに身を包み、しかし普通からするとやや派手な装飾をあしらっている。彼は頭上の異変に気付くと、急いで駆け出した。
「“青の夜鳥だ!!”」
 男は息をきらせて走り出す。間違いない―男は確信していた。その背中に、巨大な―オートマタ・アーマーの腕をかかえている。“青の野鳥”はあれで“狩り”をする。
 
 彼はふと足をとめ、両手に息をふきかける。黄色い光が両手をつつみ、やがて彼は彼の靴にそれをおしあてた。するとそれは徐々に光、少しの噴煙をあげながら、モーター音を発し始めた。彼はすべるように、片足をまえにだし、また片足をまえにだす。
《シャー!!!》
 スケート靴のようなものだ。地面から浮いていて、ただはしるより素早く走ることができる。やがて、幾度も角を曲がるとき、その曲がる間に敵をまくように両足に全力で力をこめた。
「はあ、はあ、はあ」
 ある飲食店の裏側にたどり着いたとき、彼は、安心した。人通りが見える表通りだ。
「やった!!」
 と声をもたしたとき、彼の喉元につめたいしずくがほとばしった。
「ヒョッ」
 彼は手のひらでその湿気を確認する。
(まさか、こんなに早いわけがない、まだ“武器”を抜くのをみていない、きっと敵は、濡れた手で自分にふれたのだ)
 が、その願いもむなしく、喉元から大量の血がふきでる。声をだそうにも、音をだそうにも苦しくて、前につんのめるしかない、やがて四つん這いになり、息絶えた。
「尋ねようと思ったのに……“領主アルベリア専属の、オートマタ開発者かと”」
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