呆然自失のアンドロイドドール

ショー・ケン

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第一話

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「ふう……」
 一人の女性が暗い目をして、ひとつ、ため息をはいた。それも誰にも見られないように後ろをむいて。そのすぐあとには気丈な笑顔と、偽りの仮面を取り戻していた。
「いらっしゃいませ~」
 長髪を後ろでポニーテールで結う、切れ長の目つきと美しい瞳、すらっとした鼻立ちをもち、なめらかでシャープな輪郭をもち、ふくよかで小さなな唇を備える、どこかトラやライオンのような風格と雰囲気を持つ女性ウェロウ。広いホールを見つめる彼女はウェイトレスの仕事をしている。声をかける男は数知れず。しかし彼女は鉄壁のような表情と、クールな対応で男を寄せ付けなかった。彼女をみて奥にいる常連客で大柄の二人が話をしている。
「まあ、そりゃそうだよな、元気がないのも無理はない」
「あんなことがあっちゃなあ」
「けど、いつまでも一人ふさぎ込んでちゃ辛いだろう」
「そういって、本当は自分に可能性があると思っているんだろう?」
「お前なあ!!俺はまじめに話しているのに」
「俺だって、お前より可能性があると思って話しているぜ!」
「なんだと!!バカかお前」
「ああ!?」
 やがて太った二人の客はもつれあい、つかみ合いホールの地面をコロコロところがっていった。お客たちはあきれ果ててほっておいた。ほかの店員が汗をかいて対応に戸惑っていると、ウェロウ奥からでて、店の中央を通り入口付近に颯爽と歩きさる。と、入口付近の客に注文をとり、引き返す。その瞬間だった。傍らで声が響く
「あっ」
 ウェロウは自分の太ももに、冷たい何かしらの液体ををこぼされた、一瞬のことで熱さは感じなかった、カップの中を覗くと黒く、コーヒーであることに気づき、そのあとにコーヒー自体が冷めていることに気づいた。太ももからとびちりエプロンかかりに黒い少ししみがついた。だがウェロウはクールに対応する。
「あ、あ、ウェイトレスさん!!」
「大丈夫です、お気になさらず」
「す、すみません」
 このコーヒー、冷め方。確かに、この客の注文は自分がとり、運んだが、この冷め方は妙な気がする。春先とはいえまだ数分とたってないのに芯まで冷えている、あまりに急すぎる。わざと回して冷ましたような……。男は黒いスーツにグレーのネクタイをしていた。胸元に特徴的な、とげとげしく渦巻いたエンブレムのようなものをつけていた。ウェロウは奇妙に思った。
(何か目的のある客かしら)
 そう思ったが、その後男は平謝りするばかりでこれといって何もしてこなかった。ただ、名刺を渡された。
「すみません、今度何か“困った事”があれば連絡をください、そのエプロンの弁償もしますし」
「はあ」
 ナンパかと思って目を通す。聞いたことのない会社の名前があった。
「CROW 、紛争調停エージェント?」
 名刺の名前がまた奇妙で“R”とだけ表記されている。
「人々の間、個人でも組織でも、紛争や訴訟に至るような何か困り事でもあれば、間に入って解決する仕事をしております」
「……私に何か、困りごと」
 そういわれて思い出すのは、二日前の事だった。
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