ホラー短編集

ショー・ケン

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月の復讐者

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 父を殺したのは、美しい地球の人間だ。そう母から聞かされていた月に住む少年Aは、母にどうして彼の復讐をしないのか、彼を突き止めないのかと問う。
 
 ある時どうしてもそのことが気になって、しつこく尋ねた。母は語ろうとしなかった。語ろうとしないという事が問題だった。確かに復讐心は抱いているのだ。夕食の席で、母に問う。
「あなたは僕が殺されても、同じように地球の人々を恐れるの?地球の人々が偉いの?」
 母は対に耐えきれず、フォークとナイフをおいて、少年の席の前までいく。
 
 彼が少年に近づくと、おでこをあわせ母は真実を告げてくれた。
「あなたもきっと気づくでしょう、彼女にも事情があるのよ、私は相手をみて、相手の弁明をみて、引き下がったわ、彼女はいったの、復讐は何もうまない……地球の文化よ、そのほうが、トラウマに人生をつぶされずにすむから」
 しかし、Aは膨れている。だが、収穫はあった、相手が女性である事がわかったのだ。
「あなたもあの青い星にいるのが美しい人間だとわかる、月の人々には、地球人が美しくみえるともともとそういわれていたでしょう?」
 しかし、Aが不満に思ったのは、母の言い方だ。相手にも事情がある?この復讐心が、いったいどういう事情で納められるというのだ。

 青年になったA、あるとき、大学の長期休みに地球に忍び込む。そして、父を殺したという人間の側にきた。その情報は、月の情報網を駆使してつきとめたものだ。疑っていなかった。だが、そのアパートの玄関をノックし、いきなり銃をつきつけたとき、相手の顔をみて、彼は銃を取り落としそうになった。
「ちょっとまって、どういうことだ」
 兄弟というレベルではない、瓜二つの人間がそこにいた。
「どういうことだ?君がどうして、君は……僕じゃないか」
 相手も驚いているようだった。だが、落ち着いて深呼吸をして、玄関に座った。
「そういうことか……幼いころ、母さんが教えてくれた……」
 ふと、何かに感づいたように相手のAが声をかける。
「まずい、君は逃げたほうがいい」
「なんでだ?」
「地球の人間は簡単に君を殺す」
「母は地球の人間は美しいといっていた」
「だが、密入国がまずいことくらいわかるだろう?」
 Aは、落ち込んで目を伏せる、部屋の奥から、聞き覚えのある女性の声が聞こえる。
「だれなの?」
「急いで!!」
「でも!!」
「君の父を、僕らの父を殺したのはもっと大きな存在だ、それはこの星を支配している神の用な存在だ、彼に事故に遭わされた、それで納得いくかい?ともかく君は、ここまできて僕を殺そうとしたんだ、“彼”の存在を知ったらもっと殺したくなるに違いない、だが……そうだな、こうしよう、信じてくれるかい?信じてくれたら、お金もやるさ」
「何を?」
「そうだな……要するに、僕らは君たちのバックアップなんだよ、クローンだ、君にとってもそうだ、だがそれを知ったら、知ったものは命を狙われる、わかるか?」
「なんとなく……」
「これはお互いのためだ、つまりこうだ、不慮の事件に合った人間や、犯罪に巻き込まれた人間が犯罪者やトラウマに悩まされないための、策だ、そうした問題をしっているだろう?精神疾患、PTSD、鬱などだ、こうした時によりそうために月には、クローンを派遣することにした、僕らはお互いの精神を保つための存在だ、だがこれは知らされているか?君たちはしっているか?」
「いや、月の人間は知らない」
「つまり、知られてはいけないんだ、逃げろ!!」
 彼の言い草は妙だったが、たしかに地球に密航して無事だった人の話が少ないことを知っていたAは、静かに彼の言う通りにして、月へとかえってきた。その後の生活は順風満帆で、まるで運命が味方しているかのようにうまくいった。突然街でナンパされ恋人ができたり、学業の成績が急激に伸びた。それで彼は、復讐心を失ったのだった。ただ、彼のクローンと別れる際、廊下の奥から顔を出した母そっくりの……母のクローンの驚いた姿が忘れられずにいた。


 彼の生活がモニターに流れる、それを見上げながら、彼らの父を殺した犯人であるある研究者は、彼の施設、ラボ全面にあるモニターに映る彼らの生活をみていた。
「彼らクローンの状態はどうだ?」
「ええ、問題ありません」
「彼らは重要なバックアップだからな、こちらの人間に不慮の事故などがあった場合、彼らに我々の脳が移植される、月の人間は地球の資源だ」
 研究者の部下は、彼に軽く頭を下げた。彼が資料をてにその部屋をでると、深夜ということもありラボに一人のこった彼は頭を抱えながら、モニターをいとおしそうに眺めると、その中のAに手を伸ばし、ラボの中央にある自分の席にすわった。
「美しい人間か、無作為に善をする人間と、作為的に善を押し付ける人間、いったいどちらが純粋なのだろう、いや、人間はただ、その美徳が己の中にあると信じたいだけかもしれない」
 研究者はペンダントのロケットを開く。そこには、Aの母と自分、まだ赤ん坊のAの写真が納まっていた。10年前の事故を思い出す。あの事故で彼は死んだはずだったのだ。
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