転生魔王 ~勇者道一直線!~

苦竹佐戸

文字の大きさ
5 / 18

第四話

しおりを挟む
 王弟キュオンが勇者の息子ガウレオを連れて帰ってきたことは、公表されると直ぐに王国全土へ伝わった。
 魔王の復活に脅えていた王国にとって、その報は正に神の福音といえた。
 しかし、それを快く思わない者達もいた。王の派閥である。
 昔から優秀だったキュオンと比べて、凡骨であった兄を担ぎ上げ、工作の果てに追い落とした。お陰でこの数年間の間は、思うがままに私腹を肥やすことが出来た。
 しかし、ここに来てキュオンが力を付けてきた。王に取って代わられる事はないだろうが、宰相に選ばれでもしたら厄介だ。
 兎に角、これ以上、目立たせる訳にはいかない。彼等は早急に策を練り始めるのだった。
  
 ガウレオが城に来てから五日。実は未だ勇者ロクサーヌに会う事が出来ていなかった。
 勇者バシラの息子であると公表して直ぐに、貴族達の手によってキュオンから引き離されると、城の一室に軟禁されてしまった。
 それから貴族達は懐柔しようと、あの手この手と色々なものを寄越してくる。断る理由もないので、有り難く貰ってはいるが、そろそろ飽きが来はじめていた。

「そろそろに会いに行くとしますか」
  
 ガウレオはそこら辺に放り散らかされた貰い物の中から、一振りの剣を拾い上げる。貴族かれらがくれた物の殆どは、見た目ばかりの鈍らだったがこの剣これは良い品であった。
 ドアには鍵を掛けられているので、廊下へ出る。
 そこには、何が起きたのか分からないといった顔の衛兵が立っていたので、出掛けてきますと伝言を頼んで、玄関へ向かった。
 玄関につくと、そこには補修の跡がいくつもある鎧を纏い、抜身の大剣クレイモアを背負った、大柄な体格と首まで伸びた真っ白な髭が特徴的な騎士が、門の前で立っていた。
『死に損ない』のオーリスト。齢50にして、未だに王国十傑に名を連ねる老練の騎士だ。
  
「お出掛けですかな。ガウレオ殿」
「はい。何しろ、ずっと部屋に閉じ籠っていたので。やっぱり、子供は外で遊ぶべきだと思うんです」
「確かに、その通りですな。ですが、大人の言うことに従うことも大切なのですぞ」
   
 お互い微笑んでいるはずなのだが、周りの空気がどんどんと重くなっていく。
  
「どうやら、悪い子には少し、お仕置きが必要なようですなぁ」
「子どもは大人に逆らうことで、大きく育っていくんですよ」
  
 オーリストはゆっくりと、大剣を背から下ろして構える。それは年季を感じさせる、実に堂に入ったものだった。対して、ガウレオは右手に持った剣を肩に乗せて、軽い足取りで近付いていく。
 二人の距離は狭まっていき、やがては大剣の間合いに入り、さらにお互いの間合いにまで入った。
 オーリストの後ろに結った白髪が風に揺れる。

 先に動いたのは老騎士オーリストだった。その剣は美しいまでに基本に沿っていた。基本に忠実が故に早く、正確な剣先は少年の脳天目掛けて振り下ろされる。しかし、その一撃は体を少し横にずらす事で容易く躱される。そして、そのまま脇をすり抜けて走り去っていく。
  
「そのうち帰ってきますからー」
  
 遠退いていく声を背中で聞きながら、息を深く吐き出すと、大声で笑いだす。
  
「わっはっは! 今のを避けますか! 見た目通りの子どもがきではありませんな」
  
 言うが早いか、オーリストは再び大剣を構え直し、さっきよりも素早く、鋭く振り下ろす。そして、その剣筋は驚く事に、途中で軌道を変えて、仮想の相手を切り捨てた。
  
「次は殺す」
  
 そう呟いて大剣を背負い直すと、その場を去っていくのだった。
『死に損ない』のオーリスト、彼が未だに十傑に名を連ねるのは、その名に相応しい実力と恐ろしい程の執念を持つからだ。その黄眼が輝く限り、彼は十傑にあり続けるだろう。


 城を出たガウレオは自分の魔力を飛ばして、グリゴリの魔力の波長を探し始める。
 彼の波長は普通の人間とは、変わっているので探しやすいし、彼なら貴族達の目を欺いて、キュオン達と合流することも容易いからだ。
  
 見つけた波長を頼りに進むと、大きな屋敷が集まった区画の隅に建てられた屋敷に着いた。
 塀を伝い、入り口に回り込むと門番をしているグリゴリがいた。
  
「ここでも門番なんですね。もしかして、結構好きなんですか。その仕事」
「はい。お待ちしておりました。どうぞ、ご案内致します」
  
 それは肯定なのだろうかと、首を傾げながら付いていくと、屋敷の横にある小さな訓練所に着いた。
 そこでは、褐色の肌をした女の子がスリーリンに従って、剣を振るっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...