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予知姫
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霊感のある女性Aさんの話。ある語り手が彼女と接触すると彼女はひどく遠慮気味に控えめに話をしてくれた。というのも、若いころは誇らしかった霊能力だが、昨今では“できるだけ小さく”使う事を覚えたという。
「どうしてですか?予知能力で人を助けたこともあったんでしょ?」
「ええ、でも……あれは、最初の職場のことですかねえ?」
といってA子さんは話し始めてくれた。最初の職場は建設会社の事務員で、それまでも様々な予知を見るものの、“危険な事故”のビジョンを見るまで、周囲には黙っていたのだが、ある朝Bさんという作業員が転落事故を起こすというビジョンが思い浮かび、彼に忠告して、間一髪で彼が命綱を厳重にしていたことで助かったので、みんなが彼女を信用するようになった。
それからいくつも人助けをしたし、人気にもなったが、それでも彼女は、その力を過信せず、謙虚でいたのだ。
問題が起きたのはそれから数年たったあとだった。彼女の予知が外れたのだ。死傷者こそでなかったものの、事故がおきた。すでに彼女に頼りきりだった現場の責任者が彼女を責めると、周囲の従業員たちもすべて彼女をせめた。ひどく居心地が悪くなっていった。
それでも彼女は気丈にふるまった。だが、問題はそれだけにとどまらなかった。盗みが起きて、その盗みを働いた犯人捜しを探すかと思いきや、またもや彼女が責め立てられた。その時期忙しいのもあってかみんな気がたっていたのだった。彼女が予知をすることは“当然”となっていた。
しばらくして盗まれたもの“財布”は、仲のものには何も手付かずで見つかったが、それでも彼女は責められた。
「はあ、あなたの予知能力が弱まったんでしょうかねえ、人の業というか、なんというか」
語りてが尋ねるとAさんは答える。
「違います、よわまっていない、それどころか増すばかりで、私は恐怖を覚えるほどだった、だから、あんな過激な事をしたんです」
「過激なこと?まさか、復讐とか?」
「いいえ……そんなことするはずがありません、そのあとすぐに私は会社をやめましたから、それに私は……あの財布を盗んだのは私だったのです」
「え?なんだって?」
どうやら、Aさんは、件の“予言を外した”と思われる朝に従業員Cさんの財布を大胆にも盗んだのだそうだ。なんでそんなことをしたのか聞くと。
「だって、あの人……Cさんだけ唯一私の予言を聞かずに、信じてくれもしなかったから、ものを盗んでしまうしか、引き留める方法がなかったんです、たしかにあの時の事故で死傷者はいなかったのですが、本来なら彼は死んでいたはずでした」
「すべてを話せばよかったじゃないですか」
「話しました、犯人は私だと、それで私がさらにひどくいじめられて」
「え?」
「でも、織り込み済みでした、私が名乗り出なければ、Cさんが犯人になる予知がみえたのです、つまり、自作自演と……彼だけが、周囲とうちとけていませんでしたから、私と張り合っていると周囲が疑うビジョンが見えたのです」
「どうしてそこまで彼をかばうのですか?あなたほどひどい扱いはうけなかったでしょうに」
「Cさん、あの人のこと好きだったんですけど、結局結ばれませんでしたね……その後も、思い人ほど、私の能力を信じてくれず、うまく恋に発展することがなかったんです」
いくら人をたすけても自分の幸福はつかめないという事なのだろうか。苦しそうに、縮こまる彼女に、語りては胸を痛めた。
「どうしてですか?予知能力で人を助けたこともあったんでしょ?」
「ええ、でも……あれは、最初の職場のことですかねえ?」
といってA子さんは話し始めてくれた。最初の職場は建設会社の事務員で、それまでも様々な予知を見るものの、“危険な事故”のビジョンを見るまで、周囲には黙っていたのだが、ある朝Bさんという作業員が転落事故を起こすというビジョンが思い浮かび、彼に忠告して、間一髪で彼が命綱を厳重にしていたことで助かったので、みんなが彼女を信用するようになった。
それからいくつも人助けをしたし、人気にもなったが、それでも彼女は、その力を過信せず、謙虚でいたのだ。
問題が起きたのはそれから数年たったあとだった。彼女の予知が外れたのだ。死傷者こそでなかったものの、事故がおきた。すでに彼女に頼りきりだった現場の責任者が彼女を責めると、周囲の従業員たちもすべて彼女をせめた。ひどく居心地が悪くなっていった。
それでも彼女は気丈にふるまった。だが、問題はそれだけにとどまらなかった。盗みが起きて、その盗みを働いた犯人捜しを探すかと思いきや、またもや彼女が責め立てられた。その時期忙しいのもあってかみんな気がたっていたのだった。彼女が予知をすることは“当然”となっていた。
しばらくして盗まれたもの“財布”は、仲のものには何も手付かずで見つかったが、それでも彼女は責められた。
「はあ、あなたの予知能力が弱まったんでしょうかねえ、人の業というか、なんというか」
語りてが尋ねるとAさんは答える。
「違います、よわまっていない、それどころか増すばかりで、私は恐怖を覚えるほどだった、だから、あんな過激な事をしたんです」
「過激なこと?まさか、復讐とか?」
「いいえ……そんなことするはずがありません、そのあとすぐに私は会社をやめましたから、それに私は……あの財布を盗んだのは私だったのです」
「え?なんだって?」
どうやら、Aさんは、件の“予言を外した”と思われる朝に従業員Cさんの財布を大胆にも盗んだのだそうだ。なんでそんなことをしたのか聞くと。
「だって、あの人……Cさんだけ唯一私の予言を聞かずに、信じてくれもしなかったから、ものを盗んでしまうしか、引き留める方法がなかったんです、たしかにあの時の事故で死傷者はいなかったのですが、本来なら彼は死んでいたはずでした」
「すべてを話せばよかったじゃないですか」
「話しました、犯人は私だと、それで私がさらにひどくいじめられて」
「え?」
「でも、織り込み済みでした、私が名乗り出なければ、Cさんが犯人になる予知がみえたのです、つまり、自作自演と……彼だけが、周囲とうちとけていませんでしたから、私と張り合っていると周囲が疑うビジョンが見えたのです」
「どうしてそこまで彼をかばうのですか?あなたほどひどい扱いはうけなかったでしょうに」
「Cさん、あの人のこと好きだったんですけど、結局結ばれませんでしたね……その後も、思い人ほど、私の能力を信じてくれず、うまく恋に発展することがなかったんです」
いくら人をたすけても自分の幸福はつかめないという事なのだろうか。苦しそうに、縮こまる彼女に、語りては胸を痛めた。
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