SF短編集

ショー・ケン

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タイムマシン

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 ある男二人が、時空のゆがみを発見した。というより一つの交霊術だった。部屋の中にお香を焚き、魔女から聞いた話を実践する。

 AはBに対して常にネチネチといじめていたが、その事をどこかで後悔もしていた。しかし、その一室の中で一人でいるとき、AのもとにBが現れた。
「未来からきたよ」
「は?」
「冗談よせよ」
「本当だ、だが覚えておいてくれ“君のせいじゃない”」

 最近二人で描いた漫画が新人賞に入選したが、担当と喧嘩をしてその雑誌での連載がダメになった。もともと話をつくる才能のあったAは小説を書くのをあきらめて、原案担当になった。ネームも雑だがBはいつも雑なネームやシーンの合間の細部をくみ取って補完してくれる。まるでモンタージュのように。

 人生さえそうだった。彼が取り落としたもの、友人関係、講師や担当との間柄、全て幼馴染のBが決着をつける。そんなBが最近落ち込んでいたのは、もう一人の幼馴染であるCと別れることになったからだ。Aが唯一自分のものにできなかった気の強い女だ。いったいどうしてBは物にしたのだろうとおもっていたがやはり長くは続かなかった。

「そうか、よかったよ」
「君のおかげで未来で僕はいくつかの漫画を発表できた、原案なしでね、君のおかげさ」
 二人は抱き合った。

 それからAはBをいじめることをやめた。できるだけ、自分の我の強さを我慢する。それまでの人生で周囲と比べられることが多かった。貧しい事、出来過ぎた兄の事、そして唯一の逃げ場である創作。それで唯一達成できたことが、創作とBとの関係なのだから、それを続けない手はなかった。

 そして10年がたった。彼もまた短編小説を発表したり、ラジオの構成作家をしたりしてのんびり暮らしていた。あの頃“交霊術”につかっていたアパートの空き家は今は侵入防止にチェーンがはられている。久々に底を訪れると、BとCがいた。しかしその陰は、目をこすり凝らすとすぐに消えてしまった。
「幻影……か」
 晴れ晴れとした思いで伸びをしてそらを見上げる、オレンジ色に染まる空と心地よい風が気分を爽快にして、自分の人生をできるだけ良いもの二しようと思った。

 彼がさったあと、BとCは物陰から姿をあらわして二、三会話を交わした。
「あぶなかったね」
「ああ、よかったよ、ばれなくて」
「まさか、まだ幻想だと思っていたりして」
「はは、それはありえる」
「君が彼にダメにされなくてよかった、彼は女好きで有名で何人もの女と突然縁をきって、ひどい振り方をしていたから」
「そうね……でも心配しないで、私が心配していたのはあなたのことよ、あれからもずっと彼の自由奔放で暴力的な支配に耐えてきた、これで我慢しなくてすむ」
「そうだね、これだけが唯一、彼から恨まれない未来だったんだ」
 Aがあのとき、未来からきたBをみたとき、そのBは本物だった。そしてBは自分が本当に交霊術で見た未来から、最も良い未来を選択した。Aにこびると、AはBをいじめぬいて、Bは気を病んで自死する。Aを無視すると、AはBを恨んでCを殺傷する。どれもひどい未来だ。だから彼は“程よい我慢”を選んだのだった。
「彼に感謝していることがある」
「それは何?」
「それは、自制が利かない人間は孤独になるって、教えてくれたことさ」
 二人はキスをかわした。
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