ホラー短編集

プラント

「心地よい息」
女性が呼吸をすると、子どももまた呼吸をした。
「幸、あなたは絶対、父さんみたいにならないでね」
娘はこくりと頷いた。

「“プラント”は新時代のエネルギーを生み出す、クリーンエネルギーという話、ここらの高校をでた者たちは皆プラントでの労働を目指す、彼女の父もそうだった」
掘っ立て小屋で男たちが会話をしている。第三次大戦が終わってからほどなくのことだ。プラントは人々に生活のためのエネルギーを供給した。おかげで古い家電や設備や施設を使うこともできた。

　人々は集会所にそれらをもちこみ、なんとか生活を続けていた。
「求めてはいけねえ、多くを求めると、おてんとさまがみている」
　だれがこうした旧来の生活と文明に戻ることを想像しただろう。人々はかつて、都市の情報システムと流通、インフラに頼りきりだった。それが当然ではなくなって、はじめて、見えてきたものもある。

「どうして、彼女の夫は亡くなったんだ」
　若い男が尋ねると、しぶしぶと男は話はじめる。
「“カミサマ”に歯向かったんだ」

　昔、まだ十代の若い時期に二人は夫婦になった。すでに子供はできていて、すでに白い目でみられていた。それでも周囲の人間が世話をしてやっていたが、ろくに勤め先もみつからず、見つかってもすぐに周囲のめを気にして雇い主が首にしてしまう。

　男は苦しかった。たしかにこの辛い時代に子どもを、若い人間がもうけるなどと、しかし男には子供がいる。だからなんとかその子の分の稼ぎをえなければいけない。
「何をしたんだ？」
「プラントにはいったのさ、あれは禁忌さ、そして彼はプラントの神の逆鱗にふれた」
「……」
　集会所から男たちがかえっていったあとも、青年は立ち尽くし物思いにふけっていた。ある老人が青年の手をひっぱる。カエルによくにた顔立ちだ。
「あんた、元長老の」
「悪い事はいわん、あんたはこの村をでたほうがいい」
「なんで……」
「“プラント”は、生贄の装置だ、あの話には嘘がある、本当はあの家族の子どもが生贄になるはずだった、それに彼女の夫はもともとよそ者で嫌われていたのさ、彼らがなぜ今、あれほど裕福な生活をしているか考えたことがあるか？」
　そういえば、長者の家に使えてたいそう落ち着いた暮らしをしているとか。
「口封じさ、彼女は毎朝、プラントから流れてくる空気をすっている、自分のしでかしたことを忘れんようにな、まだ若かった彼女はこの家をでようとしたがもともと地主の家系で自由がきかんかった、今たよりにしている長者はその親戚だ、彼女はしっていたのだ、皆くちをつぐんでいたが、この村では誰もが、プラントに生贄をささげ、そしてそのプラントの機能も年々劣化している、この土地では誰もが避けていることがある、だが誰も逃げられない事だ」
　青年は言葉をうしなった。