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第20話
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いつものようにホームルームが終わる。
下校時間、鞄に荷物を詰めて下駄箱へと向かうと、聡介が上靴を履き替えている所だった。
声をかけようとした時、美緒が横から現れる。
聡介の肩に肘を乗せて、何やら耳打ちしている。
聡介がそれに慌てた様子で反応した。
美緒が聡介の反応にケラケラと楽しそうに笑っている。
そんな様子を見て、胸の奥がまたジリジリと焼き付くような痛みを感じる。
この痛みの正体を、本当は何となく分かっていた。
わかっているけど、分かりたくなんかない。
美緒も上靴を履き替えて、聡介と二人で歩いて帰っていく。
二人の背中を、僕は一人佇んで遠くなるまで見ていた。
なんか、帰る気が失せたな。
俯きながらとぼとぼ歩いていると、無意識に校庭にある桜の木を見つける。
この桜の木、どこかで見たことあるな。
しばらく考えて思い出す。
前の世界で僕が康太だった時に、一年の春、登校初日に10年後の夢を書いた手紙をクラスで纏めて箱に入れてこの木の根元に埋めたんだ。
いわば、タイムカプセル。
足元を見ると、地面の土に埋もれた黒い箱の角が少しだけ覗いていた。
これ、もしかしてあの時の――?
土を払って、箱を取り出す。
まさかこの世界で向こうの世界のものを見つけるとは思ってもなくて驚いた。
この世界は、向こうの世界とどこかしらで繋がっているのかもしれない。
ごくり、唾を飲み込む。
箱を開けると、当時クラスメイト達が書いた沢山の手紙が入っていた。
なんて書いてあったか、もう忘れたな。
まあ十中八九漫画家になりたいとか、そんな夢を語っているんだろうけど。
「これだ……」
手紙にはっきりと書いてある、新井康太(あらい こうた)の文字。
開いてみて、その字をそっと読む。
《10年後の僕へ。僕の夢は漫画家になる事です。こんな大それた夢、叶わない確率の方が高いだろうな。でも、挑戦することは悪いことじゃない。諦めたらそこで終わりだし。そんな名言、漫画であったよね。数年後には、違う夢になっているかもしれない。それでもいい。大切なのは、諦めないこと。つまり、僕の夢の本質はたぶん、人生そのものを楽しんで一生懸命生きていくことなんだと思う。だから、楽しんで生きてくれ。僕の夢は、ただそれだけ》
これを書いた数日後に不治の病で余命宣告されるなんて、思ってもなかっただろうな。
もう叶えることの出来ない夢に、ごめんな、と心の中で呟く。
じんわりと涙で視界が滲むと同時に、ザアア、と突然大雨が振り出した。
さっきまで太陽が出ていて、雲ひとつない晴れ空だったのに、いつの間にか分厚いどんよりとした雨雲が空を覆い隠していた。
もしかしたら、この世界の空は僕の気持ちとリンクしてるんじゃないか、と思う程タイミングのいい雨に、苦笑する。
聡介、助けて。
助けてくれよ。
僕の光で、僕の憧れで、僕の夢で。
確かに僕のものだった筈なのに、この世界では何故か遠くに感じてしまうのが寂しくて、悲しい。
「聡介っ……」
「っ、ひいらぎ!大丈夫か?」
後ろから今一番待ち望んでいた低い声がして、驚いて振り返る。
聡介は慌てて走ってきたのか肩を上下させて、呼吸も荒く乱れていた。
なんだかとてもカラフルな虹色の傘を開いて僕の頭上にかざす。
降りかかる雨が遮られて、代わりにボツボツ、と雨音が傘を鳴らした。
「え……なん、で」
「雨が降ってたから。柊がまた辛い気持ちでいるんじゃないかって気がして、戻ってきたんだ。まだ学校にいてくれてよかった」
「何それ、変なの」
「変だよな、でも当たってたみたいだ」
「っ、なんだよ、ううっ」
聡介に優しく肩を抱かれて支えられる。聡介の胸にしがみついてみっともなく嗚咽漏らして泣いた。
下校時間、鞄に荷物を詰めて下駄箱へと向かうと、聡介が上靴を履き替えている所だった。
声をかけようとした時、美緒が横から現れる。
聡介の肩に肘を乗せて、何やら耳打ちしている。
聡介がそれに慌てた様子で反応した。
美緒が聡介の反応にケラケラと楽しそうに笑っている。
そんな様子を見て、胸の奥がまたジリジリと焼き付くような痛みを感じる。
この痛みの正体を、本当は何となく分かっていた。
わかっているけど、分かりたくなんかない。
美緒も上靴を履き替えて、聡介と二人で歩いて帰っていく。
二人の背中を、僕は一人佇んで遠くなるまで見ていた。
なんか、帰る気が失せたな。
俯きながらとぼとぼ歩いていると、無意識に校庭にある桜の木を見つける。
この桜の木、どこかで見たことあるな。
しばらく考えて思い出す。
前の世界で僕が康太だった時に、一年の春、登校初日に10年後の夢を書いた手紙をクラスで纏めて箱に入れてこの木の根元に埋めたんだ。
いわば、タイムカプセル。
足元を見ると、地面の土に埋もれた黒い箱の角が少しだけ覗いていた。
これ、もしかしてあの時の――?
土を払って、箱を取り出す。
まさかこの世界で向こうの世界のものを見つけるとは思ってもなくて驚いた。
この世界は、向こうの世界とどこかしらで繋がっているのかもしれない。
ごくり、唾を飲み込む。
箱を開けると、当時クラスメイト達が書いた沢山の手紙が入っていた。
なんて書いてあったか、もう忘れたな。
まあ十中八九漫画家になりたいとか、そんな夢を語っているんだろうけど。
「これだ……」
手紙にはっきりと書いてある、新井康太(あらい こうた)の文字。
開いてみて、その字をそっと読む。
《10年後の僕へ。僕の夢は漫画家になる事です。こんな大それた夢、叶わない確率の方が高いだろうな。でも、挑戦することは悪いことじゃない。諦めたらそこで終わりだし。そんな名言、漫画であったよね。数年後には、違う夢になっているかもしれない。それでもいい。大切なのは、諦めないこと。つまり、僕の夢の本質はたぶん、人生そのものを楽しんで一生懸命生きていくことなんだと思う。だから、楽しんで生きてくれ。僕の夢は、ただそれだけ》
これを書いた数日後に不治の病で余命宣告されるなんて、思ってもなかっただろうな。
もう叶えることの出来ない夢に、ごめんな、と心の中で呟く。
じんわりと涙で視界が滲むと同時に、ザアア、と突然大雨が振り出した。
さっきまで太陽が出ていて、雲ひとつない晴れ空だったのに、いつの間にか分厚いどんよりとした雨雲が空を覆い隠していた。
もしかしたら、この世界の空は僕の気持ちとリンクしてるんじゃないか、と思う程タイミングのいい雨に、苦笑する。
聡介、助けて。
助けてくれよ。
僕の光で、僕の憧れで、僕の夢で。
確かに僕のものだった筈なのに、この世界では何故か遠くに感じてしまうのが寂しくて、悲しい。
「聡介っ……」
「っ、ひいらぎ!大丈夫か?」
後ろから今一番待ち望んでいた低い声がして、驚いて振り返る。
聡介は慌てて走ってきたのか肩を上下させて、呼吸も荒く乱れていた。
なんだかとてもカラフルな虹色の傘を開いて僕の頭上にかざす。
降りかかる雨が遮られて、代わりにボツボツ、と雨音が傘を鳴らした。
「え……なん、で」
「雨が降ってたから。柊がまた辛い気持ちでいるんじゃないかって気がして、戻ってきたんだ。まだ学校にいてくれてよかった」
「何それ、変なの」
「変だよな、でも当たってたみたいだ」
「っ、なんだよ、ううっ」
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