狂典

ショー・ケン

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狂典

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 ある男の二人組と、女一人。カップルとその男の親友が旅行にでかけ、その途中で飛行機事故にあった。飛行機は不時着したはいいものの、人里離れた森の奥で数週間救助の手が入らない。その間に何とも恐ろしいことがおきた。救いの手がさしのべられなかったことで、助かった人々が殺し合いや食料品などの奪い合いを始めたのだ。だが、カップルでない男が、カップルの男の奇妙な様子をずっと眺めていた。奴は夜な夜な何か奇妙本をもって、奇妙な儀式をしていることに気が付いた。
ある夜、カップルの彼女とともに、親友でもあるカップルの片割れのその男の様子を見に行こうと考えた。
そこでは、凄惨な光景がひろがっていた。
「やめてくれ、よしてくれ!」
「違うの、私がこんなことしたいのではないの!」
 キャビンアテンダントが、棒を手に持ち、パイロットを何度もなぐりつけている。そして、その傍らから、男があらわれた。カップルの片割れ、男の親友である。彼女と親友が隠れてみているとも知らず、彼はこう言い放った。
「俺こそが、この殺し合いと、この遭難を仕組んだ犯人だ、俺は、悪魔と契約して今度の事をなしとげた、あまりにも日常に退屈していたからな!!」
 そういって、自分は一切手を汚さず何らかの呪文を唱え続け、やがてキャビンアテンダントとパイロットの双方がしぬと満足そうに笑みをうかべ、涙をながしていた。その背後から親友が忍び寄り、その男、つまり親友をその彼女の許可をえて、殺害。

 親友の男がすべての元凶だとわかった男と、元彼女の女はなんとかその狂気の生き残りの一団をさけ、彼らが自滅するまで生き延びた。しかし、そうして生き延びたある夜のこと。

男のと女の前に“悪魔”が立ちはだかる。
 満面の笑みを浮かべた。親友の男によく似た悪魔が。なんとかして対抗するが、おとこは右手と左足を失った。何をおもったか、男は悪魔の教典を取り出した。
「悪魔を取り出したあいつはもう死んでしまった、この本の中に、俺たちが助かる方法があるはずだ」
適当な呪文を選び、さけんだ。すると悪魔の体の一部が燃えた。しかし、悪魔はまったくひるむことはない。なぜならその体は幾度も幾度も再生したから。
今度は悪魔がこういった。
「さあ、その教典を返せ」
「?なぜ」
「契約は、実行されるときだ、お前の魂とその教典を返すときだ」
「何をいっている?これの持ち主は俺じゃない」
「冗談はよせ、お前は、これで俺に魂をくれるはずだ」
「?何をいっている、お前は、俺の親友によって召喚された悪魔のはずだろう」
その瞬間悪魔は叫んだ。
「ひぃい!!許してくれぇ!」
「!?」
「お前、思い出さないのか、ありえない、ここまでの“契約”のはずだ」
「何をいっている?」
 悪魔が真実を語りだす。
「お前こそがその教典の本当の持ち主だ、お前は日頃から親友に嫉妬していて、その恋人も初めはお前が好きだったのに親友がとったと恨んでいた、だから今度の旅行と、この遭難事故を計画した、悪魔の教典の呪いの通りに筋書きをかき、そして生き残ったものも、親友を殺したのもお前だ」
「そんなわけがない」
 男が近寄ると、悪魔はさらに恐怖した。そして男の手足を指さした。
「ここでお前の手足がもどり、お前の記憶が戻るはずだった、なのになぜおまえはいまだにこの悪事を“親友のせい”にしているのか“自分が正義”だと思っているのか、悪魔の教典にすら、それほど恐ろしい“悪意”の、“呪い”の練り方はのっていない」
 男が手足を確認すると、たしかにもとにもどっていた。男は自我を取り戻し、にやりとわらった。教典を取り出すと、儀式を実行し悪魔に魂をささげた。悪魔はほっとした。女は、おびえながらその様子をみていた。男は、悪魔にむかっていった。
「思い出させてくれて、ありがとう、魂をやるのはおしいが、大丈夫、僕にはもう、大事な人がいるから」
 男は、儀式を終えると背後の女性に襲い掛かった。しかし男は疑問だった。なぜ今自分が彼女を襲う必要があるのだろう。女性は一切抵抗しない、だが男は、女性の服をつかみ、破ろうとする、女性の目は、死んでいた。
男はいう。
「なあ、どうしたというんだい、君は彼氏とちょっとマンネリ気味だと親友に相談していたそうじゃないか」
 男の目も、また別の意味で死んでいた。

 その女性が、一瞬笑ったように思えて男は何かを悟った気がした。女性が奇妙な呪文をとなえると男は吹き飛ばされた、女性は別の悪魔の教典をポケットから取り出し、いった。
「ああ、よかった、思った通りの陳腐な筋書きね、私は別の悪魔と契約して、ここまでの筋書きをみせてもらったの、そうしてこの筋書きを考えた、もう私はあなたの考えもすべてよんで、退屈していたのよ、これで私は、恋人を殺され、その親友に命をつけ狙われた悲劇の女性という役回りで、二人の邪魔な男を殺せる、ストーカーと退屈な彼氏」
 そして女性は拳銃をとりだし、男を殺害した。その後方で二人の悪魔がおびえていた。女性と契約した悪魔がいった
「本当なら、男に真相を話さずに殺すはずじゃ、わざわざ生かして、希望を持たして殺すなんて、むごたらしい」
男と契約した悪魔がいった。
「手足が再生する前に殺してやるはずだったのに」
 悪魔たちはこの出来事を、その本に書き記し、人間の怖さとして永遠に語り継ぐこととなった。もともとその教典のさわりにこう書かれていたのだ。
「人間が悪魔を恐れるほど、悪魔は恐ろしいものじゃない、本当に恐ろしいのは人間の中に潜む悪意のほうだ」
 と。
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