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何もできないから
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幼馴染のAとB,中学時代までは仲が良かったが、高校に入った途端立場は逆転した。
「お前なら俺に優しくできるよな!?おれのいいたいことわかるだろ?」
むかしは、Bのほうがナルシスト気味で、威張っていたが最近ではAのほうがいばりちらしていた。
変化といえば夏休み中にAが足を切断する羽目になった肝試しからだ。
「あの時、お前は俺を売ったんだろ?あの幽霊に」
「……」
教師がいる前では以前のように仲のいい二人だったが、まだなれない義足を引きずって、杖をついてあるきながら、時折それを補助するBを殴っている姿を目撃された。
「やめろよ!BもAにいいかえしたほうがいいぞ」
「で、でも……俺は何もできないから」
上級生が注意してもきかなかった。Bは日に日にやせ細っていくが、なぜこんなことをするのかとAに聞いてもAは答えない。
それでもAは成績優秀でもともとサッカー部のエースだったために、同級生の皆それを止めることもできなかった。というより怖かったのだ。Bもまたサッカー部の有望部員。成績もそこそこだ。そして何よりBはお調子者で雰囲気を作るのがうまかった。ただひとつ人を馬鹿にする才能もあったために、彼につかまっていじめられるものも多かった。
だから怖がっていた。AがかつてのBのようになるのではないかと、そもそも今と逆で、かつておどおどして幼馴染の顔色を常に窺っていたのはAだったからだ。Bはある教室の噂話に耳を塞いだ。
「心霊スポットで、どちらかの願いを完全にかなえてやるって、その代わり片方の人生を奪うと、亡霊に告げられたらしいよ」
「え?何それ」
「そういういわくのある某廃神社だってさ、よせばいいのに」
「彼らは刺激に飢えていたからね、なんでそんなに飢えているのかしらないけど」
「二人とも両親が離婚したし、もともと家が厳しいからね」
教室の脇を二人が通ると噂がやんだ。
その夕方、恐れていた事態が起こった。いわくつきの某廃神社にて。
「おい、何かやってみろよ」
「ああ、そうだよ、やってみろ」
手足を縛られたBが、友人たちにつつかれている。Aもここまでするつもりはなかった。
「だよな!A!」
「あ、ああ」
大学受験も控え、ピリピリとした雰囲気も漂う中の出来事だ。皆うっぷんやストレスをためていたのだろう。
「A、何もしないのか?」
「そうだよ、お前が言い出したことだろ、こいつに罰を加えるって」
「ん?ああ」
それでも何もできず、ぼーっとしている。
「ちょっと膝の調子がわるくて……」
「びびり……」
「は?」
一人の友人がつぶやいたとき、Aはすかさず彼をけとばした。
「いや、お前にいったんじゃないって……」
「あの時だ!あの時この廃神社の裏手にある車道!それをとびこえろとこいつに強要された!」
Bが抵抗するように叫んだ。
「してない!」
「あの時、びびりだって!」
「いってない!」
ヒートアップしたAは、それで余計に顔を覗き込んだ。
「お前が常にやつあたりしてきたのは、俺だった、教室でも、部活でも俺に八つ当たりしてきただろう、お前のせいだ、お前のせいで俺はずっと不自由だった、父に殴られ続けたのもお前のせいだ、お前だ、お前を許さない!」
Aは傍らにおちていたガラスを手に取り、彼を突き刺した。
Aは死んだ。それでも彼は自分の中にBがいると思っている。刑罰をうけ、少年刑務所の中で、窮屈な生活をおくり、牢の中で彼は何度も幻影をみた。Bが自分をつついている。
「お前、何かできるのか、やってみろよ」
あの時と立場が逆だ、いまのAには何もできない。眠る前に謝り続けたが、それでも許されなかったようだ。うるさいせいか、いじめられたこともあった。あまりにひどいいじめで、汚水をかけられた日に、心底謝罪した。
「すまない!高校に入り、お前への期待が俺にむけられた、俺は、お前の影に隠れていた、答え方がわからなかったんだ、皆お前を批判したが、お前より面白かった人間も、本来はお前より性格のいい人間もいなかった、俺は知っていたんだ、お前へのあこがれと、皆の視線を、お前は期待に応えていたんだ、ああなるまえに、俺がとめておけば……」
「そうか、ならば俺の幻影をころせ、お前に信じてほしいことがあるんだ」
「??」
その日から何度も殺せ、というBの幻影をみた。以前のような高圧的な脅迫でもない。いたたまれなくなり、あるとき、鉛筆を強く握って幻影の喉に突き刺した。
「ああ、そうだ、お前は……そこまでわかったなら、信じてくれるだろ?俺は幽霊に何もねがわなかった、ねがわなかったんだ」
5年後。Aはその場所を訪れ、線香をあげる。少年刑務所からでて今は真面目に塗装屋と建築系の事務。後者はやがて、真面目な姿勢を買われ正式に社員になる予定だ。あれからずいぶん街は様変わりした。昔の仲間にあうと、ずいぶんかわったといわれる。そして高校時代の恋人と昨年結婚した。妻が一番、自分の変化を気にかけてくれる。そう。
「まるで、B君みたいね」
頻繁にそういってくれる。
「お前なら俺に優しくできるよな!?おれのいいたいことわかるだろ?」
むかしは、Bのほうがナルシスト気味で、威張っていたが最近ではAのほうがいばりちらしていた。
変化といえば夏休み中にAが足を切断する羽目になった肝試しからだ。
「あの時、お前は俺を売ったんだろ?あの幽霊に」
「……」
教師がいる前では以前のように仲のいい二人だったが、まだなれない義足を引きずって、杖をついてあるきながら、時折それを補助するBを殴っている姿を目撃された。
「やめろよ!BもAにいいかえしたほうがいいぞ」
「で、でも……俺は何もできないから」
上級生が注意してもきかなかった。Bは日に日にやせ細っていくが、なぜこんなことをするのかとAに聞いてもAは答えない。
それでもAは成績優秀でもともとサッカー部のエースだったために、同級生の皆それを止めることもできなかった。というより怖かったのだ。Bもまたサッカー部の有望部員。成績もそこそこだ。そして何よりBはお調子者で雰囲気を作るのがうまかった。ただひとつ人を馬鹿にする才能もあったために、彼につかまっていじめられるものも多かった。
だから怖がっていた。AがかつてのBのようになるのではないかと、そもそも今と逆で、かつておどおどして幼馴染の顔色を常に窺っていたのはAだったからだ。Bはある教室の噂話に耳を塞いだ。
「心霊スポットで、どちらかの願いを完全にかなえてやるって、その代わり片方の人生を奪うと、亡霊に告げられたらしいよ」
「え?何それ」
「そういういわくのある某廃神社だってさ、よせばいいのに」
「彼らは刺激に飢えていたからね、なんでそんなに飢えているのかしらないけど」
「二人とも両親が離婚したし、もともと家が厳しいからね」
教室の脇を二人が通ると噂がやんだ。
その夕方、恐れていた事態が起こった。いわくつきの某廃神社にて。
「おい、何かやってみろよ」
「ああ、そうだよ、やってみろ」
手足を縛られたBが、友人たちにつつかれている。Aもここまでするつもりはなかった。
「だよな!A!」
「あ、ああ」
大学受験も控え、ピリピリとした雰囲気も漂う中の出来事だ。皆うっぷんやストレスをためていたのだろう。
「A、何もしないのか?」
「そうだよ、お前が言い出したことだろ、こいつに罰を加えるって」
「ん?ああ」
それでも何もできず、ぼーっとしている。
「ちょっと膝の調子がわるくて……」
「びびり……」
「は?」
一人の友人がつぶやいたとき、Aはすかさず彼をけとばした。
「いや、お前にいったんじゃないって……」
「あの時だ!あの時この廃神社の裏手にある車道!それをとびこえろとこいつに強要された!」
Bが抵抗するように叫んだ。
「してない!」
「あの時、びびりだって!」
「いってない!」
ヒートアップしたAは、それで余計に顔を覗き込んだ。
「お前が常にやつあたりしてきたのは、俺だった、教室でも、部活でも俺に八つ当たりしてきただろう、お前のせいだ、お前のせいで俺はずっと不自由だった、父に殴られ続けたのもお前のせいだ、お前だ、お前を許さない!」
Aは傍らにおちていたガラスを手に取り、彼を突き刺した。
Aは死んだ。それでも彼は自分の中にBがいると思っている。刑罰をうけ、少年刑務所の中で、窮屈な生活をおくり、牢の中で彼は何度も幻影をみた。Bが自分をつついている。
「お前、何かできるのか、やってみろよ」
あの時と立場が逆だ、いまのAには何もできない。眠る前に謝り続けたが、それでも許されなかったようだ。うるさいせいか、いじめられたこともあった。あまりにひどいいじめで、汚水をかけられた日に、心底謝罪した。
「すまない!高校に入り、お前への期待が俺にむけられた、俺は、お前の影に隠れていた、答え方がわからなかったんだ、皆お前を批判したが、お前より面白かった人間も、本来はお前より性格のいい人間もいなかった、俺は知っていたんだ、お前へのあこがれと、皆の視線を、お前は期待に応えていたんだ、ああなるまえに、俺がとめておけば……」
「そうか、ならば俺の幻影をころせ、お前に信じてほしいことがあるんだ」
「??」
その日から何度も殺せ、というBの幻影をみた。以前のような高圧的な脅迫でもない。いたたまれなくなり、あるとき、鉛筆を強く握って幻影の喉に突き刺した。
「ああ、そうだ、お前は……そこまでわかったなら、信じてくれるだろ?俺は幽霊に何もねがわなかった、ねがわなかったんだ」
5年後。Aはその場所を訪れ、線香をあげる。少年刑務所からでて今は真面目に塗装屋と建築系の事務。後者はやがて、真面目な姿勢を買われ正式に社員になる予定だ。あれからずいぶん街は様変わりした。昔の仲間にあうと、ずいぶんかわったといわれる。そして高校時代の恋人と昨年結婚した。妻が一番、自分の変化を気にかけてくれる。そう。
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