虚ろ青年、水の巫女に転生する

ショー・ケン

文字の大きさ
15 / 29
第一章 スキル授与

窮地

しおりを挟む
「う、ぅううう」

 背後で声がする。最初に“守護使者”に吹き飛ばされた冒険者が体を起こす。恰幅がよく腹がでている中年の冒険者だ。
「お、おお」
「だめ!!!やめて!!」
 中年の冒険者は、傍らの剣を手に取り、怪物に向かっていった。
「エィミア!!!」
「分かってる!!」
 ヘリオが叫ぶと、エイミアが川の水をすいあげ、その冒険者を保護した。怪物はしっぽをぶん回し、冒険者に思いきり打撃を加え、ふきとばした。
「……!!!」
 怪物は、ギョロリとした蛙のような瞼をした、蛇のような目でこちらをにらんだ。長い、濁った水色の吻が鼻をならして雄たけびをあげた。
「ギョエエエエエエ!!!」
 手足を順序めちゃくちゃにこちらに向かってきた。

「に、逃げろ……」
 エイブスが、力なく声をかける。しかしヘリオには聞こえていなかったし、それがケローネの物でない事も理解できなかった。それほどに彼女の神経は研ぎ澄まされていた。

「だ、ダメだ!!」
 ケローネは叫んだ。そして、エイブスの傍に駆け寄る。
「何がだめなんだ?」
 エイブスが尋ねると、ケローネはいった。
「彼女は……殺せない、決着がつかない……!!!」

 思わぬことに、ヘリオと“守護使者”の戦いは互角だった。ケローネとエイブスにはわからない。だが、エイブスは目で理解することができていた。“守護使者”がヘリオを長い爪や手足で殴りつけるたび、その皮膚をおおう粘液が、“剥がれ”落ちていることを、そして、ヘリオの首の後ろ、かぶっていないフードにかくれるように、小さな“生物”が何か魔力を使っていることを。

『ヘリオ!!!聞きなさい!!』
「何が!!!」
『だから、あの子“ラッシュ”を起こすしかないって』
「やだ!!」
『ちょっと、そんな場合じゃないでしょ“吸収”はあいつにしか使えないスキルなの!!私たちの命もかかっているのよ!!』
「でもあいつ!!私に“怪物”を殺せって!!」
『……』
 確かにそうだ。彼女は、打ち倒してきたケルピーを動けなくする事はしたが、殺す事はしていなかった。繊細な少女だ。生物の命を奪えないのだろう。
『クソ……“ラッシュ”のやつ“獲物の肉をやまわけ”だなんて、そんなこというから、この子……手が震えてるじゃない……』

 ふと“エイミァ”は傍らに吹き飛ばされた冒険者を見て、いい考えをおもいついた。その瞬間、ヘリオは吹き飛ばされたが、エィミアが水をあやつり、クッションをつくった。
「クソッ!!!」
 ヘリオは立ち上がる。自分がまさか、こんなに“ひ弱”だったとは。確かに生物の生き死にに無関心ではあった。だが“わざわざ生物の命を奪い取る”ことなどしたことはない。けれど、ケローネの事を思うと、まるでいい思い出が走馬灯のように駆け巡る。
「ああああっ!!」
 ヘリオは、地面を思い切り叩いて嘆いた。
『まずい!!ヘリオ!!!冒険者が』
 その声を聴いて、冒険者のほうをみた。冒険者は、その腹部……体からすさまじい量の血をふきだしていた。
『ヘリオ!!!よく聞いて……』




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...