SF短編集

ショー・ケン

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ラストワルツ

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 真の理解者は自分の身近にはいない。だからこそ人は“わからないもの”を拒む。

 バイオロイドもその一つだった。100年前地球滅亡を救った宇宙人が人間に設計図を渡し、作られたものだった。バイオ科学は彼らがもたらしたものだ。頭がハンマーのようになったエイリアンを嫌い、差別をするものもいたが、敵対しない人型をしたものに、人類は暖かい。

 バイオロイドというのは、ぐにぐにとした皮膚を持ち、意思を持ち思考はするが、痛みや心は持たない。ただし、人間の思考をエネルギー源とする。その初期状態がエイリアンに似ているので、ある人間は“バイオロイドは宇宙人の真の姿だ”と主張する。

 今世紀最もかしこい知識人と言われる学者Aさんの家に、このバイオロイドの一体がやってきた。年老いた母親が最近、認知症を患い人手が欲しくなったのだ。まだ早期の段階であり、いい援助を受けられず、人間より機械的でトラブルもなく、安上がりなバイオロイドに任せることにしたのだ。

 夜バーで話をしている学者Aさん。
「それで、どうだ、あのバイオロイドとかいう奇怪なやつは」
「ああ、たしかにいいものだ」
「おいおい、頼むぞ、これは“調査”の一貫なんだから」
「ああ、俺が一番わかっているさ、B」
 Aは学者で、もっとも宇宙人やその持ち込んだ科学に警鐘を鳴らす人物だった。だが、その彼だからこそ、とBがバイオロイドの調査を依頼したのだ。旧来の友であり、国の諜報機関の職員である彼は、バイオロイドが特殊な電磁波をだしていて、それが周囲の人間を狂わせることがあるという噂を聞き。そのしっぽをつかんでくれという依頼だった。
「さあ、これを」
「?」
「これは、ただの耳栓だ、あらゆる電磁波を抑えることができる、もし危険があったらこれをしていろ、そして、これ自体バイオロイドへの毒となる物質でできている、もし問題が起こればこれを体内につめこむんだ」
「オイオイそれは……」
「問題ない、コンピューターウイルスのようなものであるプログラムが組み込まれている、情報を読み取ると故障を起こす、ただそれだけだ」
「なるほどねえ」
 確かにバイオロイドが情報に過敏であることは聞いたことがあった。バイオロイドとはいえ、機械工学や電気的エネルギーを中心的に動いているのだ。

 その後Aが家に帰ると、母親がぼーっとした目ででむかえてくれた。食事をすませ、テレビを見ている母親に呼び掛ける。
「なあ、母さん」
「なんだい?」
「新しい介護士さんはどうだい?」
「ああ、あのでくの坊か」
「母さん、そんな言い方は」
 ふと、バイオロイドの姿がみえないことを思い出すと、風呂場に向かった。ボケた母は、時折自分のものを風呂場におく事があった。その日はなんとお湯が張った風呂場の中にバイオロイドが頭をつっこんで、身動きが取れないようにぶるぶるとふるえていた。
「おい、大丈夫か!」
 これには、Aさんもバイオロイドに同情せざるをえなかった。どこか河合げすら感じたが、バイオロイドは
「ダイジョウブデス」
 と笑った。

 しかし、翌日からのことだった。バイオロイドが故障をしたのか、母親の言動をまねるようになった。母親はもう慣れてしまったのか、バイオロイドに対する見下す態度はなくなったのだが、それが一層不気味だった。一週間、二週間とたち、さらにおかしなことがおこった。認知症の母の狂った言動をまねる。コップを電話機といったり、母親が風呂場にものを運ぶとそれを真似し、頭から水をかぶるとマネをし、ものごとを忘れると、それもマネをする。

 またバーでBと飲んでいるときにそのことをいうと
「お前、それは故障じゃない、バイオロイドなりの学習だよ」
「しかし……」
「しかしもなにも、そんなことよりお前、異常は感じないか?」
「異常?いやまて……B、俺が異常を感じたら、誰が助けてくれるんだ?」
 Bは黙っているが、酔っているいるのか、Aはそのことが気にならなくなってしまった。

 しばらくたってからのことだった。Aが帰宅すると、母親の様子がおかしい。たしかに母親なのだが、どこかに違和感があった。その違和感を放置して一緒に食事をとって寝たが、目が覚めて違和感に気付いて、すぐに母親のもとに向かった。

 あのバイオロイドを探し風呂場にいくとバイオロイドは、頭の上半分をうしなっていた。恐る恐る、母親の元へ戻りその体にふれた。異常に体がつめたい。確かに息はしているが、ボケのせいではなく、目がとろーんとしていて、受け答えにも正常に反応しなかった。なにより、母の体に触れると、全身に寒気がはしる。ぶよぶよとした皮膚。まさにバイオロイドのものだった。
「こいつめ!!よくも母さんを!!!」
 Aは例の耳栓をとりだし、母親の口につっこんだ。

 そして救急車がきた。風呂場でねていたのがやはり母親、心臓発作で死んだようだ。死亡推定時刻はたしかに、日中、Aさんが仕事で出かけているときであったことがわかる。その後、細胞がナノマシンに制御させられ、バイオロイドによって無理やり“生きているとも死んでいる”ともつかない状態にさせられていたのだ。

 憤慨し家に戻り、バイオロイドをといつめた。警察官も一緒だったが、未だ状況を飲み込めない警察官は家を包囲し、事態の収拾を当局と一緒に話あっているところだった。容疑者は人間ではない。なぜあんなことをしたのか、と何度も問うと、バイオロイドはしぶしぶ答えた。
「あなたが悲しむと思い、あんなことをしてしまいました」
 何ともいたたまれなくなった。警察のその後の調査いわく、母の死後にバイオロイドは母になりかわったようだった。

 Bと連絡をとったが、Bは最近行方をくらませたと別の友人から聞かされた

 それから一か月後、Aは美人の女性と同じ部屋で暮らすことになった。母親に成り代わったバイオロイドも、いまだに家で執事をしていた。その女性は、ぶよぶよとした体をもっていた。例のバイオロイドを自分好みに改良したのだった。もともと孤独好きの彼だったが、従順なバイオロイドをきにいり、もしくは改心したらしい、最近こんな本の原稿を書いている。

「宇宙人、未知の科学を過剰に恐れるべきか?」

 主人公の自宅の、その外で、宇宙人の監視員が車のそばで主人公の様子をみていた。主人公がカーテンをしめると、横に向かって話しかける。
「この社会でもっとも理性的といわれる学者も落ちた、これで問題なく事がすすめられるだろう」
 その横で友人のBさんが車の中からあらわれた。そして耳にてをやり、びりびりとその“皮膚”をはぎ始めた。中から、バイオロイドが姿を現した。
「ええ、“主様”これで地球侵略も容易でしょう、バイオロイドの“記憶改案”能力に気付かれず、ようやく人間の倫理に介入できるようになりました、彼らは同情さえすれば、やすやすと異人種をみとめます、あの友人のいない男の友人のふりをするのは大変でした」

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