虚ろ青年、水の巫女に転生する

ショー・ケン

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第一章 スキル授与

授与式

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 白装束を着替えて身なりを整えると、今度は授与式がある。“フラカン教”神官が仰々しく、書類を手に“洗礼”準備をする。といっても、スキルの読み上げと、その証明となる領発行の魔石リングを渡されるだけだ。が、この世界では、これがその人間を証明する重要な身分証明の手段であり、改ざんは禁止されている。

 隣でわくわくした様子で、育ての親のケローネが貧乏ゆすりと肩をふるわせている。同じように、同年代の素行が悪いがリーダー気質のレネ、緑髪のアロッサ、恰幅のいいシュートロが親と一緒にすわっている。
 ただ、一人だけ同行者のいない子がいた。
ニヨネだ。オレと仲がよく、おどおどした三つ編みツインテール、本ばかり読み空想に浸ってばかりで、ボケッとしているので皆はバカにする。だがオレはこの子が子分みたいで好きなのだ。彼女は孤児だ。しかし、この世界は“以前いた世界”と違い年代は中世ごろのようなのに、人間に対する情が深い人間が多い。むしろ過剰なほどだ。
領主、貴族等は家来を通してそうした身よりのない子供に生きていくための家や、寄付をする事が多い。
 だが彼女の身の回りの世話をする貴族・レアーネの家来は、世渡りがうまいが、めんどくさがりで、ニヨネの世話も適当、家事もしない、遊び惚けてばかりいる。
 ニヨネは、こちらに気づきニッコリと笑った。その何かを諦めきった焦りと戸惑いの表情は、私を興奮……同情させた。なにせ、私とよく似ているのだ。

 オレは、先ほどみた前世の記憶から自分の耳が恥ずかしくなり、肩をすぼめて耳をかくそうと両手で覆う。ケローネさんの興奮も理解できた。獣人族とは、くっきりとした差別は昔ほどではないにせよ、明らかに人の見る目が異なる、明らかに格差のある地域もままあるほどだ。そんなオレを引き取り、育ててくれたのが彼なのだ。

 この街に二つある教会の神父であり、変わり者扱いされてはいるが、そのスキル、実力等は教会も無視できないものだ。日頃奇妙ながらくたや、魔物を用いた怪しい実験を行っているが、見た目は長髪でくだけた表情と、糸目で下がり目、下がり眉が似合う優男だ。

 オレは順番に皆のスキルが読み上げられていくのをまった。神官は淡々と読み上げた。まずはこの街一番のやんちゃグループだ。
「シュートロ……ナイト」
 驚いて、抱きしめる同様に恰幅のいい母親。
「アロッサ……シーフ」
 涙をするマッチョのひげ親父と、頭をかきながら、証書を手にするアロッサ。 
「レネ……火炎、剣術のスキル」
 湧き上がる堂内。それもそのはず、この異世界は、火を信仰する神“フラカン”を最も信仰する。人間が最初に手にしたスキルだからだ。また、威力もさることながら、日常生活でも有用だ。腐る事もなく、将来が約束されたものであるといえる。
 あまりに沸き立っているので、神官が咳ばらいをして鎮めた。

 神官は、オレの目をみて、また証書をみてじーっと考え込んだ。オレは期待に胸を膨らませていた。神官はふとある言葉を口にした。
「どのようなスキルも、使い方しだいで想わぬ方向に転ぶ、驕ってはならない」
 この言葉が、どれほどその時のオレの心を沸き立たせた事だろう!名前を呼ばれ立ち上がり、そして身構えた。
「ヘリオ、水使い、蛇水術」
「!??」
 ふと、立ち眩みにもにた症状がでた。傍らのケローネをみると、めをそらされた。恥ずかしさのあまり、オレは頬を膨らませ、目をまん丸にして、直立不動となり体をふるわせた。
「はやく、きなさい」
 そうよばれて証書をうけとり、席に戻る。その間にクスクスとあざ笑う声がきこえた。まさか、やんちゃグループの誰よりも弱いスキルだなんて。そう、この世界では“水”に関係するスキルははずれとされる。殺傷力も弱く、身を守るにも味方を巻き込んでしまう。“水の神”はもっとも横着で怠惰な神ではないかと噂されるほどだ。

 その後、ニヨネは《風使い……浮遊術》のスキルを授けられた。が、しかしこれも戦闘向きではない。自分の事がショックすぎてそれどころじゃなかった。

 授与式を終え、家族が話したり、神官と今後の手続きを相談する間。子供たちが少し時間と暇ができたので、神殿の入り口でたむろしていた。ニヨネと俺は一緒にどうしようかと話していると、レネがやってきた。

「二人できなさいよ」
「え?何が?」
「私たち、冒険者登録するのよ、パーティにいれてあげるから、二人できなさい」
 ニヨネは、驚いていった。
「え!?本当!!?私たち二人とも、あまり戦闘向きスキルじゃないから、こまっていたのよ、あなたたちが助けてくれるなら心強いわ」
 ニヨネはそういっていたが、頭の後ろで両手をくんで半目で様子をうかがっていたオレは内心わかっていた。後ろでアロッサとシュートロがにやけているから、何か事情があるのだろう、悪くすればダンジョンで置き去りにして殺されるかもしれない。

 それから半日がすぎたとき、ニヨネとオレは自由時間ということでショッピングをしていたのだが、そこに、盾やら剣、魔導書を構えた例の三人がやってきた。

 ニヨネがうれしそうに声をかける。それをとめようとしたが、遅かった。
「ねえ、本当に私たちをパーティにいれてくれるの?私たちの分は?」
 ふと、三人は肩を震わせて笑い出した。それは周囲の大人がこちらの様子を心配するくらいだ。そこで、レネが高慢な態度で指をさして笑った。細いが美しい瞳、その年にしてはボリュームのあるまつげと長い頬。どこか姫のような気品を感じさせる顔つきで、彼女は一刺し指でこちらをさして言い放った。
「嘘よ、嘘、あんたたちなんて、本気で誘う訳ないでしょ、バーカ」
「ハ、ハハハハハ」
 オレは、わざと騙されたふりをするのだ。なぜなら、いびりやいじめが低レベルなとき、あえてそれを受けた方が、面倒にならない事をよく学んだからだ。だが、それでもニヨネは泣いていた。オレは彼女を抱きしめてなぐさめたが、それが内心むかついていた。





 
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