14 / 18
第十三話
しおりを挟む
格好からして武闘家だろうか。シャツの上から革の胸当てをつけ、腕には手甲。ゆったりとしたスボンを穿いているから見えないがおそらく、脛当ても着けているだろう。
背はアンジェルより少し高いぐらいか、周囲を警戒するようにゆっくりと首を動かしている。
「あいつだけ気配が違う。なにか、上手く言えないけど変なんだ」
タイガにしては珍しく、難しい顔をしながら話した。確証のない、直感のようなものなのだろうか。
しかし、獣人族の彼女が言うのならおそらく、間違いないだろう。彼女達の直感は馬鹿に出来ない。
「そんなに強そうには見えないんだけどぉ」
「タイガが言うなら間違いないわよ。彼女はアタシが知ってるなかで一番、そういうのに鋭いからね」
「顔は好みなんだが、どうも心がときめかないんだよね。アンジェル、ちょっとボクにキスしてくれないか。もしかしたら心臓が止まってるのかもしれない」
馬鹿なことを言っている奴は放っておいて、三人は自分達が持っている情報をそれぞれ交換するのであった。
それから少しして、王弟殿下が冒険者の集まった庭に姿を表した。
その脇には『狂剣』スリーリンとニコニコと微笑んでいる少年が並んでいた。
最初は謎の少年の登場に戸惑ったが、彼女達も凄腕の冒険者達だ。彼が噂の勇者の息子であると、直ぐに察した。一人は顎が外れん程に驚いていたが。
皆が黙って視線を向けているとキュオンが一歩、前に踏み出した。
「諸君、今日はよく参加してくれた。知らない者はいないかもしれないが、自己紹介させてもらおう。私が今回の依頼主、キュオン・ノブル・グリートだ。詳しい依頼内容については、採用者のみに説明させてもらう。健闘を祈る」
そう言って彼が下がると、何故か少年が前に出る。
彼はコホンとわざとらしげに咳払いをすると、微笑みを崩さぬまま話し始める。
「それでは、最初の試験の説明をさせていただきます。まず、この庭にいる人を誰でもいいので一人、倒して下さい。方法は殺害以外なら何でも構いません。では、始めて下さい」
予想外の内容に皆の反応が遅れる。
しかし、後ろから短い悲鳴と何かが倒れる音がした瞬間、一斉に動き出した。
アンジェルはまず自分を落ち着かせるように、状況を確認することから始める。
どうやら、自分以外の三人は刺客と思われる者達を狙うことにしたらしい。各々が別方向へ駆けていた。
確かに不穏の種の芽は早く刈った方がいい。彼女達に倣って、空いている刺客に向かってナイフを投げる。
飛んでくるナイフを手に持った武器で打ち払い、こちらに意識を向けた相手へ、更に追撃するように投げる。同じように払われるが、それはナイフではなく細目の瓶だった。
瓶の中身が顔の周りに拡がり、苦しそうに咳き込み始める。その隙を逃さず、一気に間合いを詰めて膝を折るつもりで、思いきり踵で踏み抜く。
ここの屋敷なら優秀な治癒魔法の使い手がいるはずだという判断だったが、足へ伝う鈍い感触に顔を歪める。もしかしたら、本当に折れたかもしれない。
相手の踞る体に合わせるようにして、その頭に強烈な膝蹴りを浴びせる。完全に意識を飛ばされた体は地面へ倒れ込む。
倒れた相手の手から武器を蹴っ飛ばして、周りを探る。
どうやら、一通り決着が着いたようだ。争っているところも、片方が防戦一方だったりとほぼ決着している。
こうして見ると、刺客と思われた連中はお下げの女を除き、全員が倒されていた。
「みんなして考えることは一緒だったという訳だな」
「思ってたよりも手応えがなくて残念ねぇ」
刺客達が戦闘に特化していなかったことが幸を奏した。それに恐らく、本来は暗殺が主な仕事だったのだと思う。
戦ってみて分かったが、動きに迷いがあった。
この試験では殺しを禁じられていたことが、彼女達の動きを鈍らせたのだろう。
戦闘力で劣る相手に、必殺の一撃を封じられた状態で戦うなど詰んでいるといっても過言ではない。
それに、何が起こるか分からないダンジョンへ潜ることが多い冒険者達の方が、突然の事態に対応することに慣れていたこともあるだろう。
更に少年の存在が虚を突くことになった。
まさか、彼の口から出された試験の内容が戦闘だとは思わなかった。お陰でこちらも動くのが遅れてしまったが。
「しかし、あいつだけは直ぐに動いてたのよね」
そう言って木の方を見る。そこにはさっきと変わらず、周りをゆっくりと見渡しているお下げの女がいた。
最初に聞こえた声は彼女に襲われた相手のものだろう。今は彼女の足元で倒れ付していて、よく見ると少し背中が動いているのことから生きている事が分かる。
僅かな間に相手を完全に無力化するという、底知れない実力を持つ彼女を改めて警戒するのだった。
最後の決着を見終えると、ガウレオは大きく手を叩いて終了を告げる。
「お疲れ様でした。これで第一の試験を終わりとします。しかし皆さん、人がいいですね。てっきり僕を狙ってくると思っていたんですが」
笑いながら話すガウレオに釣られて周りも笑うが、側で彼女達を詰るように呟く声が聞こえた。
「冗談じゃないよ。あんなのと戦る位なら、あたいは腹を見せて降伏するね」
思わず振り向くと、そこには冷や汗をかいているタイガが立っていた。その横にはマリーナ達もいた。
タイガに詳しく聞く前にガウレオが話しだす。
「それでは次の試験を行うために『コウエの森』のダンジョンへ行くとしましょうか」
背はアンジェルより少し高いぐらいか、周囲を警戒するようにゆっくりと首を動かしている。
「あいつだけ気配が違う。なにか、上手く言えないけど変なんだ」
タイガにしては珍しく、難しい顔をしながら話した。確証のない、直感のようなものなのだろうか。
しかし、獣人族の彼女が言うのならおそらく、間違いないだろう。彼女達の直感は馬鹿に出来ない。
「そんなに強そうには見えないんだけどぉ」
「タイガが言うなら間違いないわよ。彼女はアタシが知ってるなかで一番、そういうのに鋭いからね」
「顔は好みなんだが、どうも心がときめかないんだよね。アンジェル、ちょっとボクにキスしてくれないか。もしかしたら心臓が止まってるのかもしれない」
馬鹿なことを言っている奴は放っておいて、三人は自分達が持っている情報をそれぞれ交換するのであった。
それから少しして、王弟殿下が冒険者の集まった庭に姿を表した。
その脇には『狂剣』スリーリンとニコニコと微笑んでいる少年が並んでいた。
最初は謎の少年の登場に戸惑ったが、彼女達も凄腕の冒険者達だ。彼が噂の勇者の息子であると、直ぐに察した。一人は顎が外れん程に驚いていたが。
皆が黙って視線を向けているとキュオンが一歩、前に踏み出した。
「諸君、今日はよく参加してくれた。知らない者はいないかもしれないが、自己紹介させてもらおう。私が今回の依頼主、キュオン・ノブル・グリートだ。詳しい依頼内容については、採用者のみに説明させてもらう。健闘を祈る」
そう言って彼が下がると、何故か少年が前に出る。
彼はコホンとわざとらしげに咳払いをすると、微笑みを崩さぬまま話し始める。
「それでは、最初の試験の説明をさせていただきます。まず、この庭にいる人を誰でもいいので一人、倒して下さい。方法は殺害以外なら何でも構いません。では、始めて下さい」
予想外の内容に皆の反応が遅れる。
しかし、後ろから短い悲鳴と何かが倒れる音がした瞬間、一斉に動き出した。
アンジェルはまず自分を落ち着かせるように、状況を確認することから始める。
どうやら、自分以外の三人は刺客と思われる者達を狙うことにしたらしい。各々が別方向へ駆けていた。
確かに不穏の種の芽は早く刈った方がいい。彼女達に倣って、空いている刺客に向かってナイフを投げる。
飛んでくるナイフを手に持った武器で打ち払い、こちらに意識を向けた相手へ、更に追撃するように投げる。同じように払われるが、それはナイフではなく細目の瓶だった。
瓶の中身が顔の周りに拡がり、苦しそうに咳き込み始める。その隙を逃さず、一気に間合いを詰めて膝を折るつもりで、思いきり踵で踏み抜く。
ここの屋敷なら優秀な治癒魔法の使い手がいるはずだという判断だったが、足へ伝う鈍い感触に顔を歪める。もしかしたら、本当に折れたかもしれない。
相手の踞る体に合わせるようにして、その頭に強烈な膝蹴りを浴びせる。完全に意識を飛ばされた体は地面へ倒れ込む。
倒れた相手の手から武器を蹴っ飛ばして、周りを探る。
どうやら、一通り決着が着いたようだ。争っているところも、片方が防戦一方だったりとほぼ決着している。
こうして見ると、刺客と思われた連中はお下げの女を除き、全員が倒されていた。
「みんなして考えることは一緒だったという訳だな」
「思ってたよりも手応えがなくて残念ねぇ」
刺客達が戦闘に特化していなかったことが幸を奏した。それに恐らく、本来は暗殺が主な仕事だったのだと思う。
戦ってみて分かったが、動きに迷いがあった。
この試験では殺しを禁じられていたことが、彼女達の動きを鈍らせたのだろう。
戦闘力で劣る相手に、必殺の一撃を封じられた状態で戦うなど詰んでいるといっても過言ではない。
それに、何が起こるか分からないダンジョンへ潜ることが多い冒険者達の方が、突然の事態に対応することに慣れていたこともあるだろう。
更に少年の存在が虚を突くことになった。
まさか、彼の口から出された試験の内容が戦闘だとは思わなかった。お陰でこちらも動くのが遅れてしまったが。
「しかし、あいつだけは直ぐに動いてたのよね」
そう言って木の方を見る。そこにはさっきと変わらず、周りをゆっくりと見渡しているお下げの女がいた。
最初に聞こえた声は彼女に襲われた相手のものだろう。今は彼女の足元で倒れ付していて、よく見ると少し背中が動いているのことから生きている事が分かる。
僅かな間に相手を完全に無力化するという、底知れない実力を持つ彼女を改めて警戒するのだった。
最後の決着を見終えると、ガウレオは大きく手を叩いて終了を告げる。
「お疲れ様でした。これで第一の試験を終わりとします。しかし皆さん、人がいいですね。てっきり僕を狙ってくると思っていたんですが」
笑いながら話すガウレオに釣られて周りも笑うが、側で彼女達を詰るように呟く声が聞こえた。
「冗談じゃないよ。あんなのと戦る位なら、あたいは腹を見せて降伏するね」
思わず振り向くと、そこには冷や汗をかいているタイガが立っていた。その横にはマリーナ達もいた。
タイガに詳しく聞く前にガウレオが話しだす。
「それでは次の試験を行うために『コウエの森』のダンジョンへ行くとしましょうか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる