22 / 68
悲しい暗殺
しおりを挟む
「親の仇!!」
「師匠の仇!!」
二人の暗殺者AとBがにらみ合っている。お互いに一歩も引かず、お互いの印象をののしりあう。
「尻軽女!!」
「嘘つき!!」
だがお互いをののしるたびに、二人は顔をまじまじと見つめあい、苦しい顔つきになっていく。ここはバーの店内、従業員一人がマスターの後ろに隠れ、奇妙なウサギの格好をした女性が、こっちには目もくれず酔いつぶれている。ほかの客は、この拳銃をつけつけあった女性二人のにらみ合いをみてそそくさとにげだした。
「なんでよ、なんであんたが」
「あんたこそ!!」
ヒートアップして立ち上がり、お互いの襟首をつかむ。二人とも暗い感じのする女性だった。だがお互い昨夜このバーであって、酔っ払い、そのうちにあれやこれやで仲良くなってしまった。お互いが、お互いの仇であることに気付かずに。そこにマスターが、カクテルを二つさしだす。恐れ知らずの行動に、別の従業員は、静かに生唾をのんだ。
マスターは女性、思えばマスターこそ、昨日二人をつなげた立役者でもある。
「落ち着いてください、あなた方は二人とも、暗殺の秘密組織に所属されていますね?」
「そうだけど、別に組織同士のからみはないわ」
「こいつ、怪しくない?先にやっとこうよ」
「いいわね、武器の音がする」
マスターは、まるで焦る様子もみせない。姿勢をたもち、グラスをふいている。
「ほう」
「ねえ、おちついてみない?」
比較的小柄なほうのBがAを誘うと、Aもうなずいた。
「そうです」
とマスターはにっこりと笑う。
「あなた方は、復讐をしたいのですよね、Aさんは親の復讐、Bさんは、師匠の復讐、それがお互いの組織同士に犯人がいるときかされた」
「それが何よ」
「……?」
「復讐とは、恐れからくる行動という面もある、もう一度自分が危険な目にあうのではないか、もう一度何かを奪われるのではないか、ですがあなた方はすでに多くの人間の命を奪った、もう、奪う側なのですよ」
二人はお互いに顔を見つめあった。
「あなた方の昨日のお話は、そう……とても平凡な少女的でした、もちろんプロとしては、いい行動ではなかったけれど、窮屈な闇社会で掟に縛り付けられている少女たちとは思えなかった、私はこう仮説づけたのです“あなた方は普通に戻りたいのだ、お互いを傷つけたくはないのだ”と」
AとBはお互いをみて、うつむいた。まだ幼いころに両親を失った少女たちだったが、実は、彼女たちはお互いの両親、もしくは育ての親たるボスを殺されたのだった。
「あなた方にはまだチャンスがあります、あなた方が“一般人”に戻る方法、復讐を終えることです」
「けど、いまさらそんな……」
「多くの罪を背負った」
「ええ、むつかしいでしょう、人間にならね、でもあなた方の当初の目的は……そんなものでしたか?私が察するに、“復讐のため”だったのではないですか?ですが、お互いに殺すことを迷っている、そう、それなら、選べばいいのです、新しい選択を、そうすることが、平凡に生きるということです」
マスターは、後ろの席を指さした。
「あなた方をここへ案内したのは誰です?本来あなた方は別の場所の情報をあたえられ狙いに定めていたのではないですか?」
「それは」
「あっ……」
そうだ、とAとBは思い出した。バニーガールの格好をした女性にこっちへ来いと呼ばれたのだ。普段会話をしないような陽気なタイプの女性で、思わずひかれてしまった。その人は、自分の事をひどく褒めてくれていた。
「あの人を殺せば、すべてうまくいきますよ、協会の真の狙いはあの子です、協会に所属せず、協会の人間を狩る暗殺者」
「え?」
AとBはすべてを悟った。その話は聞いたことがある。もしそいつをしとめれば、この案件をしてくれた組織にも面目が立つ。暗殺者は、普通依頼をひとつうけとったなら、それを最後まで実行しなければいけない。それが起きての一つ、“より大きな案件を解決”した場合にしか、その問題は免除されない。
すかさず、AとBは彼女をうった。“復讐は何も解決しない”と、欲ある善人の言葉を信じて、その時その瞬間だけは、宗教さえ信じたかもしれない。だが銃弾は、奥の座席の彼女にはじかれた。彼女は防弾ヘルメットをつけ、防護服をぬいだ。
気づくと、すでにAとBは頭を撃たれ横たわっていた。
「やったね、お姉ちゃん」
マスターとそっくりの女性がたって、後ろをふりかえり笑う。彼女は妹ににっこりとほほ笑み返すと、転がる死体によっていく。
「人は見かけによらない、といいますよね、私もそうです、二人の暗殺を頼まれた暗殺者ですから、ウソなどついていません、私は暗殺する対象に、慈悲をかけるのです」
そして、しゃがみ込んでゆがんだ笑みを浮かべた。
「私は君たちの組織ふたつともを掌握しているマフィアの専属殺し屋よ、頼まれたのよ、蛇の道は蛇、あなた達が痕跡を残すようなら、両方処分しろって、なぜかって?組織のボスは美学をもっている、“お客さん”の眼からは誰も逃れられない」
マスターは立ち上がり振り返る。先ほどまでガタガタ震えていた、男性従業員は恍惚とした表情でカメラをてにとり、一部始終を撮影をしていた。
「師匠の仇!!」
二人の暗殺者AとBがにらみ合っている。お互いに一歩も引かず、お互いの印象をののしりあう。
「尻軽女!!」
「嘘つき!!」
だがお互いをののしるたびに、二人は顔をまじまじと見つめあい、苦しい顔つきになっていく。ここはバーの店内、従業員一人がマスターの後ろに隠れ、奇妙なウサギの格好をした女性が、こっちには目もくれず酔いつぶれている。ほかの客は、この拳銃をつけつけあった女性二人のにらみ合いをみてそそくさとにげだした。
「なんでよ、なんであんたが」
「あんたこそ!!」
ヒートアップして立ち上がり、お互いの襟首をつかむ。二人とも暗い感じのする女性だった。だがお互い昨夜このバーであって、酔っ払い、そのうちにあれやこれやで仲良くなってしまった。お互いが、お互いの仇であることに気付かずに。そこにマスターが、カクテルを二つさしだす。恐れ知らずの行動に、別の従業員は、静かに生唾をのんだ。
マスターは女性、思えばマスターこそ、昨日二人をつなげた立役者でもある。
「落ち着いてください、あなた方は二人とも、暗殺の秘密組織に所属されていますね?」
「そうだけど、別に組織同士のからみはないわ」
「こいつ、怪しくない?先にやっとこうよ」
「いいわね、武器の音がする」
マスターは、まるで焦る様子もみせない。姿勢をたもち、グラスをふいている。
「ほう」
「ねえ、おちついてみない?」
比較的小柄なほうのBがAを誘うと、Aもうなずいた。
「そうです」
とマスターはにっこりと笑う。
「あなた方は、復讐をしたいのですよね、Aさんは親の復讐、Bさんは、師匠の復讐、それがお互いの組織同士に犯人がいるときかされた」
「それが何よ」
「……?」
「復讐とは、恐れからくる行動という面もある、もう一度自分が危険な目にあうのではないか、もう一度何かを奪われるのではないか、ですがあなた方はすでに多くの人間の命を奪った、もう、奪う側なのですよ」
二人はお互いに顔を見つめあった。
「あなた方の昨日のお話は、そう……とても平凡な少女的でした、もちろんプロとしては、いい行動ではなかったけれど、窮屈な闇社会で掟に縛り付けられている少女たちとは思えなかった、私はこう仮説づけたのです“あなた方は普通に戻りたいのだ、お互いを傷つけたくはないのだ”と」
AとBはお互いをみて、うつむいた。まだ幼いころに両親を失った少女たちだったが、実は、彼女たちはお互いの両親、もしくは育ての親たるボスを殺されたのだった。
「あなた方にはまだチャンスがあります、あなた方が“一般人”に戻る方法、復讐を終えることです」
「けど、いまさらそんな……」
「多くの罪を背負った」
「ええ、むつかしいでしょう、人間にならね、でもあなた方の当初の目的は……そんなものでしたか?私が察するに、“復讐のため”だったのではないですか?ですが、お互いに殺すことを迷っている、そう、それなら、選べばいいのです、新しい選択を、そうすることが、平凡に生きるということです」
マスターは、後ろの席を指さした。
「あなた方をここへ案内したのは誰です?本来あなた方は別の場所の情報をあたえられ狙いに定めていたのではないですか?」
「それは」
「あっ……」
そうだ、とAとBは思い出した。バニーガールの格好をした女性にこっちへ来いと呼ばれたのだ。普段会話をしないような陽気なタイプの女性で、思わずひかれてしまった。その人は、自分の事をひどく褒めてくれていた。
「あの人を殺せば、すべてうまくいきますよ、協会の真の狙いはあの子です、協会に所属せず、協会の人間を狩る暗殺者」
「え?」
AとBはすべてを悟った。その話は聞いたことがある。もしそいつをしとめれば、この案件をしてくれた組織にも面目が立つ。暗殺者は、普通依頼をひとつうけとったなら、それを最後まで実行しなければいけない。それが起きての一つ、“より大きな案件を解決”した場合にしか、その問題は免除されない。
すかさず、AとBは彼女をうった。“復讐は何も解決しない”と、欲ある善人の言葉を信じて、その時その瞬間だけは、宗教さえ信じたかもしれない。だが銃弾は、奥の座席の彼女にはじかれた。彼女は防弾ヘルメットをつけ、防護服をぬいだ。
気づくと、すでにAとBは頭を撃たれ横たわっていた。
「やったね、お姉ちゃん」
マスターとそっくりの女性がたって、後ろをふりかえり笑う。彼女は妹ににっこりとほほ笑み返すと、転がる死体によっていく。
「人は見かけによらない、といいますよね、私もそうです、二人の暗殺を頼まれた暗殺者ですから、ウソなどついていません、私は暗殺する対象に、慈悲をかけるのです」
そして、しゃがみ込んでゆがんだ笑みを浮かべた。
「私は君たちの組織ふたつともを掌握しているマフィアの専属殺し屋よ、頼まれたのよ、蛇の道は蛇、あなた達が痕跡を残すようなら、両方処分しろって、なぜかって?組織のボスは美学をもっている、“お客さん”の眼からは誰も逃れられない」
マスターは立ち上がり振り返る。先ほどまでガタガタ震えていた、男性従業員は恍惚とした表情でカメラをてにとり、一部始終を撮影をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる